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DORAGON BATORA ―ドラゴンバトラ― 2  作者: 紫風 剣新
ツリーハウス編
11/42

第十一伝(第七十六伝)「とある二人のバトミッション」

第十一伝です。高校野球観戦とバイトでなかなか執筆に時間が取れずに、更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。さて、久しぶりにあの二人が登場します。一体、どの二人なのかそんなことを考えながらご覧ください。

 龍がツリーハウスに旅立った前日。

 きらびやかなセンターハウスを堂々と闊歩する一人の、いや一体の獣のような大男がいた。その大男はダイバーバトラの制服の上に、特攻服を羽織った摩訶不思議なファッションに身を包ませていた。

 名を鉄剛という。彼は戦校時代の龍のチームメイトで、龍と同時期にバトラになった男だ。彼はバトラになる上で必要不可欠とも言える、特殊能力スペシャルを持ち合わせていない。しかし、彼は研鑽を重ね、自慢の拳一つでバトラという名の栄光を勝ち取ったのだ。

 そんな彼の戦校時代において大きな影響を与えた人物がいた。名をアリサという。龍や剛達の戦校時代の担任だった女流バトラで、龍や剛達の指導に当たった。アリサは拳を主にして闘う「拳撃」を極めしバトラで、剛は自身の戦闘スタイルに類似し、それを自分よりはるかに高い次元で繰り出せるアリサを誰よりも尊敬していた。師匠と仰ぎ――。

 しかし、彼女は剛が卒業した日に失踪した――。

 失踪したという言葉には語弊があるかもしれない。正確に言えばあの日以降、剛の元に現れることはなかった。

 剛は正式にアリサに弟子入りするために、バトラになって以降、日々自らの師匠を探すために奔走していた。

 だが、これまで満足した情報を得ることはできずじまいでいた。分かったことと言えば、はアリサは戦校教師の契約が自分達が入学から卒業するまでの二年間だったこと。そして、契約期間が潰えてからダイバーバトラの登録を抹消していること。

 なにか有力な手掛かりを掴みたい剛は、遠くに地に赴き情報を得る為に、大きな指で窮屈そうにスクリーズを操作していた。そんな中、一件のバトミッションに剛は目を留めさせられた。

「ツリーハウス前の武具工房『ココロ』で武具製作、修理の補助、手伝い。期間・二日間」

 ツリーハウスって確かダイバーシティの東部にある巨大樹の街……。

 ここならししょーの有力な情報が得られそうだぜ!よっし、決めた!

 鉄剛の本日のバトミッションが決定した。


 ☆ ☆ ☆


 同日。同時刻。このバトミッションに注目する者がもう一人いた。

 きらびやかなセンターハウスに似つかわしい清錬な格好をし、美しい姿勢で受付近くの席に腰を置いている一人の女性。

 名を光間凛。彼女も剛と同じく戦校時代の龍のチームメイトで、龍と同時期にバトラになった女だ。由緒正しき家系に生まれた彼女は、代々伝わる光を駆使し、好成績を収めバトラという新たなステージにのったのだ。

 そんな彼女の相棒である聖剣エターナル。幾多の困難を凛と乗り越えてきたエターナルだったが、戦闘時に破損してしまった。そんなエターナルのいたいけな姿に心を痛めた凛は、エターナルを一刻でも早く元通りの姿に戻すために、武具を治す技術のある者を探していた。

 そんな折に舞い込んできたこのバトミッションはまさに今の凛にピッタリ。武具工房とあれば、それ専門の人がいるに違いない。

 光間凛は心を躍らせながら、そのバトミッションを受注した。


「それでは、光間凛様のバトミッションは無事受注されました。それと、このバトミッションを受注された方がもう一人いらっしゃいますので、お呼びしますね」

「分かりましたわ」

 凛は表情一つ変えず淡々と答えた。凛はソロバトミッションだろうが、パーティバトミッションだろうが特にこだわりはないらしい。

「鉄剛様、センターハウスの一階の受付にお越しください」

「鉄剛って言ったのですの!?」

 岩のように頑なに変えなかった凛の表情が一気に様変わりした。瞳孔がくっきり開かれており、意外な名前にえらく動揺しているようだ。凛も剛も戦校時代の龍のチームメイト、当然凛と剛もチームメイトである。さらに言えば、二人は交流戦でコンビを組んだ仲。そんなペアの名前が不意に出たので、常に冷静な凛が動揺するのも無理もない。

