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罠迷宮の管理主   作者: 久吉
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十二話 町探索

 先ほどまでの活気に包まれた場所とは打って変わって、人はおらず、暗闇に閉ざされた路地。目の前には複数の横に倒れ気絶している男たち。その前に一仕事を終えたぜ、と言うように立つぷに子とミア。

 そして、その中心にいる少女。服のあちこちが破れ、その隙間から白く透き通る肌をのぞかせている。俺達を怯えと、ほんの少しの期待をもって見つめている。


 どうしてこんな事になってしまったのだろうか。いや、うん。今回ばかりは俺は悪くない、悪くないはずだ。

「た、助けていただきありがとうございます。私はアンヴレラ邸の……」

「あー、あー。大丈夫だ。分かっている」

目の前の少女の話を遮るように言う。これ以上面倒ごとに巻き込まれるわけにはいかないのだ。なんとなく、名前を聞いてしまったらこれ以上にとんでもないことに巻き込まれそうな気がする。もう既に巻き込まれている気もするのだけれども。


「無事でよかったな。じゃあこれからは気をつけろよ」


それだけ言ってさっさと去ろうとする。と、思いきや体が引っ張られる感覚。

後ろを振り返ると先程の少女に服を掴まれていた。


「え、えっと……私をこの町から連れ出してくれませんか!?」

決死の顔、とでもいうのだろうか? それ程までに少女は必死だった。


 

 本当どうしてこんなことになったのだろうか。




 時は遡り、少し前へと戻る。衣服の買い物を終えた俺達は次の買い物、食料を探していた。といっても残るお金がそれほどある訳ではない。というよりもどのくらい残っているのかが俺には分からない。ミアが知っているかと思ったのだが、ミアも俺のところに来るまでお金を使ったことは無く、夜は野宿で済ませ、食事などはそこら辺の獣を食べていたそうだ。何とも野性味あふれるお方で。


 残るお金は大きな白く光るコインが一枚、金貨と思われるものが五枚、銀貨と銅貨であろうものが沢山だ。果たしてこれがどのくらいであるのかは分からないが先ほどの服が金貨二枚と言うのであればそこそこ食べものが買えるのではないかと思っている。


 立ち並ぶ露店、そのどこからもいい匂いがただよっている。さて、早速立食といこうじゃないか!


 最初に目についた露店。そこでは沢山の串に刺された肉が並んでいる。


「親父さん、これで買えるだけお願いします!」


 露店の前に着くなり、俺はそう口に出していた。取り出したのは一枚の銀貨だ。


「あいよ。銀貨一枚分か。ならこの今あるの全部の持っていってもらって構わんよ!」


 網に並べてある串をぽんぽんと皿の上にのせ、それをそのまま渡される。あれだけ並んでいた串焼きが無くなり、全てが手元の皿の中にあった。銀貨一枚でこんなに買えていいのだろうかと思いながらも遠慮なくそれを受け取る。待ちに待った肉、それも焼きたてである。それの前には俺の理性は飛んでいた。


「では、いただきます」


 ミアとぷに子にも串を渡し、早速その肉汁したたる肉にかぶりつく。

旨いと言う暇もないほど勢いよく、その肉を頬張り続ける。久しぶりに口にする温かいそれに俺は夢中で食べ続けるのだった。


 積み重なる大量の串、あれだけあった串はあっという間になくなった。にしてもうん、やはり久しぶりに食べる肉は美味しい。迷宮内でも飼育することができたらいいんだが……ここで大量に買っておいても保存できる訳でもないからな。


 「ナオヤ。私、狩りに行く」


 ミアの言う通り、それが一番現実的かもしれない。今までは迷宮の外に出ていいか分からなかったが、今では出ても問題ないのだし。うん、今度からはそうするとしよう。さて、食べ物は肉で大分満足したし後は迷宮に帰ってから育てるための種を買っておかなければ。


 そう、これも今回の目的の中でも一、二を争うほどのものだ。植物の種、それを買っておけば育てる期間がいるとはいえ、定期的に野菜を食べられるようになるかもしれない! 問題は太陽の光がないという点だがそれはあの不思議な光る石でどうにかならないかと期待している。


 迷宮の外に出ても最深部に誰も辿り着かなければいいという話を聞いてから、そこまでして迷宮に住むぐらいなら、外で暮らせばいいのではないか? 無理に迷宮の中で暮らす必要はないのではないかと思ったこともある。だが、よくよく考えてみるとまず、人間の町で暮らすのはミーちゃんがいる時点で難しそうである。かといってその辺りの森を開いて勝手に住むわけにもいかないであろう。


