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エピソード1 勇者とギルド

今から100年前、勇者と魔王はどちらかが死ぬまで戦いを続けていた。

勇者も魔王も同族を代表して戦った。


深手を負った両者は、初めて言葉を交わす。

「「何故、俺たちが戦わなければならないんだ?」」


人族の中では圧倒的な実力を持ち、歴代最強の勇者と呼ばれる男。

種族として個の力が一番強いとされる魔族。その中で最強と唄われる男。


「なぁ、知ってるか魔王。俺っていつも一人で戦ってるんだぜ? 今までの勇者は仲間が何人もいたってのによ」

「奇遇だな。俺も魔王と呼ばれる前も、そして今までも、ずっと一人で戦ってきた」


殺し合いをしていたとは思えない穏やかな空気が流れる。

どちらも瀕死状態で、お互いじきに死ぬことが分かっていたからだろう。


「人として世界を守るために戦えと自分に言い聞かせてきたが、なんて最後だ。結局俺は寂しく死ぬだけじゃないか」

「はは、何を言う。俺も一緒に死んでやるから寂しくないだろ?」


「お前とは友達になれた気がする! なんで今まで気づかずに戦ってたんだ!」

「俺もそう思うぜ? お互い世界の犠牲者として、一緒に幕を終えようぜ」

 

 二人の命が消えかかる。それ即ち別れ、旅立ちの時。


「また会おうぜ魔王! 次は敵じゃなくて仲間として!」

「おもしれえ! 来世で会おうってやつかよ、乗った!」


「おやおや楽しそうなことを言いますね、私も混ざってよろしいかな?」

「「え、誰?」」

 

これは、そんな彼らがただただ楽しくふざけるだけの物語である。







 とある部屋で、白熱した議論がなされていた。


「勇者と言ったらハーレムだろ? 分かってねーなー」

「違うんだよなぁ。実力を隠してこそ強者の味がでるってもんよ」

「逆転の発想ですよ、あえて弱い振りをして、美少女を味方につけるのです」

「「それだっ!!!」」


 やぁ、俺の名前はユーシャ。一応元勇者だ。安直な名前だが、ずっとこれで呼ばれてもう慣れた。

 世界を救うなんて馬鹿馬鹿しいことはやめて、今は趣味に全力を注いでいる。

 かつては敵で今は親友の元魔王のマオと、死にかけの俺たちを助けてくれた遊び人のルーシーで仲良し三人組を結成し、日々人生を謳歌している。


「といっても、それは全てを知っている目線だからこそ面白いもの。実際に見てもつまらないでしょう」

「なら、やっぱりハーレムだろ。男の夢だって」

「いやいや、実力を隠すからこそ露見した時に盛り上がるんだろ?」


俺たちが今ハマっているもの――それは異世界の文化だ。


 ルーシーがどこからか持ってきた異世界の書物「らのべ」には、色々な世界が描かれていた。登場人物達が織りなす魅力的な物語は、本を読んでこなかった俺やマオにとって新鮮で面白かった。


