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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
7/42

第七伝(第七十二伝)「ありがとう、そしてさようなら」

第七伝です。バトミッション中に、一番恐れていた出来事がついに起こってしまいます。皆さんは感謝を忘れない人間になってくださいね。それではどうぞ。

 久しぶりの実戦を終えた龍は、どっと疲れが出たのか、固いコンクリートに尻もちをついた。

「はー、疲れた。少しここで休みましょう」

 無理もない。ただでさえ徒歩による長旅。それに加え、久しぶりの実戦。

 人並み以下の体力しか持ち合わせていない龍にとっては地獄という他ない。

 しかし、その地獄はまだ続くのであった。

「おい、一撃龍! お前は、高雄さんを引き連れ先に行け。今の戦闘で時間がおしている。口答えはするなよ!」

 現状の龍の体力でそんな厳しいことを言われたらたまったものではないが、それこそ口答えすれば何されるか分からないので、龍はこれをしぶしぶ承諾した。まさに、独裁者のような振る舞いだ。

「透は何するの?」

「俺はこいつらから情報を引き出す」

「分かった」

 龍と高雄は、透とここで一回お別れして、すっかり戦場と化してしまった休憩スペースを後にした。

 龍はなけなしの体力を絞り取るようにして、自らの鉛のような脚を動かした。


 ☆ ☆ ☆

 

 さらに二本脚を酷使すること数時間。外はすっかり日が暮れてしまった。

 さて、自称治安部隊の二人組の情報を引き出すことに成功した透が合流し、再び三人になった一行が歩いている地はダイバーシティの辺境、ここまで来ると人の手が加え続けているような新しい家はなく、誰の手も加えられていない古びた民家がところどころ存在するだけ。さらに、鬱蒼と生い茂る木々が不気味さを増す。

「もう限界」

 限界を迎えた龍は、力なき声とともに、そのまま勢いよく地べたに座り込んでしまった。

「クウーン」

 人気が無くなり、すっかり外界を自由に飛行できるようになったフェアルが、そんな限界な龍を心配するかのように、優しい鳴き声をあげながら龍の周りをクルクルと旋回した。

「ありがとうフェアル。フェアルは優しいな。鳳助と違って」

「あん? なんか言ったか?」

 げっ、聞こえてたんだ……。

「おい、なんで護衛の都合に合わせなければならないんだ!?」

 透は座り込む龍のあごを掴みながら、怖々しい態度で言った。確かに透の言うことも正論だが、今の龍にその言葉はきつすぎた。

「透君、少し言い過ぎですよ。龍君、もう少しでキャンプ場があります。そこまでの辛抱です。頑張りましょう」

 対して高雄は、龍にニコニコしながら優しい言葉を投げかけてあげた。

 高雄さん、あなたは天使だ……。

 この状況下のこの言葉、龍が高雄のことを天使と見間違えるのは十分すぎる条件だった。

 龍は自分の体力の最後の一滴を絞り出し、立ちあがった。

 目的地まであと少し。それが今の龍の支えだ。

「キューイ!」

 フェアルは龍が立ち上がったことに喜んだらしく、いつもより高い音域の鳴き声を上げ、スピーディーに龍の周りを旋回した。

 ありがとう、フェアル……!君がいるから俺は頑張れる……!

 フェアルの存在も、龍の大きな支えになっていることは間違いない。


 ☆ ☆ ☆


 さらに歩き続けること一時間。空はすっかり闇へと帰した。

 ここまで来ると家すらなく、永遠と生え続ける大小様々な不格好な木々に囲まれた、けもの道が続くだけだった。そして、ほとんど視界が通用しない夜。精神的にも肉体的にも大きな消耗が旅人を襲いかかる。

