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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
6/42

第六伝(第七十一伝)「狙われた依頼主」

第六伝です。今回は狙い、狙われ、そんなお話です。狙う方も狙われる方も疲れますよね。それでは気楽にご覧ください。

 龍、透、高雄の三人のご一行が二本足でアンシェル火山への旅を始めてから二時間くらいだろう。龍が乱れた息を慎重に取り戻しつつ、口を開いた。

「高雄さん。なんで交通機関使わないんですか?」

 そう。依頼条件には交通機関は使ってはダメと書いてあった。

 龍にとってはそれが疑問で仕方が無かったのだ。なぜなら交通機関、つまりブライトカーを使えばこんなに足腰を酷使しなくて済むからだ。

「実はですね。普段職業柄、デスクワークばかりをしておりまして、健康状態が心配なんですよね」

 と言いながらも高雄は、龍よりも元気に二足歩行を行っている。

「でも、アンシェル火山は一日では行けませんよね?」

「そうですね。二日はかかりますね」

「おい一撃龍! 高雄さんに向かって失礼だぞ!」 

 ここで透は高雄をフォローした。まるで高雄の部下のような振る舞いだ。

「でしたら、せめて二日目はブライトカーで……」

「そんな事言わずに歩きましょー」

 高雄は意気揚々と軽やかにステップを踏みながら言った。この男、一般人にも関わらずかなりの体力を保有しているようだ。

「でも、健康状態に心配があるように思えないんですが……。これだけ歩いても、凄い元気じゃないですか」

「念のためスポーツジムに通っていますからね」

 だったら別に歩く必要ないじゃん……。

 と、龍は心で思ったものの、とても口に出して言えまい。

「高雄さん。フェアルをなんでバックの中に隠しているんですか?」

 龍が疑問に持った通り、フェアリーであるフェアルは高雄の大きめのバックの中に収容されていた。

「実はですね。このフェアリーはなかなか高価なものでして、悪い輩がそれを利用して、フェアリーを強奪し、高値で売り付けることがあるみたいなんですよ」

「なんて奴らですか! そんな奴、僕が絶対懲らしめてやりますから安心してください」

 龍は正義感を満載にさせて、胸に手を当てて言った。こんな頼もしいことを言うような男ではなかったが、バトラになり心身ともに少しは成長したらしい。


 さらに歩いていから四時間くらい経った。

 ここまで来ると、家の数もまばらになり、人の手が全く加えられていない自然のままの木々が徐々に視界に広がってきた。

「高雄さん。もう限界です。休みましょう」

 龍は猫背で歩き、乳酸が溜まり切った足をかばいながら言った。かれこれ六時間、昼休憩以外は歩きっぱなし。さすがに龍の足に応えたようだ。

 しかし、龍の職業はバトラ。これくらいは、簡単に耐えてもらわないと困る。しかし、数年間にも及ぶニート生活が意外と緒を引いており、平均バトラの水準を遥かに下回る体力の仕様になってしまった。

「誰がお前なんかに合わせるか! こんな雑魚放っておいて、さっさと行きましょう」

 透は我がまま言う龍を思いっきり罵倒して、高雄にすり寄った。

「いや、さすがに私も疲れました。少し休みましょうか」

 高雄は龍に向けて、スマートな眼鏡越しにアイコンタクトをして優しく言った。

「ありがとうございます!」

 今の龍にとって高雄は天使のようにも見えた。

 三人はちょうどそばにあった木のベンチに仲良く腰掛けた。

「本当に疲れた。ちょっと寝てよう……」

 龍は自分の体に雨をあげるように思いっきり甘やかし、静かに瞳を閉じた。

 

