六話 落とし穴、敗れる
今まで全く改良も加えることなく、落とし穴で全てが片付いていたがそれもついに終わりを迎えた。
やってきた三人組の探索者達。その中の二人はそこはかとなく見覚えのあるもの、ひょっとたら同郷の者かもしれない。外にも俺のように呼び出されている者がいるんだなぁとのんびりと思う。少し、本当にわずかに悩んだがすぐに倒すことを決意する。
迷宮にやって来たすぐは元の世界に戻りたいとも思っていたけれど……今では俺の居場所はここだ。もう既に帰るつもりはなかった。ぷに子達さえいればいい。その為には同郷だったものだとしても関係ない。
そんなナオヤの考えも知らない三人は迷宮の中を進んでいく。
「気を引き締めろ、最近のこの迷宮から帰ったものは誰もいない」
「しかし……それにしても何もいませんね」
「それに一本道だな。このまま行くとどの迷宮よりも簡単じゃねえか」
それでいて誰も帰らない迷宮というのにあまりにも何もない異様さに驚きながらも歩を進める。
そして最初の関門、落とし穴へとたどり着いた。
「じゃあ、開けるぞ?」
三人は警戒しながらゆっくりと扉を開く。
この時点で俺は落とし穴へと落ちていくことを確信していたのだが……
扉が開き、いつものように三人は声をあげる。
「あ?」
「ふぇ?」
「うおっ!?」
開いた瞬間だった。三人のうち一人、女が見たこともないような魔法を使ったのだ(そもそも探索者の魔法を見るのが初めてなのだが)。
「テレポート!!」
そして三人の姿穴の上からは消える。
慌ててモニターを見ると入口付近まで戻っていた。
瞬間移動の魔法だと? そんなものがあるとは。
「今のは危なかったな」
「すまない、助かったサラ」
「いえ……流石に慌てました」
「にしてもこんな罠、この世界で初めてじゃないか?」
モニターを一緒に見ていたヘルが感嘆しながら声を漏らす。
「ほう、転移魔法とは珍しいな」
「ん、珍しいものなのか?」
「うぬ、我が知る限り転移魔法が使える人間など大昔にいたとされている勇者ぐらいだと思っていたのだが……」
「ミーちゃんは見たことあるか?」
『流石に俺様でも見たことねえなぁ。人族も中々やるじゃねえか』
ミーちゃんでも見たことがない様だ。ちなみにミーちゃんと言うのはミドラの事だ。ミドラと名付けたのはいいものをなんかしっくりこなかったので普段はミーちゃんと呼んでいる。
勿論の事、ミーちゃんことミドラは反発したのだが、呼ばれるうちにやむなし、と言った様子であった。
しかし、転移魔法か。使える人間がほとんどいない魔法を使える、それにこの世界、と言う言葉。やはり異世界人なのか? でもそんな特別な魔法が使えるなんてずるい。俺には何もないというのに……
と、俺がそんなことを考えている間に、三人はこれ以上迷宮探索を続けるか、続けないかを話し合っている。転移魔法を使った女性と壮年の男が戻ることを主張しており、若い男は先へ進むことを主張している。ここで帰られるのは随分まずい。これからは落とし穴の警戒がされてしまうということだ。
ひっそりと若い男を応援する。
「何も手柄なく帰るわけには行かないだろう!? みんな期待して待ってんだぞ! 」
「ウル、落ち着いて。落とし穴なんてこの世界で初めてなのよ。それにどんな罠が仕掛けられているかも分からないんだから……一回立て直すべきよ」
「っ……!!」
ついに若い男、ウルは二人の静止を聞かずに飛び出した。
「仕方が無いのぅ、わしが追いかけるからサラ、お主は地上に戻ってくれ」
「それなら私も……」
「大丈夫だ、ウルは必ず連れて帰る。お主は先に迷宮のことを伝えておいてくれ」
「……はい」
いや、イケメンすぎるだろう。おそらく壮年の男性は万が一に備えてサラを地上に戻すのだろう。
二人とも死んでしまうと誰もこの話を伝える者がいなくなるからと。しかし、俺としては困ったもんだ。
