第四十二伝(第百七伝)「新生ツリーハウス」
みなさまここまでついてきてくれてありがとうございます。ついにツリーハウス編の最終話です。少し長い文章になってしまいましたが、最終話ですのでお許しください。どうぞ、ご覧ください!
辺りを見渡すと壮麗な景色が広がっていた。今まで戦場として場を提供していた血生臭いツリーハウスとは一変、戦場としての役目を終えたツリーハウスは、堂々と屹立するキングツリーをはじめ、若々しく芽吹く青葉、瑞々しく健気に生える草木といったオーケストラのもとで、美しい大自然を表現していた。
「どうやら儂らの道は決まったでありますの、我が王、一階堂アリサ様」
老練された堅苦しい声が、透き通る綺麗な空気を割って入ってきた。声の主は、構造上入り組んでいるツリーハウスにしては珍しい、先ほどまで戦場だった開けた空間に足を踏み入れる。
入ってきたのは、いつから手入れしていたいのかと問いただしたくなるくらいの粗雑に生えた長ったらしい髭を携え、茶褐色に染まった、たいそうな杖に全体重を乗せた、よぼよぼの小さな小さな爺だった。
「選別爺……」
アリサと樹希がその爺を見るなり口を揃える。
そう、この爺の名は選別爺。ツリーハウス伝統の才能別に姓を分配する選別。その選別作業を行う資格を持つただ一人の存在だ。だが、その素性に謎は多く、いつからいたのか、なぜいるのかも不明で、ツリーハウスの住人の中で唯一、数字の姓を与えられていない存在でもある。
そんな選別爺が杖を巧みに使いながらアリサの目の前まで来ると、立ち止まり口を開いた。
「アリサ様、これから儂の口から語られることは全て”真実”であります。レイサ様がお亡くなりになられた理由は、キングツリーとは何ら関係が無かったのです」
「そんな……!」
爺の口から語られる衝撃の真実。アリサは耳を疑う他なかった。
「レイサ様のスペシャルであるキングツリーとの共有。レイサ様は体に異常を感じた時、その能力と、ダイバーシティの人達がキングツリーの樹液を搾取し始めた事実を照らし合わせ、ダイバーシティの人達によって、キングツリーの力が衰退し、それこそが自分の衰退だということを信じて疑わなかったのは事実じゃ。じゃが、レイサ様は自分が死ぬ少し前。あることに気づいてしまった。自分が弱っているのに、キングツリーの溢れんばかりの生命力が体の節々に感じることに……」
「そんな事実、レイサ様の口からは……」
「それもそのはずです。レイサ様はあえて話さなかったのです。レイサ様はこう仰っておりました。『この真実は今アリサに話すな。アリサは今、ダイバーシティを目の敵として着実に成長している。今ここで真実を伝えてしまったらアリサの目標が失われ、成長を削いでしまう恐れがある。アリサの目標が定まったら真実を話せ』と。それに、レイサ様があそこまで長生きできたのは、ダイバーシティのお陰でもあるの
です」
「それはどういうこと……?」
アリサは足早に回答を求めた。ここは重要な事項だったからだ。もしかしたら、ダイバーシティはレイサの命を奪ったどころか、少しの間ではあるがレイサの命を救ったという自分が思っていた真実とは真逆の真実が可能性として浮かび上がってくるからだ。
「実はアリサ様のいないところで秘密裏にダイバーシティの優秀な回復系バトラにレイサ様の治療を依頼していたのです。その証拠がこのカルテです」
選別爺は年季を感じさせる黄ばんだ紙を懐から取り出し、アリサに手渡した。紙を受け取ったアリサはその紙を広げて、紙に記されている情報をインプットした。
医学に関して全く無知なアリサだが、この紙がなんとなく本物であることは分かった。日付、レイサの症状、経過等が緻密に記されていたからだ。そして、担当者の欄に記されていた名前を見て本物だと悟る。”光間萌”。凛の母親の名だ。凛の母親は優秀な回復系のバトラとしてそこそこ名の知れたバトラで、アリサの耳にもその噂は届いていた。
「そんな……じゃあキングツリーは……」
