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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
23/42

第ニ十三伝(第八十八伝)「真実を見る」

第二十三伝です。真実って実際に見ないとわからないものですよね。それではお楽しみください。

 レイサが手に持っていたものは、とても人間の手が加わったとは思えないほど自然的な木剣だった。

「その剣はなんだ?」

 落岩ドロップ

 永錬が持つ岩属性をふんだんに使い巨岩を生み出し、それを放つ、いわば永錬の隠し技。それもただの巨岩ではない。永錬のスペシャルを生み出す根源とされているライフソースを駆使し、オリジナルで創造した特別製の巨岩。並大抵の力で破壊することなど到底不可能である。

 だからこそ、その巨岩をいとも簡単に破壊してしまった、レイサが持っている木剣のことについて尋ねた。

「限界が訪れたのだ。”生身”で闘う限界がな」

 レイサは得意満面に答えた。どうやら、その木剣に絶対の自信があるようだ。

「質問の答えになっていない。その剣はなんだと聞いている」

「答える義理はない。この剣と直接交わり得意の分析で答えを見つけたらどうだ」

「ごもっともだ」

 この言葉を皮切りに超一流の剣士同士のせめぎ合いが始まった。

 レイサと永錬という二人の職人に導かれた剣の刀身は……。

 見えない!!

 突き、振り、払い、受け、様々な動作を超速で、それも的確に繰り出している。

 この攻防の中、レイサが仕掛ける。

 レイサは左右に一振りずつ、計二振りを披露する。卓越した剣速により、木剣に巻かれているツタが必死に剣の残像を追うようにして、殺伐とした戦闘を彩るかのようにひらりと舞う。

 永錬は完璧にレイサの剣の動きを完璧に見切り、紋章刀で受ける。

 しかし、レイサの本当の狙いはこれでは無かった。レイサは左右に二振りした後、すぐに剣を構え直し、高速の突きを繰り出した。

 永錬は刀を横向きに構え、剣先を左腕で支えるようにして、なんとか受けるものの、レイサの剣速に圧されズルズルと後退してしまった。

「どうした? 動きが鈍いぞ」

 レイサは永錬に挑発して見せた。

「これぐらいどうってことはない」

 おかしい……。奴の剣に触れるたびに力が抜けていく……。

 永錬は言葉では余裕みせているものの、自分が抱えている異変を感じ取っているようだ。

「仕方あるまい」

 永錬は半歩退き、間合いを取った。剣術の達人が、剣同士の闘いを避けたのだ。

 続いて、永錬は地中から拳サイズの手頃な岩を大量に出現させた。永錬は左手を前方にかざし、まるで自分が指揮者にでもなったように、チグハグな岩達を統率し、一斉に動かした。永錬の指示によって放たれた統率のとれた拳サイズの岩達は一挙にレイサに襲いかかった。

王樹(キングツリー)粘液(ブレス)!」

 緑色に輝くレイサの木剣から、レイサの体内から血の代わりに流れ出たものと全く同じ液体が吐き出された。

 いかにも濃度の高そうな透明な液体は、レイサの身を守るように壁を生み出した。透明な液体でできた壁は高尚でいて怪奇。その壁は何物も通さないような絶対的な自信が見え隠れしていた。

 透明な壁は、その見た目通りの活躍を見せた。統率がとれ勢いよく飛び出してきた岩の群生達を完璧にシャットアウト。やる気に満ち満ちていた岩達は、急激にやる気をそがれたかのごとく、地面に勢いなく失墜していしまった。

 おかしい……。私の岩は私のライフソースを大量に埋め込んだ特別製だぞ……。あそこまで簡単に蹴落とされるなどありえない……。

 この光景に永錬は心の中で愚痴を漏らしながら、反射的に眉をひそめた。自分の攻撃が通用しないこの状況が面白くないようだ。

 可能性があるとするならば……。

「その剣は私のライフソースを奪っているのか?」

 永錬は一つの結論にたどり着いた。

「黙秘権といいたいとことだが、我の能力をここまで見抜いた褒美だ。正直に言おう。正解だ。この木剣、樹厳(ジュゴン)はキングツリーから創られた唯一無二の木剣。創成期からありしこの剣は、ツリーハウス創始者・階堂アスカ様がこの地を統べたとされている。キングツリーは我々に特別な力を与えると同時に、その計り知れない生命力を維持するためにバトラの力の根源であるライフソースを喰らう。当然、キングツリーから創られた樹厳も、その能力を有する」

 レイサは機嫌がいいのか、べらべらと解説を始めた。

「なるほどな。私の動きが鈍ってしまったのもそのためか」 

「その通りだ。そして、終わりだ。王樹(キングツリー)活動(タイム)!」 

 木剣、樹厳の切っ先、刃の中心部分、刃の根の部分から、幾多もある猛々しいツル達が、地上の世界に行くことが待ち遠しかったかのように、一斉に飛び出した。頑丈そうなツル達は一心不乱に、永錬という養分から栄養を補給するために猛進を開始した。

