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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
19/42

第十九伝(第八十四伝)「アリサのコトバ」

第十九伝です。みなさんは先生や自分の尊敬する人から貰った印象的な言葉ってありますか。そんなことを思い出しながら見ていただければ幸いです。

 対アリサ戦に向けての戦略が整ったようだ。

 前線に立ったのは龍と剛の二人、後方に立ったのは進と凛。大雑把に言えば二人が特攻で、二人が後方支援という陣形を取ったようだ。


 ~少し前~

 アリサが息を整えている間に、進チームである龍、進、凛、剛の四人が約半年ぶりの作戦会議を開いた。

「みんな、アリサ先生と初めて闘った時に言われたことを思い出して」

 龍は突拍子もないことを言い始めた。龍が言っているのは交流戦の時にアリサが全員と闘い、その後にアリサからダメだしをされた内容のことだ。

「俺はししょーの言葉だから良く覚えてるぜ! 構えからして全然ダメ、あれじゃただの喧嘩だって言われたぜ!」

 剛がいの一番に答えた。やはり、師匠のことになると他の追随を許さないようだ。

「私は、進様だけではなくて周りをよく見るようにと言われましたわ」

 次に凛が答えた。凛とてアリサを尊敬していないわけではない。同じ女流バトラであるアリサは凛にとって目標だったからだ。

「俺は腹が立つが、一歩さがってみんなと協力しろと言われた」

 意外にも進はアリサから貰った言葉を覚えていた。いや、進こそ一番記憶に残っているのかもしれない。あの時、進はただの教師に負けるはずはないと慢心していた。しかし、結果は手も足も出ず完敗。それに加え、ダメだしという強烈な追撃。覚えていない筈はなかった。

「やっぱりみんな覚えているんだね。ちなみに、俺は相手が誰であれ手は抜かないと言ってくれた」

 龍もアリサの言葉を鮮明に覚えていた。あの時、龍はただの演習だからと手を抜いていた。しかし、この言葉のお陰でバトラを名乗る以上、闘いと名のつくものは全てにおいて真剣勝負だと気付くことができた。

「それがどうしたというのだ?」

 進は龍に質問を投げかけた。龍がなぜアリサに言われた言葉を思い出せと指示をしたのか分からなかったからだ。

「アリサ先生のあの言葉は俺達の心や力をちゃんと理解したうえで俺達の弱点を指摘した”真実”の言葉だ。その真実の言葉を常に頭に入れて闘う。そうすれば、アリサ先生は自分の言葉で自分の首を絞めることになる。そして、アリサ先生の目を覚まさせる! あなたは、俺達の先生だと言うことを!」

 龍の強い言葉。それは、まだ幸せだったあの戦校時代に戻れる予感がする言葉だった。

「それが甘いと言ってるんだ! まだ、敵に情けをかける気か!」

 進は龍の持論に反論した。龍は未だに甘さを捨て切れていないと感じたからだ。

「勿論、先生だからといって容赦する気はない。それが、先生からもらった言葉でもあるから。あえて、俺達が全力で闘うことにより、分かりあえる気がするんだ。もう一度、先生と……」

「お前が何を言おうと、俺はアリサを敵として全力で叩く作戦をお前達に伝える。もちろん、各自アリサの言葉を念頭に入れるように」

「進! ありがとう……」

「例を言うな。気色が悪い」


 ~現在~

 喧嘩ではなくバトラとしての闘いを……。

 進様だけではなく周りを見て……。

 一歩さがって皆と協力……。

 相手が誰であっても、例え相手が先生であっても手は抜かない……。

 各々がアリサから授かった言葉をしっかりと頭に入れ、いざ動かん!


「うおおおお!」

 まずは、剛が気合いの雄たけびを上げながら、大きな足を左右にダイナミックに動かし駆け出した。どうやら、最前線は剛のようだ。

 手始めに剛、お前が特攻だ。アリサとの肉弾戦に対抗できるのは現時点ではお前しかいない。純粋な1vs1では分が悪いが、バックには俺達がいる。お前は俺達のことを気にしなくていい!思いっきりいけ!

 これが司令塔である進が剛に与えた指示だ。

「どうやら、剛君が特効役のようだね。そう作戦通りにはさせないよ★ 四注弾!」

 アリサは地面に手を置いた。そこから、四本もの木柱がうねりをあげて飛び出した。

 四本の木柱は次第に砲台を形成し、砲台からツタが巻きつけられた木製の鉛弾が生み出され、それが発射された。

「剛、安心して突っ込んで! 火の玉・魂、鳳凰ⅴer!」

 次に動いたのは龍だった。龍は、剛が動き出したタイミングから少し遅らせて動き出していた。それも、あえて剛が動き始めた位置とはずらして。

 龍は剛が動き出したら動き出せ。お前は剛と共に特攻だ。だが、純粋な特攻では無く、剛のサポートを最優先しろ。そして、あえて剛と離れた位置から動きだせ。全体が見え、サポートがしやすいからな。難しいが、お前ならやれると信じてる。

 それが、龍が与えられた進の指示だった。

 信じてるか……。

 嬉しいな……。

 アリサ先生、あの唯我独尊天上天下だった進が、あなたの言葉を受け、今こうして協力する事を知り、仲間の力を信じています……。アリサ先生、どう思いますか……?

