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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
9/42

第九伝(第七十四伝)「スペシャルを持つ資格」

第九伝です。一応、この話でツリーハウス編の序章とも言うべき一区切りがつきました。スペシャルとは、バトラとはなにかを考えさせる一話となっています。お楽しみください。

「力が抜けていく……」

 龍は弱弱しい声で言った。

 龍の腕を突き刺している高雄の尻尾は脈のようにどくんどくんと音を立てながら動いている。まさに、龍の体に秘めている力を吸い取っているようにしか見えない。

 その力の正体は、選ばれし者だけが生まれながらにして持つ特殊能力、”スペシャル”!

 これが有るのと無いのでは、バトラとしての資質が大きく違う。まさに生まれながらの才能!

「これが龍君のスペシャルか! いや、これがバトラのスペシャルなのか! これが私の求めてきたもの!!」

 高雄はまるで初めて玩具を与えられた幼児のように、はしゃぎ、喜んだ。

「高雄さん、あなたの目的は一体……?」

 龍はスペシャルが吸収されている危機的状況にも関わらず、か細い声で疑問を投じた。

「私の目的はそうですね。バトラをこの手で倒すことですかね」

 その高雄の回答では龍の満足を得られることはできなかった。

「スペシャルが欲しかったのですよ……」

 高雄は息を吐きながら、ゆっくりと答えた。確かに龍の満足を得ることができた回答だったが、その回答により龍のはらわたは煮えくりかえってしまった。

「スペシャルが欲しい……? そんなことの為に罪無きフェアルを殺したというのか!!」

 気づくと龍は敬語を忘れていた。敬語とは読んで字のごとく敬意を示す言語。先ほどまで龍は高雄にしっかりと敬語で会話していた。しかし、その敬語は波に呑まれる砂浜に書いた字のごとくあっさりと消えていた。

 つまり、高雄の言葉により龍が高雄に抱いていた敬意が消えたのだ……!

「あなたには分からないでしょうね! 生まれながらにしてスペシャルを持っている者にはね!」

 だからといって龍の高雄に対する敬意が復活することはないが、どうやら彼なりの言い分があるみたいなので、龍はひとまずそれを聞いて判断することにした。

「私は幼い頃、ヒーローに憧れてましてね。特に自分だけが持つ特殊な能力で敵を倒すヒーローなんて最高でしたよ。私はヒーローのような力を欲しました。私は欲したいものを何が何でも手に入れたい性質タチでね。これまで私が欲しかった、金、地位、名誉はすべて手に入れてきました。しかし、ヒーローのような力はどうあがいても手にすることができなかった! しかし、バトラという輩は私が欲していた力を手にしていた。それがスペシャルですよ! 私は彼らに憧れを抱くと同時に嫉妬も抱いていました。なぜ私たち一般人にはそれを持つ資格が無く、あなた達だけが持っているのですか! 世の中不公平だ!!」

「確かに不公平かもしれません。だから”それを埋め合わせるために”、あなた達を全力で守るんだ。スペシャルは人を守るために天から授かった特殊な能力。あなたのようにスペシャルで人を傷つけることは間違っている! あなたがしているのは欲望のままに暴力をふるっているだけだ!」

 龍は一度敬語を使ったが、止めた。高雄の言い分は間違っていると思ったからだ。

「それが上から物を言っているというのですよ! スペシャルを持っている輩はそうやって偉そうに口が動く! 自分が少し他と優れているからって!」

 くそっ……!論破ができない……。

 龍は気づいてしまった。自分が口げんかしているのは、自分よりもはるかに年上で自分よりもはるかに人生経験がある者。それも確固たる考えを持つ者。口下手な龍が論破できることは無に等しい。

 だから龍は決めた。拳で論破することを!

「バトラの存在意義がスペシャルだけじゃないよ……」

 どうせスペシャルを吸われたんだ……。でもこれだけは……!

古代エンシェントの・流血シャワー!」

 龍は僅かに残っている最後のスペシャルを振り絞り、大量の炎の雨を出現させた。その炎の雨はシールドから飛び出ている高雄の羽を正確無比に捉えた。

 羽を失った高雄は飛ぶ術を失い、二本脚を地につけた。

 これにて、高雄の忌々しき浮遊能力を解され、戦況を五分に戻した。こうでもしない限り、龍が決定打を与えることはほぼ不可能となってしまう。だから、龍はシールドからわずかに飛び出ている羽を集中的に狙ったのだ。


「貴様! この状況を分かっているのか!」

 風を送り続けている鳳助は龍に強く語りかけた。

 スペシャルを吸われた……。それはバトラとしてのライフラインを失ったことを意味するからだ!

