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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
3/42

第三伝(第六十八伝)「ツリーハウス」

 第三伝です。いよいよ謎の単語、ツリーハウスの概要が明らかに。お楽しみにどうぞ。

 センターハウスの三階は、二階の厳粛な雰囲気とは正反対のガヤガヤした明るい雰囲気をかもし出していた。

 まず龍の目の前に飛び込んできたのは、バトラが和気藹々と談笑している姿。まるで、戦校の授業前のようだ。

 三階は廊下も大小様々な部屋も無く、仕切りが無い階層全体を筒抜いた一つの巨大な部屋のようになっていた。

 その部屋の壁面に備え付けられているいくつもの大きな電光掲示板に小さな文字で大量の情報が流れていた。

「あのひときわ目立つ電光掲示板には、センターハウスに舞い込んだ全てのバトミッションが表示される。これを見てバトラはバトミッションを選んで受注することが出来る。もう一つ方法があるのだが、それはおいおい……」

「ほうほう」

 しかし、あの電光掲示板目がちかちかするな……。

 龍は、めまぐるしく情報を伝達する電光掲示板に目を悩ませていた。


 四階は、和食や洋食といった外国食やダイバーシティの郷土料理を扱うお店が利益を求めて多数出店する巨大なフードコートとなっていた。

 三階と同じか、それ以上の騒がしい人の声が龍の耳に色濃く反映された。

「腹が減っただろ? ここで昼食にしよう」

 そう言えば……。

「グウッ」

 龍の口の代わりに腹が戦樹の言葉に応えた。

 時計の針はすでに十二時を指していた。ちょうどお昼時の時間だ。

「混んでますね……」

「時間も時間だからな」

 フードコートはお昼時ということもあり、大盛況を見せていた。パッと見た感じでは空いている席が無いようにも見える。

 龍と戦樹の二人はフードコートを徘徊し、ようやく見つけた二人用の席に腰を下ろした。

 龍はポケットにしまっていた、子ども用のような安っぽい財布をおもむろに取り出し、財布の大口名チャックをぱっくりと開けた。

 やばい……。金が無い……。

 龍の安っぽい財布には、これまた安っぽい金額した持ち合わせていなかった。

 所持金は1000ge(ge「ゲイル」はこの世界の通貨単位。貨幣価値は円とほぼ同じ)。

 これでは一日乗り切るのがやっと。二日目なんてとんでもない。

 フードコートだから一食700geくらいだから、夜はカップめん……。

 龍が哀しき金感情をしていると、鶴の一声が龍の耳に天から届いた。

「私が奢るから余計な心配はしなくていい」

 お……ご……り……!

 戦樹の鶴の一声を受けた龍の眼はお金のようにキラキラしていた。

「ほ、本当ですか?」

「当然だ。これが”大人”というものだ」

 大人……。この余裕が大人なんだ……。

 龍は大人の尊さを意外な形で知ることができた。

「ありがとうございました」

 この龍の言葉は、心の底からの感謝だった。


 龍と戦樹は仲良く同じものを頼んだ。種類が多すぎると周りに合わせるという心理を如実に表していた。

 二人が頼んだものは、ダイバーシティの郷土料理の中でも常に上位人気に支持されている「エメリル」。白米をエメラルド色の摩訶不思議なソースにからませた料理。正直、食欲がそそられる見た目ではない。

「これ、おいしいんですか?」

 一度も食したことの無い龍はその見た目に、戦樹に勧められるがままに頼んだことを少し後悔していた。

「食べてみればわかる」

 龍は戦樹に背中を押され、手持ちのスプーンで料理を一すくいして、慎重に口に運んだ。

 口に運ばれた瞬間、エメリルは龍の後悔を完全にかき消してくれた。

 う、うまい……!

 見た目はあれだけど、このエメラルド色した謎のソースがおいしさを引き立てている。さらに、このソースはソースにしてはデザートのように甘いが、ソースらしい濃厚さを併せ持っている。これが白米と絡み合って絶妙なハーモニーを引き出している。