 それに何よりも一番の問題は……迷宮の外だと魔物が召喚できないじゃないか。俺はまだまだ仲間を増やしたい。今も毎日のように魔物図鑑を眺め、載っている魔物が増えるのを楽しみにしているのだ。次はどんな魔物を呼び出すか今から楽しみにしているのだ。その楽しみをむざむざと捨てる気にはならなかった。



 という事で早速、種を買いに行こう。と言っても相変わらずどこにあるのかが分からない。なんせこの町が広すぎるのだ。迷宮を出たのが昼だとはいえ、もう既に日も暮れ始めており、もう露店も店じまいを始めている場所も多くある。これは夜をこの町で明かすことを考えた方がいいかもしれない。種は明日にするべきか。


 そう決断したのはいいのだが……そうなると宿を探さなければならないのだが、どこにあるんですか宿。


「こっち」


俺がどうしようかと悩んでいるとなんとミアがそう言った。宿の場所を知っていたのか! と思ったが、そもそもミアは今まで野宿だったはず。なんで知っているのだろう?


「途中で見かけた」


 口数少ないミアはそれだけ言った。はて、俺が気付いていなかっただけで途中にあったのだろうか。ミアの案内を頼りに、後ろを着いて行く。ただ、行く先は町の明かりが乏しい、暗闇の方。本当にこんな場所に宿があるんだろうか。


そして辿り着いた先は……


「娼館じゃねえか!!」


訝しげに俺達を見る女性に、客引き。だれだって女と魔物であるぷに子を連れてきたらそれは注目するものであろう。うん、途中からこんな事だろうと思っていたよ。ひょっとしてミアはやりたいがためにここに俺を連れてきた? そう思いきや、そう言うわけではないようだ。


「娼館?」


 俺の叫びに首を横に傾げる。どうやら娼館を知らないらしい。ミアの故郷にはなかったのか? 森の中で暮らしていたそうだし、あまり文明が発達していなかったのかもしれない。ミアの説明もほどほどにして、表へと戻り始める。真っ暗な中、宿を探すのは勘弁だからな。暗い路地の中を戻る途中だった。


「……やっ……やめ」


 聞える少女の悲鳴のような声。そして声が聞えた方を見ると集団のごつい男たちに連れ去られていく一人の少女の姿があった。少女は必死に抵抗するが、その他の筋肉隆々な男たちに敵うわけがないのは誰の目でも明らかだ。俺はこの時点では無視するつもりだった。このようなことは頻繁に起こっているのかもしれないし、かかわった時点で面倒ごとになるのは間違いない。そう思ってさっさとその場を立ち去ろうとしたのだが……


「っ!」


少女と目が合ってしまった。その助けを求めるような目、それを見てしまった。今まで直接手にかけたわけではないと言え、数々の探索者を殺してきた。それに比べたら少女の命など気にするものではないと思っていた。だが、確かに俺は揺らいでいる。

 その考えを払い落とすように首を振る。迷宮の管理人となった時から決めていたことだ。俺は俺の生きるために全力を尽くすと。一人の少女などを気にしている場合ではないのだ。


 思い直し、立ち去ろうとした。そう、俺は立ち去ろうとした。既に隣から消えたミア。

先程の路地を振り向くと既にその路地を曲がろうとしているミアの姿が目に入る。


「はぁ……」

ため息をつきながら、俺はミアの後を追いかけた。


 

 そして冒頭に至る。ぷに子とミアは少女を囲み、襲っている男たちをあっという間に片づけたのだった。


「で、どうして連れて行ってくれなんて言い出したんだ?」

「わ、私、このままじゃあ知らない人と無理やり結婚させられるんです」


 その言葉から俺は考える。少女の服は中々に立派なものだ。それこそ俺達があの服屋で買ったものよりもだ。それにこうやって襲われていた事実。きっとそれはこの少女が綺麗だから、と言う理由だけではないに違いない。恐らくこの少女はどこかの貴族で政略結婚でもさせられるのではないだろうか。そして、それをよく思わない連中が少女を亡き者にしようとしたとかそんなとこか?