 俺とマオはその輝かしいストーリーに惹かれ、ルーシーは言わずもがな。

 そんな俺たちは、いつしかこう思うようになった――物語をリアルで見たい、と。


「あれはどうですか? 主人公がギルドで力を示すやつ。そこに女の子もいれば二人の意見はだいたい入ってますよね」

「了承」

「把握」

「ではそれで」


 演出はマオ、シナリオはルーシー、アクションは俺が担当だ。

 三人で拳を合わせ、俺たちはニヤリと笑った。









 僕の名前は神代流星。学校から家に帰る途中トラックに跳ねらて、気づけば白い空間に神様を名乗るおじいさんがいた。

 どうやら僕は手違いで死んでしまったようで、異世界に転生させてもらえるようだ。


「おぉ! よくぞ来てくれた勇者よ」

「勇者様、どうか私たちを救ってください……」


王様や国のお偉いさんが僕にすごく期待している。中でも王女様は一緒に戦ってくれると元気づけてくれた。僕にできるのだろうか。



「勇者様、今日は冒険者ギルドに向かいますわ」

「ギルド?」


 数日後、この環境にも少し慣れた自分に王女様がそう言った。

 彼女によれば、魔物と戦う冒険者が活動拠点としている場所らしい。そこで依頼を受けたりするんだとか。


 僕が行く目的は魔力の測定と、ギルドカードの作成だ。冒険者としての身分を持っておけば、国外でも動きやすいんだって。


「準備は整えてあります。リュウセイ様の用意ができたら、教えてください」

「とくに何もないから、すぐに行くよ」


 そうして、僕たちはギルドへ行くために馬車へ乗った。この馬車なんて一体どれほど高級なものなんだろう。外装もピッカピカだし、所々に宝石が埋め込まれている。

 

 王女様の姿が見えると、市民は皆歓声をあげていた。人気者なんだなー。流石この国の王女様だ。

 傍に控える女性の騎士が、鋭い目線をしていた。護衛の人も大変だなぁ。この人以外にも十人以上控えているし、僕のためとはいえ王女様を同行させるのはやめた方が良かったのかな?


「この護衛はリュウセイ様もお守りしてくださる方々達です。みんなとてもお強いんですよ?」

「そうなんだ、ありがとうございます」


 護衛の方たちは僕の事も守ってくれるらしい。お礼を言うために一番近い女性騎士にありがとうと言ったら、顔を背けられてしまった。耳が赤いけど、やっぱり王女様を連れてきたことに怒ってるのかな……。




「着きました、ここがギルド本部です」

「で、でかい」


 事前に馬車の中で説明を受けたんだけど、冒険者は荒くれ者が多く、もしかしたら不快な思いをさせるかもしれないとのことだった。

 国の権力が及ばない独立した組織なので、貸し切りはできないらしい。まぁそのために護衛の人たちも多いんだろうけど。


「では、こちらに手を当ててください」

「あ、はい」


 職員さんは、すごい美青年だった。手際よく準備を進め、言われたとおりにガラスの推奨のようなものに手を当てる。おそらくこれが魔力を調べる装置なのだろう。


「わっ!」

「っ!? なんというこでしょう……」



 パリンッ! と七色の光を放ち、音を立てて壊れてしまった。担当の美青年職員さんが、慌ててどこかに連絡していた。

 どうしよう、僕何かまずいことしちゃったのかな。


「すごいですわリュウセイ様! 魔力水晶を割るだなんて、この国のトップレベルの魔力保有量ですわ!」

「この国の……トップレベル」


 騒ぎを聞いた冒険者たちが、ひそひそとしだす。少し経つと、とても強そうな壮年の方が急ぎ足でやって来た。


「俺はギルドのグランドマスターだ。魔力結晶を割っただって?」

「はい……こう、七色に光って……」

「七色ねぇ……どうやら、全属性の魔法が使えるようだな」

「魔力保有量も魔法適正も、この国……いえ、この大陸でトップレベルですわ!」


 どうやら、僕には勇者としての素質があるみたいだ。普通、魔法の属性は良くて2つ、3つ以上ともなれば高ランク冒険者に一人か二人いるかいないかくらいらしい。

 僕は7属性使えるみたいで、それを聞いた冒険者のざわめきも一層激しくなる。 


 これ以上騒ぎになるのは良くないので、先程の手際の言い職員さんにギルドカードを作ってもらった。グランドマスターの判断で、魔力保有量と属性の多さ、そして勇者であるという期待から、特例でSランクになったようだ。



 用は済んだみたいなので、職員さんにお礼を言う。

 王女様はギルドカードを作っている間に護衛の元に戻っていた。


 僕もそこへ行こうとすると、――突然大柄の冒険者が話しかけてきた。


「おいおいにいちゃん! 勇者だがなんだか知らねぇけどな、ここは冒険者ギルドだ! あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ」


 小太りの冒険者が道をふさいできた。すると、その男の横からやせ型の冒険者も出てくる。



「そうでやんす、オサーン・ココト様はCランクの凄腕冒険者。まだまだ新米のチミは、先輩冒険者におとなしくへこへこ頭を下げていればいいでやんす」

「先輩を敬うのは冒険者のルールだぁ! お前も俺の事はオサーン様と呼べ新入りぃ」

「でも、僕のカードにはSランクって書いてありますけど……」

「な、なにぃ!? Sランクだとぉう!?」

「やんすぅ!?」


 僕はさっき貰ったばかりのギルドカードを見せる。そこには確かにSランク冒険者を表す「S」の文字と、黒光りするカードがあった。

 