顔面蒼白になるアリサ。自分の考えが大きな誤解を抱いている線が高くなったからだ。
「おい人間……」
すると、何の前触れもなく神のお告げのような森厳な声がアリサの脳にのみ響いた。そのような特異な伝達方法が出来る存在はアリサの頭の中には一つしかいなかった。
「王樹様……」
そう、声の主は王樹そのものである。アリサは、おそらく特殊な力を有するツリーハウスの住人の歴代の誰でも出来なかったであろう、キングツリーの声を聞くことが出来る、ただ一つの希有な存在である。だが、それはアリサが自由に交信できるものでもなく、キングツリー側の意思なのか、とにかく不明瞭な作用によってのみ交信できる、一方通行の不完全な交流である。そもそも、今までアリサがキングツリーと対話できたのは、あの猫道場で行われた最後の稽古である対夢我戦のたった一回だ。
「我が人間にほんの少しの樹液を奪われたくらいで弱るわけがなかろう……」
この言葉を機に、またしても交信は途絶えてしまった。しかし、たったこれだけの言葉で、アリサが自分の過ちを理解するのには十分過ぎた。
「私はなんてことを……」
アリサは愕然とした表情で、カルテを手放した。
ダイバーシティの真実を知ったアリサは抱えきれない罪悪感で一杯になった。罪の無いダイバーシティのバトラをここまで傷つけてしまったこと、救いの手を差し出していたダイバーシティのバトラに憎悪の感情を抱いたこと。それら全てを懺悔した。
「アリサ様に会わせたい者がいるのですが、その者をここに入れてもよろしいでしょうか?」
選別爺は雑に生やした長い髭を人指し指でなでながら、間髪いれずアリサに了承を得ようとする。
誰だか全く心当たりのないアリサだが、特に断る理由もないので、首を縦に振る便利なジェスチャーでこの選別爺の要求を了承した。
選別爺がしわくちゃの腕で手招きをすると、一人の中年女性が入ってきた。その女性はこの神聖なツリーハウスにそぐわない穴だらけのボロボロの身なりを着用していた。いや、着させられているという表現の方が似合う。
アリサはこの女性の身分を推測した。そして、それは正しい。アリサの推測では、この者の正体はツリーハウスの中でも三階堂や、四階堂の姓を持った身分の低いものである。なぜ正しいのかというと、第一にアリサはこんな劣悪な身なりの人間をツリーハウス内で見た事が無い。第二に、ツリーハウスの外に一歩で出ていない選別爺と接点があるということは、この女性はツリーハウスの住人であることに間違いない、第三に、アリサは三階堂、四階堂の姓を持つ人間に会ったことが無い。この三点から、この推測は正しいと容易に証明される。
アリサはいたたまれない気持ちになった。自分は生活という点において何不自由なく暮らしていた。衣服は質の良いものを着させられ、食事も毎日三食欠かさず出されたし、住居スペースも十分に広いものだった。しかし、裕福な暮らしをしていた自分の知らないところで、質素な暮らしを強いられる人達がいたということを知ってしまったからだ。
女性はアリサの姿を見るなりなぜか目頭を熱くさせ、何かに取りつかれたかのように一目散にアリサのもとに駆け寄った。
そして、アリサの心身すべてを包み込むように、激しく抱きしめた。
「あなたは私の子……あなたは私の子……」
そう呪文のように半永久的につぶやく女性の目からは涙がこぼれていた。女性の温もりを肌の芯から味わったアリサに解説は無用だった。
「私は幸せ者。だって、私には”二人”母親がいたのだから……」
アリサは”本当の母親”の期待に応えるように、腕を伸ばし母親同様に抱きしめた。そして、そっと目を閉じた。目を必要以上に閉じ、思考を張り巡らせた。
しばらくして、目を見開き、選別爺にある確認をとった。
「爺、これから私がやろうとすることは、今までのツリーハウスの伝統を否定することになる。それでもいいかな?」
「なぜ、儂に聞くのです。アリサ様はツリーハウスの頂点であり、ツリーハウスの全決定権は御身にあるのですぞ」
