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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
22/42

第二十二伝(第八十七伝)「特別な力、特別な存在」

第二十二伝です。みなさんは一度でも自分が特別な存在だと思ったことはありますか。恥ずかしがらずに言います。私はあります。ということでどうぞ。

 一階堂レイサと小門永錬は互いの目を観察しながら、対面した。

 ツリーハウスとダイバーシティ。性質は大きく違えど、互いに一つの組織の頂点に立つ存在。

 そんな二つの存在が相見えるこの異様な状況に、ツリーハウス前にある荒野の穏やかだった空気が一変し、他の存在を許さないような張りつめた空気が流れ始める。

 永錬は相棒である紋章刀をしっかりと両手で持ち、構える一方で、レイサは武具の類を一切構える素振りをすることなく、手に腰を当てながら、余裕そうな表情で永錬の目を見つめているだけだった。

「武具を持たないのか?」

 レイサが戦闘態勢を取ったように見えず、疑問にも持った永錬は攻撃の前に声を飛ばした。

「戦闘中に敵に尋ねるとは、これだから外界人は困る」

 レイサは永錬の問いを軽くいなした。

「まあいい。容赦はしないぞ、いいな?」

「いちいちむかつくやつだ。ツリーハウスの頂点である我の前にひれ伏すがよい!」

 ザーという不気味な風が荒野に吹き付ける中、気になる初手の攻防だが、我々の願いむなしく二人に動く気配が感じられない。二つの頂点はまるで、石像のように微動だにしない。

 こいつ……。

 出来る!!

 二人は同時にこう思った。

 性格も能力も全くの不明である両者の戦闘。考えなしに突っ込むのは得策ではない。この状況では、まず相手の能力を判断し、それに見合った攻撃を開始するのがベター。

 組織のトップに君臨する両者は、それは当然のように頭に入っていた。

「さっきまで、あんなに自信があった割には、随分と私を警戒しているようだな。様子見から入るとは、口に似合わず実に慎重な戦闘だ」

 永錬は言葉による攻撃を開始した。挑発して、相手を精神的な揺さぶって”仕掛けさせる”のだ。

「なるほどな。確かに貴様の言い分は一理あるな。では、後悔するが良い!」

 レイサはその挑発に乗った。初手の”仕掛け合い”勝負はひとまず永錬の勝利。

 ようやく戦況が動いた。レイサは荒野の地を踏みしめながら、走りだし、永錬との距離を詰め始めた。

 レイサの詰めで、戦闘距離は中距離から近距離へ変化した。

 距離をわざわざ詰めてくるあたり、どうやら属性や自身のスペシャルで中、遠距離技、つまり”特撃”を使う気はないようだな……。武具を所持していないあたり、剣等の武具で攻撃する”武撃”を使う気もない。

 やはり、自らの体で攻撃する”体撃”か!

 永錬の読みは的中。レイサは体撃を駆使し、永錬を攻撃した。

 まず、挨拶代わりに左右一発ずつ、計二発の正拳を披露。永錬は、それをこちらも挨拶代わりといった具合で両腕を巧みに使いレイサの正拳突きを捌く。

 レイサは飛び上がり永錬の肩めがけてかかと落としを炸裂させた。永錬はとっさに紋章刀を肩の前に構え。刀でレイサのかかとを止めた。

 そろそろこっちの番……。 

 基本的にスタミナの問題により一攻防の時間は限られている。時間的にも、自分のターンが回ってくると確信した永錬だが、今回は読みが外れた。

 レイサの攻撃は止まらなかった。

 レイサは次に後方へバク天。バク天し遠心力を発生させ、体を回転させながらも、蹴りを披露した。サッカーのオーバーヘッドと原理は全く一緒だ。

 この突発的な攻撃で、ようやく永錬の頬をかすめた。これが微々ながらも両者通じて初のダメージだ。

 しかし、この攻撃を終えても、レイサの手は緩むことはなかった。

 二段蹴り、アッパー、裏拳、様々な種類の技を巧みに使い永錬を追い詰めていく。

 なぜだ……。

 なぜ、奴の攻撃が止まらない……?

