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第二話 校外学習

あと二話ほど不遇続きます


 ブランチとのいざこざから一週間。


 だいぶ体の調子も戻ってきた。


 依然ブランチに金は盗まれたままだが。



 「では、明日は校外学習なので、しっかり休息を取るように」



 教師がそう告げると、教室を去っていった。


 そう。


 年に一度の最悪な行事である「校外学習」が明日なのである。


 校外学習とは、国の外へ出て、魔物と戦う練習をするというものだ。


 毎年俺は、この行事を嫌っていた。


 なぜなら、クラスメイトとの差を否応なしに見せつけられるからだ。


 しかし、だからといって休むわけにもいかない。


 この校外学習は、成績に大きく関わってくるので、何がなんでも出席はしなければならないのだ。


 去年は散々な目にあった。


 神具顕現さえしていれば5歳でも勝てると言われている、雑魚の代名詞であるゴブリンに敗北したのだ。


 理由はもちろん神具顕現が出来ないから。


 クラスメイトは、ゴブリンの何倍も強いリザードマンなどに勝利しているのに、俺だけがゴブリンにさえ勝てていない。


 クラスメイトには散々馬鹿にされた。


 去年であれほど差が開いていたので、今年はもっと酷いことになるだろう。


 嘲笑され、侮蔑される。


 明日のことを考えたら気が重くなった。







 翌日。


 最悪なことに今日は校外学習だ。


 クラスメイト達はやる気に満ち満ちているが、その本心は俺を見て自尊心を満たしたい奴が過半数だろう。


 こいつら(クラスメイト)はそういう奴らだ。


 

 「では、魔の森へと向かう。 決して団体から離れないように気をつけて向かえ」



 校外学習は、国の城壁の外にある魔の森で行われる。


 魔の森は、冒険者になりたての人などが戦闘技術を磨くためにこの森へ向かうことから、別名「初心者の森」とも呼ばれている。


 しかし、侮るなかれ。


 魔の森は、アレスト国内よりも大きいと推測され、森の深いところへ行くにつれ、初層、中層、最深層となっている。


 もちろん、最深層に近づくにつれ、魔物も強くなっていく。


 なので、今回の校外学習も去年と同じく初層で行うはずなのだが......