アリサはその言葉を聞き実に清々しい表情をしながら話し始めた。
「ありがとう爺。私は気付いた。人の価値は生まれながらにして決まらないことに。よって、長きにわたってツリーハウスで行ってきた選別制度は撤廃する。さらに、階級ごとに生活を隔離する制度も撤廃。そして、ダイバーシティをはじめ多くの国、多くの人達と積極的に交流する。これが”新生ツリーハウス”だよ★」
☆ ☆ ☆
その夜、新生ツリーハウスの門出を祝うために盛大なパーティーが開かれた。場所はアリサの青春が全て詰まっているといっても過言ではない一階堂の間。この間は本来、一階堂の姓を持つ者しか入ることを許されない間。しかし、このパーティーの参加者は、他の姓を持つツリーハウスの住人やツリーハウスと全く関係の無い者たちもいた。そこには、名字や身分、出身といった隔たりは存在しない。これこそが新生ツリーハウスの性質を端的に表している。このパーティーを着飾るように妖艶なツリーフェアリー達が辺りを飛び交う。
「急きょ始まることが決まったこの宴ですが、集まっていただいた方には感謝します。新生ツリーハウスに乾杯!」
音頭をとったのは、きりっとした黒ぶち眼鏡から真面目な印象を受ける青年であった。彼の名は二階堂公樹。二階堂のリーダー的な存在で、樹希と共にアリサの補助に尽力した男だ。
人工物の一切を拒むような純度百%の木で創られた机には大量の御馳走が並んでいた。その代表選手は、白米にキングツリーの樹液を絡ませたダイバーシティでもおなじみの米料理「エメリル」、小麦粉を焼いて、その表面にキングツリーの樹液をバターのように塗りたくる「グリーングリーン」といったツリーハウスの郷土料理である。
そんな豪勢な机を囲んでいるのは、ダイバーバトラである一撃龍、雷連進、光間凛、鉄剛、ツリーハウスの住人である二階堂樹希、武具職人の真野心の出身、職種がバラバラではあるが同世代である六名である。男女構成比的にも、まるで合コンのようなエネルギッシュな雰囲気が醸し出されていた。
「よっしゃー! ご馳走、ご馳走!」
持ち前の元気をすっかり取り戻した剛は、不格好なよだれを口から垂らしながら、意地汚くまるで宝石のように立ち並ぶ御馳走達を頂戴するために手を伸ばした。
「はあーい、そこの大きな君、ストップ、ストップー」
御馳走をほおばるために差し出した欲深い剛の腕をがっちり掴み、煌びやかな料理達を守ったのは樹希だった。一応ここはツリーハウスと言うこともあり、樹希はホストとしてこの場を取り仕切り始める。
「せっかく、こうして同世代の仲間が揃ったんだから、自己紹介からっていうのが自然の流れってもんじゃなあい?」
「そ、それもそうだな……」
剛は目の前の御馳走にありつけず、不満な表情を見せるが、空気を読みしぶしぶ了承した。
「じゃあ、まず君から!」
「俺は鉄剛だ! ダイバーバトラでアリサししょーの一番弟子だ!」
自慢げに自己紹介をする剛、そこには後ろめたさなどは感じられなかった。
「へーそーなんだ、でもアリサ姐さんの一番弟子は私だよ」
ピースサインで剛を挑発する樹希。剛のような怖々しい見た目でもぐいぐいと攻めるあたり、さすがは樹希と言ったところだ。
「んだと!」
「これからもよろしくね、えーと剛だから……ゴーゴーで!」
「なんだそれ?」
せっかく気分が乗ってきたのに、合気道のようにあっさりいなされる剛。剛をも手玉に取る樹希は、まことに恐ろしい存在だ。
「これが”あだな”やんかー? さすがは樹希やんでー」
すかさず横やりを入れるのは心だ。彼女もまた樹希と同じくらい明るい女の子だ。
そんなこんなで合コンと呼ぶにふさわしい楽しげなパーティーは続く。
楽しく続く宴にそぐわない真剣な表情で話しこむ二人の男女がいた。ツリーハウスの頂点に立つ一階堂アリサと、二階堂の頂点に立つ二階堂公樹の現ツリーハウスの二大巨頭だ。どうやら、これからのツリーハウスの具体的な進路について話しこんでいるようだ。
「……分かりました」