何しろこれ以上関わりたくないというのが俺の本音だ。


「助けてもらえただけで感謝しとけ」


俺は自分の命とぷに子達さえ良ければどうでもいいのだ。ミアは……うん、今の所その中に入るか微妙なラインだ。と、そのことは置いておくとして、人の命まで構っている余裕なんてないのだ。必死に服を掴む少女を引き離し、去る。少女はついて来ようとするけれど、ぷに子の分身に足止めをお願いした。これで少女は追ってこられないはずだ。


「……」

「ん、気にしているのか?」


俯き、俺の事をちらちらと伺うミア。俺は分かっていてそう聞いた。


「ん、いや大丈夫」


 きっと頭で分かっていてもそう簡単に割り切れないのだろう。俺はもう既に割り切ってしまった。ただ、困ったことが一つ。あの騒動に巻き込まれてしまったせいで完全に日が落ちてしまった。それにあの少女がまだ追いかけてこないとも限らない。仕方がなく俺は種は諦め、今日迷宮に帰る事にした。まあ、町に来て十分な収穫はあったのだし、よしとしよう。



・・・・・・・・・・・・



 縛られた日々、それは私が生まれてからずっとだった。屋敷の中に閉じこまれ、貴族の女としての生き方を叩きこまれる日々。父はいつも私に言う。


「お前は将来結婚する相手のために頑張るのだ。それが一番お前が幸せになれるのだから」


 幸せ、見たこともない相手と結婚するのが私の幸せなのだろうか。決して口には出さないけれど私はそうは思わなかった。そんな日々が続いたある日、ついに私の相手が決まった。相手はどこかの町主の息子だと聞いた。それを聞いた父は大いに喜んだ。ただ、私はああ、ついに決まっちゃったのかぁと他人事のように感じていた。

 

 けれど私の体は頭とは違った動きをしていた。気が付いたら屋敷を飛び出していた。どうやらそれ程までに私は見知らぬ人と結婚するのが嫌だったようだ。他人事のように自分の事を考えながら町の中を歩く。


「はぁ……」

どうしようかな。今から戻っても怒られるのは確実、結婚も嫌だ。けれどずっと家の中で暮らしていた私がこの国を出て生きていけるとも思えない。途方に暮れ、どれだけ歩いただろうか。気が付いたら日はもう既に暮れかけている。


 そして気付く。私が既にどこを歩いているか分からないという事に。つまり……迷子である。

どうしよう、と思った次の瞬間、私は周りを男性に囲まれていた。


「へへ、可愛らしい嬢ちゃんだな」

「え、な、何!?」

「悪いな嬢ちゃん。恨むなら自分の生まれを恨むんだな」


 近寄る男たち。私は必死に逃げようとするけれども、あっさりと捕まり、男に担がれる。


「やめて、離しなさいよ!」


 連れ去られるとき、ちらりと見えた男性。私は必死に助けを求める。一瞬視線がその男性と混じり合う。けどあっけなく私の視界からその男性は消えた。


 連れ去られた路地の先、その壁に私は乱暴におろされる。


「まあ、殺す前に楽しむぐらい問題ないよな」

「ああ、それにこんないい女何もしないで殺すなんてもったいねぇ」


 男たちの手によって無造作に裂かれる服。私は止めようとするけれども、押さえつける手がそれを許さない。こんなことになるなら、屋敷で大人しくしていればよかったのかな? お父様の言う通りにしていたら幸せだったのかな? 私が呆然とそう考えていた時だった。


「とうっ!」

「な、なんだ、お前はっ! がっ!」


 倒れて行く男の人達。その先には綺麗な女性と、赤い塊、それに先ほどの男の人がいた。助けてもらった? 呆けていた私の思考がやっと追いつく。と、兎に角お礼を言わないと!


「た、助けていただきありがとうございます。私はアンヴレラ邸の……」

「あー、あー。大丈夫だ。分かっている」


私の言葉を流すように言う。

そして、


「無事でよかったな。じゃあこれからは気をつけろよ」


それだけ言ってさっさと去ろうとする。ふ、普通ならこんなことになっている女性を放っておく!? と思いまながらも私の手は男性の服を掴んでいた。兎に角、この男性を引き留めないと! 今となってはどうしてそう思ったのかも分からない。屋敷に戻るのが嫌だったのだろう。私の口から出た言葉はそれだった。


「え、えっと……私をこの町から連れ出してくれませんか!?」


呆れたような顔をする男性。ただ、先ほどのように歩き出すことは無く、立ち止っている。一応話は聞いてくれるみたいだ。


「どうして連れて行ってくれなんて言い出したんだ?」

「わ、私、このままじゃあ知らない人と無理やり結婚させられるんです」


その言葉を聞いて少し戸惑ったように見えたけど一言だけ、

「助けてもらえただけで感謝しとけ」

とだけいって去ろうとする。

私は引き留めようとするけれど体が動かなかった。元には先ほどの赤い塊がくっつき私の動きを阻害する。

それから私は屋敷の者に見つかるまでそのままだった。





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