「鳳助、今は黙ってくれ!」

 龍は珍しく鳳助に反抗した。龍には何か策があるようだ。

「龍君が何と話しているのかよくわからないですが、それもスペシャルの一種でしょう。本当に腹立たしい限りですが、もう許しましょう。なぜなら、私は君のスペシャルを手にしたから。そう言えば目がさっきからよく見える。これもフェアルのスペシャルでしょうかね。こんな原始的な道具はもう不要ですね」

 そう言って高雄は折角のトレードマークだったスマートな眼鏡を火山に捨てた。眼鏡は熱に耐久しきれず徐々に形が変形させてしまった。

 今の高雄にとって視力を補強するためのものである眼鏡すら不要なのだ。

 

 龍は両目で眼鏡を取った高雄の目をしっかりと見つめ、鳳凰剣を両手で持ち、前方に構えた。しかし、その剣は力なく震えていた。

 それもそのはず。今まで頼ってきたスペシャルが無くなってしまったのだから。

 しかし、それでは相手の思うつぼ。龍は我を強く持ち、次なる高雄との攻防に挑んだ。

「教えてあげますよ。いかに、自分が今まで恵まれてきたのかをね!」

 高雄の尻尾の先に、今まで龍が慣れ親しんできた紅色の炎が灯った。龍は自分の炎を初めて客観的に見る。それはあまりにも特別で眩しいものだった。

 ああ、俺は恵まれていたんだな……。恵まれたスペシャル。頼もしい相棒。俺はそんな優秀なソフトが備わった劣悪な本体でしかない……。

 龍の持ち味のマイナス思考が、こんな状況で発動してしまった。

「貴様は本当の大馬鹿野郎だ! 違うだろ! 貴様自身は今まで何をして何を学んできた!? 敵と闘い、敵が仲間になり、仲間の大切さを学び、努力し、鍛錬し、仲間とともに闘い、勝利の喜びを知った! それは、貴様だけが通ったかけがえのない”道”なんじゃねえのかよ!!?」

 鳳助は龍に必死になって語りかけた。鳳助は出会ってから今まで一撃龍という男の人生をずっと見てきた。

 だからこそ知っていた。確かに最初は劣悪な本体だったのかもしれない。だが、いろいろな経験をすることで、その本体は徐々にアップデートされていき、次第に優秀な本体へと様変わりした。

 俺の道……。か……。

「ありがとう鳳助! 俺自身を信じてみるよ!」

「けっ……。世話の焼ける奴だ……」

 龍はふっきれたようだ。鳳助の熱意のお陰で……。

「龍君、あなたもここまでのようですね」

 高雄の尻尾の先には未だ龍の炎を健在だ。龍の紅色の炎は徐々に球体に形成され、そしてそれが放たれた。

「鳳凰剣十字守!」

 スペシャルなしでも……。やれる!

 今回の十字守は一味違った。右腕を縦に構えることにか変わりないが、横に構える左腕の代わりに白光に輝く気高き剣、鳳凰剣が右腕と交差している。

 その新たなる十字守は高雄の尻尾から放たれた自分の炎玉を完璧に防ぎきった。

 今まで気づかなかったけどこれは使える……。

「さあ反撃開始だ!」

 スペシャルを吸われた龍は得意の中距離戦闘ができない。龍は高雄との間合いを詰め、近距離先頭へと移行した。

 龍は鳳凰剣を縦に振り、高雄の盤石なるシールドを斬りにかかった。しかし、炎を纏って斬る鳳凰斬ですらないただの縦振りでシールドを突破できるはずがなかった。

 そして、高雄は再度龍から奪った炎を使い、尻尾で炎の玉を生成した。それを放つ。

 しかし、龍はそれを難なく横転して回避。

 龍はここで高雄の二点の弱点に気付いた。

 第一に普段はシールドに覆われている高雄の主な攻撃である尻尾だが、これは攻撃する際にシールドの外に姿を見せる。つまり、尻尾が攻撃の行動に出る際にカウンターの要領で尻尾を叩けばいい。