 しかし、そんな安らかな時間を神は龍に与えなかったようだ。

「おい、丸井高雄だな? お前にある疑いが掛けられている。身体チェックをさせてもらうぞ」

 三人の前にやってきたのは、大柄の男と眼鏡をかけた男、二人組だった。

「龍君、透君、こいつらです! こいつらが例の悪党です!」

 温厚だった高雄は、急に声を荒げ出した。どうやら、この二人組の男が高雄が先ほど言っていたフェアリーを奪い高値で売り付ける悪い輩らしい。

「なに! こいつらが!」

 龍は高雄の言葉を受け、疲弊しきっているにもかかわらず、すぐさまベンチから尻を離し、悪い輩と思われる二人組に不良ばりのメンチを切った。

「そうですか」

 透は龍と正反対に、ゆっくりと立ちあがった。

「そいつらを倒してください!」

 高雄は龍と透に、比較的大きな声で指示を出した。

「依頼遂行中は依頼主の命令が絶対なんでな。恨みはないがここで死んでもらう」

「ということです! 覚悟してください!」

 龍は大柄の男、透は眼鏡男と高雄を盾にするようにして対峙した。


「なんなんですか、あなた達は? 返答次第ではあなたがたも捕らえますよ?」

 眼鏡男はこの状況下にもかかわらず、嫌に冷静に淡々と話した。

「捕らえるだと? どういうことだ?」

 眼鏡男の最後の言葉に引っかかった透は、即座に質問した。

「俺達はダイバーシティ直属の治安部隊だ。国の風紀を乱すものを厳しく取り締まっている」

 大柄の方が透の問いに答えた。はったりか本当かは分からないが、この男いわく、この二人組は治安部隊らしい。

「ハッタリです! やっつけてください!」

 ベンチで身を縮こまらせながら座っている高雄は、鋭い形相で大柄の男の言葉を否定した。

「だそうだ」

「どうやら口で言っても分からないようですね。どうしますリーダー?」

「まずは、こいつらを退けてからだ」

「了解です」

「僕達をなめないでください」

 ダイバーバトラである龍、透、そして治安部隊なのか、ただの悪党なのか、素性がはっきりしない二人組、計四人が渦巻く一触即発ムードの様相を呈してきた。

 久しぶりだ……。この感覚……。この肌がピリピリするこの感覚……。

 龍は久しぶりに味わってしまった。

「闘い」という名の刺激的なスパイスを!

「やっとだあ!」

 このスパイスを味わっていたの者がもう一人。いや、もう一体。

 鳳助だ。今まで闘いの欲求を圧縮させ我慢していた鳳助だったが、ここで欲求を爆発させた。

 しかし、あくまで司令塔は龍。鳳助はうずうずさせながら龍の指示を待った。

「鳳助、分離だ」

 司令塔から鳳助に指示が出た。分離というのは鳳助の精神を鳳凰剣から乖離させることだ。

「うっしゃーー!」

 その指令を心待ちにしていた鳳助は、喜びを爆発させ、勢いよく精神を鳳凰剣から放出した。

 鳳助の精神をかたどる、朱色の鳥型をした球体は久しぶりに外界に解き放たれた嬉しさからだ、浮遊しながら小刻みに上下動を敢行していた。

 しかし、これの弱点は時間がかかること。龍の対戦相手である大柄の男は、その隙を突き、その体には

似合わないスピーディーな動きで龍との間合いを詰め、所持していた警棒のようなもので龍を鈍打しにかかった。

「十字守」

 龍はそれを腕に十字架の形にし、警棒の襲撃から身を守った。交流戦で先生から伝授された、龍にとって唯一無二の防御技だ。


 さて、こちらは眼鏡男と対峙する透。

 透は、眼鏡男の様子ただその一点だけを注意して凝視していた。透がどんな闘いをするのか、こちらとしても興味深い。

 大柄の男同様、眼鏡男も腰に据えてあった警棒を取り出した。そして、それを縦に振るった。

 しかし、二人の戦闘距離は中距離。人の腕ほどの長さの警棒で届く道理はない。

 だが、その不安は杞憂でしかなかった。

 どうやら、警棒は伸縮型のもののようで、縦振りした遠心力を利用されたその警棒は、みるみるうちに縦方向に成長の一途をたどった。

 そして、それは中距離の間合いを取っていた透にまで届く長さに成長していた。

 

 無防備な透だったが、ここで意外にも透の耳を留めている金色に輝く小さなピアスが動きを見せた。

 ピアスはイアリングに変形し、そのイアリングは太く大きく成長し、透の両耳から乖離した。

 そして、透の頭を縛りつけている、金色の輪っかと同じサイズまで成長した、二つの輪っかを両方の手を逆手にして掴んだ。

 さらに透は、左手を大きなイアリングを掴みながら上に掲げ、伸長済みの警棒とわざと接触させ警棒の侵攻を防ぎ、自分の体の身を守った。

「少しはやるみたいですが……水連弾!」

 眼鏡男は自分の攻撃が防がれたのにもかかわらず、余裕綽々のスタンスだった。彼は、警棒をもっていない左手を銃の形にし撃つような素振りをした。

 それは素振りではなかった。本当に、左手から弾が飛び出した。それも何発も。しかし、本物の弾ではなかった。水の弾であった。

 透は、それを横移動で軽やかにかわした。しかし、敵の技を目撃した透は、驚いた面持ちでいた。

「スペシャルだと……!」

 

