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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
15/42

第十五伝(第八十伝)「捨てきれぬ甘さ」

 第十五伝です。1と合わせると記念の八十伝を迎えました。節目のこの回は、皆さんの心の中にも眠っているかもしれない”甘さ”のお話です。私も甘いとよく言われます。それではどうぞ。

「その技は……?」

 アリサは龍が繰り出した防御技・十字守をまじまじと見ながらつぶやいた。その技には確かな覚えがあるからだ。

 そう。これは、自身が考案した技……!

「そうです。これは、あなたに伝授された技です。この技はアリサ先生、あなたが僕の先生だったという”真実”を裏付ける技なのですよ」

 アリサは自分の先生であることを証明するために……。

 龍はだからこそ、このタイミングで遥かに防御力が優れている鳳凰剣十字守ではなく、通常の十字守をわざわざ使用したのだ。意味の無いことのように思えるが、この状況下ではそれが重要なのだ。

「違うよ龍君。それは、私というバトラの存在を広めるために教えただけだよ」

 アリサのこの言葉の真意は今は分からない。しかし、今思いついた言葉にも見える。

「もう、何を言っても見苦しく聞こえますよ先生。確かに、僕にはあなたがどんな生い立ちで、どんな人生を歩み、なぜ戦校の教師なり、そしてなぜ僕の目の前に敵として現れたのかは分かりません。ただ、あなたが僕の先生であることは紛れもない真実なんです。もう、何も言わないでください。僕達はもう先生と生徒の関係ではない。僕達はバトラ同士の対等な存在だ。だから、拳で語り合いましょう。そうすれば、先生のことがもっと分かるかもしれない」

 龍は自身の先生に向かって説教を垂れた。バトラになり成長した龍の精神がそうさせるのだ。

「龍君、君は……」

 龍の言葉がアリサに胸に響いたようで、アリサは目をつむり、何かを一生懸命考えているようだ。

 ドラ君によって、姐さんの心が明らかに揺れ動いている……。

 そんなアリサの珍しい姿に、樹希も動揺を隠せないでいた。


「おい! 龍、そんなこと言って大丈夫なのかよ!? 貴様、少しは自分の体を心配したらどうだ!? それか勝算があるのか?」

 そう忠告したのは鳳凰の意志で、龍の相棒と言う顔も併せ持つ鳳助だった。鳳助の言うとおり、アリサに痛めつけられた龍の体はボロボロ。言葉では確かに押しているが、闘いでは劣勢なのは火を見るより明らか。

 そんな龍に、この自信の発言。昔から自信がなかった龍だからこそ、鳳助はこの発言を不思議に思ったのである。

「いや、そんなものはないよ鳳助。正直、怖いよ。アリサ先生とサシで闘うのは。さっき痛めつけられた恐怖で、すぐにでも逃げ出したいくらいだよ」

 龍から返ってきたのは、頼りない答えだった。

「なんだよ、おい! だったら、なんであんなこと言った!?」

「お前やみんなが逃げずに闘うことを教えてくれたから」

 それは、昔の龍からは想像できない言葉だった。

 逃げずに向き合う……!

 それが、バトラになった龍の新しい姿だ。

 とは言ったものの、冷静に考えればこのダメージで闘えるかどうか……。凛が居れば話は別だけど……。

 龍はここにきて、いないはずの仲間を欲していた。それほど、切羽詰まっているということだ。

 しかし、前に進むしかない。

 龍は今一度、アリサを真正面から向き合った。


「極意其の一、相手に隙を見せない」

 龍は剣を前に構えながら、膝を曲げ、重心を低くした。

「それは……」

 アリサにとっては何やら、聞き覚えのある言葉と、見覚えのある構えだった。

 重心を低くさせ、出来るだけ相手に隙を見せない。

 全部、自分が”教えた”ものだったからだ。

 今、目の前にいる男はその教えを忠実に守っている……!

「どうですか先生? 僕の極意其の一は?」

 龍は人差し指で鼻をすすりながら、自慢げに言った。先生の教えを先生の目の前で体現し、嬉しいらしい。

「調子に乗るなあ!」

 アリサは猛スピードで駆け出した。どうやら、自分が教えた極意を相手にやられ不機嫌らしい。

「おい、どうする気だ、龍!?」

 疾風怒濤のようにこちらに迫りくるアリサ。鳳助は相棒のそんなアリサの対抗策を心配そうに問うた。  龍が生まれる以前からずっと闘ってきた百戦錬磨の鳳助には分かっていた。