「古斬術・三戒!」

 永錬は自身に迫りくるツルを二撃の縦振り、一撃の横振り、計三振りで、傲慢なツル達を切り刻み養分ではないことを主張した。

 古斬術。

 大昔の剣士バトラが編み出したとされる斬撃術。基礎を主軸とする単純明快な斬術から、習得が困難な複雑奇なりな斬術まで実にさまざま。

 永錬が使用した三戒は、二振りの縦斬りで敵の左右の腕を落とし、一振りの横斬りで敵の首を落とす。的確かつ迅速に敵を殺し、自身の斬術を今一度戒めるために使われると言う。

 しかし、いくら古から伝わる斬術を使用したからといって、人が生れ落ちるはるか以前から存在していたとされるキングツリーの生命力たるや人知を優に超えていた。

 ツルは永錬から斬られた部位をいとも簡単に再生し、再び栄養を補給し始める。

「これではキリがないな……」

 そして、樹厳から生み出されたキングツリーのツタはいとも簡単に歴戦の猛者たる永練を手足、胴体、体のいたるとことの部位まで侵入し、永練の体という体を雁字搦めにしてしまった。

 力が抜けていく……!

 次に永練を襲ったのはライフソースの吸収だった。

 骨の髄から絡みとるようなキングツリーの吸収力は、並大抵の人間ならあっという間に水一滴も与えられなかった花のように干からびてしまうことは明白だった。

「ああ、我に力が! 我に特別たる力が入っていく!」

 レイサが狂ったかのように喋り始めた。

 どうやら、永練の吸収されたライフソースは、そのままレイサの体に流し込まれるシステムのようだ。

「なぜ、あんたに俺の力が入る? 俺はあんたの剣に吸収されたのであって、あんた自身に吸収されたのではない。剣と体がリンクしているとでもいうのか?」

 永練は体中をキングツリーのツルによって巻きつかれ、身動きが封じられ息をすることもままならない状況でも、慎重に息を整えながら発話を試みた。

「冥土の土産として我の特別たる力の正体を教えてやろう。我と木剣・樹厳は決してリンクしているのではない。木剣・樹厳はキングツリーとリンクしている。そして、我もキングツリーとリンクしている。つまり、樹厳→キングツリー→我という関係式が成り立ち、イコール樹厳→我という関係式も成り立つというわけだ」

「キングツリーとリンクだと? どういうことだ?」

「凡たる貴様は理解出来ぬかもしれんが、我はキングツリーの生命力を共有している。キングツリーの膨大な力を我は保有している。我はあの巨樹と同じ存在なのだ。貴様ごとき矮小な存在が崇高な我を統べることはおろか、歯向かうごとき愚鈍なことだったのだ。安心しろ。我と貴様は敵同士ではない。我らとの同盟を諦め、降伏しろ。そして、今すぐに我らの元から離れ、二度と我らのもとに姿を現すな。貴様の知略的な闘い方は愉しかったぞ。しかし、相手が幾分悪かった。我と貴様とでは人としての”価値”がまるで違う」

「あんたは一つ誤解している。俺は決して凡小な存在ではない。俺もあんたと同じだ。俺は”世界に三本しかない”紋章刀に選ばれし者だ」

 永錬の腰に携われている唯一無二の相棒である虎の紋が凛々しい紋章刀は、キングツリーのツルに巻きつけられ、苦しむご主人を助けるたえめに、まるで自我が芽生えたかのごとく自動でご主人の胸元に入っていった。

 すると、まばゆいばかりの橙の光が永錬の体から発生した。あまりの光力により、永錬の姿を認識することはできない。

「なんだ、その光は?」

 レイサはこの闘いにおいて、いやこの世に生まれおちて初めて”恐怖”というものを感じた。額から滴り落ちる透明な汗がそれを証明していた。

「いずれ分かる。紋章刀・具現リアル!」

 時が止まったかのように静かな戦場に似合わない、バサバサバサという騒々しい音がこだました。そして、戦場の時は今まで止めていた時間を取り戻すかのように、激しく動き出した。