どうやっても落とし穴のことがバレるのが確定してしまった。これは対策をしなければならない。っと、その前にウルとおっさんだ。
ウルと呼ばれた男は落とし穴の扉までやってくる。
「こんぐらい……っと!!」
あろう事か、扉の前から勢いをつけて跳躍し、そのまま扉を蹴り飛ばして向こうまで着地してしまった。
どんな脚力してるんだよ。
「おし、これで問題ないだろ、次はなんだ?」
大丈夫だ、安心しろ。次も勿論ある。そのウルの言葉に対して俺は心の中で返事をする。
ついに一度も動かなかった罠が稼働する。そのことに少し俺は心を躍らせていた。
着地したところを狙い打つ、壁から出射された弓矢。落とし穴避けたあとのウルを狙い打つのだが……
「オラァ!」
あっさりと剣の平で弾く。その様子を見て俺は大変申し訳ない気持ちになった。
この時点で次の罠にかかるのが決定したようなものだからだ。
「は?」
次の瞬間、開くウルの足元。
そう、またもや落とし穴である。もし、これが先ほどの落とし穴を避けた瞬間に開いていたのであればウルもなんとかできたのかもしれない。しかし、弓矢まで飛んでき、もう既に地面に何も無いと思っていたウルはあっさりと引っかかってしまう。
「舐めんなよぉ!」
落ちながらも壁へと剣をつきたて落下を止める。
だが、その上からはぷに子の分身が、覆いかぶさるように落ち……なかった。ぷに子の体はどこからか飛んできた斬撃によって切り裂かれる。少しその液体がウルにかかりながらも、落とし穴の中へと引きずり落とすようなことはなかった。斬撃が飛んできた方を見ると先ほどのおっさんが斧を振りかぶった状態で止まっていた。どうやら先ほどの斬撃の正体はこのおっさんのようだ。いつの間にやら扉の前までやってきていたおっさんは、先ほどのウルと同じように、扉を飛び越え、落とし穴の中へといるウルを引っ張り、地へと戻す。
「ほら、戻るぞウル。サラも心配している」
その言葉にウルは不満そうな表情を隠そうともせず、不満を撒き散らす。
「でもよ、俺たちは王国の期待にこたえないといけないだろ!! こんなところで引き返すわけにはいかないだろう!?」
「だが、それも死んだら、何も意味がないだろう?」
「だけどよ……っ!!」
あの、そう二人で会話しているところ悪いんですが、うちのぷに子がもう我慢できないようです。
どうやら先ほどの斬撃によってウルとかいう男を飲み込めなかったのが不満だったようで、二人が話している間、ずっと腕の中でぷるぷると震えていた。そんな怒りを抱えながら落とし穴の中から這い出てくるぷに子の分身。それは前とは違い、橙ではなく赤色だ。ぷに子も探索者を飲み込み、日々成長しているのである。二人はそれに反応することもできずにあっという間に飲み込まれていく。ここからはもういつも通り、苦痛にさいなまれながらぷに子に飲み込まれるだけだった。当のぷに子は探索者という養分を飲み込んでか、それとも先ほどの斬撃のお返しができて満足そうだ。
しかし、何も抵抗させずにあっという間に相手を飲み込む……ぷに子、恐ろしい子。
四大迷宮の一つ、ファーブニル。そこから出てきた少女は考える。
あれからウルとブルドさんは帰ってこなかった。それはもう、二人は生きていない事を意味する。
この世界に来てからずっと一緒だったウル。いつもふざけた様子のウルだったけれども……それは見知らぬ土地に来て、魔物と戦う事になった私を元気づけるだめだと私は知っていた。気付くとそんなウルを私は……
「っ……!!」
私の中をどす黒いものが埋め尽くしていく。
それはあの迷宮への怒り。ウルを私から奪った……
私は決意する。何があってもあの迷宮の主を殺すことを。あの迷宮に復讐することを。
ここまでお読みに下さり、ありがとうございます。
次回投稿は月曜日になります。これからもよろしくお願いします。