「お、おいしいです!」

 龍は自分の舌で感じた味覚をそのまま声に乗せた。

「そうか良かった。これは私の故郷の料理なんだ。私の故郷にある王樹(キングツリー)の樹液を使った料理なんだ」

「なるほど、このエメラルド色のソースが樹液というわけですね」

「そうだ」

「そういえば、戦樹さんの出身地って?」

「ああ、そういえば言っていなかったな。”ツリーハウス”というダイバーシティの東のはずれにある小さな街だ。我々は先ほど言ったキングツリーの幹の内部に生活している」

「内部ですか!? そのキングツリーってどれだけでかいんですか!?」

「全長二百メートル、全幅一万メートルの世界ナンバーワンの巨木だ」

「なっ……!?」

 あまりの驚きに、龍は口の中に含んでいる料理が飛び出そうになった。

「街はキングツリーの内部、道は枝だ。家は幹の中にある」

「ぶっ!」

 さらなる驚きの進撃に、龍の口の中は制御できなくなり、龍の口に中に引きこもっていた食べカスが外界に飛び散ってしまった。

「大丈夫か? 龍君はなかなかいいリアクションをするな」

「は、はい。なんとか大丈夫です。戦樹さんはそこの生まれなんですか?」

「ああ、そうだ。ツリーハウスの住人は遠い血ではあるが、皆血がつながっていて、住人全てが”階堂”という姓を持っている。ここまでは普通だが、ここからがツリーハウスならではの風習といえる。ツリーハウスの住人は生まれながらにして血の優劣によって一から四の数字が加わる。数字が小さいほど優秀な血を持っている」

「それじゃあ、戦樹さんは?」

 何かに勘付いた龍は、恐る恐る口を開いてみた。

「ああ私の名は四階堂戦樹。四の姓をもっている。つまり、私はツリーハウスの中では落ちこぼれの部類だ」

「そんな……戦樹さんですら……」

「そうだ。それほどツリーハウスの住人の能力は秀でている」

「なんかその制度嫌です! まるで差別じゃないですか!」

 龍は拳を必要以上に力強く握りしめながら、声を荒げた。

 そのツリーハウスの異質な制度はまるで、自分がいじめられていた過去を彷彿とさせるものだったからだ。

「差別か……。確かに数字ごとに隔離されてるからその考え方は正しいかもしれないな。ただ、そのおかげで他の数字を持つ住人と交流することはなく、差別を受けたこともない。陰でいろいろ言われているかもしれないがな。ともあれ、四の私ですら一度は道を外れてしまったものの、こうして真っ当にダイバーシティのバトラとして働いているのだから、別段負い目を感じたことはないな」

「たくましいですね」

 龍がこう発言したのには理由があった。

 自分も差別を受けていた。自分はその差別に耐えることができずに逃げてしまった。だが、彼は違う。彼は逃げずに自分の生きざまを貫き通していた。それが決定的に違ったのだ。

「おだてても何も出ないぞ」

 フフッという笑い声と共に、和やかな空気が二人を包んだ。


「右腕は治ったんですか?」

 龍はそれとなく、戦樹に対し気になってことを聞いてみた。龍の素朴な質問で、和やかな空気は再度ピリッと引き締まった。

 戦樹は仕事中に右腕を壊した。それを期にバトラ業を休業する事を余儀なくされた。そしてその事実に絶望していた時に、エルヴィンに付け込まれ一度道を外してしまった。

「最近良くなっているが、完全には治っていない。まだ、エルヴィンさんの”気”に頼っている部分が大きい。だからこそ、エルヴィンさんに対する私の忠誠心は変わらない」

「エルヴィンさんのことをまだ……」

「ああ。あの方は私にとっての恩人だ。それは変わることの無い事実だ」

 龍は戦樹の器の大きさに感動しつつ、戦樹の故郷、ツリーハウスのおふくろの味、エメリルをペロッとたいらげた。

「ピーンポーンパーンポーン。一撃龍様、スクリーズの受け渡しがあるので一階の総合受付の脇にあるインフォメーションセンターにお越しください」

 建物全体に聞こえるようにして響かせる場内アナウンスが龍の耳に伝わった。

「龍君、お呼びだぞ」

「そう言えばスクリーズって……」

「まあ楽しみにしてなさい。食器は私がかたしておくから早くいきなさい」

「なにからなにまで、ありがとうございます」

 龍は食器を戦樹に任せて、階段を駆使し、小走りで一階まで駆け降りていった。


 センターハウスの顔であり、バトラの力を猫の手を借りたいほど欲する依頼者の人たちを一手に引き受ける一階にある大きな総合受付。

 その脇に目立たないように設置されているこじんまりとした受付。これが、インフォメーションセンターのようだ。

「すみません、先ほど呼ばれた一撃龍です」

「一撃龍様ですね。お待ちしておりました。こちらがスクリーズになります」

 そう言ってインフォメーションセンターにきっちりとした姿勢で立っていた細身のお姉さんに手渡されたものは、手のひらサイズの黒い光沢が綺麗な新品の携帯機器であった。

 龍は二つ折りで閉じて、見えなくなっている顔を隠しているスクリーズをカパッと開帳し、その顔をおがめた。

 その顔の全ては黒光りした大画面だった。それは、タブレットに近いようなものだった。

「それでは使用方法を説明しますので、こちらの方へお越しください」

 スクリーズを手渡してくれたインフォメーションセンターの女性が案内したのは、インフォメーションセンターのそばにある、二つの椅子が設置されたこじんまりとした丸机だった。