 アリサの迎撃は困難になると……。

「鳳助、お前の出番だ」

 龍の対抗策はどうやら鳳助を使役することのようだ。

 龍はアリサに聞こえないように、そして鳳助だけに聞こえるように、小声で鳳助に指示を送った。

「なるほどな。だが、うまくいくのか?」

「大丈夫。俺は鳳助を信じているよ」

「ちっ! 他人任せな奴だ!」

 鳳助は口で文句を言いながらも、意気揚々と鳳凰剣から解離し、黒褐色の鳥型の球体をした鳳助の本体をツリーハウスという舞台でお披露目した。

 人と人に畏れられた化物。しかし、その一人と一体には確かな信頼関係が築かれていた。

「そんな小細工は通用しないよ」

 アリサは鳳助のまがまがしき本体を目線で捉えようと、臆することなく龍の心臓を今度こそとらえるために猪突猛進をやめようとはしなかった。

「鳥風圧!」

 ここで龍から指示を仰いだ鳳助が動いた。

 鳳助はまず、アリサの真後ろをとった。人間離れしたスピードを見せるアリサだが、鳳助はそもそも人間ではない。

 いくらスピード自慢のアリサとて、鳳助にとって後ろをとることにはなんら問題ない。

 鳳助はアリサの真後ろから風圧を発生させた。それも、ただの風圧ではない。かつて、人々の家々を一瞬で吹き飛ばした鳥風圧をモチーフにした風圧だ。

「ぐっ……」

 アリサにとっては追い風。感情に任せて疾走してきたアリサにとって向かい風ならともかく、追い風にあらがえる術は持っていなかった。

 アリサは自分の体をコントロールできることなく、まるで竜巻に巻き込まれたチリゴミのように勢いよく吹き飛んでしまった。

 龍による相手のスピードを利用する頭脳プレーが見事に決まった。

 アリサは勢いよくツリーハウス特有の幹の地面に顔面から激突してしまった。 

 さすがのフィーリングを持つアリサ。すぐにその身を起こした。

 しかし、一瞬、ほんの一瞬であるが、対戦相手である龍の姿を見失ってしまった。

 対戦相手である龍は、幸か不幸かちょうどアリサの背後をとっていた。

 対アリサということを考えると、一度あるかないかの劇的なチャンス。龍はそれが分かっているようで、アリサとの距離を背後から勢いよく詰める。

「極意其の二、相手の攻撃は即座に避け、即座に後ろをとる!」

 アリサの襲撃をかわしながら、背後を取る……!

 龍は、アリサからの極意をものの見事に体現していた。

「しまっ……」

 ここで、アリサはやっと龍に背後を取られていることに気付いた。しかし、遅すぎる。

「極意其の三、決める時は一撃で!! 鳳助、融合して! 鳳凰斬・緋祭!!」

 龍はアリサから教わった最後の極意を体現しにかかった。

 鳳助は再び鳳凰剣と融合。その鳳凰剣は、緋色に輝きながら、次第に熱を帯びていく。

 龍の決定打を放つ準備は整った。

 あとは、龍が鳳凰剣を信じて振るのみ……!

 そんな中、戦校時代のアリサとの思い出が龍を邪魔をする……。

 俺は自分の先生に全力で剣を振ることはできない……。

 俺は……。

 甘い!!

 龍はあろうことか鳳凰剣の火力を弱めながら振るってしまった。龍は、こんな千載一遇のチャンスを棒に振るったのだ。

 完全に背後を取られたアリサには当たったものの、当然一撃で決める火力ではなかった。背中が火傷する程度の傷しか与えることしかできなかった。

 アリサはゆっくりと背後にいる龍の方へ振り返った。

「極意其の三、決める時は一撃で……。あれれ? 一撃で決め切れなかったね。これが、昔からのあなたの弱点。あなたは優しすぎる。優しすぎるゆえ、甘過ぎる。バトラになってもまだその甘さは捨て切れていないようだね」

「くっ……」

 今度は逆に龍の精神が揺さぶられ始める。

 甘さ……。

 これが自分の弱点だということは自分自身が一番よくわかっているからだ。

 龍は自分の弱点が露呈し、闘いを決められなかった事実に落胆し、がっくりと肩を落としてしまった。

 そして、先ほどアリサにサンドバックのようにボコボコにされた傷も痛み出した。

「おい! 精神まで押されたら、いよいよ貴様は終わりだ!」

 鳳助が必死で警鐘を鳴らした。

 今までの龍はなんとか心の強さでアリサと闘うことができた。しかし、今はその心の強さが崩れる進前、いよいよ危うい状況になるからだ。

「大丈夫だよ鳳助。俺の心はまだ正常だ」

 龍の頼もしい言葉。今までの龍なら、こんな頼もしい言葉は言えなかっただろう。やはり、着々と成長はしているようだ。

「龍、安心しろ。俺はいつまでも貴様の味方だ」

 頼もしい言葉を頼もしい言葉で返したのは鳳助だった。こちらも、今までの鳳助なら言えることはなかったはずだ。

 鳳助も龍と出会い、人を忌み嫌う化物としてではなく、一人間のパートナーとして良い方向に成長しているようだ。


「アリサ先生、一つ聞いていいですか?」

 龍は無表情でアリサに質問した。

「いいよ、龍君★」

 職業病か、生徒の質問にアリサは素早く反応した。

「先生なら、僕の攻撃を避け切れたはずです。なぜ、”わざと”僕の攻撃を受けたのですか? もしかして、僕の心を受け取りたかったんじゃないのですか?」

「さすが、私の”元生徒”だけあるね★ その通りだよ。お陰で、あなたの想いが伝わった。あなたは、私のことを先生だと思い続けたいんだね。あなたの願いどおり百歩譲って私はあなたの先生でいいよ。でも、あなたの言葉を借りるなら、私が”ダイバーシティに恨みを持っている”こともまた”真実”」