 第二は高雄自身の弱点。高雄は言っても一般人。バトラになるための訓練を行っていない。確かに脅威のスペシャルを保有しているが戦闘自体は下手。その証拠に高雄は強力なスペシャルに任せきりでバトラの戦闘において根本と言える回避行動を一切行っていない。そして、戦闘距離の概念を知らない。高雄のスペシャルを考えれば高雄の戦闘距離は遠距離。しかし、龍にあっさり間合いを詰めることを許し、得意な戦闘距離を保持しようとする素振りを一切見せない。さらに、高雄は近距離戦闘のはずなのに明らかに遠距離技である炎の玉を飛ばす技を使った。これでは、いくら転法を持たない龍であろうと回避は容易。

「さすがにバトラですね。いい動きをします。ですが……」

 高雄は性懲りもなく尻尾で炎の球を生成した。ワンパターン戦法。これもバトラでは無い者の戦闘の下手さを表している。

 そして、放つ。しかし、もう龍に効くはずがなかった。

 龍は高雄の尻尾が攻撃に移行した瞬間を狙い、鳳凰剣を構え尻尾をズバッという心地よい音を携えて見事に切り裂いた。

 散々龍を苦しめたキュートな尻尾は、高雄の本体と完全に分離してしまった。

「くっ……」

 これにはさすがに今まで見せていた高雄の余裕な表情は消えてしまった。

 一転して戦況は逆転した。しかし、もう一つ龍に降りかかる障害が。

 シールドをどう突破するか……。

 そう。いくら相手の主攻撃を封じたからといって、高雄の身を守る荘厳な緑のシールドを破らない限りは直接勝利に結びつかない。

「貴様、大事なことを忘れてるぞ! もう一つの”相棒”を!」

 龍は鳳助の鶴の一声で、重要なことを忘れていた。

 それは、この前購入した水晶玉だ。

 あれならいけるかのしれない……。いや、あれしか道はない!

 龍は懐から水面のように輝く清錬な水晶玉を取り出した。そして、水晶玉を全身全霊をかけてシールドにぶつけた。

 すると、パリンという見事な音とともに、シールドはヒビを生じさせながらみるみるうちに割れてしまった。

 ついに絶対防御を誇っていた高雄の守備は裸同然になった。

 龍はバトラらしく迅速な対応をとった。鳳凰斬を用い、素早く高雄の両足のももを斬り、動きを封じてしまった。


「これで、身動きは取れない。あなたの負けだ、高雄さん」

 龍は丁寧に鳳凰剣を仰向けに倒れる高雄の首元を取り、ゆっくりと勝負を決めた。

「……。まさかスペシャルを持った私が、スペシャルを持たない貴方に負けるとは思っていませんでしたね……」

「スペシャルを持つ者は、スペシャルの正しい使い方を学び、スペシャルを使いこなすための努力と鍛錬を怠ってはならない。そして、スペシャルを持った者はそれを用い人を守る覚悟を背負わなければならない。あなたに”スペシャルを持つ資格”はない」

「……。なるほど、そうかもしれませんね。ただ、その資格はこれから持てばいいんですよ! 貴方を倒してね! ガハッ!」

 高雄は首元に鎮座してあった鳳凰剣を鷲掴みして、起き上がろうとした瞬間、口から赤い液体が高雄の体に飛び散った。


「ツリーフェアリーは他の妖精の中でも特殊な存在。それゆえにただの人間が取りこんでしまえば耐えきれずに死ぬ。だから、人間が飼育することは固く禁じられている」

 どこからとなく声が聞こえた。その声の主はアンシェル火山の立ち入り禁止区域に足を踏み入れた。

「透!」

 それはバトラとしては不相応な茶髪のツンツンヘッドと、金色のピアスと頭を縛る輪っかを身につけた、龍が大の苦手とする蔵持透だった。

「一撃龍、お前は甘すぎる。さっさとそいつに止めをさせば良かったのものの」

「透、何か知っているのか?」

「全部知っている。俺は敵から情報を引き出せるスペシャルを持っている。俺はそれを使い、昨日の昼間に襲ってきた奴らから情報を得た。フェアルの正式名称はツリーフェアリー。高い戦闘力を誇る住人がいる街、ツリーハウスを支える王樹で育った妖精。妖精も住人と同じように秀でた戦闘力を持っている。そして、昼間襲ってきた奴は本当に治安部隊だった。治安部隊は高雄さんが飼育禁止の妖精を飼っているという情報を聞きつけ、高雄さんを追っていた。このバトミッションが交通機関を使うことを禁じられていたのは、交通機関を使いアンシェル火山に向かうにはダイバーシティの中心街に一度でなければならない。そこには検閲がある。高雄さんの悪事がばれてしまうというわけだ」

