エピソード2 ヒロインとハーレム主人公
「なあ、ヒロインと言ったらどんなタイプが好み?」
「ツンデレ一択。異論は認める」
「私は百合が好きですね」
「いや聞いてねぇよ」
今日も今日とて三人でだらだらしている。
今読んでいた本のヒロインが個人的に好きじゃないので、マオに聞いてみたのだ。
「このヒロイン手のひら返したように主人公に纏わりついてくるんだけど、これって正直うざくない?」
「あーそれな。サブヒロインなら許せるけどメインでこれはないわ」
ツンデレ大好きお兄さんことマオも、この展開はお気に召さないらしい。
最初は「近づかないでちょうだい」なんて避けてたくせに、主人公が活躍すると出しゃばってくんのなんなの。
「やっぱ純愛だろ、ヒロインは」
「お前この前ハーレム最高って言ってなかったっけ? ドロドロじゃねぇか」
「主人公は純粋なのに、周りが多すぎてごちゃごちゃするパターン。ありますよね……」
三人で渋い顔をする。
「ハーレム主人公で純粋は無理、ということか?」
「そもそもまともな主人公はハーレム作らねーよ」
「なるほど」
うーんと頷く俺に、ルーシーから助言が入る。
「ヒロインだけが主人公に思いを伝えて、他の人は伝えない。こうすることで疑似的なハーレム関係を構築することができますね。既成事実さえなければ酷い絵面にはならないでしょう」
「言われてみれば、ハーレム主人公に惚れた奴らって素振りさえあるが、告白とかはあんまりしないよな。みんなどこかで諦めてる」
「そういうことか」
二人の言う通り、たしかにハーレムって結末は意外とまとまってることが多いな。
「まぁ一番罪深いのは誰ともくっつかない野郎ですね。一人を選べないという建前で、一番都合の良い関係を保ってます」
「あるなぁ。そんで、そういう奴にありがちなのが……」
「鈍感属性か」
「当たりー」
ハーレム形成に必要なのは、都合の良い解釈で事を進められる「鈍感」脳か。
つまるところ、「鈍感」属性がある事で主人公は上手く思考を停止させ、とりあえずいい感じの関係を維持することができる、ということか。
「よく無意識に女の子を惚れさせる言動をするよな」
「意味もなく助けたりもしますしね」
「なるほど、たしかに助けられて惚れるのはよく見る展開だ」
結論、鈍感無くしてハーレムは不可能。
「じゃあちょっと俺が鈍感主人公やるから、お前らヒロインやって」
「まさかのボーイズラブか」
「男の娘でもいいですか?」
「ちげーよ! 可愛い女の子になってヒロインやってくれって意味だよ!」
こいつらは俺の事を何だと思ってるんだ。
鈍感主人公と魔王とイケメンのラブストーリーなんて誰が見るんだよ。
「しょうがねーなー、ほい」
マオがそう魔法を掛けると、なんとそこには二人の美少女が――
「なんロリなんだよ! そこは同年代だろ!」
凄い可愛らしい美幼女が二人いた。
「ひどいお兄ちゃん……がんばってまほーかけたのに……」
「やめろ! なりきるんじゃねぇ!」
美幼女となったマオのつぶらな瞳から涙が落ちる。無駄に演技のクオリティが高いのが腹立つ。
ルーシーはというと無言でこちらを見つめていた。
「お前もなんか言えよ!」
「ミステリアスな不思議ちゃんです。可愛いでしょう?」
「私はマオリンっ! お兄ちゃんだいすきっ!!!」
「うるせぇぇぇ!!!」
ハーレム主人公って大変なんだな。