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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
4/42

第四伝(第六十九伝)「隣人にはご注意を」

第四伝です。皆さんの隣人はどんな人ですか。怖い人ですか、優しい人ですか。様々ですよね。隣人トラブルには巻き込まれたくないですよね。それではどうぞ。

 スクリーズはお姉さんの指に反応して、新たなる画面を表示をして見せた。

 次なる画面は、線で囲まれた二次元の横に細長いボックスが幾多も表示されている。そのボックスの中には、目が痒くなるほどのたくさんの文字が意味ありげに収容されていた。

「この画面に表示されているものは、今あなたが受けられるバトミッションの一覧になります」

 なるほど……。

 よく見ると、ボックスの中にそれらしき文字が記載されていた。「ノーマルランク スクリーズ紛失の捜索 屈強なダイバーバトラ」という具合に。どうやら、左はこのバトミッションのランクで、真ん中はバトミッションの内容で、右は依頼主のようだ。

「気になるバトミッションがあれば、そこをクリックしていただきます」

 そう言って、お姉さんは一つのバトミッションが記載されているボックスを指先を器用に使いクリックした。

 すると表示されたのは、目が痛くなるような大量の小さな文字だった。どうやら、そのバトミッションの詳細が記載されているらしい。

 お姉さんが指を繊細に使い、スクリーズを下にスクロールしていくと、最下部に「受注」というアイコンが表示された。

「このアイコンをクリックすれば受注は完了となります。掲示板を見て直接受付に口頭でバトミッションを受注することも出来ますので、そこはお好みで使い分けてください。なお、取り消すと手数料がかかり、受注できるバトミッションが制限されることがありますのでご注意してください。と、このように仕事で主に使う機能を説明させていただきました。このように非常に重要なものですので、決して無くさないでください」

 無くすなか……。

 俺は無くすなと言われた数々の品を無くしてきた。まさに”無くしの天才”。これまで、無くすなといわれてきた学校で提出する重要な書類や、大切なお金が入っている財布に至るまで。数々の物品を無くし、親や先生に迷惑をかけてきた。

 なぜか、龍はスクリーズを無くす覚悟を決めていた。


 ☆ ☆ ☆


 スクリーズの受け渡しを終えた龍は、今後お世話になる新たなる母屋に足を運んだ。

 龍の新生活の拠点と呼ぶにふさわしい新たなる母屋は、センターハウスの外にあるダイバーパークの脇に建っている三階建ての簡素なアパートだった。目に優しい淡い赤色の三角屋根がトレードマークのこの物件は、センターハウスに近いということもあり、かなりの人気物件だ。

 龍がこの物件を決めた時に、ちょうど退去者が出たということもあり、空き部屋はちょうど残り一つ。運命という言葉を意外と重要視する龍はそれを感じ即決だった。

 簡素なアパートといえど侮るなかれ。その設備は水準以上。玄関の扉はオートロック式で固く閉ざされており、暗証番号を入力しない限り開くことはできないという寸法だ。つまり住民以外の入館はご法度というわけだ。

 龍はそんな堅固なる入口を巧みに暗証番号を入力し解錠した。入口の先には左右の一階の部屋につながる通路と、中央には上階に住民達を誘うエレベーターがあるエレベーターホールが住民達を暖かく歓迎する。

 龍は、エレベーターホールに設置されてあるボタンを押し、彼の到着を待った。龍の部屋は三階、階段も備え付けられているが、楽な道に逃げがちの龍はエレベーターの方が幾分都合が良いのだ。

 エレベーターは前後に長い設計。上部に設置されてある監視カメラとエレベーターという名の密室が相まって少し怖い。真夜中もお世話になると考えると背筋がぞっとする。

 龍はエレベータ内でそわそわさせながらも何事もなく無事にエレベーターは客人を三階に誘った。エレベーターを降りるとダイバーパークが一望できる。三階にしては見晴らしは良好。

 龍の部屋は三一五号室。端っこの部屋だ。龍はアパートの通路を歩き、三一五号室のドアの前にたどりついた。

 龍は鈍重そうな赤いドアを、事前に譲り受けた施錠でガチャリと開けた。

 間取りは1DK。六畳のダイニングキッチンと和室が一室ずつ。シンプルな間取りだが、一人暮らしするには十分すぎる広さだ。窓からはダイバーシティの街並みが一望できるというほどでもないが、それなりの風景が見て取れる。

「はー、疲れたー」

 龍は荷物を乱雑に置き、早速和室の畳に体をなじませながら、寝転がった。


 ☆ ☆ ☆


 すでに空の色は橙に染まっていた。時間は午後六時を回ったあたり。スクリーズの受け渡しから早、五時間くらい経っていた。

 龍はというと――。

「ユースフル・モンスター、ユフモンのスクリーズヴァージョンちょーおもしれー!」

 スクリーズの機能の一つに内蔵されていたゲームアプリの一つ、大人気育成ゲーム「ユースフル・モンスター」にドはまりしていた。

「ユフモンヘビーユーザーだった俺には分かるぞ! このユフモンスクリーズヴァージョンの凄さが! まず五時間遊んでみたがマップがとにかく広い! 従来の携帯ゲーム機ヴァージョンの二倍はある! なんといっても、モンスターの数が多い! スクリーズヴァージョンのオリジナルモンスターを含めると従来のヴァージョンよりも三倍近くも多い!」

