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1 ……私は、あなたの笑顔が見たかったんです。

 天照 あまてらす


 登場人物


 天照さん 天才博士 女性 いつも笑顔


 雨雲くん 天才博士の助手 男性 いつも無表情


 プロローグ


 今日も暑いね。


 本編


 ……私は、あなたの笑顔が見たかったんです。


 その日、世界で初めての完璧な人工知能が誕生した。

 その人工知能の名前は開発者の女性の博士の名前をとって『天照あまてらす』と名付けられた。


「ねえ、雨雲くん。もっと笑おうよ。そんなんじゃ、いつかきっと不幸になっちゃうよ?」

 じっと、大好きなお気に入りの助手である雨雲くんの整っている(まるで人形のような、左右対称の)顔を見て天照はいった。

「別にずっと笑わないわけじゃありませんし、不幸にもなりません。笑わないと不幸になるっていう話はオカルトです。笑顔と幸せにはなんの関係もありません」と難しい本(哲学の本だ。カントかデカルト、あるいは、ヘーゲルかな?)を読んでいる雨雲くんは言う。

「雨雲くん。それ、なに読んでいるの?」

 雨雲くんの読んでいる分厚い本の内容を覗き込むようにして、見ようとしながら天照は言う。

「ショーペンハウエルです。意志と表象の世界。すごく面白い本ですよ」

 天照から逃げるようにして雨雲くんは言う。

「この世界は意志と表象でできているっていう難しい哲学の本だよね? ……えっと、確か」と以前読んだときの記憶を思い出しながら天照は言う。

「はい。そうです」雨雲は言う。

「世界は私の心とあらゆるものでできている」天照は言う。

「その通りです。心と物。その二つで世界は成り立っています」透明な眼鏡の奥から、じっと天照を見ながら雨雲くんは言う。

「この部屋の中には私と雨雲くんがいる」唐突に話題を変えて天照は言う。

「はい。そうです」

「ほかには誰もいない」

「ええ。まあ、そうですね」雨雲くんは言う。

「なにに、君は難しい本を読んでいて、私と会話をしようとはしないんだね」むっとした顔で天照は言う。

「今、博士と会話してるでしょ?」雨雲くんは言う。

 雨雲くんの言葉を聞いて天照は無言になると、そのまま雨雲のほっぺたを無理やり引っ張ろうとする。(もちろん、雨雲くんは抵抗する)

 そんなとき、ふと天照はぴこぴこと自分の愛用の(花のシールが貼ってある)小さな白いコンピューターの小さなランプが光を放っていることに気がついた。


『エラーメッセージ。コンピューターがなにものかにハッキングを受けています』


「なにこれ? ハッキング? いったい誰が?」

 小さな白いコンピューターの画面に映る文字を見て天照は言う。

「さあ、きっと誰かのいたずらじゃないですか?」

 興味なさそうな顔で雨雲くんは言う。(自分のコンピュータじゃないからだ。きっと)

「いたずら? いたずらって誰が?」

 雨雲くんを見てまるでりすのように頬を膨らませながら天照は言う。

「そんなの決まってますよ。それは天照博士のことを嫌っている世界中に大勢いる博士の敵の中の暇な誰かですよ」と珍しくにっこりと笑って雨雲くんはいった。


 そんな雨雲のめったに見せない笑顔に頬を赤色に染めて、ちょっとだけどきっとしながら天照は、……それはまあ、確かに雨雲くんの言う通りだ、とかちかちと高速でコンピューターのキーボードを叩きながらそう思った。

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