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チート・ギア  作者: 森野賢人
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本物

 ステージ脇に設置されたスロープから降りていくマキナリとツノル。

 とりあえず一息つこうと人だかりの後ろを目指す途中、ギャラリーから「よかったぜ」と手を差し出され、「ありがとう」とハイタッチをしていく。

 そんな二人を人込みの出口で待つ少年がいた。


「おめでとう。すごいじゃないか、マキノリくん」


「ハハ、俺の名前はマキ『ナ』リだよ。まあ、思ったより余裕だったな」


「ユースケはいつ頃試合なの?」


「この三つくらい後だったかな? 相手は君たちと戦ったあのおっきな人みたいだね」


「『クラッシュ&ブロウ』だね! でも、ユースケなら余裕そうだな」


「そうかな? ありがとう。最善を尽くすよ」


「またご謙遜なさって~……」




「ちょっといいかしら」


 談笑していると、ユースケの後方から女性の声がした。

 誰かと思いツノルとマキナリが目を向けると、そこにいたのはサングラスを掛けた妖しい女性だった。


「あなた達が、さっきステージにいた二人?」


 そのハキハキとし、どこか敵意の混ざったような声に、二人は高圧的な印象を受ける。


「ど、どちらさまです……?」


「ああ、紹介するよ。この人はジュ……」


「ジュピター。あなたたちと同じAグループよ」


「へぇ。よろしく」


 そう言ってマキナリは左手を差し出す。しかしジュピターはそれを受け取らず、自分の用をさっさと済ませようとする。


「聞いてもいいかしら。あなたたち、どうやってあのクラッシュの左腕を壊したの。それも一撃で」


 質問を聞いてツノルがあからさまにギョッとする。察知したのか、それを隠すようにマキナリが前にでた。


「おっと。そんな素直に手の内を明かすと思うのか? あれは俺たちがこの日のために長い時間を掛けて用意した秘策でね。簡単に明かすことはできないんだわ」


「長い時間ねえ……そんなのに時間を掛けるんだったら、もう少し腕を磨くべきじゃなかったかしら」


「……なに?」


「最後の『奥義』……もし相手の両腕の『ギア』が四つ用意されていたらどうするつもりだったの?」


 そう言われ、マキナリが試合中のことを思い出すと、確かに、両腕の『ギア』の替えが多いという予想自体は正しかったが、三つという確証はなかったのである。

 正論を言われ、口を噤むマキナリにジュピターが続ける。


「パワータイプのあの攻め方を見たら、並以上のプレイヤーであれば予備の偏重を警戒するはず。しかしあなたはそれをせず『奥義』を使った。もしクラッシュが『ギア』を隠し持っていたら? あなたの『奥義』を待って左腕の『ギア』を装備、あなたは『奥義』の制限時間以内に仕留めきれず、自傷ダメージにより残り少しの体力を消費、負けていたわ」


「け、結果論だ。それに、結局勝ったのは俺たちだ」


「運良くね。あなたたちが勝てたのは偶然にすぎない。運に頼るなんて初心者のやることよ」


「確実な勝利なんか存在しないだろ」


「でも勝てる可能性を少しでも確かなものにするために観察と考察を続けるのはプレイヤーとして当然よ。あなたたちはそれを怠った」


 勝負なんて結局、その時々の互いの気分で簡単に結末は代わるだろう。と胸中で反発する反面、ジュピターの言い分を完全には否定できない自分もおり、マキナリは反論するに至らず、再度口を噤んだ。


「も、もういいだろジュビリー」


「ジュピターよ。……ま、そうね。話した感じ、大した敵ではなさそうだし」


「なに……!」


 睨みつけるマキナリを歯牙にもかけず、にジュピターはその場で振り返り、


「思い出作り、楽しみにしてるわね。『ダーク・シャドウズ』さん」


 そうしてジュピターはその場を去っていった。


「いやー彼女、いつもあんな感じなんだよねえ」


 やれやれと、そんなジュピターの背中をユースケが見送っていると、隣から凄まじい熱気を感じた。

 熱気を感じる方を向くと、そこには凄まじい剣幕をしたマキナリがいた。


「クソオォォォォオ!」




*****




「マキナリー」


 自動販売機の取り出し口から、350mlのコーラと280mlのお茶を取り出すツノル。

 その隣でマキナリは不機嫌そうに腕を組んでいる。


「なんだ」


 姿だけでなく、それは語調からも読み取れ、明らかに機嫌が悪いのが分かる。


「いつまで怒ってんだよー」


「怒ってない」


 食い気味に返答するマキナリに、ツノルは交際経験が無いにも関わらず、伝聞される『機嫌の悪い彼女』を相手するような面倒臭さを感じた。


「なあ怒るのは分かるけどさ、俺たちは確かに初心者で、あの人はユースケ曰く2年もやってるんだぜ?」


「対して長くねーじゃねーか。なんならお前と同じくらいじゃねーか」


「そ、そうだけど。俺は娯楽として、あの人はスポーツとしてやってきたんだ。鍛え方が違う」


「ちっ……」


「それに、なんだかんだあの人の言い分も一理あったろ? いい反省材料じゃないか」


 その言葉を聞いた瞬間、お前も敵かといったような鋭い目でマキナリはツノルを睨みつけた。


「お、おちつけぇ……! おちつけぇ……!」


 悪霊を払うかのようにツノルが連呼する。

 その情けない姿に同情したのか、はたまたようやく頭が冷えたのか、マキナリは大きく息を吐き、いつもの表情に戻る。

 そしてそのままステージの方へと動き始めた。


「お? どこ行くんだ?」


「ユースケの試合、そろそろ始まるだろ」


「そうだった! やばい見逃せないな」


 そう言ってツノルはマキナリへ駆けていき、車椅子のハンドルを握り、押してやる。


「相手は俺たちが戦った『クラッシュ&ブロウ』か、ユースケどうやって戦うんだろう。案外、苦戦してくれたりして」


「それは無いだろう。が、クラッシュには少しでも頑張ってもらわなきゃ困る」


「えっ、マキナリはクラッシュを応援するのか?」


「そうじゃない。ユースケにはこの試合で研究の材料を少しでも多く落としてもらわなきゃならねえんだ。そのためにもクラッシュにはできる限り試合を長引かせてほしいのさ」


「あ! なるほど!」


 ツノルがハンドルを離し、ポンと手を打った。


(この試合で俺たちと『天才』の差がはっきりと分かる。初日に見れてよかったぜ。対策を立てる時間は十分にある)




