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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
17/42

第十七伝(第八十二伝)「共闘」

共闘はこの小説の醍醐味の一つです。そんな醍醐味を存分にお楽しみくださいませ。

 ツリーハウスの内部を疾走する三名の姿が見受けられる。光間凛、鉄剛、真野心だ。

 彼らは、すでにツリーハウスの内部に潜入していた。

「この感じは……!」

 剛は何かを感じたようだ。

「剛君、どうしたやんのー?」

 剛のリアクションが気になった心は奔走を続けながら剛に尋ねた。

「間違いねえ! ここに、ししょーがいる!」

 剛は自ら師匠と呼び慕うアリサを、ずっと間近で見ていた。そのオーラ、雰囲気、息遣い、全て知っている。だからこそ分かる。

 ここにアリサ(ししょー)がいると!

「それだけじゃないですわ。進様や龍君もいる感じがしますわね」

 凛がポロッとつぶやいた。

「それは本当か! だったら、なおさら急がねえと!」

「凛ちゃん、それは誰やんで―?」

「私と剛君の戦校時代のチームメイトですわ」

「そうと分かれば急ぐやんで―」

 三人はさらにスピードを上げ、アリサ、龍、進がいるであろう空間へ急いだ。


 ☆ ☆ ☆


 キングツリーの中枢に位置する巨大なる戦場に、再びこの男が舞い降りた。

 名を一撃龍。職業はバトラ……!

「大丈夫か進?」

 龍は心配そうな面持ちで、苦しそうな表情を浮かべる進に話しかけた。

「お前に助けられ、そして心配されるとは、俺も堕ちたものだな」

 進は自分が持つプライドからか、いつもと変わらず強がってみせていた。

「俺達の持つ個々の力ではアリサ先生に太刀打ちすることは出来ない。でも、二人の力を合わせれば勝機はある……!」

 龍と進。相反する二つの力が一つに合わされば、とんでもない化学反応を起こすかもしれない。

 龍はそれを感じ取っていた。

「個々の力では、アリサに太刀打ちできないというのは癪だが、良いだろう。お前と共闘してやろう」

 共に闘うと書いて共闘――。

 昨日の敵は今日の友。かつては敵同士だった二人が、同じ方向を向いて闘う……!

 一撃龍、雷連進という二羽の雛が今、希望という名の大空へ向かって羽ばたかん……!

「おい龍!? 貴様、大丈夫なのか? まだ、傷は治ってないはずだ」

 鳳助は真っ先に龍の体調の心配をした。まさに、相棒の鑑だ。

「心配してくれてありがとう鳳助。確かに万全の状態ではないけど、今さら逃げるわけにはいかないでしょ?」

「へっ、言うようになったじゃねえか! おもしれえ! 俺も、さっきアリサにやられた借りを返したいしな!」

「おい、誰と会話している? 共闘する気なら隠し事はするな」

 鳳助の声は龍以外から認識することはできない。つまり、進から見れば龍は独りごとをしているようにしか見えない。

 龍と鳳助の出会いは交流戦時。その時から、進をはじめとするチームメイトは龍の独りごとに不審がっていた。

「実は……」

 龍は初めて鳳助の存在を他の人間に打ち明かした。進は真剣な表情で、龍の言葉に耳を傾ける。

 鳳助のデータを頭に叩き込んで、戦略という名の頭の中の設計図に書き込んでいるようだ。

「なるほどな。お前の妙な玉がまるで意志があるような動きをすると思ったら、本当に玉に意志があったとはな。しかし、お前以外に声が聞こえないというのは厄介だが、まあいい。だいたい戦略は見えてきた」

 進の脳内設計図には勝利へのビジョンが見えてきたようだ。

「よしっ、行くぞ進!」

「ああ、作戦は……」

 進は小声で龍に自分の脳内の設計図に描かれた戦略を話す。

 龍はうなずいたのち鳳凰剣を、進は太刀をそれぞれアリサに向け、構える。

 記念すべき二人の初共闘が始まろうとしていた。


「残念だけど、あなた達の現時点での総力を合わせたところで私の力には遠く及ばないよ」

 アリサは希望を見据える龍と進に現実を叩きつけた。アリサは念を入れて、精神的揺さぶりもかけた。

「先生、お言葉を返すようですが、”仲間と共に闘う”というものはそんな単純な足し算では計れません。1+1が3にも4にもなる。それが仲間というものです。それは先生にも教わったことなんですよ」

 龍はアリサとの立場を入れ替えたように説き伏せる。

 あなた達は仲間の大切さを知ったんじゃはないの……。

 銀次は俺達の大切な仲間です……!