「それは、どういう……!?」

「ちょっとしゃべりすぎちゃったかな★ さっきの龍君の言いつけを守って、何も言わないよ」

「分かりました。古代エンシェント流血シャワー!」

 龍の目の周りに出来た水たまりが、頬を伝って滴り落ちる。

 アリサの言葉を受けた悲しさからか、分かりあうことができない悔しさからかは分からないが、龍は今確かに涙を流したのだ。

 龍は地面に左手を置いた。その真意はすぐに分かることとなった。 

 龍が手に置いた地面から無数の炎の柱が吹き出し、それが大量の炎の雨となり、アリサに降り注がれた。

 龍はもう闘いでしか、アリサと分かりあえないと確信したのだ。

 アリサはまるで姿を消したように錯覚させるほどのスピードで、降り注がれる紅色の雨を全て避け切った。転法を駆使しながらの回避ステップだ。こんな芸当はバトラでさえもなかなか出来るものではない。

 速すぎて埒が明かない……。

 龍が心の中で愚痴を言っている暇は無かった。

 回避行動から攻撃行動への切り替えが速いアリサはすぐさま攻撃行動へ切り替えた。

「アリサ拳撃★星撃!」

 アリサによる強烈なる正拳突きが龍の胸辺りを標的にするように放りこまれた。

「鳳凰剣・十字守!」

 龍は対高雄戦で編み出した、鳳凰剣を用いた従来の十字守よりも防御力を高めた十字守で星撃に対応する。

 ゴゴンという大きな音が響き渡る。アリサの拳と龍の剣。肌と鉄がぶつかり合う荘厳な不協和音だ。

 この攻防はアリサに分配が上がった。

 アリサの星撃が龍の鳳凰剣十字守を上回り、龍を鳳凰剣もろとも後方へ吹き飛ばした。

 しかし、今年より晴れてバトラになった龍。ただでは、後方へ吹き飛ばされない。

「火の玉・魂、鳳助ver!」

 龍は後方へ吹き飛ばされながらも、左手を前にかざし、火の玉・魂を繰り出した。本日、忙しい鳳助は鳳凰剣から解離し、アリサの首を取るために発射された。

 スピードに乗った鳥型の緋なる玉は順調にアリサとの距離を詰め始めた。

「また龍君お得意の妙な玉だね。アリサ拳撃★星撃!」

 アリサは鳳助の進撃を、真っ向から自らの拳で迎撃した。アリサは利き手では無い左拳でパンチした。

 しかし、聞こえたのはスカッという空を切る音だった。

 鳳助は人間離れした動きで急に軌道を変え、アリサの正拳付きをかわしながらアリサの懐に入ることに成功した。

「”拳撃の革命娘”も大したことないな!」

 アリサの攻撃をかわした鳳助はつい調子に乗ってこんなことを口にした。

「流丹!」

 そんな鳳助に釘をさすように、アリサの右拳から繰り出されたアッパーカットが鳳助に直撃した。さらに、鳳助が懐に入ってしまったことで、アッパーカットの威力が倍増してしまった。

 どうやら、先ほどの正拳突きが囮で、こちらが本当の狙いだったようだ。だから、あえて星撃を利き手ではない左手で繰り出した。

 鳳助の本体である鳥型の球体は、アリサの見事なるコンビネーションにより、力なく墜落した。

 アリサvs鳳助という一階堂という超優秀な血を持つバトラ人々の恐怖の象徴である鳳凰の意志の夢の対決はあっさりとその幕を下ろしてしまった。

「やっぱり、人間離れした動きをしてきたね。あなたの動きは対黄河戦の時に見させてもらったからね。鳳助君だっけ?」

「この女、そんな昔の闘いまで! 食えねえ女だ」

「何か言ってる感じがするけど、残念ながら私には聞こえないな。きっと褒めてるんだよね★」

 すっかりいつもの調子が戻ってきたアリサは、軽快なステップで大きく跳躍した。

 まずい……。大技が来る……!

 直感的に感じ取った龍は、すぐさま防御態勢に入ろうとする。

 痛っ……!

 しかし、アリサに成すがままに与えられた傷が再び痛み出し、思うように体が動かない。

「とどめだよ★ アリサ拳撃★星転順回!」

 それを見たアリサは勝負を決めれると確信。対エルヴィン戦で強敵エルヴィンを沈めた大技で仕留めにかかる。

 アリサは空中に跳躍しながら、まるで地球の如く廻転し、そしてまるで流星の如く降り注がれる。

 やばい……!

 敗北を覚悟した龍に、一筋の光明が差し込んだ。

「二連甲絶雷太刀!」

 見覚えある稲光する二対のつぎはぎだらけのブーメランが龍の盾となり、アリサの襲撃を間一髪で喰いとめた。

「お前は……」

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