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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
14/42

第十四伝(第七十九伝)「偽りの先生、真実の先生」

第十四伝です。みなさんの先生はどんな人でしたか。怖い先生でしたか。優しい先生でしたか。そんなことを思いつつご覧ください。

 一階堂アリサ。それがアリサの本当の名だった。

 龍は戦樹が言っていた言葉を照らし合わせて、アリサの判明した姓を考えてみた。

 ツリーハウスの住人全てが”階堂”という姓を持っている。ツリーハウスの住人は生まれながらにして血の優劣によって一から四の数字が加わる。数字が小さいほど優秀な血を持っている。

 つまり、アリサ先生はツリーハウスの住人であり、なおかつ最高の血を持っている者!

「どう龍君、分かった? あなたは私のことを何一つ分かっていないんだよ。私が敵であるということもね」

 アリサ先生の姓が一階堂であることは百歩譲って良いとしよう。

 しかし、一番不可解なのは……。

「ツリーハウスの看板であるキングツリーの樹液がダイバーシティに流通している。つまり、ダイバーシティとツリーハウスの仲は良好であるはずです。もし、アリサ先生が敵ならば辻褄が合わないじゃないですか!」

 龍は力強く主張した。先生が先生であることをなんとか証明したいが為に――。

「本当のことを聞きたければ、私を苦しめてみてよ。バトラになったあなたと闘いたいから」

「龍、闘う覚悟を決めろ!」

 鳳助の言葉を受けた龍はあることを思い出した。それは、高雄とフェアルのバトミッションの時に高雄が言った言葉だった。

『誰しもが優しいからといって、それがその人の本性を表しているとは限らない。むしろ、優しい人ほど裏があると思った方が良いですよ』

「分かったよ鳳助。でも、これは闘いではない。これは授業だ!」

「授業? もう、あなたに教えることはなにもないよ」

「なに言っているんですかアリサ先生。この授業は特別講義です。そして、僕が先生です。僕が教えてあげますよ。あなたが愚かな行為をしているということをね!」

「言ってくれるじゃん★ 私に歯が立たなかったガキが!」


 かつての生徒と先生が対峙する。異様な光景だ。

 樹希がそれを固唾をのんで見守る。

 アリサ姐さんが負けるはずがない……。だって、アリサ姐さんは戦闘に秀でたツリーハウスの住人の中でも最強の”一”の称号を与えられた者!!

 樹希はアリサの敗北を微塵も思っていないようだ。

 戦校時代のアリサと龍の戦力差は一目瞭然。天と地ほどの差、月とすっぽん、いろいろな言い方があるが、とにかく圧倒的な差があるこのには間違いない。後は、龍が戦校の一生徒からバトラになってどこまで差が縮まっているか。

 確かに、戦校を卒業してから半年の間、俺は着実に強くなった。だが、それでもアリサ先生に追いついたことは考えにくい。

 龍はあくまで冷静に相手である元、自分の先生と自分の差を分析。

 そして、分かったことは相手の方が圧倒的に強い!

 それほどまでに、龍が戦校時代に目の当たりにしたアリサの強さは衝撃的だった!

 ただ、向こうからしてみれば相手は遥かに格下の元生徒、それゆえ向こうには慢心というものが少なからずあるだろう。

 そこを狙う……!

 そして、アリサ先生と闘う上で最も注意しなければならないことがある。それは、相手の土俵に立たない!

 つまり、なんとしても近距離戦闘は避けなければならない。

 距離を取りながら闘う……!