 お姉さんと龍は、丸机を挟む形で向かい合って座った。

 丸机の上の中央には不気味な黒光りを放つ大画面を携えた、スクリーズが堂々と構えていた。

「それでは、電源をつけますね」

 女性はそう言うと、スクリーズの側面に設置されてある、電源と思われるご飯粒ほどのポッチを人差し指で押した。

 すると、今まで黒光りしていた画面に、白色の光がともった。電源がついたのだ。

「おお……」

 その思わぬスクリーズの豹変ぶりに龍は思わず声を漏らした。

「それでは、指紋認証をしますので、人差し指をタッチしてください」

 ん……?指紋認証……?

 龍は指紋認証という言葉にクエスチョンマークを投げかけた。

 スクリーズの画面でも、「人差し指をタッチしてください」という表示で訴えかけてきた。

 龍は不信感を抱きつつも、言われるがまま、表示されるがままに人差し指の皮膚をスクリーズの画面に置いた。

 すると、画面はそれに呼応するかのように切り替わり、真っ白で無機質な背景に多数のアイコンが表示されている。ホーム画面であろう画面に切り替わったのだ。

 なんで俺の指紋をこいつが知っているんだよ……。

 龍はスクリーズが自分の指紋を感知し、画面が切り替わったことに、底知れぬ恐怖を覚えていた。

 個人情報の流出。今の時代これを犯してしまったら、取り返しのつかないことになってしまう。

 だが、現に自分のデータが機械に垂れ流されている。

 龍の顔はどこかのネコ型ロボットのように真っ青になっていた。

「安心してください。指紋データは戦校でとらせていただいたもので、スクリーズの本人認証のためのだけのもので、指紋データは破棄させていただきました」

 お姉さんは龍の顔色の変化に気づいて、その変化した顔色を元に戻すかのように優しい口ぶりで言った。

 あ、そう言えば……。

 龍は本日、二度目のタイムスリップを敢行した。


 ~戦校時代~

「卒業試験に合格した人、ちょっときてー」

 それは卒業試験の合格発表を終えた翌日のことだった。

 アリサは卒業試験合格者、つまりこれからバトラになる者を教壇に収集させた。

 合格者はアリサを囲むようにぞろぞろと集まった。

「これから、みんなの指紋を取りまーす。この画面に人差し指をタッチしてね。この指紋はバトラになってから使うから協力よろしくー★」

 

 ~現在~

 クソッ……!あの時か……。

 龍は心の中で思いっきり苦杯をなめていた。

「だ、大丈夫ですか? 説明を続けてもよろしいでしょうか?」

 龍の心の中のいざこざが表情に出たらしく、お姉さんは心配そうに尋ねた。

「は、はい。大丈夫です」

 自分の心の中を見透かされて恥ずかしかったのか、龍は声で動揺をもらしながら、了承した。

「それでは、まずこちらをご覧ください」

 お姉さんはスクリーズが懸命に表示してくれているホーム画面の左上にある「バトラ証」というアイコン慣れた手つきで人差し指を使いクリックした。

 次にスクリーズが表示してくれた画面は、免許証のようなものが一杯に写しだされている画面だった。左上には龍の顔写真、右上には龍の本名、その下に現在の龍のランクを表す「ノーマルランク」という文字。さらに、その下には龍の実家の住所等が記載されている。龍の個人情報がこれでもかと羅列されているものだった。

「これは『バトラ証』といって、バトラであることを証明するための証明証となっております。バトミッションを受注する際の個人確認等、多くの場面で使うことになります」

 おお……。なんかかっこいい……。

 龍はスクリーズの画面を見ながら目をキラキラさせていた。刑事ドラマでよくある、計時が華麗に警察手帳を見せ捜査するシーンに憧れがあったからだ。

 お姉さんは、そんな龍のキラキラした目に若干戸惑いを見せつつ、スクリーズを巧みに操り、画面を切り替えた。またしても、無機質なホーム画面に戻ってしまった。

 続いてのお姉さんの人差し指の接触相手は、「バトミッション」というアイコンだった。

 スクリーズはお姉さんの指に即座に反応し、新たなる画面を示した。









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