 これからもよろしくね……。

 一瞬でもこの子たちを疑ってごめんなさい……。 

 アリサの脳をかき乱すように、戦校時代の記憶が入りこんでくる。

「やめろ……。やめろ……」

 アリサは葛藤している。戦校時代の思い出を無にしていいのか……。

「先生はまだ迷っているのですね?」

 さらに龍はアリサを諭しにかかる。

「私は迷ってなどいない! それに私を先生と呼ぶな! 私は一階堂アリサ! ツリーハウス最高血統、一を持つバトラ!」

 アリサは強い口調で反論した。またしても、龍によって心が乱されていた。


「よし、見事だ龍」

 進は珍しく龍を称賛した。

 実は、龍によるアリサへの心の揺さぶりは、進の作戦のうち。先ほどの闘いで進は、龍の精神攻撃は有効打になると見切っていた。

「よしっ、行く!」

 龍は駆けだした。両足を一生懸命前後左右に動かし、剣を後方へ構え、貪欲にアリサの首をとるために進撃を開始した。


 ~数分前~

「いいか、アリサは近距離戦闘では拳撃、中、遠距離戦闘では四柱があり、戦闘距離に隙がない。だから、戦闘距離は気にしなくていい。とにかく、常にどちらかが陽動をかけ、大技を狙っていくスタンスを心掛けていけ。後は当然ながら速い。特に転法で姿を見失うことは脅威だ。だから、どちらかが常にフィールド全体を見渡せる距離に配置させたい。技の構成的には俺がその役がいいだろう。しかし、両方距離をとることは避けたい。大技が当たりにくくなる。よってお前が常に前線で闘え。サポートはする」


 ~現在~

 これが進の作戦……!

 龍は進の作戦を頭に叩きこみながら、疾走した。

 そして、走りながら龍は鳳凰剣に炎を伝え始めた。鳳凰剣はそれに呼応するように紅色の炎を灯した。

さらに、鳳助の炎も参戦。鳳凰剣は二対の存在の炎を受け、今度は緋色を表現した。

「鳳凰斬・緋祭!」

 緋色に輝く鳳凰剣を龍は思い切り正面に振る。正面にはアリサがいるからだ。

 分かりやすい”陽動”……。

 アリサは龍の攻撃を陽動と判断。本当の狙いは進の攻撃にあると読んだ。

 その読みが正しいと証明するかのように、進が放ったであろう雷を纏った二対の太刀が、龍の背後から左右に飛んできた。

 ほら読み通り……。おそらく、龍君の攻撃を私がかわすことを読んで、進君の太刀で当てるという作戦ね……。

 よく考えられているけど、場数を踏んだバトラなら常套手段。温い……。

 アリサはその場を動こうとはしない。あえて、動かないのだ。

 アリサは自分が動いた軌道上に進の雷太刀が通過することを予想し、一歩も動かずに体だけ横にそらし鳳凰斬をかわした。さらに、鳳凰斬をスカした龍に、カウンターの要領で拳を龍の大振りした影響で無防備に突き出してしまった顎に当てにかかる。

「アリサ拳撃★流丹!」

「まずい……!」

 自身の技を意外な形でスカされ、龍はパニクってしまった。

「安心しろ! ”それも”計算済みだ! 二連双飛雷太刀・乱軌道!」

 進は頼もしすぎる言葉を龍に送りながら、右左の両方の指をクイッと内側に動かした。途端、太刀の軌道が変わり、ちょうどアリサがいる位置に向かって急劇な方向転換を見せ襲撃を開始した。

 なに……!

 状況は一変。今度はアリサが窮地に立たされた。

 進が操る二丁の太刀の奇想天外な方向転換には、さしものアリサでも逃れる術はなし……!

 ズワゴオンという今日一の大音量が、ツリーハウスのBGMとして流れた。

 衝撃でアリサは何回転も後転した。

 しかし、アリサはすぐさ態勢を立て直し、起き上がった。

「四柱壁!」

 さらに、アリサは自身と龍の中間点に四柱壁を召喚させ、追撃をシャットアウトした。さすがはアリサだ。こういうところに抜かりはない。


 成功した……。

 陽動は龍ではない。龍に見せかけて陽動は俺だ……。

 百戦錬磨のアリサなら確実にどちらかが陽動だと読んでくる。そして、当然バカみたいに突っ込んでくる龍の攻撃が陽動で、俺の攻撃が狙いだと読んでくる。だから、”あえて”龍を分かりやすく真正面から突っ込ませた。

 そして、決定打に見せかけた太刀の軌道を、ワイヤーで強引に変更させた。

 結果、俺の太刀が決定打となったがな……。

 進は自身の脳内設計図に温めた戦略を心の中で回顧して見せた。

 

 なんとか四柱壁で追撃は抑えたけど……。

 まさか、あっちが陽動とはね……。雷連進。私が見込んだ通り、あの男だけは特別のようだね……。

 しかし、本当に厄介なのは、うかつに転法ができないこと……。

 進君はおそらくその為にあえて距離を取り、私の転法先を即座に見れるようにしている。転法の弱点はする直前とし終わった直後にわずかな時間ではあるが身動きが取れなくなる。