 そこにはだらしなく寝転びながら、スクリーズの画面に目を充血させながら凝視する龍の姿があった。もはやそこにいるのはダイバーバトラ一撃龍ではない。クソニート一撃龍だ。

 このスクリーズというハイテク機器。実に恐ろしい。その多彩すぎる機能がゆえに使用者を骨抜きにしてしまう。それは、せっかくまっとうに生きると決めた者でさえ、いともたやすく堕落させるほどだった。

 しかし、スクリーズはそこまでも考えていた。実はこのスクリーズ、五時間ぶっ通しでゲームをすると強制終了してしまうのだ。しかも、その日は起動できないという鬼畜っぷり。

 それをクソニート龍に知らせるために、スクリーズは文字で知らせてくれた。

「五時間経過しました。ゲームのやりすぎにご注意ください。強制終了します」

 その文字を最後にスクリーズの息は途絶えた。いや、自ら途絶した。

「んじゃこのクソ機能は!」

 完全にライフラインを断たれた龍は激こうした。しかし、スクリーズは真っ暗な画面を見せ続けるだけで、何の反応もなかった。

「やばいやばい。すっかり昔のニート体質が蘇ってしまった。えーと六時十分か」

 龍はすっかり熱せられてしまった頭に水をまき、なんとか平常心に戻った。そして、壁に入居時から立てかけてある時計を首を上にあげて見た。

「そう言えば隣人に挨拶とかしなくちゃいけないんだよな。はーあ、こういうのは苦手だなあ」

 龍はため息交じりに言った。

 隣人。それは、新生活を円滑に進めるためには必要不可欠な人物。意気投合し安心した生活を送れるのか、はたまた馬が合わずに肩身が狭い生活を送ってしまうのかは隣人次第。隣人は選べない、つまり、どんな隣人とめぐり合うのかは運次第なのだ。

 それほどまでに隣人がどんな人物なのかは重要な事項なのだ。

「よし、行くか」

 龍は重い腰を上げ、五時間ぶりに外の空気を吸いながら運命の隣人との対面に臨むことにした。


 龍は自分の部屋のドアと隣の部屋のドアの前を右往左往していた。

 ああー。めちゃくちゃ緊張する……。こういうことはいつも母さんに任せてたからなー。

 そう言えばなんか手土産とかいるんだろうか。ええい、そんなもん持ち合わせとらんわい。

 怖い人だったらどうしよう……。俺のバラ色人生は一瞬で散るな……。

 ダメだダメだ。悪い方向に考えてしまうのは俺の悪い癖。いい方向に考えないと。

 隣人は同期の美少女女流バトラ。隣人は同期の美少女女流バトラ。

 よし行ける!

 龍は自分の頭をなんとか洗脳させて、隣人の部屋のインターホンを鳴らした。

 そして、隣人の部屋の扉が開いた。その開くスピードはなぜかゆっくりに思えた。

 さあ俺の隣人はどんな人だ!?

「なっ!?」

 龍の隣人はとんでもない人だった。

 ツンツンと立った茶色の髪。頭をがっちりと縛る輪っか。そんな特徴を持った男が鈍重なドアの中から現れた。

 龍はこの男に見覚えがあった。それも今日。そう、龍の隣人は朝の入闘式で出会った蔵持透だった。

「なんだお前? 一撃龍か。何の用だ?」

 俺の新生活しゅーりょー!

 よりにもよって俺の人生の中で第一印象ワーストワンのこの男が隣人とは……。

「隣人に挨拶をと思いまして……」

「あ!?お前が隣人!?あんまり俺の邪魔はするなよ!」

 と言い残すと、透はさっさとドアを閉ざしてしまった。

 最悪だ!最悪の隣人だ!金輪際関わることを辞めようと思ったのに、これでは嫌でも関わってしまうではないか……!

 龍はテンションをがた落ちさせてながら、自分の部屋に戻った。


 部屋に戻ると手始めに龍の腹が鳴った。

「腹減ったな……。昼は戦樹さんに奢ってもらったけど、だからとって俺の極貧生活は変わらない。とりあえず腹を満たそう。飢え死にしてしまう」

 龍はアパート近くの弁当屋に行き、一番安い質素な「ノリ弁当」で夜を乗り切った。

「ふー。これでも豪勢だよなー。明日からはカップめんだな……。明日から仕事するかー。いや、明後日にしよう」

 龍は自分でお金を稼ぐ辛さを身をもって体験していた。


 ☆ ☆ ☆


 翌日。

 朝八時。西日が小さな窓の隙間を縫って差しこんできた。

 龍は初めて新居で一晩を過ごした。

「うわ! ここはどこだ!? ってそうか……。俺、新しい生活始めたんだっけか……」

 龍はいつもと違う寝起きの風景に戸惑いながらも、昨日の出来事を思い出し、自分がいる場所を突き止めた。

 この日から依頼は受けられるのだが、自分に甘い残念な龍は今日一日オフにすることにした。

 龍は昨日、買っておいた冷凍食品をチンしながら、お気に入りの赤と黒のカジュアルな服に袖を通し、身支度を済ませていった。

 

 あれ……?

