第01話 ソラ美、その地に降り立たない……!
昨日は忙しくて投稿できず・・・;;そして考えた結果、なぜか挿絵を挿入していくことにしました。
挿絵見たくないという方は、お手数ですが表示調整から非表示にしてくださいませ。
頑張って毎日投稿したい・・・(希望)。
「だからぁ!説明書なんか読まなくても、『エクソダス』に座って電源入れれば簡単に設定できるんだってば!」
「言ってよぉ、最初に!あー読んで損した」
「だから読んでないでしょーが!!」
「え?そうだったっけ?」
「あ、あんたねぇ……。もういいや。今日はもういいから明日配信出来るようにしておいてよね」
「しますします!もう今からキャラ作成までやっときますんで!……ていうかアレね?」
「なに?」
「わたしを置いて一人で強くならないでよね?」
「うっさいわ!!」
そうして、同じ配信仲間の『わたあめナメル』との通話を終えた宍戸ソラ美は―――
(ま、とりあえず明日の昼間にやっとけば良いっしょ♪)
なんて思いつつ再び眠りについたのだった。
―――明けて翌日。
「はぁ~、さてさて、やりますか」
時は午後3時、しっかりと優雅な朝の時間を過ごし、デリバリーのランチを食べ、ネットサーフィンをゆるゆるとした後、ソラ美はようやくVR機『エクソダス』に寝そべり、頭にVRヘッドセットをして設定を開始した。徐々に意識が現実からディスプレイの中へと移っていく。現実世界のソラ美の身体はいつの間にか目を閉じて睡眠状態に入っていた。
ソラ美がどうせ面倒くさくて長ったらしいんだろうなと思っていた設定だが、そこは意識没入型のVR機(世間体を気にして『安定型』という名称を付けた)なんて物を作ってしまうテクノロジーを持った開発会社である。意識入力という新しい操作感覚に戸惑いはしたが、初期設定もクソほど簡単であった。
ネットにも既に繋がっており配信サイトに接続して自分のアカウントにログインする。メアド、パスワード入力に続き網膜認証を行う。さすが最新機器なだけあって、そのあたりのモジュールもぬかりなく実装されていた。
ソラ美が目を閉じてしまう前に、事前にスキャンしていたのである。
これでいつでも配信が開始状況になったようだが、事前にナメルから、キャラ作成をして簡単なチュートリアルが終わるまでは配信が出来ないと知らされていたため、ソラ美はそのままゲーム、『The Fantastic Incredible Amazing Epic World』(通称ファナエピ)を起動した。
真っ白い画面に文字が現れる。
―――――Welcome to ...
そして森や砂漠や火山、氷雪地帯などの大自然がソラ美の視界いっぱいに広がっていく。
The Fantastic Incredible Amazing Epic World
中央の森には聳え立つ巨大な世界樹。その世界樹の手前にゲームのタイトルが浮かび上がった。
その画面を見てソラ美は思う――――
(うーん、ありきたり……。ていうかやっぱりタイトル長いなぁ)
そして、タイトルの下に出てきたNew gameをさっさと選択。
真っ白いローディング画面を挟んで、明るい新緑の森へと場面が切り替わる。白樺っぽい木がまばらに生えていて、所々にでっかいキノコなんかが鎮座している。そんな場所だった。
「お待ちしておりました。新たな星の子よ―――」
「え?」
声の方へと振り向くと、そこには美しい女性が立っていた。
キラキラと流れる絹の金髪に、長いまつげの奥に佇む翡翠の瞳、ツンと尖った耳。俗にいうエルフというやつだ。
「お~すごい。エルフ美女だ」
「ふふっ、お褒め頂きありがとうございます。私の名前はアイリーン、貴方がこの地に旅立つお手伝いをさせて頂きます、以後お見知りおきを」