*****




「それではお待ちかね、第5回戦の選手紹介です!!」


 ステージに選手が立ち並ぶ。

 観客側から右側には、マキナリ達が第一回戦で戦った『クラッシュ&ブロウ』が、

 そして、左側には一人の少年が立っている。


「左手、青コーナー、このゲームに燃える人間ならその名を知らない人はいないでしょう!! 『ユゥゥゥゥゥゥゥスケエエエエェェ』!!」


 呼ばれた瞬間、マキナリ達がステージに立っていた時とは比べ物にならない程の歓声が沸き起こる。

 そんな歓声にユースケは慣れたような感じで小さく手を振って応える。


「対する赤コーナーは、初戦、惜しくも『ダーク・シャドウズ』に敗れたこの二人組、『クラアアアァァァッシュアンブロオォォォゥ』!!」


「い、いちいち言うんじゃねええええ!」


「負けたらあんな恐ろしいことされるのか」


 マキナリは自分たちが負けていたらと思うとゾッとした。

 第一回戦の時と同じように司会が準備を促し、二人が『テン・フィスト』の椅子に座る。

 画面にはクラッシュのパワータイプのドールと、


「オールラウンド……」


 マキナリ達と同じタイプで、見た目もマキナリ達とそっくりなドールが並んだ。

 カウントが十から始まり、観客と共に刻まれていく。

 そして試合が始まった。


「「「「『FIGHT!!』」」」」


 開始と同時にクラッシュがユースケに話しかける。


「おめぇ、『天才』って言われているらしいな」


「そうだね。実は恥ずかしくて、あんま好きじゃないんだけどね」


「ガハハ! 天才は否定しねェのか!! まあいい……頭の良さが重要ってんなら、俺も学習したぜ。このゲームは攻めなくなったら終わりだ。つまり……」


 話しながらクラッシュが左脚を下げ、前かがみになるように構える。


「ガン攻めが強ェってなあ!」


 大きな声と共に、大きな腕を振りながらユースケに突っ込んでいく。


「自分の戦い方を顧みるのは大事だね、けど……」


「くらえぇっ!」


 パワータイプのレンジを発揮できる完璧なタイミングで左腕を放つ。しかしクラッシュの拳はユースケを捉えるに至らなかった。

 それどころか、クラッシュの視界からユースケが消えた。


「なにッ……どこいきやがった!」


「な、なんだ!?」

「消えた?」


 しかし見失ったのはクラッシュだけではなく、そこにいるギャラリーの誰しもが一瞬、彼の姿を見失ったのだ。


「攻めも守りも、バランスが大事だよ」


 ユースケの声が聞こえると同時に、クラッシュの伸びきった腕の下に落とされた影が揺れる。


「なッ……」


「腕の下!?」


(なんだ今の動きは……全く見えなかったぞ……!)


 マキナリは今見ていた映像を脳内で何度も再生し、何が起こったのか確認する。しかし見返せども動きは見えず、消えたとしか思えないのだ。

 仕方なく、ユースケが現れた位置や、その時の体勢から推察する。


(ダッキングか……? しかし、動きの始点が完全に見えなかった……!)


 確認できた光景だけでは情報が足らず、それらしい答えにたどり着かない。

 画面から目を離し、うーむと悩むマキナリだったが、そんな彼よりも早く答えにいきついた少年がいた。ツノルだった。


「……スペースボーイ2だ」


 その名前は当然、マキナリは聞き覚えがあった。何故なら彼の使うドールの右腕に装備された『ギア』が『スペースボーイ2』だからだ。

 ただ、厳密にいえば彼らが装備するそれは、『スペースボーイ2』であって、そうではないのだが。


「俺達が使ってる偽物じゃない。本物の……!」


「あれが、本来の……」



「そこかァッ!!」


 クラッシュが左腕を振り払い、陰に隠れたユースケを狙う。

 しかしこれもユースケには当たらず、空を撫でるのみだった。

 再びユースケが画面から姿を消す。観客もユースケの影を追うが、当然見つからない。


「あ、あそこだ!!」


 観客の一人がモニターに指を指し、声を上げる。

 ユースケが次に現れたのはクラッシュの背後だった。


「これ、初めて使うんだけど。ちょっと強すぎるね」


 クラッシュが背後に向かって裏拳を放つ。

 ユースケはそれをしゃがんで避け、そのまま回転。クラッシュの脚を払う。

 地面から脚を剥がされたクラッシュの巨体は宙に浮き、身動きが取れなくなったところにユースケが更なる追撃を加える。

 そして地面に倒れ伏したクラッシュの胴体部の『ギア』が音を立てて壊れた。


「ブロウ!! 『ギア』を替え……」


「させるかよ!!」


 露出した胴体部にすかさず飛び込むように踵落としを決め、クラッシュの体力を奪い切る。


『Knock Out!!』


 試合開始から僅か一分のことだった。



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