表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
20/42

第二十伝(第八十五伝)「鬼に金棒」

鬼に金棒とは、ざっくりいえばもともと強い人がさらに強くなることを意味します。想像するだけでも怖いですよね。それではどうぞ。

「心!」

「心ちゃん!」

 剛と凛はぼろ雑巾のように無様な姿になれ果ててしまった心の元へ駆け寄った。出会ってからわずか二日あまりではあったが、心の人当たりの良さに、二人はすっかり仲間意識を芽生えていた。

 剛は樹希のスペシャルである超成長によって生み出された樹木に下敷きになった影響で、服のいたるところに付着している葉を払い、凛は両手を心の体に当て光を送った。

「ここは……」 

 二人の努力の甲斐あってか、心の意識が戻った。心は周りをキョロキョロみながら、目をパチクリさせている。どうやら、今いち状況をつかめていないようだ。

「ねえ。せっかく養分にできそうだったのに、どうしてくれるの?」

 樹希が持前の真っ黒い大きな目で凛と剛を威圧させながら、足場に散乱している自分が生み出した樹木の枝を踏みしめながら、一歩一歩進んでいく。

 凛は樹希を鋭い眼光で睨み付けた。女と女の一触即発ムードが、厳粛なツリーハウスの内部に滞る。

 

「もういいよ樹希。今ここで全てを終わらせる」

 アリサは、緑色に不気味に輝く、二体の浮遊する手のひらサイズの生物を自身の周りを旋転させながら言った。

「おい、龍! あれは!」

 鳳助が龍に警笛を鳴らす。龍は鳳助の警告を受け、分かったような顔をした。

「間違いない! あれは……」

 龍はアリサの周りを浮遊する生物に見覚えがあった。小さなお尻から飛び出たキュートな尻尾、頭から生えたチャーミングな兎のような耳、人形みたいなくりくりとした可愛らしいお目目、浮遊の原動力であるけなげで可憐な羽、そして体全体をまん丸な緑のシールドに覆われた、手のひらサイズのまさに妖精と呼ぶにふさわしいその生物は龍がお世話になったあの生物と特徴が一致していた。

「ツリーフェアリー!」

 サイズや細かな模様こそ違えど、あの姿はかつて龍が受けたバトミッションの依頼主である丸井高雄のペット、フェアルと見間違えるものであった。

「知っているのか龍?」

 ツリーフェアリーが初見である進は、知ったような口をする龍に尋ねた。

 そして、龍は慎重に口を開いた。

「うん。あのアリサ先生の周りを旋回している生物は、ツリーフェアリーといってツリーハウスで生まれた特別な力を持つ妖精なんだ。その、ツリーフェアリーを食らうことで、ツリーフェアリーの能力を得ることができるんだ。それは一般の人でも可能で、俺は一度バトミッションでツリーフェアリーを食らった一般人の人と闘った。相手は戦闘スキルを持たない一般人だったからなんとか勝ったけど、能力自体はかなり厄介。でも、その人はツリーフェアリーの力に体が耐え切れずに死んでしまった」

「龍君、どうやらツリーフェアリーのことについて詳しいようだね。でも、私はその人とは違ってれっきとしたバトラ。ツリーフェアリーを取り込んでも死ぬことはない。ツリーフェアリーは元々、我々ツリーハウスの住人の戦闘能力を飛躍的に向上させるために生み出された生物。ツリーフェアリーはツリーハウスの体に順応させるように作られている。よって、食らう必要もない。こうやって周りを飛んでいるだけで、次第にツリーフェアリーの能力を持つようになるよ」

 アリサの華奢ながら均整がとれた肩甲骨から、人間が決して手に入れることができない二対の穢れなき真っ白な羽が出現した。そして、アリサの脚は地と突き合わせ、体を支えるという本来の役目を終え、地面との別れを告げた。

 二対の羽は上下左右に激しい運動をはじめ、次第に持ち主であるアリサの身を空の世界へいざなった。

 人が飛行する術を手に入れ、大空へはばたく--。一見すると幻想的な風景にも思えるが、この状況では奇矯なものにしか見えない。

 宙に浮いたアリサを次第に、アリサの身を完壁に守るように緑色のシールドが三百六十度死角なしで覆っていく。そのシールドは精巧でいて美しい。しかし、何者も通さないといわんばかりの圧倒的な存在感が前面に主張している。

 さらに、もうひと手間アレンジを加えるように、人形のように可愛らしい目と兎のような尖った耳が備え付けられ、極めつけはアリサの臀部からキュートでいておぞましい相反する特徴を持つ全長1mほどで、先がとがった尻尾。これが恐怖感をより一層引き立てる。

