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チート・ギア  作者: 森野賢人
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クラッシュ&ブロウ②

文章のフォーマットを直しました……前話から乱れがあり、読み辛かったらすみません。

前話までの文章のフォーマットを以降の物に合わせて整えました。(3/29)

「おーーっと! 先制したのはクラッシュ選手だーーーーッ。マキナリ選手、右腕にダメージ!」


 司会者が叫び、観客が沸く中、マキナリは焦っていた。本来なら大きなアドバンテージとなるはずの『チートギア』が予想とは違う動きをしたのだ。


(相手の『ギア』が壊せないどころか、傷すらついていない!?)


 マキナリが装備した『チートギア』はどんな『ギア』相手でも触れるだけで破壊することができる性質を持った代物であるはずで、それはツノルと共に何度も検証したはずだった。

 しかし、おかしいのはそこだけではなかった。


(仮に相手の耐久力が一撃で壊せない程高いとしても、『チートギア』だけが損傷しているのはおかしい!)


 マキナリの予想は正しく、本来『ギア』と『ギア』が衝突した場合、相殺は起こらず、互いにダメージを受けるという仕様となっているのだ。

 しかし目の前で起こったのは、『相手のギア』は無傷で、『マキナリのギア』のみがダメージを受けているという、仕様から逸脱した現象だったのだ。

 故にマキナリがこの答えに行きつくのは当然だった。


(……相手もチートを使っている?)


「まずい! マキナリ! 上だ!」


 自分の右腕に視線をやるマキナリに、クラッシュがマキナリの頭上に両腕を組んで振り下ろす。

 ツノルの声のおかげでそれに気付き、間一髪で後ろに逃れる。

 そんな狼狽えた様子のマキナリを見て、クラッシュが笑い始める。


「フフフ……ハッハッハッハ……アーーーハッハッハ」


 隙をさらけ出すクラッシュだったが、マキナリは先ほどの現象を警戒し、攻めには行けない。


「何をされたか……わからないと言った様子だな」


「……」


 クラッシュの質問に沈黙で返す。しかし構わずクラッシュが続ける。


「あんだけ煽っておいて初心者かよ! ハハハ、まあいい。仕方ないから教えてやるぜ」


 そう言うと腕を見せびらかすように突き出し、自信満々に話し始めた。


「これはパワータイプのドールが持つ『EXスキル』! その名も……『アーム・ストロング』だ!!」


「『アーム・ストロング』……?」


 驚くマキナリに意気揚々と続ける。


「『アーム・ストロング』を使った部位で攻撃した場合、二回まで一方的に打ち勝つことができる!!」


「なるほど……つまりあんたは今、その『アーム・ストロング』を左腕に使用し、一回使ったって訳だ」


「ふっ、理解がはえーじゃねーか」


「まっそういうことなら問題ねーわ」


「なに?」


 話を聞き終わると、マキナリはチャンネルをすぐに変え、ツノルに話しかけた。


「今の話は本当か?」


「ああ、あいつの言ってることは正しい。パワータイプなんてマイナーだから、俺も忘れかけていたよ」


「なるほどな」


「マキナリの言ったことも本当なのか?」


「言ったこと?」


「問題ない、って」


 マキナリは一呼吸おき、ニヤリと笑って言った。


「本当だ」


 そう言ってマキナリは再びクラッシュの方へと向かっていった。


「……ホントに本当かよ……」


 見た目からはまるで戦法の変わっていないマキナリに、ツノルは一抹の不安を抱えた。


「一旦離れたマキナリ選手。再びクラッシュ選手に向かっていくーーーッ」


「ばかな野郎だ。また素直に突っ込んでくるなんてよ」


「本当に馬鹿かどうかは今に分かるぜ!」


 先ほど同様に、迷いなく一直線にクラッシュに近づいてくマキナリ。

 しかしある程度進んだところで立ち止まる。

 敵を目の前にしているにも拘らずクラッシュもその場から動かず、二人の間に沈黙が流れる。

 その不思議な光景に、ツノルが口を開く。


「どうしたマキナリ!」


「う、動かねえんだ。相手が」


「それがなんだよ! チャンスじゃねえか!」


「違う。隙がねえんだ」


「す、隙?」


――ガン待ち。


 格闘ゲームにおける『攻撃』の成功とは何か。それは相手に『攻撃』を当てることである。

「なんだ簡単なことじゃないか」と思われた方、少々お待ちいただきたい。『攻撃』を当てるにはいくつもの困難を乗り越えなければならないのである。

 まず『攻撃』を当てるためには『攻撃』が届く位置まで『移動』する必要がある。この時点で『攻撃』と『移動』の二つ操作をクリアしなければならない。

 更にその間、相手に飛び道具があればそれらをさばく必要がある。もちろん全て必ず避けなければならず、もし『攻撃』を成功させるまでに『相手の攻撃』を受けてしまっては、仮にこちらの『攻撃』を当てたとしても体力差は開かず、本末転倒となってしまうのである。

 そして上記の『移動』と『回避』を成功させた暁に待つのは、こちらの『攻撃』と相手の『攻撃』の早打ち勝負である。専門用語になるが、相手の『攻撃』のフレームよりも少ないフレームの『攻撃』を放つ必要がある。

 しかしここにも落とし穴があり、最後の『攻撃』のセクションで相手が『回避』や『防御』といった行動をとった場合、再びゴールから突き放されるのである。故に、『攻撃』一つとってもそこに至るまでの工程は難解極まりなく、多くの格ゲー中級者を今も悩ませているのである。