 まず、堅牢なる捕縛力を誇っていたツルが瞬く間に切り刻まれた。いや、粉々に砕かれたという表現が正しいかもしれない。

 それだけでも衝撃的な出来事なのに、それを凌駕する光景が戦場に広がっていた。

 永錬の姿がとんでもない変貌を遂げていた。

 本来、人間というものは二本の脚で地を踏み、歩く二足歩行を用いている。しかし、永錬はそんな研鑽を経て進化していた二足歩行から、退行していた。

 永錬は四肢をしっかりと地につけた四足歩行を実現させていた。

 そして、永錬の四肢は百獣の王を予感させる勇ましい黄と黒のストライブが刻まれている。服で体こそ見えないが、おそらく体もそうなっているだろう。

 口周りに目を向けてみると、どんなものでも噛み砕きそうな鋭利でいて頑丈そうな牙が両端に備わっていた。

 さらに額には、永錬の姿の答え合わせをするかのように、紋章刀の鍔の部分に深々と刻印された虎の紋が刻まれていた。

「なんだ、その姿は?」

 レイサはこう問うた。いや、こう問うしかなかった。

 今まで凡な存在としてしか見ていなかった人間の姿が、明らかに人間のそれとは逸脱していたからだ。

「紋章刀。獣の魂が入れられたこの刀は、認めた者と契約を交わす。そして、認めた者を媒介として具現化する事が出来る」


「うわああああ!」

 永錬の姿にとんでもない変化が生じていた頃と時を同じくして女性の痛烈な悲鳴が上がっていた。声の主はレイサに仕えていた二階堂の女。二階堂の女は悲鳴を上げた直後、膝から崩れ落ち、悶絶していた。

「おい、どうした?」

 レイサに先ほどまでの余裕が見事に消えていた。先ほどのゆっくりとしたしゃべり方はどこへやら。早口で部下の返答を要請した。

「なんだ、全然楽しめないじゃん」

 二階堂の女の代わりに返答したのは、口に風船を含んでいるかのように、頬をプクっと膨らませた、無垢な少女のような赤髪の女だ。

「なぜ、貴様がいる? 貴様は倒されたはずでは……」

 そう。この女こそ、永錬の部下であり、ダイバーシティ創世記の英雄の一人として数えられる邪化射マギアその人である。確かにマギアは開戦直後に二階堂の女の手により木の下敷きになったはずだった。

 しかし、そこには木の下敷きになり木屑でみすぼらしい姿になっている人形があるだけだった。

「あの人にはね、いい夢を見てもらったんだよ」

「どうなっている?」

「よそ見をするな」

 な……ぜ……だ……?

 なぜ、奴の憎たらしい声が我の耳元で聞こえてくるのだ……。 

 レイサの心中は激動していた。渦潮のようにぐるぐると渦巻いている。

 半人間、半虎のようになっている永錬は、すでにレイサの背後を取っていた。レイサが全く反応できていないことから、そのスピードは転法のそれを遥かに超えている。まさに、人間離れ。永錬の今の姿にふさわしい言葉だ。

 永錬は紋章刀の影響で、傷つけるためだけに存在するような鋭い爪がレイサの綺麗な首に突き付けられた。

「ば……か……な。我以上に特別な者などいるはずが……」

 特別か、特別ではないか……。

 今はそんなことはどうでもいい。

 一つ分かった。

 この者には勝てない!

 理屈では無い。本能がそう言っているのだ。

 レイサは本能のままに剣を手から離し、両手を挙げた。

 この瞬間、勝敗は決した。

 この闘い、ダイバーシティの長である小門永錬の勝利である。


「我だけが特別ではないのか……?」

 レイサは右手を見ながらつぶやいた。レイサに植え付けられていた確固たる考えがゆがもうとしていた。

「俺はあんたの気持ちが分かる。俺も昔はあんたと同じで、自分だけが特別な存在だと思っていた。俺はそれが証明したくて放浪の旅を始め、世界を冒険してきた。だが、世界は広かった。世界にはいろんな奴がいた。世界は決して自分の物差しでは測れない。まさに、今のあんたは”井の中の蛙大海を知らず”だ。俺達と同盟を組み、外に出よう。世界に出よう。このままだとあんたは”昔からの教え”で植え付けられた固定観念という偽りの世界観にがんじがらめになるぞ。俺を縛ったキングツリーのツルのようにな。この目で”実際に見て”真実の世界を見て、その呪縛から解かれてみないか?」

「永錬といると退屈はしないよー」

 いつの間にか元通りの姿になった永錬と、頬を膨らませるのを止めにこやかな表情を見せているマギアはレイサに手を差し伸べた。 

「我は負けた。約束だ、致し方あるまい。同盟を組んでやる。ただし、条件がある。あくまで”対等”な関係とする。我らの上に立つことは許されない。それでいいな?」

「十分だ」

 レイサは左手で永錬の手を、右手でマギアの手を握った。ツリーハウスとダイバーシティ、二つの相反する存在が同じ方向を向いた瞬間である。

 ここから、ツリーハウスはダイバーシティにキングツリーの力と、ツリーハウスの住人の戦力の提供、ダイバーシティはツリーハウスに資金の提供と、ダイバーシティへの自由な行き来と自由に居住する権利を与えるという同盟関係を現在まで続いていくのであった。


 ☆ ☆ ☆


~現在~

「ここまでがツリーハウス創世記のお話。そして、ツリーハウスとダイバーシティと同盟を組んだ二十数年後、私、一階堂アリサは生まれた」

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