「ししょー! なんですか、その姿は!!」

 そんな奇怪なアリサの姿を目の当たりにして、まず声を放出したのは以前からアリサを師匠と慕っていた剛だった。自分が憧れた人の変わり果てた姿に剛はひどく憤りを感じていた。

「この姿を見てやっと分かった? 私はあなたたちのような矮小な存在ではない。私は天から選ばれし崇高な存在!!」

 アリサは自分の見違えた姿を自慢するように叫んだ。自分の存在を誇張するように--。

「アリサ先生、その力は借り物の力。あなたが崇高な存在だという証明になりませんよ」

 龍は、まるでアリサのカウンセラーになったような落ち着いた口ぶりで、説き伏せようと試みた。

「ごめんね龍君★ もう、あなたたちのような矮小な存在に耳を傾ける義理はないよ。あなた達は、もうすぐ”新時代のツリーハウス”の礎になるのだから」

 しかし、今の体も心も変貌したアリサに龍の説法が届くことはなかった。


妖風(ようふう)緑麗(りょくれい)

 アリサは技名を唱えた。すると、二対の羽が高速で上下左右に運動し、風が発生した。

 いや、風という生易しい言葉で片付けられるものではない。まさに、嵐と呼ぶにふさわしいほどの暴風がツリーハウスを一瞬で吹き飛ばすほどの勢いで巻き起こったのだ。

 人とはこうも軽いのものなのか--。

 と、錯覚させるくらいに、龍と進、剛、凛、心、さらに味方の樹希までが、まるで塵ゴミのようにあっさりと、抗うということをする、いやそれを考える暇さえ与えられるほどのスピードで一瞬で吹き飛ばされてしまった。

「キャア!」

「ぎゃあ」

「うお!」

 六人はそれぞれの悲鳴を上げ、無数のツタで構成された自然の壁に受け身を取ることができず、背中から思いっきり叩きつけられた。それは、精緻に張り巡らされたツタが、だらしない姿に成り果ててしまうほどだった。

「なんて力だ。圧倒的すぎる……」

 そう弱音をこぼしたのは、あろうことか自信家である進だった。せっかく考えて考え抜いた緻密な戦略で、仲間と力を合わせて追い詰めた相手が、いきなりその努力を無にするほどの絶大な力を得てしまったのだ。

 その絶望感が、この進の言葉に集約されている。

「鳳助、風圧でなんとか頼む……」

 龍は相棒である鳳助の力を借りようとした。龍は一度、この技を受けたことがある。ただ、鳳助の協力を得ることにより克服することに成功した。

「仕方ねえな、鳥風圧!」

 鳳助は久しぶりに鳳凰剣から飛び出し、本体である黒い鳥の型をした姿を披露するやいなや、すぐさま強烈な風圧を発生させた。

 しかし、アリサの妖風・緑麗は高雄のそれとは桁が違った。今まで強力な強さを誇っていた鳥風圧が、あっさりとかき消されてしまったのだ。

 そして、今まで確固たる力を誇示し続けてきた鳳助までも、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった。

「これは味方の私ですらやばいかもね。非難しよっと」

 味方の自分すらも巻き添えを食らったことで身の危険を感じた樹希は、複雑に絡み合っているツタの壁の内部に入り、いったん姿を消した。ツリーハウスを熟知している住人だからこそできる芸当だ。

 

「同じ技なのに使用者が違うとここまで威力が違うなんて……」

 龍は圧倒的な力の前に絶望するしかなかった。

 かつて、高雄が放った技と全く同じ技。しかし、今回のそれは前回のそれとはまるで別物であった。

「まさに、”鬼に金棒”といったところか」

 進は難しい(ことわざ)で今の状況を端的に表した。

「おににかなぼうってなんだ?」

 知識量が乏しい剛が口を挟んだ。

「元々めちゃくちゃ強いやつが、さらに強くなることだ。だが、だからといって……」

「私たちが諦めるわけにはいかないですわ!」

「戦力差が違いすぎる=諦めて良い」なんて方程式は存在しない。

 中遠距離戦闘を得意とする進と凛は、飛雷太刀、聖路(エターナルロード)を発動させ、抵抗を開始した。

 しかし反撃ののろしを上げようとする二人の攻撃は、アリサの身を全方位で守る、粛然たるシールドの前に通る気配すらなく、あっさりと弾かれてしまった。

「くっ……」

「ダメ、ですわね……あのシールドを壊さない限り攻撃すら与えることができない……」

 この非情な事実に、感情の起伏が比較的緩やかな進と凛もさすがにため息をこぼし、落胆した。

 

