エピソード3 恋愛
「ということで、今日は恋愛見に行こうぜ」
「なにがということでなのか分からんが、乗った」
「どういう人を見に行きます? 色々候補がありますよ」
そういうルーシーの手に紙の束が出現する。どうやら悪役令嬢のリストのようで、俺たちに同じものが配られる。
一体どうやってそんなもん集めたんだよ。俺とマオも大概ふざけてるが、こいつもこいつでヤバいと思う。
「やっぱ始まりは婚約破棄だよな」
「個人的には王子との決別が良い」
「私は身近にいた騎士との物語が好きです」
三人で良さそな主人公候補を探していく。
ルーシーが良さそうな人を見つけたので、俺たちに見せてきた。
「この子なんてどうです?」
「王子に振られそうで、近衛騎士とは幼馴染か」
「最高、君に決めた」
俺たちは件の令嬢、シルビア・ガーネットの住まう屋敷へと向かうのだった。
♢
「お前とはもう会わない」
そう言われた時、私はどんな表情をしていたのだろう。
「どうしてですかっ! 私は……」
「君のその媚びた態度が気にいらない。金輪際、僕に近づかないでくれ」
別に、好きで彼に努めているのではない。周りが私にそうあれという期待をするから、そうしているだけ。
私の親はこの国の公爵で、私はそこの娘。お兄様が後を継ぐことになったので、私はせいぜい立派な婚約者を捕まえるのが、この家の者としての役目だった。
運よく公爵令嬢というステータスもあって、リカルド第一王子と親しい関係になれた。そのことを知った両親は、これはチャンスだと言わんばかりに私とリカルド王子をくっつけようとした。
王立学校では常に側にいられるよう動けと言われたし、有力貴族が主催する――つまり王子が出席するパーティには全て参加した。
たぶん王子と一番長くいた女性はというと、誰に聞いても私だと答えると思う。
だから彼の目に私はこう映っていたんだろう。
王子の婚約者という地位を狙う、がめつい令嬢だと。
何してたんだろう……私。
行動を続けれていれば、気持ちも追いついてくると思っていたのが間違いだった。
私は最後の最後まで、リカルド王子を好きではなかった。だから、彼も私を信じることができなかったのだろう。
思えば、私が一度でも恋をしたことがあっただろうか。
そう言えば、一度だけ。小さい頃に好きだった人が……
「夜道に令嬢が一人で出歩いているなんて、感心しないな」
「!? ジーク様、何故……」
突然声を掛けられてびっくりしたが、相手が知っている人だと分かった。
彼の名はジークフリート・アイゼン。次期アイゼン伯爵として知られ、今は第一王子の護衛を務めている。
「たまたま通りかかっただけだ、屋敷まで送ろう」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
リカルド王子繋がりで何度か会う機会があったが、きっと彼は覚えていないだろう。
10年前にした、あの約束を。
♢
「ジークゥゥゥ男を見せろぉぉぉぉぉ!!!」
「すれ違うなぁぁぁ! ぶつかれぇぇぇ!!!」
「二人とももう少しお静かに、雰囲気が台無しです」
俺は分かってるぞ!? 彼女が王子の元を訪れるたびに、お前が悲しい顔をしていることを!。
10年前に出会ったもんな? 結婚の約束したもんな?
「こうなったら俺たちが……」
「あぁ、気づかせてやるか」
意気込む俺たちに、鋭い右ストレートが叩き込まれる。
「ぐぉっ!」
「ぐはっ!」
「こういうものはそっと見守るのがいいんですよ」
い、痛ぇ。仮にも勇者と魔王相手にこの威力。
流石神族は違うぜぇぇ。
「じゃあ勇者はどうなんだよ」
「そうだそうだ! あいつの時はお前も乗り気だったじゃねーか!」
「勇者はオモチャなので、問題ないです」
「納得」
「理解」
勇者に選ばれる奴は大抵気持ち悪い性格してるしな。俺も元勇者だから人のこと言えんけど。