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――昔々のことでした。まだ、世界に魔法使いがたくさんいた時代……
――ある日、魔法使い達の前に1人の老人が現れました。
――老人が語って曰く。
――「お前たちが最後の3人になるまで殺し合いをせよ」
――「生き残った者には、無限の魔力、不老不死、全知……」
――「この中から1人1つずつ。与えてやろう」
――最初は何を馬鹿なと疑ってかかっていた魔法使い達でしたが……
――老人が実際に力の一部を見せると、目の色を変えました。
――彼らは老人に言われるがまま、最後の3人になるまで殺し合いました。
――そして生き残った3人は、それぞれの望むものを手に入れたのです。
「と、言うわけで、私たちはそれぞれ――」
「――ちょ、ちょっっと待ってくれ!!」
「んん? なんだい、話の腰を折らないで欲しいな」
一応は大人しく聞いていたが流石に口を出さずにはいられない。というか何だ、この手紙風に話すならって。からかわれているとしか思えないぞ。
「……いや、何だ、それ? 御伽噺かなんかか?
俺達が聞きたいのはそういうのじゃなくて……」
質問をしたのはリオラだが、しかし流石に唐突に無関係な話をされては文句の1つも言いたくなる。
と、そう思って言葉を続けようとした俺に、体面に座っていたヨハネさんが、ずいっと身を乗り出してきた。驚いて思わず口を噤んでしまう。
その顔は、口をにんまりと三日月のように歪めて……しかし、目は俺の目を捕えて離さない、寒気のする笑顔。
上目遣いに俺を見て。にやにやと笑いながら。正解をいい当てた子供を褒めるように。口を開いた。
「そう、今はもう御伽噺だよ、ただのね。」
そして。
「一般人からすればただの御伽噺で、しかし、私達にとっては昔話だ」
ただの、ね。
と、ヨハネさんは言い、俺達が思考停止しているのを確認して、しかしそのまま続ける。にやにやと、口元だけの笑みを浮かべて。
「私達はね、他の人間からしたら最早化け物……いや、どちらかと言えば、神様か。
御伽噺、昔話の中でも神話にでも出てくるような存在なのさ」
わかったかい? とそう言って、決定的な一言を告げる。簡単に予想できて、でも、今の俺ではとても許容できない、頭が理解することを拒否していた一言を。
「そしてシグ、君もその中の1人なんだよ」
え……? と、声にならない声をあげる俺に、ヨハネさんが優しい声音で、諭すように言う。
「だからね。君は、かつて多数の魔法使いを下し、生き残った3人の中で、無限の魔力を選んだ、世界最強の魔法使いだったんだよ」
なんだそれは。意味が、わからない。確かに手紙には魔力がどうのこうのと書いてあった。しかしそうなった経緯が、理解できない。何だ、つまり、力が欲しいからと、爺さんに言われるがまま人を――
「ま、その3人の中の1人が私でね、私とシグの関係はそんな感じだね」
ヨハネさんは、顔を青ざめさせた俺を気にする風も無くそう締めくくった。
にやにやと、口元だけの、笑みを浮かべて。