「さーて、俺に何の用だ?」

 剛が粗雑な足音をならしながら、階段を早足で駆け降りてきた。それを懐かしそうな目つきで凛は見つめていた。

「久しぶりですわね、剛君」

「凛……なのか……!?」

 剛は先ほどまで稼働していた足をピタリと止め、自分の名を発した美女、凛の顔を狼狽した様子でまじまじと見つめていた。

 そして、今度は頬の筋肉が一気に緩ませながら、今一度足を自分の稼働させて凛に近づいた。

 剛は凛と共に闘い凛に対し、好意が芽生えていた。それゆえ、戦校時代以来の再会は嬉しかったのだ。

「どうやら同じバトミッションのようですわね」

「えっ、お前も武具工房のバトミッションを……?」

「そうですわ」

「良かった! お前と一緒で!」

 剛は恥ずかしげもなく凛の手を握った。ストレートに自分の気持ちを表現する。それが剛の唯一無二の武器であり一番の取り柄でもある。それは行動に移る前にいろいろ考えてしまう龍が彼を一番尊敬する部分である。

「手を離してくださる?」

 拳一つで無法なるバトラ世界を生き抜く剛の握手は、か弱き女性である凛にとっては想像以上に効く。それに今の剛は、凛に会えた嬉しさのあまり見境を失っている。凛は痛みを御しながら剛に手を離すように要求した。

「おう、悪かったな! んで、凛はなんでこのバトミッションを受注したんだ?」

「これですわ」

 凛は背に担いでいた、刃先がこぼれ、美しさが売りであった見るも無残な聖剣エターナルを剛に見せた。

「なるほどな! 武具工房でついでに治してもらうってわけだ!」

「あなたにしては察しが良いですわね」

「”にしては”は余計だぜ! 俺だってバトラだ! それぐらいは分かるぜ!」

「そうでしたわね。あなた”も”バトラでしたわね」

 ただの夢見る少年少女だった二人。しかし、今はもう夢見るだけではいられない。

 バトラという新しいものを背負って、目標に向かって突き進んでいかなければならない。

「よし行くぞ!」

「りょーかいですわ!」

 二人は目標に向かって、本日のバトミッションに取り掛かった。交流戦以来の名コンビ復活である。


 ☆ ☆ ☆


 何もない荒れ地の街道沿いの巨大なるキングツリーを後方に携えたような位置に、武具工房『ココロ』は存在していた。

 自然たっぷりの風景には不相応な鉄製の人工的な建物。屋根には分かりやすく「武具工房ココロ」と大きな文字で刻まれ、建物には武具工房と一目で分かるように剣のモニュメントが飾られてある。

「ここみたいですわね」

「そうみたいだな。よし、入るぞ!」

 スクリーズとにらめっこして、ようやっとたどり着いた凛と剛の二人は建物の中へと足を進めた。午前中に出発したのだが、すでに御昼時を回っていた。

 建物の中は工房らしく、材料と思われるダイバーシティの輝鉄やキングツリーのものと思われる材木、さらに完成品と思われる均整のとれた剣、刀、盾など、そして修理品と思われる形が崩れている武具が所狭しと散乱している。

「あんたらがウチの依頼を受注したバトラやんかー?」

 すると工房の奥から一人の女子が無数に散らばる材料と武具をかき分けながら、ひょっこりと姿を現した。

 その女子はどこにいても目立つような黄色い長い髪を携えており、作業の邪魔にならないようにか紐で結び、お団子ヘアにしている。そして、手ぬぐいを頭部に結び、ハンマーを手に持ち、釘を口でくわえている。まさに職人を絵にかいたようなスタイルだ。