思わずこぼれたソラ美の言葉に、彼女は涼しい笑顔を見せる。
「さぁ、貴方のお姿、そしてお名前を思い起こしてください」
ぼやっとした黒い影が、森の中で人の姿を形どっていく。濃いブラウンのくウェーブがかったセミロングの髪に、黒い瞳。それは紛れもなく、ソラ美の現実の姿そのままだった。『エクソダス』がソラ美の姿をスキャンして投影した姿……。
ちなみに、その姿を見て「げぇっ!」と言っているソラ美の今の姿は、人魂のような金色の光の玉である。精神体を表現した形なのだろう。
「なるほど、それが貴方のお姿なのですね。しかし、この世界で貴方は本来の姿から解放され、自らが望む姿で受肉することが出来るのです。さらに申し上げますと、外の世界と同じお姿でこちらに生を受けると想定外のトラブルに見舞われる危険性があり――――」
「ちょっとぉ!リアルの姿移さないでよぉ!プライバシーへの配慮は何処へ行ったんだぁ!?」
「で、ですから今その危険性についてのお話を――――」
「こっちはいつも配信で身バレしないように気を遣ってんだよぉ!わたしなんか、下の名前半分本名みたいなもんなんだから!あー配信してなくて良かったぁ……!」
全く話を聞いていないソラ美の様子に、アイリーンは困ったように苦い笑いを浮かべた。ソラ美はすっかり忘れているが、此処は配信不可能領域である。開発側もちゃんと配慮しているのだ。
ちなみに、ソラ美の本名は田中天美。24歳。現在はキャラクターのイラスト(または3D)を使ったバーチャル配信業で生計を立てている。配信では17歳の女の子という設定。妹が一人。
「なるほど、常日頃配信をやっていらっしゃるのですね?それではお姿やお名前でプライバシーを晒す事の危険性については、重々存じていらっしゃると。これは失礼いたしました。それでは、改めてご自由にお姿をお決めください」
素性を考慮して柔軟に対応するアイリーン。とてもNPCとは思えない言動である。
「まったくもぅ……。それじゃあ『エクソダス』に接続してあるメモリに入ってる3Dモデリングのデータを呼び出して」
「かしこまりました。……こちらでしょうか?」
リアルのソラ美の姿に靄が掛かり、いつも配信で使っているバーチャルなソラ美の3Dモデルが浮かび上がる。
片側をサイドテールにした空色のセミロングにピンクの瞳、いつもは青を基調とした衣装を着ているが、今は簡易なインナー姿だった。これはこのゲームの装備が反映される為だ。
「そうそう!やっぱりこれが落ち着くわ〜」
「可愛らしいお姿ですね」
ソラ美の姿に、両手を合わせて褒めるアイリーン。
没入型VR初の大型MMOとしてリリースされた『ファナエピ』。サービスが開始されて約半年。今現在沢山のバーチャル配信者にプレイされるようになったのは、こうして外部からキャラのモデリングをインポート出来る事も大きな要素の一つだった。
「それでは、貴方の魂をその肉体に定着させます。ゲーム内で2度と変更出来ない部分もありますが、よろしいでしょうか?」
「あい〜、よろしく〜」
ソラ美の魂が体に吸い込まれていくと同時に、ソラ美は今まで感じなかった様々な感覚がブワッっと身体中を広がっていき驚いてしまった。
視覚、聴覚に加え森をそよぐ風を感じる肌の触覚や、嗅覚や味覚まで実際にあるように感じる。
「す、スゴい……」
これには流石にソラ美もビビった。それまではいつも見ているゲーム画面のような、あくまで画面の向こうの世界という感じだった空間が、突然現実になったようだった。
「それでは、職業等をお決めになる前に、貴方のお名前をお教えください」
その声にハッとする。
俄然やる気が漲ったソラ美の魂が入った可愛らしいその肉体は、クルっとアイリーンに向き直って楽し気に笑う――――。
「ふふっひ、名前は『デスメロディ』で!!」