 さて、こんな状況下で体力に難がある龍はどうなったかというと――。

「このこのー、フェアルは早いなあー」

 そこらへんで拾った木の枝でフェアルをつつきながら、じゃれ合っていた。龍はフェアルのお陰で疲労という龍を常に苦しませていた諸悪の根源から忘れることに成功していた。


「着いたみたいですよ。キャンプ場に」

 高雄の目線の先には、森の中のはずなのに一切の木々が削がれた開かれた空間が存在していた。そこには久しぶりに人の姿が目認でき、ちらほらとテントが張られていた。

「やっとついたー」

 この時を待ちわびていた龍は、今日一の笑顔を見せた。

「キューイ!」

 相棒の笑顔は自分の笑顔と言わんばかりにフェアルも喜びの声を上げた。

「妖精風情がしゃしゃりやがって……!」

 フェアルにお株を奪われそうになっている鳳助は嫉妬の炎を燃やしていた。

「今日はここで一晩過ごします。テントを借りてきますので、龍君と透君はここで待っていてください」

 そう言い残して高雄は、キャンプ場の中央に堂々と建っている雰囲気に合わせた木が全面に主張されている建物に向かった。


 龍、透、高雄の三人は空いている場所を陣取って、借りてきたテントを慣れない手つきで、時間がかかりながらもなんとか張った。

「ここは釣りが出来るので、二人にお願いできますか? 今晩の夕食にしたいのです」

 高雄は自分達で張ったテントの中でくつろぎながら言った。

「分かりました」

 依頼主の要望を断る道理はない。龍と透の二人は丸一日共に過ごし息が合ったのか、声を合わせて言った。


 キャンプ場の脇に流れる、都会では決して見ることができない純麗な小川。ここは、ダイバーシティ北部の美しい自然で育ったダイバーシティに主に生息するミネラルたっぷりのワカサギほどの大きさの魚、「アマウオ」が大量に獲れる、このキャンプ場の最大の売りである。

 依頼主からの指示を受けた龍と透の二人は、キャンプ場から餌と釣竿を借り、餌をまきつけた釣竿を適当な場所に投げ入れた。


 二人を釣りを開始してから、しばらく経った頃だろう。透のバケツには多くのアマウオが泳いで活気にあふれているが、龍のバケツの中にはアマウオが一匹もおらず、水があるだけで閑散としていた。

「おい、一撃龍。お前は釣りもできないのか? これだから戦校出身のゆとり野郎は困る。少しは役に立て、クズ野郎!」

 透は成果を上げていない龍に向かって、冷ややかな目で見つけながら、背中を丸めしゃがんで釣りをしている龍の背中を脚で蹴り飛ばした。

 龍はバランスを崩し、バケツを巻き込みながら転倒してしまった。そして、バケツの水は龍の服に思いっきり飲み込んでしまった。

 こいつ……!もう、許さない……!

 龍は透と出会ってから今までの間に、透に対して溜めこんでいた憎悪と怒りがここで噴火してしまった。

「お前なあ! いつまでも俺のことを見下してんじゃねえぞ!!」

 龍は怒りを左腕に乗せ、透の胸倉を力強くつかんだ。

 この龍の怒りの言葉に全てがこもっていた。

 人をいじめる連中は、十中八九人を見下している。こいつとて例外ではない。こいつは俺を見下しているからこそ、平気で俺に罵詈雑言を放ち、”いじめ”ているんだ!

 透の龍に対してのそれは龍にとって幼少期受けたいじめと同じだった。

「俺に触るな」

 透は自分の胸倉を掴んでいる邪魔な腕を、爪を立てて力いっぱいつねった。

「くっ……!」

 龍は痛みで左腕を透から離した。いくらバトラといえど、こういう地味な痛みは相当に効く。

「もう、お前とはやっていけない!」

 龍はそう吐き捨てた。もう、我慢の限界だったのだ。

「バトミッションを放棄する気か?」

 透は冷静に痛いところを突いた。

 今はバトミッション中。もし、このままバトミッションを放棄すれば失敗に終わる。それでは、高雄やフェアルに申し訳が立たない。

「くっ……」

 すぐに論破される龍。言い争いに滅法弱いのは相変わらずだ。

「キューイ!」

 そんな険悪な空気を出している二人の間に割って入ったのは、けがれなき姿をしているフェアルだった。フェアルは純真無垢な目で龍と透の汚れきってしまった目を交互に見つめた。どうやら、仲裁したいらしい。

 フェアル、ごめんよ……。俺が間違っていた……!

