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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
35/42

第三十五伝(第百伝)「憎悪の呪縛」

 第三十五伝です。1と合わせるとなんと記念すべき百伝です。ついに、ここまで来たかという感じです。それでは記念すべき百伝どうぞ。

「そんな、あの交流戦の出場は全てアリサ先生によって仕組まれていたものだなんて……」

 アリサの戦校での暗躍を知り、顔面蒼白の龍は思わずこう言葉を漏らした。

「だが、俺らを無理やり同じチームにさせたこと、ナーガが当時一年だった俺の存在を知っていたこと、アリサが特訓と銘打って俺達と闘ったことも全て辻褄が合う」

 そう拳を顎に置き、冷静に分析したのは進だった。進は戦校時の出来事で腑に落ちなかった点がいくつもあった。それが、アリサの口によって解決された。

 進は内心、長年心に溜まっていたもやもやが空気清浄器によって浄化されたようにすっきりした気持ちになった。

「にわかに信じられませんわ。心にそんな大きな闇を抱えながら、全くそれを気取られることなく私たちと過ごしていたなんて」

 凛は驚いたような口ぶりで話した。

「ししょー! ししょーがどう思おうとも俺のししょーはししょーなんっすよ!!」

 剛は魂の叫びを、妖精の姿を象った、あの頃の優しいアリサ先生の原型がない、変わり果てた一階堂アリサにぶつけた。

「剛の言うとおりです。”一階堂アリサ”にとっては”アリサ先生”はかりそめの姿でしかないのかもしれません。でも、僕たちの中に”アリサ先生”という存在は確かに”居た”んです!」

 剛に続き、龍も自分の信念という名の強き言霊をぶつける。

「これから新生ツリーハウスの礎になるあなたたちが何をほざいても私には届かない。そもそも私は生まれながらにして違うステージに立ち続けている存在、対等に話すことも烏滸がましい……!」

 ああ、悲しかな。

 一階堂アリサにはまるで届いていない。かつて己が創造したアリサ先生という人間を完全に否定した。まるで、その奇矯な姿が人格までも変容させてしまったかのように。

「ふ……ざけ……んな……。ふざけんなよ!! 人は生まれながらにして優劣が決まんのかよ! だったら俺はどうなんだよ! 俺は学校でいじめを受け、家で引きこもり、社会を断絶していた最底辺の人間だ! だがな、みんと出会って、皮肉にもあんたと出会ってバトラという格式のある地位をこうして手に入れることができた! あんたの主張は何一つ合っていない! その証拠が俺の人生だ!!」

 まさに感情のエクスプロージョンがツリーハウスを爆心地として巻き起こった。

 比較的温和な龍の怒りがここで爆発したのだ。

 衝撃的な爆発に、龍をよく知る進、凛、剛の身が冷凍庫に幽閉されたかのごとく凍る。

 龍は今まで潜在的に内包していた自分の全ての思いを解放させた。龍にとって今は先生、生徒という立場は関係ない。ただ、対等な人間としてアリサの主張に怒っているのだ。

「うるさいな! あなた達下等な人間は、一階堂の姓を持つ私のような高等な人間の足に大人しく踏まれていればいいんだよ!」

 龍の爆発に呼応するようにアリサの感情も連鎖爆発した。アリサの口調と思えない汚らしい言葉だった。それほどまでに、アリサの心情は切羽詰まっているということだ。

「さっきからさあ、やれ特別だの、やれ高等だの、そんなほんの少し人とは違う場所で生まれて、ほんの少し人とは違う姓だからってそんな偉いものなのかよ! 人の価値は生まれながらにして決まるのかよ! 違うだろ!! 人の価値は”生まれてから何をするか”で決まってくる! そう……ですよね……? アリサ……先生……」

 もう、限界だった。

 感情の暴走に自我が耐えきれなくなったのだ。

 龍の怒りは悲しみに変わった。龍は涙を流した。その純粋なる涙は怒りという名の灼熱を鎮静させた。

「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ! 見ていますかレイサ様! 私はこれから憎きダイバーバトラの命をキングツリーの生贄に捧げあなたの無念を晴らします! 四柱牢! 四柱人!!」

 ツリーハウスの厳かな地脈から湧き出る穢れなき四柱の木柱がニ対。計、八柱の木柱が妖しく舞う。一対目の四柱は世界を覆うようにドーム状に変化し、疲弊しきり動きが鈍重な龍と進の二人をいとも容易く飲み込んだ。