「なんでそれを早く言わなかった!? お前が早く俺に言っていれば、こんなことにはならなかったはずだ!」

 龍の透に対しての怒りはふつふつと沸いていた。透がこの事実を知ったのは昨日。つまり、龍に言えるチャンスはいつでもあった。

 そうすれば、昨日の時点で高雄を問いただし、このような事態は未然に防ぐことができたというのが龍の龍の主張である。

「もし、俺がお前にそのことを言ったのならば、あの時点で高雄さんを信頼していたお前は、必ず高雄さんを問いただす。そうなれば、計画がばれそうになった高雄さんはバトミッションを中断させる可能性があった」

「なんでだよ!?」

「バトラはバトミッションを遂行させるために存在しているからだ」

「違う……。違うだろうよ!」

 龍は透の胸倉をつかみ、即座に発言の撤回を求めた。透の主張はおかしいと思ったからだ。

 しかし、透から返ってきた言葉は撤回ではなく、こんな言葉だった。

「離せ、けがれる。バトラは情を出すな、利益だけの為に血を流せ。バトミッションが終われば、依頼主はただの他人。死のうが生きようが関係ない」

 透は胸倉をつかんでいる龍の腕を振りほどき、今まで苦楽を共にした龍と高雄に見向きもしないまま立ち去ってしまった。まるであかの他人のように。

「金、地位、名誉、全て手に入れた男の末路がこれとはな」

 そんな捨て台詞を吐きながら……。


「私は死ぬようですね」

 高雄は透の説明を受け、自分の死期がもう目前まで迫っていることを悟った。高雄の姿は、フェアルを取り込んだせいか皮膚がただれ落ち、吐血をし過ぎて口が真っ赤になり、くりくりだった目が腐りきり、見るも無残な姿になり果てていた。

「大丈夫です。必ず助けます!」

 そんな姿でも龍はけなげに高雄を救おうとした。龍はしゃがみ、高雄の腕を肩に乗せ、起き上がろうとした。

 しかし、重い。満身創痍の状態で成人男性を持ちあげるのは至難の業だ。

「無駄だ。そいつはもう助からん」

 鳳助が無情なる言葉を吐いた。

 これにより龍は絶望した。なぜなら、鳳助が嘘をつくはずがない。そもそも嘘という概念を鳳助は知らない。

「そんな……。俺は誰も救えないのかよ……」

 龍は肩に乗せていた高雄の腕を下ろし、アツアツのアンシェル火山の地べたにしゃがみ込み、大粒の涙を流しながら、自分の無力さを呪った。

 このバトミッションの目的はフェアルと高雄を守ること。しかし、結果はどうだ。この一体と一人を死なせてしまう最悪な結末となってしまった。

「私は君を殺そうとしたのですよ。なんで涙を流しているのですか?」

 高雄は他人を蹴落としながら私利私欲を糧に自分を磨いてきた。そんなストイックな生き方こそが社長という輝かしい地位を手に入れたゆえん。

 だからこそ、龍が流す涙を理解できなかった。

「僕にとっての高雄さんは、あの優しい高雄さんだからです」

 龍は高雄に再び敬語を使った。高雄に対する敬意が蘇ったのだ。

 龍は気づいた。力こそ全てのこの世界。高雄はそんな世界に生を受け、力を求めることにおぼれた一人の被害者なんだと……。

「私からの最期の言葉です。人間というものは私や透君のように私利私欲や利益を求める存在だと思っています。ですが龍君、貴方は違います。貴方は他人を思いやる特殊な能力を持っています。もしかしたら、それが貴方の”本当のスペシャル”なのかもしれません。今後、貴方に幾多もの試練が訪れるでしょう。ですが、決して私のように欲望のままに動かないでください。自分自身の力を、そして周りの力を信じてください。そうすればきっと試練を乗り越えられるでしょう。それを最期に気づかせてくれて、ありがとうございます。龍君」

 そう言い残し、高雄は静かに息を引き取った。それは、欲望のままに他の力を求めた高雄ではなく、ありのままの自分に満足したような安らかな顔だった。

 バトラとは人を守る存在ではないのか……?バトラは人を傷つけるばかりで、何も守ってはいないではないか……! 

 バトラとは一体……?

 龍にとっての初の高額バトミッションはなんとも後味の悪い結末となった。


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