「次の行動に移るか……」

 アリサはそうつぶやいて強力な風を発生させることを止めた。

「進、凛! あのシールドに斬撃や属性攻撃は通用しない! 通用するのは……」

 先ほどまで絶望していた龍だったが、進と凛の勇敢な行動に感化されすでに動き出していた。

 龍には、あのシールドを突破する方法を知っている。かつて、対高雄戦であのシールドを破った実績があるからだ。

 龍は胸元に隠し持っていた鏡のようにピカピカな水晶玉を取り出し、後方へ構えた。

「いけー! 水晶玉!!」

 そして、龍は剛速球を投げるピッチャーのような投球ホームで、アリサの本体とアリサを守る緑色のシールドが存在する空中へ投げた。

 パキーンという鼓膜を破るような痛烈な音が聞こえたまではこの前と同じだが、ここからが違った。シールドは均整な形を整えたまま、割れる気配すらなかった。

「そんな……なんで……?」

 龍は先ほどまでの威勢が嘘のように、か細い声で聞いた。かつてシールドを突破した実績があったせいで、確実に攻略できると踏んでいたからだ。

「龍君、さっき使用者が違えば技の威力が違うって言ってたよね。だったら、使用者が違えばシールドの強度も違うって分からなかった?」

 アリサは敵の龍に丁寧に解説してあげた。結局は使用者によって技の質が違うという意味では同じ理論である。

「そんな……」

「分かったらとっとと戻ってもらおうか★ 四柱砕!」

 アリサはニヤリとけったいな笑みをこぼしながら、技を唱えた。

 お決まりの四本の木柱が地中からにょきにょき生えてくる。いつもなら、アリサは一旦生えてくる場所に手を置くのだが、今回はそういった類のことを一切していない。

 どうやら、ツリーフェアリーを取り込み、唱えるだけで召喚できるようになったようだ。

 四柱は融合し、一つの太い木柱に変貌を遂げた。そして、木柱は人の拳の形に変化した。

 その木製の拳は手のひらをカバの大口のようにがばっと開き、龍の体を掴んでしまった。龍の体に余りある巨大な木製の手は、まるで龍の生気を失わせるように、握りつぶした。

 しばらく、強靭な力で握りつぶすと、飽きたようにポイッと龍を放り出してしまった。龍は、皆がいる壁際まで強制送還された。

「これでフィニッシュだよ! 四柱大網羅弾!!」

 アリサは先ほど四柱砕のために出した四柱に加え、さらに四本の木柱を召喚した。

 新規の四本の木柱は、それぞれ既存の木柱と結合し、従来の二倍の大きさと太さの四本の木柱が実現された。そして、木製の鉛弾を生成するための砲台が完成された。

 しかし、いつもより砲台でかい。つまり、生成される砲弾もそれに比例されて……。

 でかい……!!

 大きな戦場を飲み込むほどのその大きさを表現するならば、まるで小さな木星(ジュピター)。そんな超巨大サイズの鉛弾を支える砲台は、悲鳴を上げながらツルでぐるぐる巻きにされた砲弾を、風の影響で同じような場所にいる龍、進、凛、剛、心の総勢五名に向かって放した。その砲弾は、五人すべてに直撃が容易に可能なサイズだ。

 そんな圧倒的な鉛弾がゴゴゴという轟音を立てながら、見る見るうちにターゲットである五人との距離を詰めてくる。

聖壁(エターナルガード)!」

 そんな五人の脅威から守るように突如、神聖な光のシールドが出現した。

 発現者は凛。かつて、聖剣エターナルを容赦なく破壊した悪魔の武具、恐皇スケルトンの猛威から身を守ったあのシールドだ。

 だが、あの時は凛の意思関係なく、聖剣エターナルが独断で発動したものだが、今回は違う。凛は自らシールドを発動する術を身に着けていたのだ。

 ゴワオオオンという壁と弾がぶつかり合う、なんともいえないノイズが神聖なツリーハウスを汚す。

 光の壁か、木の弾か、果たして勝つのはどっちか。その答えはパリイインというガラスが割れるような破砕音で判明した。

 神聖な光の壁でも、小型ジュピターの進攻を妨げることは不可能だった。

 直撃だった。一応、エターナルガードで威力こそは抑えたものの、五人に甚大な被害が与えられたことは間違いない。

 絶望……。

 その一点の感情だけが、五人の周囲に滞る。

「なぜ、ここまでするんですか!? 真実のアリサ先生を僕達に教えてください!!」

 龍はすべての労力を声に捧げるようにしてアリサに尋ねた。

「みんな揃ってるしね。いいよ、”真実の私”を教えてあげる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