 龍は回復したおかげで、より大きな火の玉・魂を放つことができ、見事に四柱弾を御しきった。木の弾は炎の球によって粉砕され、塵が雪のように舞い落ちた。

「真・剛拳!!」

 龍の援護もあって剛はアリサとの間合いを零距離に詰めることに成功した。

 剛は体をいったん引き、勢いをつけ、自身が持つ重厚な拳にチェーンを巻きつけ、アリサに強烈な一撃を放った。

 しかし、アリサはこれをたぐいまれなる反射神経で、しゃがんで剛の攻撃を回避した。 

 甘い……。私を単発で仕留められるはずがない……。どうやら、まだあなたはバトラの闘いを喧嘩と間違っているようだね……。

「まだだぜししょー! 剛拳・達磨落とし!!」

 アリサの予想とは裏腹に、剛は決して単発での攻撃を敢行していなかった。

 一撃目、二撃目と次なる攻撃を用意していたのだ。それは、アリサのあの言葉があったからこそなしえたのだ。

 剛の丸太のような脚で、勢いがかかった重々しい下段蹴り。しかし、しゃがんでいるアリサにとってその蹴りは顔面にクリーンヒットする恐れのあるものだった。

 アリサは、なんとか十字守で顔面への直撃は回避したものの、無様に後方へ転がってしまった。

 上手いですわ……!あえて目立つようにオーバーなアクションで一撃目を放ち、二撃目で仕留める……。今までの剛君では考えられなかった戦略ですわ……。成長しましたわね、剛君……。

 らしくない剛の戦略的な攻撃に、交流戦でパートナーを組んだことのある凛も心の中で感心しているようだ。

 クソッ……!私としたことが、こんな古典的な引っかけにだまされるとは……。

 一方、後転して幹のマットに体を授けるように仰向けに倒れこんでしまったアリサは、自分のミスを悔いていた。

 しかし、アリサに悔いている暇などなかった。ヒュルルルという飛行音が途端、アリサの耳を痛めつけた。

 アリサは音がした方向に目をやった。すると、雷を纏った蝶がツリーハウスに華麗に飛んでいた。そう、進が放ったであろう太刀だ。

 

 ~作戦会議時~

「剛と龍の二人が特攻し、俺と凛はサポートだ。俺は常にアリサの転法を警戒するために戦場全体を見る。凛は特攻した龍と剛が負傷してしまった時の為の回復役だ」

「嫌ですわ」

 進の指示を凛は珍しく首を横に振った。

「なぜだ?」

「進様は特攻した二人を見つつ、攻撃に専念したほうがいいですわ。アリサ先生の力を考慮すれば、進様の攻撃無しではアリサ先生を倒せない」

「それではアリサの転法対策が無くなる」

「”その役”も私がやりますわ」

「任せていいんだな?」

「私はこう見えても”戦校一の優等生”ですわ」

「分かった。任せたぞ」

 進は凛の主張をあっさりと受け入れた。昔の頑固な進ならば凛の希望は門前払いを喰らっていたろう。

 だが、進は戦校時代のアリサの言葉を受け、一歩さがり、仲間と協力することを着実に覚えたのだ。

 これが、”二人の”司令塔が導き出した対アリサ戦における答えの全貌だ。


 ~現在~

「行けえええ!」

 冷静沈着な進が珍しく叫んだ。それほど、この奇襲は進の魂がこもっている。

 その雄たけびは……。

 届いた! 

 雷を纏いし無垢な蝶は、アリサの体という名の可憐な花を射止めた。

 アリサは衝撃で横方向へ弾き飛ばされてしまった。

 

「私としたことが避け切れないとはね。さすがに連戦の疲労が来ているね。しかも、一vs四。だからといってあなた達のようなバトラになったばかりのガキに、神から選ばれし血統を持つ私が劣勢に立たされることなんてありえない!!」

 アリサは、まるでセンサーが体に取りつけられているかのごとく立ち上がった。

 そして、超スピードで剛との間合いを詰め、剛の髪を鷲掴みにし、剛の腹に屈辱と怒りがこもった憎悪が込められた蹴りをお見舞いさせてあげた。

 アリサの心の中に秘められているどす黒い闇を喰らった剛は、腹を押さえながら後ずさりするしかなかった。

 なんだ、今のししょーの蹴りは……!ししょーの蹴りから放出された深い深い闇が俺の身体に容赦なく入りこんできやがる……!なんて深い闇なんだ……!