 龍の対アリサの指南書は完成したようだ。


「火の玉・魂、鳳助ver!」

 龍の若気の至りからか、アリサの大人の余裕からか、元生徒vs元先生の記念すべき先制攻撃は龍が取った。

 鳳助を内蔵した緋なる球体が、先生の首を取りにかかった。球体は猛スピードでアリサに襲いかかる。

「四柱壁!」

 さすがはアリサ。全く動じる様子が無く、地中から四本の木柱を召喚した。

 その木柱を自身の盾になるように、形態変化させ、あっさりと強力な火の玉・魂を防ぎきってしまった。

 四柱はいつもより、緑鮮やかで、丈夫に見える。地の利もあるようだ。

 アリサは視界を確保しようと、一旦自分の身を守るために視界が遮ってしまった四柱壁を解除する。

 アリサが解除した次の瞬間、アリサの眼前一杯に小さな太陽が飛び込んできた。

「行けー! 太陽ソウルボム!」

 鳳凰剣の剣先に高密度の炎を密集させ、球状に型どり、放つ。対斬竜戦で斬竜をギリギリまで追い詰めた大技を序盤から龍はお披露目したのだ。

 アリサの油断、慢心を突くには序盤しかないと龍が判断したからだ。

 龍、渾身の太陽・爆はアリサがいる場所に直撃した。静寂なるツリーハウスには不相応なブワコオオンという耳をふさぎたくなるような爆発音がこだました。

 アリサに当たったのか、否か。アリサがいるであろう一帯には煙が充満しはっきりとは分からない。

 徐々に、煙が無くなり、様子があらわになる。

 結論から言うと、当たってはいた。ただ、直撃は免れていた。

 龍が愛用する腕を十字に交差させて身を防ぐ防御技、十字守を、発案者であるアリサが使用していた。

「どうですか!? アリサ先生! 油断しているからそうなるんですよ!」

 龍はアリサに指をビシッと差し、自慢げに言った。戦校時代、あの圧倒的な力を常に誇示していたアリサに傷をつけたことがよほどうれしかったらしい。


「龍君、あなたはやっぱりとんでもない潜在能力を秘めているようだね。正直、油断していたよ。だから、次からは本気で行くとするよ★」

 アリサは太陽・爆の熱で皮膚がはがれてしまった腕をなでながら言った。

 その言葉には威圧感や恐怖感、とにかく相手を怖気づかせるような効能がすべて含まれていた。

 龍は蛇に睨まれた感覚に陥った。

 これが本物のバトラと本物の闘いをするということ……!

 龍が真っ先に芽生えた感情は恐怖。しかし、龍は必死でその恐怖を御そうとしていた。

 アリサに自分が先生であることを思い出させるために……!

 と、同時に龍は落胆した。

 この攻撃はアリサの慢心、油断を突いた奇襲。戦力差がどうしてもある龍が倒すには、この初手でフルパワーを出して退けるほかなかった。しかし、皮膚をほんのちょっとはがしただけで、決定打には至らなかった。

 そして、次なる攻防は、アリサの慢心が無くなり、奇襲なしの純粋なる力比べ。

 龍に勝機はまるでなかった。

 絶望感……!

 恐怖の次は、この感情が龍を湯水のように襲うこととなった。


 アリサは自身の体を折り曲げるように態勢を低くし、左手を顔の前、右手をみぞおちの前にそれぞれ構えた。

 これはアリサがいかに隙を少なくするかだけを追及して考案した態勢。

 つまり、本気(ガチ)中の本気(ガチ)

 次は自分のターンと言わんばかりに今度はアリサが動いた。

 アリサは足元の地面にポンと指を置いた。すると、地中からアリサお得意の四本の木製の柱が飛び出してきた。その四柱は、アリサの足場の土台になるように形状を変化させ、まるでアリサのオンステージに仕立てるような動きを見せた。

 そして、アリサを乗せた四柱製のステージは上空へ盛り上がった。それと同時にアリサ自身の高度も上がった。

 二階建てくらいの高度を得たアリサが四柱ステージから高らかにジャンプした。そして、そのままかかと落としの構えをして、龍の頭上一直線にめがけて落ちる。

 龍はすかさず、その進撃を鳳凰剣で受け止めた。ガキンという衝撃音が辺り一帯をにぎわせた。

 しかし、位置エネルギーと重力を獲得した強烈なアリサによるかかと落とし。弾き返すことができず、軌道を変えることで精一杯だった。

 それで十分とも思えるが、この状況下ではそんなことは言ってられない。

 なぜなら――。

「やっと近づけた★」

 アリサはにんまりと不気味な笑みを浮かべた。

 口を酸っぱくして言うがアリサの得意な戦闘距離は自慢の拳と脚を存分に披露できる近距離。それは龍も再三注意していた。

 しかし、今現在の戦闘距離はどうだ。アリサが龍にかかと落としの襲撃を敢行したことにより、互いの息遣いがはっきりと分かるような間合いになってしまった。

 つまり、龍はすんなりと相手の有利になるような戦闘を許してしまったことになる。

 それは、明らかな凡ミス。普段から慎重な闘いをする龍にこのようなミスは珍しい。それが戦校の演習とは違う、実戦ならではの独特な緊張感から生まれてしまう簡単な過ち……。

 しまった……。

 龍がこの過ちに気付くも、時すでに遅し。アリサによる恐怖の追撃が開幕する。

「アリサ拳撃★流丹!」

 アリサは龍のみぞおち、ただ一点を狙った綺麗なアッパーカットを繰り出した。

 それは、龍が十字守をやる間もなく行われた出来事だった。

 龍はその衝撃で、赤い液体のおう吐物を口から吐き出した。その液体は足場の緑鮮やかな幹を生々しく染めた。

 

