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第三話 間違い


 クラスメイト達が森に入っていってそろそろ一時間が経つ。


 俺は一時間前と変わらぬところで座っていた。


 魔物に負けると分かっていて森に入る馬鹿がどこにいるだろうか。


 数メートル離れたところに立っている教師もそれを分かっているのか、森に入らない俺に対して何も言ってこない。


 いや、違うな。


 ただ単に無関心なだけだ。


 きっと俺は森に入ろうが入らなかろうが、魔物に殺されようが、対して興味は示さないのだろう。


 だったらこっちも大人しく座ってるとするか。



 解散から一時間弱、徐々にクラスメイト達が戻って来ていた。


 その顔は晴れ晴れとしていて、自分の力に酔いしれているようにも感じる。


 その証拠に、安全な森の外でさえ、見せるように神具を持っている奴もいた。


 ああやって自尊心を満たしているのだろう。


 かわいそうな奴だ。



 そんなことを考えていると、クラスメイトが全員集まった。



 「全員いるかー? いたら中層に向かうぞー」


 「先生。まだブランチが来ていません」



 おっと。


 あの自尊心の塊であるブランチを忘れていた。


 どうせあいつのことだし中層にでも行っているのだろう。



 「分かった。ブランチが来たら中層へ向かうから、今のうちに休憩しとけよー」



 クラスメイトがいないというのに、なんて呑気な教師だ。


 まあ影には、ブランチなら死なないだろうという信用もあるのだろうけど。


 いっそのことどっかで息耐えててくれ。


 あんな人に害をなす人物を世に出してはダメだ。


 そんなことを考えていると、森の奥からブランチが走って来た。


 ようやく来やがった。



 ......ん?


 いつものブランチらしくない必死な表情をしている。


 まるで何かから逃げるような......


 徐々にブランチがこちらに近づいて来て、



 通り過ぎた。



 なんだ!? と思うと同時に、ブランチが走って来た方から、猛スピードでこちらに向かってくる生物がいた。



 「うわぁ!」



 刹那、先ほど通り過ぎたブランチの声が後ろから聞こえた。


 その声に反応するように、クラスメイトが後ろを振り返る。


 そこには、ブランチの前で口を歪ませている巨大な猿の姿があった。








 「クソッ! どこまで追って来やがる!」



 ブランチがバックステップして即座にこちらに戻ってくる。


 なんだあの巨大な猿は。


 クラスメイトやブランチの反応から強敵であることは間違いない。



 「動くな」



 猿の口から血を底冷えさせるような声が発せられた。


 瞬間、俺の体はまるで石になったかのように動かなくなった。


 指一本すら動かない。声すらも。


 かろうじて呼吸ができている状態だ。


 眼球を動かすと、どうやらクラスメイトも同じ状態になっているらしい。


 それは、教師ですら例外ない。


 どうにかして体を動かそうと悪戦苦闘していると、猿が口を開いた。



 「我は百年の眠りから覚め、エネルギーを求めている。人族を食えばかなりのエネルギーになるだろう。だが、ここにいる全員を食うほど我も鬼ではない。一人。一人差し出せばあとは逃してやろう。さあ決めろ」



 そう言った瞬間、俺の体は自由になった。


 無論、俺だけでなく、他のクラスメイトも。


 今なら逃げることができる。


 だが、あの猿の口調からして、一人差し出さないと決して逃してはくれないだろう。


 そのことに気づいたのか、クラスメイトと教師の視線がこちらに向いた。



 ......まるで役立たずのお前が死ねと言われているように。



 ただ、直接そのことを言うのには抵抗があるのか、視線で訴えかけてくる。



 「はよう決めろ。さもなくば全員食うぞ」



 無言の状態が続いたからか、猿の口調が苛々としたものになっている。


 あと十分も待たせれば、全員この世からおさらばするだろう。


 その時、不意に後ろから強い衝撃を感じた。


 その衝撃に耐えきれず、転んでしまった。


 すかさず衝撃を与えてきた主を確認する。


 そして分かった。


 俺はブランチに蹴られたのだ。


 その顔は酷く苛々としていた。



 「お前が食われろよ。こんな時くらい役に立てって」



 嘘だろ?


 どこまで性根が腐ってんだコイツ。



 反論しようとすると、周りから小さく声が聞こえてきた。



 ......そうだよ


 ......役立たずが


 ......うちらのために食われろって


 ......最後くらい役に立てよ



 俺は絶句した。


 クラスメイト全員が俺に食われろと言っている。


 ここまで腐っていたのか。


 だが、黙って従うほど俺はお人好しではない。


 なぜなら俺だって死にたくないからだ。



 「ふざけんな! いくら力が無いからって命は平等だろ? ここをどう無事に切り抜けるのかが重要じゃ無いのか!」



 無駄だと心のどこかで思っているが、これで考えを改めてくれれば儲け物だ。


 だが、現実はそう上手くはいかない。


 クラスメイトの冷たい視線が注がれる。



 「これがクラスメイトそ総意だ。黙って食われろ、雑魚(エクス)



 ブランチはそう言い放つと、神具を構えた。


 ヤバイ。


 このままだとマジで殺される。


 逃げようと走り出した瞬間、鋭い痛みが足元に走り、盛大に転んだ。


 足をよく見ると、両足の腱が何者かに斬られていた。



 「悪く思うなよ。これはクラスの判断だ」



 ブランチはそう言って、神具を虚空へしまった。



 「おい! こんなことして許されると思ってるのか! 呪う。 絶対呪ってやる!」



 俺のなけなしの咆哮は、虚しく森にこだまする。



 「ハッハッハ! 醜い! 醜いぞ人族よ!」



 猿はご満悦のように高らかと笑う。



 「どうやら我に食われるものは決まったようだな。よし、他の者は見逃してやろう!」



 猿はそう言い放つと、ゆっくりと俺の方へ近づいてきた。


 懇願するようにクラスメイトの方へ視線を向けると、あいつらは既に走り去っていた。


 そう、生徒を守る役目がある教師でさえも。



 「哀れだな、人間。だが、これが弱肉強食の世界。強き者は弱き者の上に立つ。当然の理よ」



 刹那、俺の体が吹き飛ぶ。


 ブランチに殴られた時とは桁違いの衝撃が体を襲った。


 俺の体は宙を舞い、木に叩きつけられる。


 背骨が折れた感覚が妙に鮮明に伝わってきた。


 思わず口から大量の血が吹き出る。



 「人を嬲るのも好きだが、お前は脆いな。すぐ終わらせてやろう」






 黙れ。


 何が当然の理だ。


 許さん。


 あの見捨てたクラスメイトも。


 俺を斬ったブランチも。


 クソみたいな教師も。


 この猿も。





 ......あんな奴ら(クソみたいな人間)に力を与え、俺を見捨てた神も。




 許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん





 「ではさらばだ、人間」





 そうだ。


 天に力を求めたのが間違いだった。


 (クソ)はもう頼らん。







 「......力を貸せ、魔王(サタン)




 




 

 


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