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Bitter Vacation ”ユリカとの夏”  作者: 美位矢 直紀
4/10

許せないキス

4・・・・許せないキス









「さっきのお店でイヤリング外したんだけど、一つ無いの」

 ユリカはエレベーターの中でもトートバックの中を掻き回していた。


「ユリカっ!」


 僕の後ろから聞こえたその呼び声に、僕の右側に居たユリカは顔を上げ、僕はユリカから“ユリカ”に顔を向け、誰かが締まろうとするドアに手を掛けた。


 エレベーターの中にいる10人程の人達はその女性が乗り込むのを待っていた。


 見つめられていた。

 見つめ返していた。

 多分僕達にだけ、もの凄くスローな時間が流れていた。



 エレベーターの中は僕の胸の鼓動に対して失礼な程静かだった。


 僕は、僕の目の前で僕に背を向けた“ユリカ”のナチュラルカールを見つめ続けていた。隣に居るユリカが僕の顔を見ているのは分かっていた。でもこの状況で“ユリカ”を見つめている事は不自然では無い筈だ。でも隣に居るユリカが後姿の“ユリカ”を動物園やプールサイドで僕が釘付けになった女性と結び付けなければの話だ。


 黒いチューブトップから抜け出した両肩は上品な小麦色だった。


 僕の鼻先で甘過ぎないスパイスの効いた“ユリカ”の香りが動いていた。


 ユリカは僕の腕に、いつもより強く巻き付いて来ていた。



(彼女の名前も“ユリカ”だなんて・・・)



 エレベーターは何度も開閉を繰り返し、残っているのは5人だけになっていた。僕達は左の隅へ、“ユリカ”達は右の隅へ動いていた。


 それぞれが心に何かを溜めていた。


“ユリカ”達は15Fでエレベーターを降りる気配を見せていた。


 二人の女性は去り際に僕を見ていた。

 僕は去り際の“ユリカ”を見ていた。

 去り行く“ユリカ”は僕を見なかった。

 隣のユリカは僕を見ていた。





       ◇





「イヤリング・・・あった・・・かい?」

 2218号室の前で、僕はポッケトの中にある筈のカードキーを探しながらユリカに聞いた。

「・・・らしくない」

 ユリカは少し不機嫌そうな声を投げて僕の前に出た。

「私に預けたんじゃん」


「・・・・・」

 ユリカは2枚のカードと一組のイヤリングをミラーチェストの上に置いた。


「・・・ルームサービスは?」

「いらない」


「飲み物も?」

「いらない」


「・・・そっか、先にシャワーか」

「浴びない」


「・・・一緒に浴びようって言っても?」

「やだ」


 僕は点けたばかりの煙草の火を消してユリカに近づいた。


「・・・どうした?」

「・・・キスして」

「・・・・・」

「さっきエレベーターでキスしてた」

「?・・・」

「私が隣に居るのに健二は・・・目と目でキスしてた」


 この部屋の中も、僕の焦る胸の鼓動に対して失礼な程静かだった。


「・・・怒ってる?・・・」

「・・・・・」

「・・・心配ないよ」

「・・・・・」



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