 これを皮切りにアリサによる恐怖劇場の幕が上がった。

 アリサのアッパーカットで完全にひるんでしまった龍は、しばらくの間動けずにいた。そんな分かりやすい隙をアリサが逃すはずがなかった。

 凶器と呼ぶにふさわしいアリサの鍛え抜かれた拳と脚が、龍の体をどんどん痛めつけている。

 その影響で龍の体は真っ赤に腫れ上がってしまった。どれだけ威力が高かったかがはっきりと分かる。

「先生……。もう、やめてください……。僕はあなたの生徒なんですよ……」

 龍はもう力による抵抗が出来ず、口による懇願しかこの状況を打破出来る方法を見つけることができなかった。

 しかし、アリサの拳と脚は止まらない。さらに、元生徒の体を傷つけていく。

「龍君、残念ながら戦校時代の私は全て”偽り”。あの時の私に”真実”は存在しない」

 非情なる言葉を吐きながらーー。

 龍は逃げる。先生からの非情すぎるお仕置きから逃れるために。

 アリサは追う。元生徒を仕留めるために。

 そんな……。アリサ先生との思い出は全て嘘偽りだったのか……。

 龍は失意の中、戦校時代のアリサとの思い出を想起し始めた。


 〜戦校時代〜

 登校初日の時……。

「はあーい。みんないるー? 私はこの教室の担任の先生、アリサだよー★」

 これがアリサ先生との最初の出会いだった。

 アリサ先生は俺たちにバトラについての知識を面白可笑しく教えてくれた。今まで俺が抱いていた先生とは退屈な授業しかやらないというイメージを見事に払拭してくれた。

 俺は先生とは正しい知識を生徒に教えてくれる存在だと知った……。

 

 交流戦の時……。

 アリサ先生はナーガチームというはるかに高い壁に立ち向かえるように俺たちに闘える術を教えてくれた。

「短い間だったけど私の身勝手な特訓に文句ひとつ言わずついてきてくれてありがとう。明日は思いっきり楽しんできてね、そうすれば絶対悔いは残らないから」

 この言葉で自信をつけた俺たちはナーガチームに堂々と闘うことができた。結果こそ負けてしまったが、今までの交流戦の中で、最も一年チームが健闘した交流戦と称された。

 俺は先生とは生徒に新しい力を授け、そして生徒に自信を持たせる存在だと知った……。


 裏闘技の時……。

 俺たちが銀次を見捨てようとした時、アリサ先生は本気で怒ってくれた。

 俺たちが身勝手な行動をとって窮地に立たされた時も、正体を隠しながらも俺たちを救ってくれた。

 俺は先生とは生徒たちのことを本気で想い、本気で守る存在だと知った……。


 エンペラティアの時……。

 アリサ先生は保護役という立場から、未知なる敵に全力で挑み、解決に貢献した。

「良かった……本当に良かった……」

 アリサ先生は生徒を抱きしめながら言った。

 俺は先生とは生徒の身を何より心配する存在だと知った……。


 卒業の時……。

「みんな分かってると思うけど、今日が最後の日。辛いことも苦しいこともたくさんあったけど、みんなと過ごしたこの二年間は最高の思い出になりました!」 

 アリサ先生は涙ながらに言った。

 俺は先生と別れの時、生徒を悲しませる存在だと知った……。


 否、違う。

 先生との思い出に嘘偽りなんてない。全ての思い出が”真実”……!

 アリサ先生の言動と行動を思い出せば、思い出すほど真実だと言うことが分かってしまう……。


 龍の心に何かしらのケリがついたようだ。

 龍は今まで逃避を続けさせていた脚を休止させた。

 さらに、龍はアリサから背を見せ続けた体を振り向かせ、堂々と自分の正面をアリサに見せた。

 そして、愚直で汚れなき目でアリサを見つめた。少し、涙を含んでいるようにも見えた。

「アリサ先生、もうこんな不毛な闘いはやめましょう。アリサ先生との思い出は全て”真実”なのですから」

 やめて……。そんな目で私を見ないで……。

「少し黙ろうか龍君! そして、止めだ! アリサ拳撃★星撃!!」

 アリサは珍しく大声を張り上げた。龍に御されそうになった自分の意志を誇示するためだ。

 アリサは腰に利き手である右拳を置き、駆け出した。それは、明らかに焦っていた。

 決して力で押されている訳ではない。心で押されているのだ。

 アリサ姐さんのこんな姿見たことがない……。一撃龍、あなたは何者……?

 今まで見たことないアリサの姿に、樹希は困惑していた。それと同時に、アリサをそんな状態にさせた一撃龍という男に興味を示していた。

 アリサが止めに選んだ技は、あまりにもシンプルな正拳突きだった。いや、シンプルだからこそ、その正拳突きは研ぎ澄まされている。

 そんな研ぎ澄まされた正拳でギリギリの状態であるはずの龍を仕留めにかかった。腰に据えられた右拳が空気を切り裂きながら、龍の腹めがけて放たれた。

「十字守!」

 龍は冷静に右腕と左腕を十字に交差させ、その交差点にアリサの正拳を見事にあてがった。

 その技は目の前にいる者から授かった技だった。

  

 

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