 龍は純真無垢なフェアルの目に見つめられ、いかに自分が馬鹿らしいことをしていたかを気づくことができた。

「透、もう少しお前と一緒にいてやる」

「その上からの言葉はやめろ」

 仲直りとはいかないが、この二人の衝突はフェアルのお陰もあり一応沈鎮火した。

「後一日です。せっかくですから仲良くしましょう。私もアマウオ釣りを手伝いますから」

 そう言って龍、透、フェアルの二人と一匹に近づいてきたのは、釣竿を担ぎすっかりどこにでもいそうな釣り人と様変わりしていた高雄だった。

「高雄さん……。僕達はフェアルに助けられました」

 龍は高雄の登場を喜んだ。彼はいつも自分に優しく接してくれる味方だと龍は思っているからだ。

「フェアルは私にとって大切な存在ですからね。透君、先ほどの龍君に対する態度は頂けませんね。龍君は見た限り釣りが初めてみたいのようですし」

 高雄は見抜いていた。龍の釣竿の投げ方、待ち方、竿をあげるタイミングを見て、龍が釣りが初心者であることを。

「すみませんでした。高雄さん」

 高雄には弱い透は、その頑なな頭を恐ろしいくらい実直に下げた。

「分かればいいんですよ。一緒に釣りをやりましょう。龍君、コツは――」

 高雄にコツを聞いた龍は、この後面白いほど大量にアマウオが釣れたのであった。

 夕飯は三人が釣り上げたアマウオを、高雄が慣れた手つきで調理し、龍と透に手作りのアマウオ料理をふるまった。


 太陽も人の気もすっかり寝静まった夜の深い時間。テントの中では高雄と透がいびきをかきながら深い眠りについていた。

 しかし、龍だけはテントから離れ、キャンプ場から見えるなかなか都会ではお目にかかれない、満天の星空を体育座りをしながら見ながら、独り静かに物思いにふけっていた。

「夕方のこと。さすがに、透に言い過ぎたかな。あいつのことを俺は何も知らないわけだし。俺も子どもじゃないんだ。人を第一印象だけで判断するのはやめよう」

「クウーン」

 龍が独りごとをのたまっていると、こんな真夜中にも関わらずフェアルが鳴き声をあげながら、いつものように龍の周りを旋回した。フェアルは龍のことを相当気に入っているらしい。離れられないほどに。

「フェアル、なんで哀しそうなんだい?」

 龍は言葉が通じるはずがないフェアルにあえて言葉で語りかけた。龍の言うとおり、フェアルの目は哀しそうで、旋回も何やら力ない。

「クウーン!」

 龍の言葉が通じたのか、フェアルは先ほどよりも強い声で龍の問いに答えた。

「そうか、明日でお別れだったね。なんだかさみしくなるね」

 別れ。たった二日間の付き合いであっても、それは辛いものには変わりない。

 卒業の日に友と別れ、哀しく、そして辛い体験をした今の龍であるならば、それは手に取るように分かった。

「でもね、フェアル。それは受け止めなくてはいけないことだ。それに君は、高雄さんという素晴らしいパートナーがいるじゃないか」

 龍は成長していた。受け入れがたい事実を耐えることを覚えたのだ。

「クウーン!!」

 しかし、そんな龍の説法むなしくフェアルの悲痛な鳴き声は変わらなかった。それどころか、龍の言葉を受けさらにその悲しみが助長したようにも思える。

 フェアルは本当に人間の言葉が通じるのかもしれない。

「俺だって哀しいさ……」

 夜にもかかわらず満点の星空のお陰で、龍の目から滴り落ちる涙がはっきりと見て取れた。


 ☆ ☆ ☆


 翌日の昼ごろだろう。龍と透、高雄の三人はついに目的地であるアンシェル火山のふもとにたどりついた。

 炎の脈動が大自然を彷彿とさせるように流れる、焼けるような大地。見上げると、今にも噴火しそうな業業とした灼熱地獄を内蔵させた大きな器が、我がもの顔で構えていた。

 その壮観なる景色はまさに圧巻で、知る人ぞ知るダイバーシティの名所の一つである。勿論、山頂までは行けず、観光スポットはおのずとここ、ふもとの地帯である。

 それにしても熱い。確実に人体の機能を低下させるだろう危険な温度だ。すなわち、観光時間は限られてくるというわけだ。

「二日間ありがとうございました。お陰で良い旅をすることができました」

 目的地にたどりついたことで、バトミッションはこの時点で遂行されることになった。高雄はバトミッション期間である、この二日間を思い出し、この依頼を受けてくれた一撃龍、蔵持透の二人の若きバトラに精一杯の感謝の意を述べた。

「高雄さん……」

「こちらこそ、ありがとうございました」

 龍と透は二者二用のリアクションをとった。龍は目頭を押さえ別れを悲しんでいるのに対し、透はしっかりと依頼主にお礼をした。

 くっ……。これじゃあ、透の方がちゃんとした奴に見える……。

 俺も最後くらいちゃんとしなきゃ……。

「こちらこそありがとうございました、高雄さん。そして、ありがとうフェアル。そして、さよならフェアル」

 龍は高雄に、そして今まで楽しい時間を提供してきてくれた妖精、フェアルにもお礼をした。フェアルは元々は依頼主と共に守るだけの存在だった。しかし、龍にとってのフェアルは友達同然の存在となった。

「クウーン!!」

 フェアルの悲しみは最高潮を迎えた。今までで一番の悲痛な鳴き声を出して、この状況を悲しんだ。

 さようならフェアル……。

 龍は涙を精一杯こらえ、透と共にアンシェル火山から身を引いた。


 ☆ ☆ ☆


 龍と透が去り、アンシェル火山に取り残されたのは、高雄とフェアルの一人と一匹だった。

 なぜか高雄は立ち入り禁止区域である火口付近に立っていた。それに観光時間を限度である三十分を優に超えていた。立ち入り禁止区域の温度はさらに危険度を増す。下手したら死に至る温度だ。

 そんな温度の中、高雄はフェアルを、口角を不気味に挙げ、眼鏡を光らせながら見ていた。

「キュウウ……」

 フェアルは熱さにやられたのか、情けない声をあげながら、浮遊すらできない状態で地面に這いつくばっていた。

「さようなら。”私にとって大切な存在”。」

 次の瞬間、高雄はフェアルを喰らった――。


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