 スタミナ切れを起こさない相手に、戦闘中ながらも永錬は頭をかしげるばかりであった。

 

 多少強引だが、仕方ない……。

 何か踏ん切りがついた永錬は、一旦引きレイサの攻撃に備えた。

 当然、レイサは一呼吸置くことなく突っ込んでくる。

「纏・放円斬撃!」

 永錬は突っ込んでくるレイサに対し、永錬は身体をまるでバレエダンサーのようにくるりと回転させ、絵に描くような美しさで華麗に回避。そのまま、遠心力を使い、レイサの肩辺りを斬った。

 スパッという誰が聞いても爽快な音で、レイサの体がいかに斬られたのかがはっきりと分かる。

「カウンターは好きではないのだがな。あんたがノーストップで攻撃してくるのなら、こうでもしないと起点が作れまい」

 永錬は刀を鞘にしまいながら、自慢げに言った。

「我に傷を負わせるなど……」

 レイサは身を震えさせながら言った。その震えは、恐怖から来るものなのか武者震いなのかは分かる術はない。ただ、明らかにレイサの身は携帯のマナーモードのように小刻みに振動していた。

「どうした? そんなに私があんたに傷を負わせたことに驚いたか」

「貴様はやってはいけないことをしてしまった。王樹がざわめき出すぞ!」


 街ほどある巨大な王樹が、不気味に揺れ動くのを永錬は確かに感じた。

 レイサを斬った。永錬は、確かにこの手で、この刀でレイサを斬った。

 しかし、レイサの姿を見ると、そんな事実は元からなかったようにしか思えなかった。

 人間の皮膚を斬ったのならば十中八九、皮膚の中に隠れている赤きサラサラとした血液たる存在が皮膚から摘出される。

 しかし、レイサの斬れた皮膚から浮き出てきたものは、赤いサラサラとしたものでは無く、透明な濃縮そうなドロドロとした液体だった。

「ああ、これが我がツリーハウスの住人たる、そして歴代有数の一階堂の称号を得たる所以! 我、特別の中の特別なり!」

 レイサは自身の斬られた皮膚を見ながら狂乱していた。いや、この場合、陶酔していたと言った方が語弊が少ないかもしれない。

 そして、その透明な液体は、自分の役目を果たすかのように、宿主であるレイサの綺麗な体を蝕むかの如く発生した、小汚い傷口を消滅させ、レイサの一組織の頂点に立つ者らしい美しき体を復元した。

「回復か、いやそれ以上か……。身体の組成自体を変えるなど聞いたこともないな……」

 永錬はレイサの身に起こっている状況を的確に分析していた。しかし、分析すればするほどレイサの能力が自分のてんびんでは計りきれないことに気づいてしまう。

「所詮、バトラとて人間。いくら能力を携えたところで”人間”という枠組みを取り払うことはできない。しかし、我らツリーハウスの住人は、その枠組みすら取り払うことのできる希有な存在!」

 レイサは言う。ツリーハウスの住人は特別なのだと。

 レイサは語る。ツリーハウスの住人は強いということを。

 レイサは主張する。自分こそが人知を超えた存在だと言うことを……!

「自分が神だとでも言いたいのか?」

 永練はこう問うた。

 神という言葉の定義はたくさんあるが、その中に間違いなく人知を超えた存在という定義も含まれているからだ。

「そうだな。ツリーハウス創世記からなぜかツリーハウスに存在していたとされる書物、『人神伝』にこう記されている。”神とは統べる存在である”と。つまり、我がこの世界を統べるのだ! 貴様らが我を統べるなど愚の骨頂である!!」

 ”自分は特別な存在である”。

 この信念がレイサの全てを形成していた。

「いや、あんたは少し勘違いをしている」

「我が貴様などに聞く耳を持つ道理はない」

 刹那、永錬の視界からレイサの姿は跡かたもなく消えた。永錬の視界に映し出されるものは、途方もなく広がる荒野の風景のみ。

 途端、永錬の背後からを棘で背中を刺されるような痛々しい感覚に襲われた。永錬はすぐにその感覚の正体に気付くことができた。

 レイサに背後を取られている……。

 速いッ!どうなってる……?転法を見切れる私ですら反応できない速さ……!

