第8話 フィルドとクローン・フィルド
※クォット視点です。
【ディメント支部周辺 シールド外部】
わたしとスロイディア、ウェイダを乗せた小型飛空艇は、デスペリア支部から長い間飛び続け、ようやくディメント支部に辿り着いた。
強力な薄いピンク色をしたシールドで覆われたディメント支部の近くには、国際政府の飛空艇艦隊が集結していた。
「クォット将軍、これは……」
「……戦いが始まっているようだな」
小型飛空艇は国際政府軍の陣営内に降り立つ。外に出ると、爆音や銃撃音が鳴り響いていた。次々と強化プラスチック製の装甲服を着た大勢の兵士たちが走って行く。
「クォット将軍閣下、よくぞご無事で」
「ファイザ!」
真っ先に駆け寄ってきたのは部下のファイザ少将だった。
「現在、フィルド副長官救出の為、連合政府=アレイシア軍と戦闘中です」
ファイザがそう言ったとき、すぐ近くで大きな爆音が鳴り響き、地面が大きく揺れる。音のした方に目を向ければ、連合軍の軍艦が墜落していた。真っ赤な炎を上げ、夜空の雲に光を反射させている。
「指揮官はレイズ特殊軍長官とクェリア将軍です。我が軍は大型飛空艇5隻、中型飛空艇40隻、総勢40万人の軍勢です」
「アレイシア軍はどんなものだ?」
「アレイシア軍はシールド内に30万のクローン精鋭兵がいるようです。指揮官はキャプテン・フィルド将軍。ビッグ・フィルド=トルーパーが5人もいます」
……ということはシールド外に配備された軍艦の艦隊を合わせると、40万人近くなるか。ほぼ互角だな。
「ウェイダ、お前はファイザと共に軍の指揮を執れ」
「イエッサー!」
「わたしはスロイディアと共にシールド内に向かう!」
わたしは剣を抜き取り、その場から走り出す。スロイディアも一緒だった。国際政府軍の陣営抜けると、あっという間にそこは戦場だ。空に浮かんだ軍艦から砲弾が降ってくる。何度も爆音が起こり、数人の兵士が抉れた地面と一緒に吹き飛ばされる。
わたしは空高く飛び上がる。飛んでくる砲弾を斬る。鉄のそれは真っ二つに分かれ、空中で爆発する。砲弾を斬り捨て、地面に降り立つと、再びシールドを目指す。
「シールド内は激戦地だな」
「ああ、これは我々もただじゃすまない」
スロイディアとそう言葉を交わすと、シールドに突っ込む。多少の抵抗を受けながらも、通り抜けられた。
「アレイシア・クローンを討ち取り、フィルド副長官を助け出せぇっ!」
「国際政府軍をディメント支部に入れるな!」
「かかれぇ! 人工の魔女(=クローン・フィルド)を倒すんだ!」
「大罪人の処刑を邪魔させるなぁ!」
クローン兵士と政府軍兵士の激しい戦い。剣と剣が触れ合う音や、銃弾・砲弾の放たれる音、着弾する音、人々の悲鳴と倒れる音。――この場は、戦争の音に満ちていた。
「アレは……クォットだと!?」
「コマンダー・キャタック准将!」
シールドに入ると、すぐに1人のクローン准将がこちらへとやってくる。両手に大型の銃――ハンドキャノンを持ったコマンダー・キャタック准将だ。
彼女はわたしを守ろうとする政府兵に、砲口を向ける。砲弾が放たれ、爆撃音と共に炎と揺れが起こる。数人の兵士が死んだ。だが、残りの兵士が攻撃を避け、コマンダー・キャタックに向かっていく。
「クォット将軍に近づけるな!」
「邪魔だ!」
わたしとスロイディアはコマンダー・キャタックを無視し、先へと進んでいく。だが、一度目立つともうどうにもならない。すぐに次のクローン将校が現れる。
「行かせないよ、クォット。それと、スロイディア」
大型回転銃――ガトリングガンを装備したコマンダー・オート准将が出てくる。彼女はガトリングガンの引き金を引くと、その銃口が回転し、8つの銃口から激しい音と共に、何十発もの銃弾が勢いよく飛んでくる。
わたしはそれを走って避ける。銃弾は身体に当たらず、足元の地面を抉るだけだ。だが、これではコマンダー・オートに近寄ることも出来ない。勢いよく連続で放たれる強力な銃弾。近づけば、一瞬でハチの巣にされかねない。
「あの男をやっつけろぉ!」
「イエッサー!」
もたもたしていると、コマンダー・ケイ准将の命令を受けたクローン兵たちが一気に押し寄せてきた。わたしはその場から大きく後ろに飛ぶ。スロイディアも後から着いてくる。
「クォット、なぜ戦わん?」
「…………」
スロイディアが飛びながらわたしに声をかける。答えられなかった。そうしている内に地面に着地する。すぐ近くにクローン兵士がいた。
「コイツ、クォット……!」
彼女はアサルトライフルを手に、私を射殺しようとする。銃弾が飛んでくる。わたしは再び大きく飛び、彼女の銃撃を回避する。
戦わない? デスペリアでは何十体とバトル=メシェディを斬り壊した。別にわたしは連合軍の味方をしたいワケじゃない。――だが、戦えない……。
「いたぞ、クォットだ!」
……このクローン兵は全てフィルドのクローン。彼女とよく似ている。
「今度は逃がさないぞ!」
「コマンダー・キャタック准将!」
戦いたくなかった。
「クォットを討ち取り、フィルドを処刑しろ!」
フィルドをアレイシア軍に処刑させたくはない。いや、――
「クォット、“かつての弟子”を助けたくないのか?」
「…………!」
わたしの頭の中に11年前の記憶が蘇る。泣きながらわたしに助けを求める少女――フィルドだ。“あの日”、助けることができなかった。……今も?
「ッ、二度と繰り返さん……!」
わたしは下唇を噛み締め、目の前で剣を振り上げるクローン兵の身体を斬る。彼女は血を撒き散らしながら、その場に倒れる。
――フィルドは昔、わたしの弟子だった。11年前、わたしは彼女を助けられなかった。いや、“見捨ててしまった”。そして、彼女はわたしの元を去った。
クローン兵はフィルドのクローンだ。フィルドとは別の人間。そんなことは分かっている。分かっているが……。
「スロイディア、すまない。……フィルド処刑を止めよう」
わたしは覚悟を決め、側にいたスロイディアに言う。――フィルドと同じ姿をしたクローン兵たちを、殺すという覚悟、だ――。