 龍は玄関の郵便受けにチラシが一枚入っていることに気付いた。

 龍は朝ご飯を共にした食器を粗雑に洗い場に置いて、龍の家に届いたチラシに目を通した。

 なになに……?

 格安武具ショップ「SPIN―スピン―」新規開店。武具が欲しいがお金が無くて買えないそこのあなた。当店では破格の価格で販売しております。 

 か……。なるほどな……。

「今の俺にはピッタリだな。行ってみよう。武具欲しいし。数少ないお金を下ろすことになりそうだけど……」

「おい貴様! 俺と鳳凰剣を差し置いて新しい武具を買うつもりか!?」

 寝室の畳の部屋に立てかけておいた鳳凰剣から鳳助の声が家中に響いた。部屋が狭いのでいつも以上に大きく感じる。

「静かにしてよ鳳助。近所迷惑になるから。(それに隣人が隣人だしな……)」

「それで新しい武具は買うのか!?」

「いいのあったらね。もし買ったとしても鳳助と鳳凰剣を見捨てたりしないよ。なんて言ったって相棒なんだから」

「それならいいが」

 簡単に言うと、鳳助は自分が見捨てられるのではないかと不安に思ったらしい。


 数少ない貯金を下ろした龍はチラシを頼りに、「格安武具ショップSPIN―スピン―」にたどりついた。

 店舗は龍の家から徒歩十五分くらい。店が多く点在する街の中央に堂々と出店していた。どうやら、チェーン店らしく、ダイバーシティと帝国「エンぺラティア」に数店あるらしい。

 店舗の大きさは街のスーパーくらい。そして、とにかく店舗の外観はとにかく目立つ。青や黄といった明るい色を使い、店名をでかでかと電光掲示板で分かりやすく表示している。

 店内にはところせましと天井に届きそうなくらい大きくて高い棚に、大小様々な武具が置かれている。特徴は一つ一つの商品をポップで分かりやすく商品名と価格は勿論、「最新モデル!」や「ベストセラー!」や「店長オススメ!」といった購買意欲をそそるような一言が添えてある。

 今日が特別なのか、いつもこんなものなのか分からないが、思うように身動きがとれないほどの多くの客でにぎわっていた。初々しい客が多く見て取れる辺り、龍と同じように広告を見て訪れた客が多そうだ。

 龍は店内の隅々を歩きまわり、武具を物色していた。

 様々な武具が売っているこの店の虜となってしまい周りを見失い物色しまくっていた龍は気がつくと、あれだけにぎわっていた人達がまばらの、店の最奥と思われるスペースにたどりついていた。そこには、数珠や指輪といったなぜか武具とは無関係のものが置かれていた。

 なんだ、ここは……。元の場所に戻らないと……。

 にぎわいを見せている売り場に戻ろうとした龍だったが、一つの商品に目を奪われた。

 それは、水色をしたピカピカでまん丸のハンドボールほどの大きさの水晶玉だった。

 その水晶玉にはあのしつこいほど商品を宣伝するポップの類のものは一切なく、ただ小さな値札が貼られているだけだった。

 龍は無意識にその水晶玉を手に持ち、レジの前に立っていた。

 そして、いつの間にか会計を済ませていた。

「あれ、こんなもの買う気無かったのに……」

 龍は自分自身の行動に疑問に抱いていた。龍は自分が納得するような科学的な根拠がないと購入に踏み切らない慎重なタイプ。衝動買いなど持ってのほかだった。

 だが、龍は無意識的に水晶玉を買ってしまっていた。それは決して科学的なものではない。スピリチュアル的なものがそこにあった。

「でも、なんかこれを買わないとまずいみたいな変な感覚があったんだよなー。それにしてもいい店だったな『武具屋スピン』。覚えておこう。本当に安いし」


「貴様は大馬鹿だな! それは武具じゃねえよ!」

 水晶玉を手に持ちながら家に帰った龍は、鳳助に散々馬鹿にされた。

「笑うな鳳助! これは俺が店内を隅々まで見た中で最高の武具なんだからな!(多分……)」

「そんなんもんじゃ俺の地位はまだ安泰だな!」

「そうかもね……」

「おい龍!? 明日から仕事するんだろうな!? 暴れたりねえんだよ!」

「もちろんだ鳳助。明日から仕事頑張るぞー! おー!」

「うるせーぞこら!」

 隣から響く怒号と共に、太鼓のようにうるさいどんどんと壁を叩く音。

 やべ……。最悪の隣人からクレームだ……。 

 とにもかくにも、龍の新たなる一歩は明日から踏み出されるのであった。

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