「極空回!」

 レイサは永錬の背後から跳躍しながら回転蹴りを敢行した。その回転スピードは人間とは到底思えないスピード、言うなればベイゴマのような逆に回転が遅く見えてしまう錯覚を起こすような超高速回転だ。

 その反則的な回転から巻き起こる遠心力と、レイサが元から保有している威力で、永錬の体はバッティングセンターマシンから放たれた硬球のように凄まじいスピードで吹き飛んだ。

 なんて威力だ……。

 あの速さと、この威力……。先ほどとは身体能力がけた外れだ……。

「何が起こっている?」

 永錬は持ち前の卓越した戦闘能力の高さでなんとか受け身を取り、早くから口を作動した。連続して起こる不可解な出来事に口を開かざるおえない状況に陥っていたのだ。

「逆に聞こう。なぜ、口を開いている?」

 レイサの言う通り永錬には口を開く暇さえ与えられることはなかった。

 レイサはすでに永錬の目と鼻の先に瞬間移動していた。そう、忘れてはいけないのはレイサは常に休むことなく戦闘が可能であること。

 レイサはへたり込んでいる永錬に喝を入れるように前蹴りをお見舞いした。

 永錬は腕を十字にさせて間一髪でこれをガードした。

 反応が早いな……。あれをガードされるとは……。

 レイサは確実に入るであろう攻撃をガードされ、心の中で永錬のことを感心しているようだ。


「少しはやるようだな。だが……」

 瞬く間にレイサの姿は再び永錬の目線の先から消えてしまった。

 そして、もうすでにレイサは永錬の背後に回り込み、自身の両腕で永錬の両腕をロックしてしまった。

 先ほどよりも速いッ……!

 永錬ほどの手練れであれば、一度同じ技を見れば二度同じ技は今後一切効くことはない。しかし、事実レイサの転法、いやそれ以上の移動法は永錬に通用した。

 ここから分かることは、レイサの移動法の精度がさらに上がったということ……!

「極空月衝!」

 レイサは技名らしい単語を叫びながら、大きく跳躍し、空中の世界へ旅行を始めた。

 永錬を連れて……。永錬の両腕を掴んでいたのはその為だ。

 レイサは跳躍をしながら、先ほどの極回で見せた超高速回転を始めた。レイサの中心からギュイインという空気を裂く音が聞こえ始める。回転スピードは想像を絶し、どんな屈強な者でさえ意識が飛んでしまうことは不可避である。

 しばらく、回転をした後、レイサは意識が飛んだであろう永錬を地上にぶん投げ、硬い地面にたたきつけようとした。

 永錬は自慢の紋章刀を地面に突き刺し、地面への直撃を和らげた。どうやら、永錬はレイサが発生させた高速回転で意識を飛ばさなかったようだ。彼もまた、他の者とは常軌を逸ししている。

 

 この攻防が終了した後、この戦闘で初めてノーストップで動き続けてきたレイサの動きが止まった。

 動きを止めているレイサの体の中で、唯一活発に動いている部分があった。

 それは、先ほどレイサの傷口から血液の代わりに流れ出た透明な液体だ。透明な液体は、意識を持っているように、独自で移動を開始していた。レイサの傷口のみならず、腕全体、いや服で見えないが、おそらく体全体を塗りたくっていた。

