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リオラが詠唱を始めた途端、空気が変わった。例えるならそう、圧倒的な強者に相対した時に感じる圧迫感……もしくは、巨大な肉食獣に睨まれているような、絶望感。とにかく、重いのだ。そして、唱え終わった瞬間、それは更に強くなった。原因はわかっている。間違いなくリオラが言っていた、武装を召喚するという魔術によって現れたモノ。今彼女の手元にある、2メートルはあるのではないかという金色の大鎚だ。
長い柄の部分には特に何の装飾も施されてはいない。頭部も派手な装飾はされていないが、稲妻を現すようにジグザグの線が走っている。パッと見はただの馬鹿でかい鎚だが……これを見た者は即座に普通でないことに気付くだろう。発する威圧感も要因の1つではあるが、もっとわかりやすい特徴があるのだ。
「リ、リオラ……それ、持って大丈夫なのか?」
魔物に囲まれている状況も忘れて呆けた声を出してしまう。でも仕方がない。
「何か……バチバチ言ってんだけど」
そう、その大鎚は帯電しているのだ。そういえば らいつい とか言ってたけどそうか雷鎚か……などとどうでもいいことを考えつつリオラに問う。
「えぇ、問題ないですね。というか主様。自分で出したモノに被害を受けるなんて話にならないでしょう」
「いやそりゃそうなんだが……」
言ってることは正しいのかもしれないが、だとしてもそんな見るからに危険そうな物を手に持っても大丈夫か、と心配になるのも当然ではないだろうか。危険が危ないだろう。頭痛が痛いのだ。違うか。
まぁいい、危険そうではあるが害がないのならそれは俺達にとっては頼りになるということだ。どうやら魔物達も大鎚の醸し出す異様な雰囲気に警戒しているのか様子見の姿勢だ。
さぁ、今のうちだ。ゆけ! わがしもべよ!!
「よし、じゃあリオラ! それであいつらを追っ払ってくれ!」
「え? そんなこと出来ませんよ」
「へ?」
リオラきょとんとした顔でそんなことをのたまった。え? どういうこと?
「私にできるのはあくまで武装の召喚だけです。使い方なんてわかりませんよ」
「えぇぇぇ!? じゃあどうすんの!?」
聞いてないぞ!! いや、確かに魔術が使えるとは言ってたし、武装を召喚するだけのモノだとも聞いたけど!! 召喚出来るなら普通使えるだろ!! 使えないもん出してどうすんだ!!
当然の主張だと思うのだが、しかし我が使い魔様は平然と言い放った。
「それは勿論私に使えないのですから、主様が使うしかないでしょう。はい、なんだか強そうですよ。さぁ、頑張ってください」
そういって ひょい とばっちんばっちんいっている鎚を差し出してくるリオラ。率直に言って触れたくない。リオラが大丈夫でも俺が大丈夫だという保証はないのだ。危険が危ないのだ。
大体俺だって鎚の扱い方なんてわからない。……が、まぁ、二人ともわからないなら確かにリオラに使わせるよりは俺が使うべきだろう。あんな重そうな物をリオラが満足に振るえるとは思えない。(それは俺も同じことではあるが)
問題は俺が持っても大丈夫なのか……と躊躇していた俺を急かす様に、リオラがぐっと鎚を突き出してきた。
「何を恐れることがあるのですか、これは元々|(自称)世界最強|(笑)だったあなたの使っていた物なのでしょう。大丈夫ですよ(多分)。さぁ(ビビってないで)急いで下さい。いつまでも様子見をしてくれているわけではないんですよ(へたれ)」
「何か悪意ある副音声が聞こえる気がするんですけど気のせいですかねェ!!」
何て使い魔だ。親の顔が見たい。鏡はどこだ。
しかしそれでも帯電している槌に躊躇していた俺だったが、リオラの言葉を肯定するように魔物が輪を狭めてきたのを見て覚悟を決めて手を伸ばした。
「ええいどうにでもなれ!!」
叫びつつ、その動きに反応して俺達を包囲する魔物の中から飛び出してきた一匹に向け、鎚を振るう。どうやら持っても問題が無いようで安心したが、そんな安堵も一瞬でどうでもよくなってしまった。
俺が持つと同時に、鎚に纏わり付いていた雷電がひときわ強く迸った。そして鎚の頭部が魔物の身体を捕えた、その瞬間――
――俺達がいた場所を中心に、広範囲の木々が魔物もろとも消し飛んだからだ。