しばらくの会話の後、公樹は神妙な面持ちでアリサの元から立ち去る。それと、入れ違いで一人の音がアリサの目の前に立ちふさがる。雷連進である。彼は、訝しげな目でアリサを見ている。
「進君……」
アリサは申し訳なさそうな表情をする。それと反比例するように進の目がより一層鋭さを増す。
「あいつらはごまかせるかもしれないが、俺の目はごまかせない。アリサ、あんたは俺達を殺そうとし、国を潰そうとした。それも事実だ。それで、気が変わったからって、また先生面するのか? そんなもの、都合が良すぎる! あんたは、しっかりと罪を償うべきだ!」
「勿論、進君の言うとおりだよ……。罪はしっかりと償わせてもらう……」
進の強い主張に、アリサは若干顔を下へ向かせ言った。進は一呼吸置くと再び話し始めた。
「あんたが罪を償っている間、俺は強くなる。もし、あんたが罪を償い終わった時には、一度ではいいから俺を見てくれ。その時までに俺は確実にあんたより強くなってみせる」
進の言葉にアリサは無言で頷く。もしかしたら、これが進のアリサに対する配慮だったのかもしれない。
楽しかった宴も終わり、さっきまでの賑やかさは消え、一階堂の間が本来持っている荘厳な静寂さを取り戻す中、二人の男女が恋人同士でしかありえないような距離感で向かい合っていた。剛と凛である。戦闘中に告白した剛は、凛からの答えをいち早く聞きたかったので呼び止めていた。
「それで、答えは……?」
剛にしては珍しく慎重に言葉を選んでいるようだった。ここまでくれば、言葉の一つ一つも馬鹿にはできない。
しばしの沈黙が流れる。その沈黙が剛の胸の情緒を不安定にさせる。
「ごめんなさい……。私には気になる人がいるのですわ」
凛の口から返ってきたのは、なんとも残念な言葉だった。
「やっぱり進のことが……」
なんとなく心当たりがあった剛は、その名を口にせずにはいられなかった。
凛は申し訳なさそうに無言でうなずく。
「だよな! 凛は進のことずっと見てるもんな! 俺なんかが凛と付き合えるわけないよな!」
剛はケロッと態度を急変させ、元気を取り戻したかのように、ガハハと笑いながら言った。しかし、そんなもの空元気以外の何物でもない。
ここで、凛は意外な行動に出る。なんと剛の大きな体をギュッと抱きしめたのだ。願ってもみなかったサプライズに剛の頬は赤く染まる。
「でも、剛君は”二番目に”好きですわ。女心は秋の空。順位なんてすぐに変わりますわ」
「ありがとう……。凛……」
もう一つの恋模様も、また複雑に絡み合っていた。
ツリーハウスの末端にある幹で作られた、周りの景色が一望できる簡素な展望台には満天の星空が広がっていた。そこに緑色の髪を風になびかせながら少女・樹希は体育座りでそんな星空をぼんやりと見つめていた。
「隣、良いかな?」
前触れもないその声に、樹希の体はピクりと動いた。横を見ると、情熱的な赤髪を風に委ねながら少年・龍が樹希の目を見つめていた。
「……いいよ」
樹希が二つ返事で了承すると、龍は樹希の隣で、樹希と同じように体育座りをしながら星空を見つめた。
「大変な一日だったね」
龍は星空を見つめながら、今日のことを振り返り、しんみりとした口調で言った。
「人はみかけによらないって本当だったんだね」
樹希は含み笑いをしながら龍との会話を始めた。
「それってどういう……?」
「だって、ドラ君ってパッと見、頼りなさそうじゃん」
悪口にもとれるが、そこに悪意はない。龍は「それもそうだ」と自問自答しながら特に否定するわけでもなく聞き入れる。
「でもさ、ドラ君はアリサ姐さんや、何百年も続くツリーハウスの歴史も変えちゃったんだよ。それって凄いことだよね?」
龍は樹希の言葉に首を横に振る。
「俺はそんなたいそうなことはしてないよ。ただ、アリサ先生が自分で決断しただけであって」
「ううん。違うよ。ドラ君の言葉は姐さんの言葉に確かに響いていた。確かに決断したのは姐さんだけど、ドラ君の言葉のアシストは大きかった」
