おまけ2 魔物狩り スロウとクルエル
おまけ、恐らくもう直接出ることはないであろう二人。
ある依頼を受けた金級魔物狩りの一組、クルエルとスロウは二人して悩ましげな顔を浮かべ相談していた。
「どうする?」
「どうするって言っても……いくしか」
「そうだよなぁ」
二人はため息をつきながら会話を続ける。その表情は決して晴れやかなものではない。それもそのはずで、二人が受けた依頼は龍が眠っていたと言われ、今では誰も帰らずの場所となっている場所、迷宮レギンに行けというものだった。これに対し、はい、と心地よく返事をして従うものなどいないだろう。この二人もそうであり、本来なら断るつもりでいた。だが、依頼元がとんでもないもので、断る訳にはいかなかったのだ。
その依頼、と言う名の命令を出したのは国王であり、ギルドを経由して二人の所へやって来た。国王としては、魔族に対する少しでもの対抗手段を得るため、そして民衆に魔物狩りは働いていますよ、という事をアピールするためだ。ギルドとしては、そのような誰も帰ってこなくなった迷宮にそれほど優秀な者を送る訳にはいかない。魔族たちとの戦いに人員は足りていないのだ。今まで帰ってこなかったものから考えてもそう迂闊に有名な魔物狩りに頼むわけにはいかなかった。そこでギルドが選んだのが、そこそこの実力があり、ひょっとすると迷宮から帰ってくるのではないか? といった実力を持つもの、言っては悪いが実力はあるのだが、あと一歩惜しいと言ったものである。
そして、今回はこの二人に白羽の矢が当たった。そして二人ともなぜ自分達にこの依頼が来たのかをよく理解していた。
「俺達も頑張ったよな……あんな、みすぼらしい生活から」
「そうね、懐かしいね。あの時はこんなことになるとは思って……じゃなくてっ! 何終わった感じを出しているの」
「だって、レギンだぜ? 今では誰も帰ってくることのない、迷宮レギン。はぁ、ここまで頑張ったのに最後は捨て駒扱いかよ……」
スロウも内心では理解しているのだ。魔物狩りの中でもスラム上がりで、周りに身内がいない俺達が死んでも困るものはほとんどいないという事を。だが、そう簡単にうんと頷ける話でもない。いっそのこと逃げてしまおうか、と言うのは二人で話していた。しかし、この依頼を蹴ったら二人は町で生きていくことができなくなるのは明白だ。そしてそんな二人をギルドが見逃すわけもない。それどころか同じ魔物狩りに追われる日々になってしまうだろう。それなら……まだ迷宮に挑戦した方が、というものだ。
「これがレギンじゃなくて、ファーフニルならまだよかったのに」
ジュノーから近いファーフニルは未だに沢山の魔物狩り達が向かっている。誰も帰ってこない迷宮に何故それほど人が向かっているのかと言うと、迷宮を攻略して、または生きて戻って名声を得ろうとしている奴らだ。そんな奴らは基本、自分の実力を把握しておらず過信しているものばかりだ。実力をわきまえている者ほど向かうものはいない。
スロウとしてはそんな奴らだとしても人がいる事には変わりなく、ひょっとしたら、そんな奴らを犠牲にして生き残れる可能性もあるのではないかと思ったのだ。
「でもそれだけ人が行っても帰ってくる者はいないじゃない。あまり人が行ってないレギンならまだ可能性が……と思ってきっとレギンに行けって言われたんでしょう」
「そうだろうけどさぁ……」
いつまでも煮え切らないスロウに呆れながらクルエルは言葉を返す。スロウとしてもそんな事は分かってはいた。だが、言わずにはいられないのだ。
「なんでお前はそんなに気軽なんだよ。死んで来いって言われているようなもんだぜ」
スロウには長年の相棒、そしてずっと一緒に育ってきた彼女がどうしてここまで今回の事を気軽にとらえているのかが不思議でたまらなかった。スロウの知っている彼女は臆病で、それこそ、夜中ほんの少しの物音でも怯え、自分へと抱き付いてきていた。そんなクルエルがどうしてここまで気軽なのかがスロウには分からなかった。
「死地から帰った戦士にはそれ相応の報酬が用意されるでしょ? これが終わったら……二人でずっと暮らせるよ」
スロウの思う以上にクルエルは気丈だった。確かにこの依頼をこなす、こなさないでも迷宮から帰ってくるだけでも随分と報酬をもらえるだろう。そしてそれは莫大なものであり、二人が一生遊んで暮らすには十分なものに違いない。頬をほんのりと赤く染め、照れながら言う彼女にスロウは苦笑する。
「そうだな、なんとしてでも帰ってきて一緒に暮らそう」
「うんっ! スロウにはそっちの方が似合っているよ」
彼女の声を聞き、決意を固める。何としてでも帰ってきてやると。最悪でも彼女だけは、たとえ自分の命を賭そうとも生きて返そうと。
ただ、その望みが叶う事がなく、終わる事は今の二人が知る由もない事であった。