 もう一対の四柱は四肢とそれを繋ぎ合わせる媒体を形成し、その上に球体が創造させた。おそらく日常において最も一般的に見られる形状だろう。人間の形だ。

 そして、人の形を形成した木柱は肉付き、鼻や目等の各パーツが生み出される。

 完成されたのは、原料こそ違えどアリサの姿を体現させた木柱だった。もう一人のアリサといっても過言ではない完成度だった。

 アリサを模った木柱は、本物の人間と遜色ない動きで情けなくへたり込んでいる凛と剛の前に立ちはだかった。


「姐さん終わった?」

 アリサの無双から逃れるためにツリーハウスの隠し空間に身を潜めていた樹希が、闘いの終焉を見計らい戦場に現れた。

「う、うん……」

 妖精化したアリサは二対の四柱、計八柱の木柱を召喚した反動からか、憔悴しきった表情で答えた。樹希は師の変化を察知したようだ。

 姐さんの顔色が悪い……。さしもの姐さんでも二体のツリーフェアリーを取り込んだ代償は重いか……。それとも精神的な部分で……。

 姐さんの回復を考え計画は遅らせるほうが賢いか……。

「クーデターは彼らをキングツリーの養分にし、姐さんの全快を待ちます。姐さんの体調が全快し、キングツリーが養分達を取り込み次第、戦力である私を含む二階堂の皆に本来の力が戻ったキングツリーのライフソースを与えた至高のツリーフェアリーを取り込ませ、姐さんを筆頭にダイバーシティに進軍を開始する手筈だよ」

「ま、待つやんで……」

 饒舌に野望を語る樹希のズボンの裾を地面に這いつくばりながら、かろうじて掴んで僅かながらの声を吐きだしたのは、樹希とアリサの凶悪なるツリーハウスコンビに完膚なきまでに叩きのめされた心だった。

「まだ意識があったの? いい加減しつこいよ心ちゃん」

「樹希ちゃんが何をしようとしているのかは分からんけど、なにか良からぬことを企んでいるのならウチは全力で止める。それが、友達の役目やから!」

 心は立つ。傷だらけの体を強引に起こす。三大武具職人と謳われる祖父の弟子でもあり子でもある父が娘の為に全身全霊をかけて作った珠玉の一刀、心剣―ブレイブオブマインド―を支えにして……。

「樹希、その子を早く処理しちゃってよ。なかなか、丈夫そうだから良い養分になると思う」

 アリサが自分に仕える樹希に冷淡な指示を出した。

「はーい。分かってるよアリサ姐さん」

「ウチらは”友達”だったんじゃないやんの?」


 ☆ ☆ ☆


 龍と進は四柱のドーム状の牢獄によって四方八方を閉じ込められていた。

 進は辺りを見渡し、四柱牢の突破方法を模索する中、龍は怒りやら悲しみやらで感情を変化しすぎて疲弊したのか、ただ塞がれた空間の中で呆然と座り込むのみだった。

「おい、何ぼうっとしている? さっきまでの威勢はどうした? さっさと、この訳分からん牢獄から脱出するぞ。この空間は何かまずい。力が吸い取られていくような感覚に襲われる」

 この空間の危険性を感じ取った進はそんな龍にはっぱをかける。

「進、このままでいいのかな? アリサ先生と闘い続けることが最善手なのかな?」

「何が言いたいんだお前は?」

「仮に、俺達がアリサ先生を倒したとする、倒したとしても樹希ちゃんを始めとするツリーハウスの住人たちがその意志を受け継ぎ、俺達を目の敵にしてさらなる憎悪でクーデターが始まってしまう。仮に、俺達がアリサ先生に倒され、先生のクーデターが始まってしまうとしよう。俺達がやられたことでダイバーバトラの人達はツリーハウスに対する憎悪が生まれあっという間に大戦争だ。どんな結果であっても憎悪の惨禍が広がってしまう。アリサ先生の呪縛は解かれることはない」

「龍、お前はアリサに同情しているようだがそれはとんだお門違いだ。確かにあいつは信念を持ちあいつなりの”正義”で闘っている。だが、それはあいつの正義にすぎない。俺達だって国に危険を及ぼす存在から守るという正義を持って闘っている」