「樹希ちゃんって、本当にアリサ先生のことが好きなんだね。それは性格にもよくあらわれてる。アリサ先生のように明るく元気で、だけど凄く頭が良い。そこが樹希ちゃんのいいところだと、俺は思う」
龍の思わぬ言葉に樹希は顔を赤くした。
「じゃ、じゃあね。私はこう見えてもツリーハウスの中でも結構偉い方だから、いろいろと忙しいんだよぉ」
樹希はそう言って体育座りを中断させ、立ち上がる。そして、その場から立ち去ろうとする。
「待って」
この言葉は確かに龍の声から発せられたものだが、そこに龍の意志は介在してない。ただ、”もう会えない”と本能が警笛を鳴らし意志を介入させないで、この言葉を発した。
「なに?」
樹希は足を止め、龍の言葉を聞き入れようとした。
「よかったら今度、食事でもどうかな?」
これが、今の龍にできる精一杯の告白だった。
「いいよぉ。今日は楽しかったね。また”みんな”で食事しようよ」
樹希は満面の笑みでそう返答し、今度こそ立ち去ってしまった。
みんなでか……。
その返答に少し落ち込む龍であった。
こうして、ツリーハウスの夜は更けていく――。
☆ ☆ ☆
ツリーハウスの騒動から数日が経った頃、アリサはセンターハウス内のある一室にいた。
アリサは副本部長室、つまり師匠である夢我の部屋で、背筋をぴんと伸ばし彼女を待っていた。
立派な木製の扉がギイイと重厚感のある音とともに開帳する。ここに、黒いコートを身に纏った夢我が険しい表情を浮かべながら入室した。
夢我は部屋の正面にある黒光りした高級そうな机の奥にある、座り心地が良さそうな黒革の椅子にドカッと腰を掛け、部屋に漂う重々しい空気を破壊するように口を開き始めた。
「アリサ、まさかお前がこんなことを画策していたとはな……。非常に残念であると同時に、ずっとお前のことを見てきたにも関わらずお前の心を見抜けなかった私自身にも憤りを感じている。だが、クーデターを断念したということは、改心したということでいいのだな?」
「はい……」
アリサは先生に怒られている小学生のように頭を傾斜させ、目線を下に下げながら、夢我の言葉を肯定した。
「お前はこれからしばらくの間、パンドラハウスに収容されることとなる。だが、お前のダイバーバトラとしての今までの功績、殺人を犯していないこと、クーデターが未遂になったこと、そして私の意向で刑期は大幅に縮まっている。そして、お前の意向通りクーデター計画に関与したお前以外のツリーハウスの住人達はお咎めなしにしておいた。これも私の意向によるものが大きい」
「ありがとうございます……」
「アリサ、お前の力はこの国に確実に必要だ。しっかりと罪を償い戻ってこい!」
夢我の最後の言葉は、アリサの師匠である夢我からの言葉である。
翌日、アリサは治安部隊の隊員に手枷を嵌められ、刑務所であるパンドラハウスへと向かうため、ダイバーシティの街並みを歩いていた。
アリサは目を瞑りながら、今までの自分の行為を悔い改めている様子だった。
「アリサ先生!」
ふと自分を呼ぶ声がした。犯罪者である自分に声をかける者などいるのかと最初は幻聴を疑ったが、一応、確認するために瞑っていた目を開いた。
すると、アリサの目は幻聴である疑いを完璧に晴らした。戦校時代の生徒であった龍、進、凛、剛の四人に、ずっと自分を助けてきた樹希を加えた五人がアリサの目に映し出されたからだ。
そして、五人はこれから牢屋にお世話になるアリサに、各々の心情を各々の声で伝えた。
「姐さん、必ず戻ってきてね。姐さんがいないと私、どうしたらいいか分からないから」
「先生の勉強になる授業をまた聞きたいですわ」
「ししょー! 戻ってきたら、今度こそ本当に俺のししょーになってください!」
「アリサ、いやアリサ先生。俺はあんたより強くなって見せる」
「アリサ先生、俺達は待ってます。先生の帰りを。いつまでも!」
私は特別な人間……。
だって、”一階堂アリサ”と”アリサ先生”、二人分の幸せを一緒に感じられるから!
~ドラゴンバトラ2・ツリーハウス編・完~