 しかし、進君はそれを逃さない。わずかな隙が致命的だ。

 さらに、龍君が接近戦を常に仕掛けることによって、私に回避行動を余儀なくさせるように誘発させてくる……。

 個々だと簡単に対処できる事象でも、それが数珠つなぎになると対処が一気に困難になる……。

 確かに、”仲間と共に闘う”ことに関して言えば、1+1が3にも4にもなるようだね……。

 アリサは豊富な戦闘経験を活かし、戦況を丸裸にする勢いで分析をした。


「どうする進? 先生の前に壁が……」

 龍は司令塔である進に、この状況を加味しつつ自分の次なる行動を尋ねた。

「いいから突っ込め! とにかく短期決戦でしかアリサに勝ち目はない。長期戦になれば、俺達の少ない体力があだとなり消耗し、さらに向こうにはこちらの作戦が読まれ始める。悪いことばかりだ! だか

ら、常に最速で最高の技を繰り出し続けなければならない!」

 進の次なる指示は……。

 ゴーだ!

 指示を仰いだ龍は、大きな壁が立ちふさがる中、さらなる進撃を開始した。

「行けえ! 太陽ソウルボム!!」

 龍が選択した次なる最高の技は、太陽・爆。鳳凰剣の剣先に超密度の炎を結集させて、炎の球体を創る。それは、まるで小さな太陽の如く――。

 確かに、これは龍が今持ち合わせる中で、最高威力の技と言えよう。

 龍は鳳助と共に超密度の炎を形成し、小型太陽を形成。それを木で創られた生命力が十二分に伝わる大きく堅牢な壁めがけて放たん――!

 その炎、業火なり――。その炎、陽炎なり――。その炎、灼熱なり――。

 炎の塊は脈々とその存在をアピールする四柱壁を簡単に薙ぎ払った。太陽・爆は、勢いそのままに壁を召喚させた術者に襲いかかる――はずだった。

「いない……!」

 本来、壁の先にいるはずのアリサの姿はどこにもなかった。

 しまった……。四柱壁を生み出したのは、壁の先に術者がいるということを錯覚させるための囮か……。

 アリサは転法を使った……。ということは、どこからか出現する……!

 どこだ……。どこに出てくる……?普通なら真後ろ。だが、真後ろと言っても俺の真後ろなのか龍の真後ろなのか……。

 とにかく……。

「龍! 後ろに注意しろ!」

 進は精一杯の戦況分析をし、龍に注意を喚起する。

 しかし、アリサが姿を見せたのは、実に意外な場所だった。

 正面……!

 進が心の中で叫んだ通り、正面である。アリサは進の真正面に姿を現したのだ。

「さっきの進君の奇想天外な戦略のお返しだよ★ さあ、司令塔を叩けばチームの機能は失うよ。アリサ拳撃★――」

 アリサは自信満々に跳躍を開始した。おそらく、例の回転蹴りであろう。

 この技は右回転……。だったら……!

 進はアリサの回転方向を見切り、太刀を自身から見て左方向に構えた。

「逆回!」

 進の読みは外れた。何と、アリサは本来回転する方向ではなく、逆、つまり左回転を始めたのだ。

 読みが外れた進に攻略する術はなく、みぞおちにモロにアリサの蹴りを喰らってしまった。

 進は地滑りしながら、猛スピードで後退していった。

「進!」

 進を助けないと……。

 龍は、その一心だけで無意識に身体が動いてしまっていた。

 龍はアリサに向かって走り出し、進を撃墜した憎きアリサの体を斬りかかる。

 しかし、司令塔を失い戦略を失った龍のワンパターンな斬撃がアリサに通ることなく、まるで赤子をひねるように簡単にかわされ、これまたあっさりと後ろをとられた。

「アリサ拳撃★星撃!」

 アリサは龍の背後から容赦なく正拳突きを放った。太陽・爆を放った反動から、動きが鈍っている龍にかわせるはずもなく、アリサの拳は龍の背骨にクリーンヒット。

 龍は後方へ凄まじい勢いで吹き飛ばされ、進の体という壁に激突した。

 進と龍が重なり合うという最悪の状態になってしまった。

「四柱弾!」

 さらに、ダメ押しと言わんばかりにアリサは四柱製の鉛弾を両者にぶち込んだ。

「ガハッ!」

 二人は息ぴったりに声を出し、吐血した。本当に危機的な状況になってしまった。


「二人ともよく頑張ったよ。後は、キングツリーの養分となって、ゆっくり休みな★」

 キングツリーから生える幾数のツタは御馳走にありつけるとあってか、活き活きと揺れ動いていた。

「くっ……。ここまでか……」

 珍しく進が弱音を吐いた。それが、今の絶望的な状況を如実に表している。

「まだ、諦めては……」

 龍は必死で戦校時代に培った諦めない心を持とうとするが、正直な体はとっくのとうに白旗を挙げていた。

「回復役と特攻役がいれば、まだ状況は変わったがな……」

「それって凛と剛のこと……?」

「ああ。俺としたことが、なに期待しているんだか……」

「でも、もうそれしか望みは……」

 二人の儚き願いは……。

 届いた!!

 戦場に吠える一頭の獣と、戦場に咲く一輪の華が、ツリーハウスの戦場に降臨す……!

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