 剛はアリサの闇を受け取ってしまい、体をうずめてしまった。

「大丈夫ですわ。闇は浄化できる」

 回復役である凛は華麗な転法を駆使し、剛を安全な場所へ避難させた。安全な場所といってもアリサ都の距離を取っただけだが。

 凛は剛の背中に手を置き、自身の属性である光を自分の手と剛の背中を使って光を送り込んだ。

 俺の身体の中に入りこんだししょーの闇が浄化されていく……。凛の光はなんて明るいんだ……!

「バカな子達。隙だらけだよ★」

 凛が剛の回復をしているさなか、距離を取っていたはずのアリサが、なんと凛と剛の目の前に姿を現していた。この移動スピード、間違いなくアリサは転法を繰り出した。

聖浄エターナルクリーン!」

 凛は計ったように、まばゆいばかりに輝いている聖剣エターナルを横に振り、アリサを切り裂いた。アリサは十字守でガードするも、そのガードした屈強なバトラとは到底思えない可愛らしい華奢な腕たちは生々しい紅色の鮮血で彩られてしまった。

 凛は進の役割を全うし、見事にアリサの転法を読み切った。

 周りを見る……。凛がアリサに授かったありがたき言葉。凛はその言葉にあやかり、進以外の皆だけではなく、戦場の周りまで見渡したのだ。

「”戦場での回復行動の危険性”は先生が教えてくれたのですわ。ですから、十分に注意する事が出来ましたわ」

「そう言えば凛ちゃんは”戦校一の優等生”だったね……」

 アリサは焦っていた。バトラになったばかりの言うならばひよっこに、選ばれし血統を持っている自分が追い込まれているから。

 しかし、まだまだ元生徒達が練りに練った波状攻撃は止まらない。

「雷太刀!」

「鳳凰斬!」

 追い詰められたアリサの目の前に現れた二人の英雄。一撃龍と雷連進だ。

 二人は卓越したチームワークの高さを証明するように、双方向から同時に各々の技を繰り出した。龍は鳳凰剣を、進は太刀を思いっきり振り抜いた。

 グワガアンという銅鑼のような猛々しい音が鳴り響いたことで、二人のコンビネーション技が見事なまでにアリサに直撃したことが分かった。

「追火!」

 ダメ押しとばかりに龍はもう一撃追加した。縦振りを行う鳳凰斬の一撃目の後に、鳳凰斬・追火という横振りの二撃目を加えたのだ。龍が隠し持っていた秘策を、先生であったアリサに容赦なく使った。

 アリサの言葉、相手が誰であれ手は抜かない。これを見事に体現させていた。


「はあはあ……」

 アリサは今まで見せた事の無いような苦しい表情を浮かべ、こちらも今まで見せた事の無い息の荒げ方をした。

 あのアリサ先生を追い詰めた!

 今のアリサの状態を見れば、それが即座に理解できるほどだ。ついに、今まで圧倒的な存在であったアリサを追い詰めたのだ。

 一人の力では無理だった。しかし、そんな点と点を合わせた線の力、すなわち皆の力を結集すれば、いくら相手が圧倒的な存在であろうと追い詰めることができる。

 以前、アリサが説いていたチームプレーの大切さを、この四人は本人の目の前で証明したのだ。

 昔、あれだけバラバラでチームプレーのチの字もなかったあの子たちが、私の指摘した言葉を忠実に守りながらこうも完璧なチームプレーを……。

 アリサの心は台風が来た時の波のように激しく揺らいでいた。

「アリサ先生。あなたにとっての生徒は僕達じゃないのかもしれない。でも、僕達の先生はあなただけなんですよ……」

 龍は実直な目で思いのこもった言葉をアリサにぶつけた。

 そうか……。この子達の先生は私だけなんだ……。この子達は私が面倒を……。

 アリサの心の盤面に置かれているオセロは黒から白にひっくりかえる寸前を迎えていた。


「アリサ姐さん!!」

 しかし、樹希の腹から出た声で、アリサのオセロはなんとか黒を保った。

「樹希……」

 アリサは情けない声で言った。

「私はあなたに認められた唯一の優秀な選ばれし生徒! あんな無血統の凡人達の生徒では無いよ!」

 樹希はその言葉を証明するように、すでに体中がボロボロになり意識を失っている心の服の襟を掴み、にまるで粗大ゴミを扱うかのように、アリサに向けて放り投げた。

「そう。私の生徒はこの二階堂樹希だけだよ。決してあなた達ではない!」

 アリサは目が覚めたかのように、強い声で言った。

 そんなアリサの意志に応えるように、ちびっこい幻想的な妖精と思われる生物たちが、アリサを祝福するかのように出現した。

 

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