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1-4

 森を歩くこと2時間。俺は今、屋敷の外へ出たことを後悔していた。

 話は簡単だ。午前中の早い時間だとしても、ここは自然豊かな薄暗い山の中。俺達がこんなところにいるのは場違いなのだ。不自然なのだ。人は森での生活を捨てた種族だからな!

 つまるところ。森の異分子たる俺たちは今、10匹程の狼っぽい魔物の群れに追われているのである。無論、全力で逃げている。


「だぁぁぁあ!! くそっ、何でこんな危険地帯に屋敷なんて建てたんですかねぇ!!」


「記憶を無くす前は何の問題もなかったんじゃないですか? ほら、手紙には世界で一番強い魔法使いだった、的なことが書いてあったじゃないですか。主様(マスター)、例え記憶を無くしてもあなたは世界最強。さぁ、何とかしてください」


「無茶言うな!! 魔力も封印したとか書いてあっただろ! 都合いいとこだけ抜き出しても意味はないんだぞ!!」


「何ですかもう。全く使えない主様ですね。何が魔法使いですか。そんな大層な肩書を名乗るなら実際に魔法の1つも使って見せてくださいよ」


「人の話聞いてた!? 大体魔力があっても、記憶無くなってて使い方すらわかんないんだっつの!!」


 使えるものならさっさと使っている。俺だって元魔法使いとか書いてあったんだ、もしかして何か使えるかも! とか。ちょっと胸がときめいたさ! しかし結果は惨敗。何かしら知識はあるんじゃないか? と思ったが、引っかかりもしない。根こそぎ消されているらしい。酷すぎる。

 ……あ、そうだ、リオラはどうなんだ。封印についても知っていたし、何か使えるんじゃないか?


「なぁ、リオラ! リオラは何か使えないのか!!」


「そうですね……実はいくつか使えるようです」


 何だと。おい、俺には何にも残さないのに使い魔には残すってどういうことだ。いや、とりあえずこの状況が何とかなるなら何でもいい。


「どんなのがあるんだ! 俺的には一発であいつらから逃げられる感じのがいいです!!」


「馬鹿言わないでください。無理です。そんな都合いいものがあったらすぐに使っています」


「……はい、そうですよね」


 わかってた。しかしかれこれ30分近く走り続けているのでそろそろ限界だ。余裕そうに見えた? 残念! 切羽詰ってます!!

 と、その時、遠吠えが聞こえたと思ったら、前方から更に3匹の魔物が現れた。咄嗟に進路を横に変えようとしたが――


 「主様、ダメですね。回り込まれました」


 いつの間にか、後ろから追ってきていた10匹のうち、6匹が半分ずつ左右に別れていたらしい。前後に合わせて7匹、左右に3匹ずつ。俺達を中心に仲間同士の間隔を少しずつ縮めている。完全に囲まれたようだ。


「くそっ! リオラ、この状況で使えそうなのはあるか!?」


「……私が使える魔術は、どれも武装を召喚するモノのようです。ですから、この状況で使えるかどうかは……私たち次第でしょう」


「ほんとあの野郎(記憶を無くす前の俺)は気が利かないな!!」


 しかし武装か……つまり、槍とか剣を呼び出して使うってことか? 手紙によるとオレは魔法使いだったみたいだし、そんな武器が使えるとは思えない。何故そんなもんを残したのか疑問である。リオラもあんな細腕じゃ……。いや、待て。彼女の拳の威力は俺が身を持って知っているじゃないか。もしかしたら戦闘は全て使い魔任せだったのかもしれない。

 よし! ゆけ!! 我がしもべよ!! と、リオラをチラッと見てみる。


「……こんな状況で何か馬鹿なことを考えてませんか?」


「……いや、何も。よし、リオラ、他に手も無いんだ。何でもいいからやってみてくれ!」


了解です(イエス)主様(マスター)


 短く答えるとリオラはその薄い唇を開き呪文を唱え始めた。


『雄々しく雄大なる戦神(いくさがみ)。天地轟かす雷神の鎚。雷鎚(らいつい)ミョルニル、顕現(ロード)します。』


 仮にも世界最強だったという男が遺した魔術は、軽々しく使ってはいけないモノだということを、知らないまま。

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