「別に俺は同情している訳ではないよ。ただ、この憎悪の惨禍を止めたいんだ!」

「異なる正義が衝突するから闘いが生まれ、戦争が生まれる。俺達は平和を語るほど人生を歩んでいない。今、俺達が出来るのは国の為、正義の為にただひたすらに拳を振るい、剣を振るうしかない。俺達は国に雇われている。俺達は国という大きな銀行に命という財産を預けているんだ。国が損する可能性があるものは徹底的に排除し、国が得する可能性があるものは徹底的に受容することが俺達の役目だ。決して感情論で動いてはならない。利益の為に動き、血を流さねばならない」

「進もそういう考えなんだね。俺の同期もお前と同じことを言った。だが、俺はそうは思わない。お前たちは物事の本質を考えようとせず、ただ”そういうシステムだから”という理由で思考することから逃げているだけだ! 俺の力は、俺達バトラの力は単なる国の道具としてではなく、誰かを守り、誰かを助け、誰かを救うためにあると思うんだ……」

「綺麗事を抜かすな。闘いは人の内面、心を変えることはできない。変えることができるのは人の外面、つまり体だけだ。お前の剣で傷つけられるのは人の心か? 凛の光で癒されるのは人の心か? 違うだろ。闘いで変えられるのは人の体だけだ」

「じゃあ、なんで進は俺達と共に闘っているの? 出会った時の進なら決して俺達と関わることは無かったはずだよ」

「俺はお前らの仲間になった覚えはない」

「いや、進は変わってるよ。目は口ほどに物を言う。俺は進の目を出会った当初からずっと見てきた。だから分かる。進は変わっているよ。それも内面からね。変わり始めたのは俺達と闘った時からだ」

「お前は何が言いたい? 何をしたい?」

「俺はアリサ先生を救いたい!」

「は……。何を言っているんだ。赤の他人、しかも敵を救うだと? ついにおかしくなったか」

「赤の他人じゃないよ。あの人はアリサ先生、俺達の先生だ!」

「だから! あいつが話していただろう。あいつはダイバーシティに恨みを持ち、クーデターのために言うならばスパイとして教師を装っていただけの悪人だ」

「違う! アリサ先生はアリサ先生だ。そこに嘘偽りはない。俺はアリサ先生の過去を聞いて、改めて凄い人だと思った。特殊な人生を歩みながら、それでも自分の意地を持って気高く生きている。そんな凄い人が憎悪と言う名の呪縛に雁字搦めにされる必要なんてないんだ。あの人を蝕んでいる負の呪縛を解いてあげないといけないんだ。確かに大変かもしれない。アリサ先生の話しだと俺達ダイバーバトラにも非があるから、アリサ先生の呪縛を解くのは容易ではない。だからといって、アリサ先生のあのやり方は間違っている。俺は人生経験が少ないから、俺の方が間違っているのかもしれない。進の言うとおり綺麗事かもしれない。でも、俺だってアリサ先生程ではないけど、険しい人生を歩んできた。幼い頃父を失い、戦校に通うまではずっといじめられ、不登校になったからね。だから、戦校でみんなと出会って救われた時のあの言葉に表せないほどの嬉しさも俺は知っている。それを先生にも味わってほしいんだ……」

「お前は何を望む?」

「俺は、ただアリサ先生とみんなが笑っているあの日々に戻りたい……。今度はアリサ先生が心の底から笑って……」

 今までキャッチボールのように途切れなく会話を繰り広げていたが、進がここでその会話の流れを途切れさせた。

 進は一度目を瞑った。龍が言っていた”あの日々”を想起する。

 そして、一度止めた会話の流れを進めた。

「分かった。百歩譲ってお前の意志に委ねよう。だが、失敗した場合、国家の存亡を脅かす危険人物としてアリサを処理する。いいな?」

「ありがとう進。十分だよ。さすがに俺もそこまで甘くないよ」

「よし、まずはこの牢を脱出するぞ」

「あ……忘れてた……」

「はー……。こんなバカに委ねてしまったのか……」

 進は手で目を覆いながら、今さっき言ったばっかりの出来立てほやほやの自分のセリフに後悔し始めた。


 ☆ ☆ ☆


 一方、凛と剛の目の前にはアリサの四柱で創造された人間が立ちはだかっていた。

「これはまるで……」

「もう一人のししょー!」

 そう、その姿容は木で模られたアリサそのものだった。


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