 十字守で身を守った龍は一転、攻撃に転じた。

 龍は自慢の鳳凰剣を両手で思いっきり掲げながら振り下ろした。

「鳳凰ざ……」

 しかし、現在の二人の戦闘距離は近距離。今、龍がしたようなダイナミックなモーションは簡単に相手に隙を与えることになってしまった。

 大柄の男は肘打ちで、龍のみぞおちを突いた。

 なかなか痛いところを突かれた龍は、そのまま腹を押さえながらうずくまった。

「馬鹿が! あんな距離間で鳳凰斬を使うからだ!」

 鳳助は龍の愚策を、声を荒げさせて叱咤した。龍はそんな鳳助に人差し指を前後に揺らし手招きした。

「なるほどな! 貴様も考えるようになったじゃねーか!」

 鳳助は龍の指の動きで何かにピンと来たようだ。

「眠れ!」

 しかし、時は悠長に待ってはくれない。

 大柄の男はうずくまって無防備になっている脳天めがけて、かかと落としを繰り出していた。

 その時だった。

 男のかかと落としを繰り出している危なっかしい右脚に、黒い影がまるで新幹線のようなスピードで駆け抜けていった。

 その黒い影は物理法則を無視したような動きで急停止した。黒い影の正体は、先ほど鳳助から解脱した鳳助だった。

「つっ……!」

 鳳助の炎をじかに触れた男はたまったものではない。大柄の男の右足の皮膚はただれ、分かりやすいほどの火傷を負っていた。

瞬鳳(しゅんほう)。初めてにしては上手く行ったかな、鳳助?」

「貴様にしては上出来だ」

 珍しく鳳助は龍をほめた。それは、相棒の確かな成長を見届けられる喜びからかもしれない。


「どうやらお前を野放しにはできないようだな!」

 透は、眼鏡の男から放たれた正真正銘の青々とした水を凝視しながら、面白くない顔をして言った。

「生意気な口ぶりがむかつきますね。その口を今すぐ封じてあげますよ。浮遊水風船!」

 透の態度に逆鱗が触れたのか、眼鏡男は今まで見せた事の無い荒っぽい口調で言った。

 透の頭上にいきなり出現したぷかぷかと浮遊する二つの水風船。眼鏡男は指をパチンと鳴らした。その水風船が男の合図に反応するようにパチンと割れ、大量の水が透の頭上に降り注いだ。

「温過ぎる! 温過ぎるぞ! 雑魚が!」

 透は低レベルの技に憤慨し、つい本心が口に出てしまった。

 彼は、金色のイアリングに次なる形状を与えた。それは円盤。

 その金色の円盤は、まるで透を河童にさせるように透の頭上に陣取った。そして、傘と同じ要領で頭上から降り注ぐ大量の水をはじき落とした。

金輪(こんりん)! そいつを捕縛しろ!」

 どうやら透の相棒である金色の腕輪よりも一回り大きな金色の輪っかは金輪と言うらしい。

 指示を仰いだ金輪は再び、輪っかの形になり、もう一つの金輪と共に、まるでユーフォーのように不規則な動きをしながら眼鏡男に近づいていった。


 鳳助の炎に触れた大柄の男は、その大きな脚をブンブンと振り、熱がっていた。

「あんまり大人を怒らせるなよガキ!」

 大人の威厳を誇示するために、大柄の男はしつこくも龍との間合いを詰めた。

「激・マシンガン!」

 大柄の男は何発もの何発もの怒りの拳を連続で龍にぶつけた。龍はその衝撃で後方へ吹っ飛んでいった。

 龍は固いコンクリートの地面に尻もちをついた。

「おい、どういうつもりだ? なぜ、”わざと”攻撃を喰らった?」

 鳳助は龍の不可解な行動に疑問を持ち、それをぶつけた。

 これでも長い間、コンビを組んでいる鳳助は龍のスペックのだいたいは把握していた。だからこそ疑問を持った。

 あのスピードなら龍はかわすか十字守で守れる……!

「相手の主な戦闘方法を知りたかったから」

 龍はそう答えた。自分の身一つで闘うタイプか、はたスペシャルを使って闘うタイプなのかを、龍はじかに拳を受けて判断しようとしたのだ。

 これで分かった。あの人の拳には剛みたいに強く洗練された拳だった。

 間違いない。俺の相手は拳で勝負するタイプ……!

 そして、そういうタイプの弱点は……。

 龍は相手から逃げるように、思いっきり走った。

 くっ、こいつ俺の弱点を……!

 その龍の突飛な行動に、対戦相手である大柄の男はしまったと思った。拳一つで闘う者にとっての弱点は、その拳が届かない戦闘距離……!

 龍と大柄の男の戦闘距離は中距離へとシフトした。

「火の玉・魂、鳳助ver!」

 龍の手のひらから生み出された紅色の野球ボールほどの火の球が、鳳助の黒炎と入り混じる時、緋色で鳥型の火の玉・魂が完成する……!

 その火の玉は龍の手のひらから解き放たれ、一瞬にして男の大柄な体をいとも簡単に飲み込んだ。

「ぐわああ!」

 断末魔の叫びと共に、大柄の男の体は丸焦げになってしまった。

「大丈夫ですか?」

 龍は敵にも関わらず、心配そうに大柄の男に駆け寄った。

「まさか敵に心配されるとはな。敵ながら少しお前に興味が沸いた。名前は?」

「一撃龍です。職業はバトラ」

「そうか……あんた”も”か……」

「あんたもってやっぱり……」

 大柄の男は龍の問いの返答をせずにふっと意識を飛ばした。

「透、こっちは終わったよ」

 大柄の男の姿を見た龍は闘いの終わりを確信して、別の闘いを行っている透に声をかけた。

 透側の闘いを見てみると、一つの金輪を眼鏡男に手錠のように両手を縛らせ、もう一つの金輪をこれまた眼鏡男に自分と同じように頭を縛らせ、それを冷ややかな目で見つめる透の姿が写しだされた。

「五月蠅い。俺に気軽に話しかけるな」

 その冷ややかな目を次に龍に向け、透は言った。

「スペシャルというものは素晴らしいですね」

 そんな二人の様子を、自慢のスマートな眼鏡を光らせて口元をゆがませながら見つめているのは、二人の依頼主である高雄であった。

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