 「先生ぇ〜。 森のどこまで行くんですか?」



 クラスメイトの誰かがそう聞いた。


 安全性を考慮するなら、間違いなく初層だろう。


 だが、クラスメイトは自分は去年より強くなっていると思っているため、それだけでは足りないのだ。


 単に、俺へ力の差を大きく見せたいという奴もいるかもしれないが。



 「予定では初層だが、中層まで行くことにする」



 クラスメイトのそういった思いを感じたのか、教師は独断で中層を許可した。


 中層といえば、オークといった魔物も潜んでいる。


 クラスメイトは俺以外神具顕現をできるが、それでも勝てるかどうかの強敵だ。


 俺にはゴブリンでさえ強敵なので違いはないが。


 とりあえず、中層まで行けば、命を落とすリスクが跳ね上がることは確かだろう。



 「中層の魔物なんて俺が一捻りしてやるよ」



 そう宣言したのは、クラス最強のブランチ。


 「クラス最強」という称号が、自尊心を大きく膨らませたのだろう。


 自信に満ちた表情をしている。



 「ただ、中層には初層とは比較にならないほどの強敵もいる。 勝てないと悟ったら、すぐに逃げるように」



 一応教師も中層の危険性はわかっているようだ。


 ただ、その忠告をコイツらが聞くかどうかだが。







 一時間ほど歩くと、ようやく魔の森の初層についた。



 「初層で一時間ほど戦いの練習をするように。 決して一人で中層には向かうなよ」


 「大丈夫っすよ。俺つえーんで」


 「ダメだ」



 教師の忠告を聞かない生徒(バカ)は、やはりブランチだった。


 そんなバカを教師は一蹴した。


 流石に生徒を死なすわけにはいかないのだろう。


 そんな教師の返答に、さぞ不服そうな顔をするブランチ。


 そんなに行きたいのなら、いっそのこと一人で行って死んでくれ。



 「では、一時間後、ここに集合だ。全員が集まり次第、中層に向かう。それでは、解散」



 解散した途端に、全員がこう宣言した。



 「神具顕現!」



 瞬間、この辺り一帯に魔力が集う。


 神の寵愛を一身に受けたクラスメイト達は、次々に神具を顕現していった。


 その神具は、形様々。


 剣や弓、杖などが多いが、人によっては槍や刀、全身を覆う鎧といった一風変わったものもあった。


 そんな中、俺の手には鉄剣。


 防具はなし。


 練習用の鉄剣ではないので、刃は潰されていないが、それでも神具に比べれば性能は劣る。


 もちろん、神具からの(まりょく)による身体能力向上といった恩恵もない。


 クラスメイトは神具を顕現させると、次々に森へ入っていった。


 俺の装備では、魔物に一瞬にして負けるのは分かりきっている。


 森に入らずにここにいよう。


 俺は悔しさを胸に抱ながらも、そうすることしかできない自分自身に対し辟易した。








――――――――SIDEブランチ



 「神具顕現!」



 俺は高らかに宣言し、右手を掲げた。


 太陽神ラーの寵愛を受けた俺は、神具「太陽神剣」を使用することができる。


 太陽神ラーは太陽の化身であり、その力は膨大。


 クラスメイト(雑魚ども)の神具とは一線を画す力を持っている。


 そんな強大な神の寵愛を受けた俺に対し、教師は中層へ行くことを許可しなかった。


 つまり、ここにいる雑魚どもと一緒の実力に見られたということだ。


 ムカつく。


 こんな雑魚ども(クラスメイト)と教師に見せてやるよ。

 俺の力を。


 中層にいるオークの首を持ってくればいいだろう。


 そう決めた俺は、太陽神剣を片手に森へと足を踏み入れた。





 リザードマンを一撃で葬った俺は、目の前の森を見据えた。



 「ここからが中層か。ビリビリと闘気(オーラ)が来やがるぜ」



 ここまでの初層とは訳が違う。


 この先にいるであろう魔物の闘気をはっきりと感じることができる。


 だが、それを感じてわかったことがある。



 勝てる。


 確かに強大な闘気だが、太陽神ラーの寵愛を受けた俺からすればまだまだ小物だ。


 そう分かったのなら話は早い。


 さっさとオークを倒して首を持ち帰る。


 太陽神剣を強く握りしめ、中層へ侵入する。



 十分ほど歩いて、ようやく闘気の本体を見つけた。


 やはり、紛れもないオークだった。


 深呼吸して、近場の茂みに身を隠す。


 ここまで歩いてきて分かったことがあった。



 中層には魔物が少ない。

 

 実際、ここへ来る最中に一体も魔物と出会わなかった。


 魔物が少ないということは、一対一で戦えるということ。


 流石の俺でも、中層の魔物相手に多対一はキツい。


 逆に、一対一ならば、勝率は高い。


 勝つ。



 茂みの中でオークの様子を伺う。


 身長は3メートルほど。


 肌は緑色で、巨木のような体躯をしている。


 特に腕の筋肉の発達量は恐ろしい。


 あの腕で殴られたら、ラーの加護を持っている俺でさえ、無事では済まないだろう。


 ならば作戦は一つ。


 背後へ近づき、首を一閃するだけだ。


 あいつが背後を向けたときを狙う。



 オークは周りをキョロキョロと見回していたが、なかなか後ろを向かない。


 普通、昼間は寝ているはずなのだが。


 このままだと拉致が開かないので、足元にある小石を拾って、オークの背後の茂みに向かって投げた。



 ガサッ



 不穏な音を察知したオークは跳ねるように驚き、音の出所である後ろを向いた。


 その妙な臆病さに不穏さを抱きながらも、チャンスは今しかないので、剣を握りしめ、覚悟を決める。


 足へ魔力を込めて強化し、爆発的な推進力でオークの首へと一直線に向かう。


 オークは先ほどの音がダミーだと気づき、振り返るがもう遅い。


 太陽神剣で首を一閃する。



 ぼとり。と音を立ててオークの首が地面に落ちた。


 呆気ない。



 「フッ。俺にかかればこんな奴一瞬だったな」



 オークの頭を拾おうと屈んだとき、正面から凄まじい闘気(オーラ)を感じた。


 反射的にその場を飛び退く。


 闘気の出所を確認しようと正面を見ると、そこには体躯4メートルほどの黄色い目をした猿が立っていた。


 

 目と目があった瞬間、俺の体から汗が吹き出し、本能が全力で警鐘を鳴らしてきた。


 あいつは、獣の王(ガングリオン)


 最深層にいるとされているSS級危険種だ。


 SS級危険種とは、国が総力を上げなければ討伐できないほど。


 なるほど。


 こいつ(ガングリオン)がいたから、あいつ(オーク)は寝る間も惜しんで周りを警戒していたのか。


 そう考えている間に、ガングリオンは俺を獲物として定めたのか、口を歪めた。


 俺では勝てない。


 そう思った時には、俺の足はプライドを殴り捨てて来た道を戻るように走り出していた。

 


 


 

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