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Bitter Vacation ”ユリカとの夏”  作者: 美位矢 直紀
5/10

悪戯好きの神様

5・・・・悪戯好きの神様







「ダイビング行っちゃうよ」

「了解」

「ね、ほんとに行かないの?」

「・・・そうだね」

「ねぇ、一緒に行こうよっ、ねっ」

「・・・止めとくよ」

「もう・・・じゃぁ・・・帰って来たらドライブ連れてって」

「了解」

「・・・ハワイなのに海に行こうとしないんだから」

「まだ時間たっぷりあるからさ、そのうち行くよ」





       ◇





圭子 : 「友里、アラモアナ行くよ」

友里香: 「止めとく」

圭子 : 「明日帰っちゃうんだよ、おみやげ買っとかなくていいの?」

友里香: 「そうだけど」

綾美 : 「どうしたの?元気ないじゃん」

友里香: 「そんな事ないよ」

圭子 : 「何、そんなに気になんの? 昨日の彼の事」

友里香: 「そんなんじゃないよ」

綾美 : 「友里、あんた東京帰ったら彼氏待ってんだからね」

友里香: 「分かってる」

綾美 : 「来月結婚すんだから、しっかりしなさいよ!」

友里香: 「分かってるよ・・・」





       ◇





(同じ事考えててくんないかな・・・)

(そんな美味しい話なんて無いよな・・・)



 昨日と同じ時間に僕はホテルのプールサイドに居た。

 空は青く、日差しは強く、風は乾いていた。



(あの体は罪だよなぁ・・・)

(黒いビキニ似合ってたなぁ・・・)



 僕はデッキチェアに寝そべっていた。



(しかも名前が“ユリカ”だなんて・・・)



 僕は“ユリカ”に恋をしていた。



(会えないままの方がお互い幸せなのかな・・・)

(もし何処かで会ってちょっと話したりしたら・・・)



「・・・おっと、もうこんな時間なのか・・・」

 腕時計はユリカがホテルに戻ってくる時間を指そうとしていた。


「シャワー浴びなきゃ・・・」

 僕はプールサイドでいやな汗を掻いただけだった。




      ◇




「なんでこんな所に居るんだろう・・・」

 友里香はひとりごとを呟きながら22Fのフロアを歩いていた。

「・・・うわっ、もう帰って来る時間だ・・・」

 何気なく腕時計を見た友里香は圭子達との待ち合わせを思い出していた。





       ◇





(何で押しちまったんだろう・・・)



 僕は点灯している15Fのボタンを見つめていた。



(降りてどうすんだよ・・・)



 僕はエレベーターの中から動けないまま、閉まり行くドアに心を挟まれそうになっていた。



「!!・・・」



(あれ!?・・・今の女性・・・)

(まさかな・・・)

(でも似てたな・・・)

(いやきっとそうだよ・・・)

(何で降りなかったんだ・・・)



 二人はお互いホテルの中に居ると信じ込み、偶然の可能性を高める為にフロアを流れ歩き、お互いを探し求めていた。しかし神様は二人の我が儘な恋心に気付かない振りをしていた。




       ◇




「あれ?キーがない・・・」

 友里香は1508号室の前でバッグを弄っていた。

「部屋に置いたままかな・・・何やってんだろ・・・」




       ◇




「あの、すいません、部屋に入りたいんですけどキーを持ってなくて・・・」

「かしこまりました。お名前をお願いします」

「長谷川友里香です」

「長谷川様ですね、お調べしますので少々お待ちください」

「・・・・・」


 友里香は2、3質問されていた。

 東京に住んでいた。

 3日前ホノルルに入り、明日チェックアウトし、午後の便で成田に戻る日程だった。

 黒いキャミソールの裾を膝の上で揺らしていた。

 肩先にはピンクの肩紐がもう一本見えていた。

 トップにひまわりを乗せたオレンジのビーチサンダルは、上品過ぎる後ろ姿にほのぼのとした可愛さを与えていた。


 昨日と同じ香りもしていた。


「すいませんでした。」

「you're  welcome.」


 対応していたフロントの女性はそこだけ英語で答えていた。


「!!・・・」


 振り向いた友里香は充分驚いていた。

 達はフロントの前で恋人同士のような立ち位置で向き合った。



(どれ位・・・友里香の後ろ姿を眺めてたんだろう・・・)

(僕達を担当している神様は悪戯好きなのかな・・・)



「僕もキーを部屋に忘れたまま外に出ちゃったんですよ」

 新鮮な現実に充分ときめいているのに、僕は知り合いに掛けるような言葉を落ち着いた口調で友里香に渡した。

「・・・そ、そう・・・ですか・・・」

「コーヒー飲みに行きませんか?」

「えっ!?」


 友里香との本当の初対面なのに、挨拶もせず、僕はフランクに、それが友里香にとっても至極自然なのだと、そうする事が至極当たり前なのだと友里香を誘った。



(それ位・・・友里香の後ろ姿を眺めてたんだろうな・・・)



「あの・・・でも・・・」

「でも?・・・じゃぁ、ビールにします?」

「えっ!?・・・いえ・・・」

「じゃ、エスプレッソの美味しい店にしましょう」

「・・・・・」


 僕は会話を成立させないまま、成立してしまった出逢いのまま、友里香を歩き出させていた。


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