「ならば、それらの煩わしい工程を取り除こう」という試みが産まれるのも必然であろう。そう、それが『待ち』である。

『移動』『回避』『攻撃』等の選択は相手に任せ、こちらは『攻撃』の操作のみに専念するという戦法である。

 選択肢が少ない分『攻め』に比べプレイヤーへの負荷が少なく、しかし行動による『隙』を生み出さないためローリスクなのである。

 上記の行動は、迎え撃つ側のリーチや、技の発生速度が優秀であればあるほど相手の迎撃を容易とするため、『ガイル』が人々に選ばれるのも必然なのである。

 勿論、格闘ゲームは日々進化しており、攻め側が有利となるよう様々な工夫が各ゲーム会社で研究されているため、一概に『待ち』が有利とは言えなくなってきているが。


 今の二人に当てはめて言えば、機動力で劣りリーチで勝るクラッシュが、機動力で勝りリーチで劣るマキナリに対し機動力勝負を避け、リーチ勝負を持ち掛けるのは一般的な格闘ゲームにおいてあり得なくない戦術なのだ。



「これだと俺が攻撃するまでに全部相手に撃ち落されちまう」


「だったら、相手が攻撃に使う『ギア』を狙えば良いはずだ!」


「『アーム・ストロング』の効果はさっき説明を受けたはずだろう。そうでなくても、消耗戦になればこっちは不利だ」


「あっ……」


 初動でもあったように、攻撃してきた部位ギアに合わせた攻撃ならばリーチ差を無視することができるが、『アーム・ストロング』がある限り一方的にやられるのみなのである。

 もし仮に『アーム・ストロング』を使わせ切ったとしても、相手の『待ち』によって消耗戦に持ち込まれれば、パワータイプに『ギア』の容量で劣るマキナリのドールは敗北を免れ得ない。


「どうした『ダーク・ブラックズ』だったか? さっきまでの威勢はどこに行っちまったんだ?」


「ちっ……そっちこそ。大の男が待ってばっかりなんて、男が廃るぜ」


「ハッ、勝ちゃいいのよ」


※『待ち』は禁止されていない正当な戦法であり、非難の対象となるのはお門違いであることを追記しておく。


 自らの行いを鑑みると、勝てばよいと言われると否定できず、マキナリは沈黙せざるを得ないのだった。


「おいおいおい! なんだよ二人とも見合っちまってよお!」

「そうだよ早く突っ込めよ」


 そんな二人に痺れを切らしたのか、観客からヤジが飛び始める。


「マキナリィ……! どうすんだよぉ!」


 ツノルは慣れないその状況に既に涙声になっており、完全にマキナリの解法待ちになってしまっていた。


「くそ……!」


 仕掛けたのはマキナリだった。再びクラッシュに正面から突っ込んでいく。


「おーーーっと! マキナリ選手ヤケになったのか! 突っ込んでいくーーーーっ!」


「ふん! この程度のヤジで突っ込んでくるなんて、堪え性の無い野郎だ!」


「うおおおおおおおおお!」


 文字通り正面から飛び込んできたマキナリを、クラッシュが左手で地面に叩き伏せる。

 マキナリは地面と左手に思い切り挟まれ、その威力は地面にヒビが入るほどだった。


「むぐうっ!」


「マキナリ!」


「うお! あのドール、すごいパワーだ」

「いくらゲームとはいえ、ありゃ圧迫感すごいだろうなあ」


 マキナリの胴体部にヒビが入る。


「ケッなんか思いついたかと思えば、結局勢いかよ?」


「くっ……ハハハ……」


 身動きが取れず完全にピンチになったはずのマキナリが突如笑い始めた。


「……? 何笑ってやがる」


「二回使ったな?」


 マキナリは潰されながらも右腕の『ギア』で思い切りクラッシュの左腕を殴りつける。すると一撃でクラッシュの左腕の『ギア』が吹き飛び、中身が露わになった。


「……なっ!?」


「え゛っ」


 目の前で起こった出来事にクラッシュは驚き、言葉を失う。そして、あまりにもあからさまに壊れる『ギア』を見てツノルも堪らず低い声を漏らした。

 ツノルが会場の方を見ると、もちろんギャラリーも唖然としており、今しがたまで盛り上がっていた雰囲気はどこかに消え去っていた。

 それは明らかに今起こった事に対しての処理が間に合っていない様子だった。


(マキナリのバカ! 間違いなく終わったぞこれ……!)


 あまりの絶望に目がスマホの顔文字のようになるツノル。

 そしてついに、会場から声が漏れてきた。


「す……」


(…………酢?)



「すげえええええええ!!」

「どんなスキル構成してんだあいつ!!!」


 それはなんとも以外、上がってきたのは溢れんばかりの賛美の声だった。


「マジモンだぜあいつは!」

「カウンター盛り構成かよ! ぶちきまってんな!」

「いやあれは『ギア』が傷を負ったときに短時間強化される……」

「いやいやあれは……」


 全ての人間が全く見当違いの考察を並べ立てていた。そう、使われているのはただの『チート』なのである。

 あまりのご都合主義的展開に、ツノルの目はまん丸にデフォルメされた。


「目ェ離してんじゃねえよ!」


「なにっ!」


 クラッシュが呆気にとられている隙にマキナリが壊れた部位へ追撃する。

 しかし間一髪のところで避けられ、互いに元の間合いに戻った。


「クソてめぇ! 面白いことしてくれんじゃねーか!」


「おもしれーのはこっからだぜ?」


 とんでもない破壊力に一気に緊張が高まるクラッシュに対し、まだ秘策があると言った様子のマキナリ。

『ダーク・シャドウズ』の反撃が始まるのだった。


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