「そうですわ。武具の修理と製作の補助で良かったのですの?」

「ああ、そうやんでー。ウチの名は真野心まのこころやんでー。ウチの工房はウチの名前を取っているやんでー」

「私の名前は光間凛ですわ」

「俺の名前は鉄剛だ! よろしくな心!」

 各々が自己紹介を済ませる。

「最近、ウチの工房に依頼が多くてなー、一人だと手が回らないやんで―。やから、二人に応援を頼んだやんで―」

「一人でやっているのですの?」

 凛は面を喰らった表情をして質問した。

 心は見たところによると自分と同い年くらい。そんな年の女子一人が武具工房を一人で切り盛りしているなんて類を見ない例だからだ。

「本当はパパと二人でやってるんやけど、パパは旅に出ててしばらく帰ってこないやんでー。やから、こうして繁忙期には依頼してバトラに手伝ってもらってるやんでー」

「尊敬しますわ。私も見習わなければいけませんわね」

「そんなことないやんでー。ウチから言わせればバトラこそ尊敬する対象やんでー。武具を巧み使って闘う姿はかっこいいやんで―」

「そ、そうですの?」

 凛は心に褒められ、まんざらでもない様子だ。自分の職業を尊敬されたのだ。嬉しくないわけはない。

「あのー、やっぱ一緒に来るってことは、二人は付き合っているやんかー? 恋のバトミッションって奴? ひやー、若き二人の恋模様! なんて素晴らしいやんのー!」

 急に心は頬を赤らめ、その頬を手て押さえながら、足をじたばたさせて言った。どうやら、心は職人気質のいでたちとは裏腹の人の恋路に興味たっぷりの純粋なる乙女のようだ。

 そんな言葉を受けた凛と剛は目を点にさせていた。

『付き合ってる……?』

 凛と剛の二人は綺麗に口をそろえた。

 二人は生まれてから今までそんなことを言われたことは一度もない。そもそも二人はただの戦校時代のチームメイト。そのような事実は一切ない。

 しかし、状況が状況。二人仲良く足並みをそろえながら、バトミッションを遂行しに来たのだから、誤解されるのもうなずける。

「そんなわけないじゃないですの」

 凛は冷淡にもきっぱりと否定。事実を言ったまでだが、言い方というものがある。

「そんなきっぱり言わなくても……」

 いつも大声を喚き散らしている剛が、珍しく小声でつぶやく。凛に好意を寄せている剛にとって凛の冷淡な言葉は思いの外痛烈だったようだ。

「でも二人一緒にバトミッションをやるってことは、お互い好意を持ってるってことやんでー?」

 人の恋路に手を出した心の暴走は止まらない。自分の名の通り相手の心をかき乱す。

「心ちゃんは何を言っているのですの?」

「……」

 二人の反応は真っ二つに割れた。凛は心に問い返し、剛はだんまり。

 心の質問は凛にとってはとんちんかんであり、剛にとっては図星だったからだ。

「よっし、作業を始めるやんでー!」

 依頼主の一言で凛と剛の本日のバトミッションが開始された。


「凛ちゃん、材木持っくるやんでー」

「はいですわ」

「剛君、この剣を支えてもらえるやんかー?」

「りょーかい!」

 作業は驚くほどスムーズにいった。

 みすぼらしい姿になってしまった剣や盾が、みるみるうちにあるべき姿へと帰化していく。心の腕は目を見張るものがあり、素晴らしい手さばきで、丁寧かつ迅速に武具を修理した。

 

 すっかり荒野から日が堕ちた時。本日の仕事である武具の修復は完全に終了した。

「ありがとう二人とも。お陰で予定より早く作業を終わらせることができたやんでー」

 ぶっ通しで作業をしていた心は、頭を頑なに結んでいた作業で汚れてしまった手ぬぐいを解き、tッを目一杯伸ばし、疲れ切った体を癒しながら言った。

「当然のことをしたまでですわ」

 さばさばした対応を見せる凛だが、顔には疲れが残っているようだ。

 今まで華やかな仕事しかやってこなかった凛にとって、このような泥くさい仕事はなかなかに堪えたようだ。

「心は凄いぜ! こんな仕事をいつも一人でやってるなんてな!」

 剛は感心しているそぶりを見せた。

 体力に定評がある剛でこそ、スタミナを切らすことはなかったが、それを毎日、それもか弱き女子が一人でこなしていると考えると想像を絶する。感心せずにはいられない。

 

「ごめんやんでー。夕飯作ろうと思ったけど、忙しかったからカップ麺で勘弁してくれやんでー」

 工房の奥に隠されていた憩いのオアシス、絨毯が敷かれてある六畳一間のプライベート空間へ凛と剛をいざなった心は、家族団欒を思わせる優しい木製の丸机に、これでもかというくらい蓄えていたカップ麺が所狭しと並んでいた。

 それぞれ好みのカップ麺を選び、定石通りにお湯を入れて三分間待ち、各々のタイミングで出来立てほやほやのカップ麺を口に入れた。

「明日は何をやるのですの? 修理は全部終わったようですけど」

 凛は麺を等間隔で律儀にすすりながら、心に問いかけた。

「明日はなー、違うことをしてもらおうと思ってるやんでー。実は明日がメインみたいなもんやんでー。内容は楽しみにしててなー」

 心は凛とは違い、口に入れれるだけ麺を入れながら、口をもぐもぐさせながら答えた。

 同年代の女子でも生き方が違えば、食べ方一つでもここまでの違いが出るらしい。


 食事も終わり、寝支度を済ませた凛と剛の二人は、食事をした六畳一間の部屋のさらに奥にある寝室で、布団にかぶっていた。

「剛君、ちょっといいやんのー?」

 六畳一間の部屋で本を読んでいた心は、ふと凛と剛は二人が居る寝室に入り、寝落ち寸前の剛を起こす。

「ん、なんだ心?」

 心は目をこすっている剛を、夜なのに明るい六畳一間の部屋に連れ出された。

 今一度その部屋を見ると、本棚には少女漫画がぎっしりと並べられている。人の恋路に興味があるのは、どうやらその影響らしい。

「剛君は、凛ちゃんのことが好きやんのー?」

 

 


 

 

 

 

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