「に、偽物だぁ! こんなひょろい奴がSランクなんて信じられねぇ!」

「やんすぅ!」


 そういって男は僕を指さしながら襲い掛かってきた。


「Sランクっつうなら、この攻撃をくらっても平気だよなぁ!!!」


 そう言いながら僕に殴りかかってくる男。

 でも、おかしいな。遅すぎて簡単に避けれそうだ。僕は攻撃を止めるために男のパンチを手のひらで受け止めようとした。


「ぐぅわああぁぁぁ!!!!!」

「あ、あにきぃぃぃ!!!」


 軽く受け止めただけなのに、男が吹き飛んでいった。強く押したつもりはないんだけどな。


 吹き飛んでいった男はテーブルを巻き込みながら壁にぶち当たり、周りの冒険者も驚いた表情をしていた。


「何の騒ぎですか!」

「おいおいどうした」


 王女様とグランドマスターも異変に気が付いたようだ。

 さっきの美青年職員が状況を説明する。


「なるほどな、だいたい話は分かった」


 グランドマスターは納得すると、どこかへ目線を飛ばした。その視線の先は……僕たちの護衛?


「捕らえろ!」

「勇者様に危害を加えた疑いで拘束する!」


 なるほど、護衛が動けるように許可をだしたのか。どうやらあの男が言っていた、ギルドではギルドのルールに従うっていうのは本当らしい。


「リュウセイ様! お怪我はありませんか?」

「大丈夫だよ」

「良かった……」


 どちらかというとあの二人組の、とくに吹き飛んでいった男の方が重傷だと思うんだけど。


「それにしても、Cランク冒険者相手に圧勝するなんて凄いです!」

「そ、そうかな」


 そう思っているのは彼女だけじゃないのか、周りの冒険者も口々に流石勇者だとか、Sランクだとか呟いている。

 僕には本当に勇者としての力があるみたいだ。


「では、帰りましょう」

「うん、騒ぎを起こしてしまってごめんね」

「この騒ぎはあの冒険者達が悪いんですから、リュウセイ様は悪くありません。グランドマスターもそう仰っていました」


 どうやら今回の騒ぎについて、僕に責任は問われないようだ。それを聞いて安心する。


 色々あったけど、無事目的を果たした僕たちは、王城へと帰るのだった。










「いたか!」

「いや、いない」

「一体どこへ消えたんだ!」


 屋根の上から騎士の格好をした集団を見下ろす。彼らの目的は脱走した俺たちの確保だ。

 

「たかが城の護衛程度で、俺たちが捕まるとでも……?」

「元勇者の癖にセリフが悪役のそれで笑う」


 今は小太りの中年冒険者から元の姿に戻っているので、彼らに見つかることはない。マオの変装魔法を見破れるとは思えんし、この事件は迷宮入りだな。


「今後の彼の活躍に期待」

「勇者なんていくらでも遊べるからなぁ」

「そうですねぇ~次は私も派手な役をしたいです」


 いつの間にか現れたルーシーにさほど驚きもせず、俺は言ってやった。


「お前演技下手じゃん」

「変装してもオーラ出てんだよ、なんとかしろよイケメン」

「種族が違いますからねぇ」


 三人で反省会をしながら、沈みゆく夕日を眺める。



「次は何をしますか?」

「最弱モンスター育成大会」

「初期の森にドラゴン登場」


 一度救ったこの世界。魔王を倒せば生きがいを失うと絶望していたあの頃とは違って、この二人とならまだまだ楽しめそうだ。 

私のメイン作品である「ダンジョンが発生した現実世界で、俺は自由(?)に生きていく」のモチベーションが下がった時に、もう考えるのめんどくせーわテンプレテンプレ! ってなった結果がコレです。

何も考えないコメディが書いてて一番楽しいです(笑)

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