「あんたの能力の秘密が少しわかってきた」

 動きが止まったレイサを見計らったように、永錬は口を動かし始めた。

「ほう。少し聞こうか」

 珍しくレイサは体ではなく口を動かした。

「あんたの能力の秘密は、私が斬ったことにより発生したあんたの切り傷から流れ出た透明の液体に秘密がある。血液とは違うその透明な液体は、皮膚の再生、肉体の活性化、身体能力の向上の類のものを可能にする、まさに”特別”な液体のようだ。まず、あんたがスタミナを切らすことなく闘い続けることが出来たのも、その液体のおかげだろう。そして、あんたのパワー、スピードが飛躍的に強化されたのは、私があんたの皮膚を斬り、液体が外部に流れ出た後だ。つまり、外部に流れ出たことによりさらにあんたの能力が分かりやすく表現されたということだ。つまり、私があんたを斬撃したことは完全に裏目に出てしまったようだ。ただ、弱点もあるようだ。あんたが大技を繰り出した後、体外から流出している液体量が減ったことが見て取れた。そして、たった今、あんたは初めて動きを止めた。そして、その代わりに液体が動き始めた。これにより、あんたは常に体内に液体を巡らせ続けなければその能力は発動しないということだ」

「これほどまでに早く見破ったのは貴様が初めてだ。褒めておくぞ」

 能力を完全に見破られたのにもかかわらず、レイサはまだ余裕を見せていた。

 だが、肝心の液体の正体は見当もつかないがな……。 


「ともかく、ネタが分かれば怖いものはない。斬撃をしなければいいだけだ。岩細粒子連削!」

 いよいよ永錬の反撃が始まった。

 レイサの足場から無数の微細な岩石が発生した。その米粒ほどの岩石達は、レイサの命を削り取りように牙をむき、一斉に襲い掛かった。

 小さな岩石ソルジャー達は レイサの足、腕、腹、顔面、とにかくレイサを痛めつけるためならばどんな部位でも、容赦をすることなく、自分たちの役目を全うした。

「貴様……!」

 この時、初めてレイサのいやらしいほど余裕綽々だった表情は、跡形もなく消え去っていた。

「これならば、体中にあざができるだけで、傷口は発生しまい。傷口が発生しないならば、液体のこれ以上の体外流出は防げる」

 永錬が言う通りである。これならば、レイサのこれ以上の能力強化は防ぎ、なおかつレイサに着実にダメージを与えられる。

 永錬が対レイサ戦において初めて見つけた突破口だった。

「思いあがるな凡人が!」

 永錬の言葉が癇に障ったようで、レイサは激情した。またしても、驚異のノーストップ攻撃を敢行しようとした。

 が、レイサはその身を動かすことがままならない。まるで、レイサの体のいたるところに鉛が埋め込まれているかのごとく。

「あんたの体に付着し続けている、先ほどの微細な岩石は特別製でな。密度は金の数十倍。動くことすら困難だろう」

 今現在、明らかに永錬がこの戦闘の主導権を握っていた。これが永錬が一国を束ねる所以である、純粋な戦闘能力の高さである。

「これで終わりだ。落岩(ドロップ)

 今まで殺風景だった空が突如輝きだす。どうやらその中心に光源があるようだ。

 さらに、その光源に引き寄せられるように、大量の岩石が出現し、密集し始める。

 そして、空に完成されたのは隕石ほどある巨大な一つの岩石だった。その光景、まさに異様としか表現しようがない。

 その隕石はレイサという格好の標的を見つけると、即座に移動を開始した。地上に落ち始めたのだ。

「二階堂の者よ。あれを……」

「かしこまりました」

 そんな会話が聞こえた後、ドガアンという衝撃音が、辺り一帯を震撼させた。永錬が創り出した勇ましい隕石がレイサに直撃したのだ。

 レイサは無事なのか。その答えはすぐに分かった。

 なんと、その巨漢岩石が綺麗に真っ二つに割れていた。

 そして、レイサの手には柄と鍔が幹で作られ、刀身にツタがぐるぐる巻きにされた、原色の緑で輝いた木製の剣が存在していた。

 

 


 

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