第6話 フィルドの価値
※コマンダー・アレイシア視点です。
ディメント支部の戦い。
それはラグナロク大戦史上に残る大きな戦いとなる。
狂気を帯びた戦いは、多くのクローン兵の命を奪う。
そして、闇の女騎の運命を、大きく変えることとなる――。
【ディメント支部 最高司令室】
私はディメント支部最上階にある最高司令室にいた。窓から射し込む光はオレンジ色。日が暮れようとしている。
「コマンダー・アレイシア将軍、軍部隊の配備は完了しました」
最高司令席に座る私に、コマンダー・コミット少将が報告する。彼女も私と同じフィルド・クローンだ。彼女だけじゃない。側にいる若いクローン将官――コマンダー・クナや、施設周辺を取り囲むクローン兵も、みんな私と同じクローンだ。そのベースとなった女性が処刑されようとしている。
「クローン精鋭兵40万人と軍艦30隻による完全な防衛体制です。もはや、いかなる侵入・攻撃をも許しません」
「……油断するな。今から処刑しようとしているのは、国際政府特殊軍の副長官だ。すでに国際政府は軍を派遣したっていう情報もある」
「分かっています。……しかし、なぜ彼女をわざわざ公開処刑にするのですか?」
そう言うコマンダー・コミットは、やや不思議そうな顔をしている。私は近くのソファに座っているコマンダー・ライカ中将にも目をやる。彼女も同じような疑問を持っているのか、コミットに賛同するような顔をしている。
「……コマンダー・ライカ、ティワード総統の代理として来たようだな。しっかりとその目でフィルドの死を収めておけ」
「…………。……ええ、分かってますよ」
……コマンダー・ライカはアレイシア軍所属のクローン兵士じゃない。連合政府本部から派遣されたクローン将官だ。大方、フィルドを連れ攫う為に来たのだろう。
「私たちのベースとなった女が死ぬとき、ある夢は断たれる」
「…………?」
私はそっと立ち上がる。
「パトフォーの名を聞いたことがあるか?」
「…………?」
「…………!」
コマンダー・コミットは何のことかさっぱり分からないらしい。だが、コマンダー・ライカは私から目を離す。やはり、何かあるな。
パトフォー。私自身、その正体を掴み切れていない男の名だ。コマンダー・ライカの様子からして、存在は間違いないか……。
「なぜ、私たちがフィルドという女をベースに量産されたのか」
「そ、それはフィルドが国際政府の上級軍人だったからで……」
「なぜ、フィルドだけなんだ? 他にもクェリアやパトラーという上級の女性軍人だっている」
私は狭い最高司令室内をゆっくりと歩いていく。窓に近づく。日が沈んでいた。西から、空が黒く染まり出している。
「パトフォーには、フィルドでなければならない理由がある」
「ど、どういう意味ですか?」
「“サイエンネット計画”を知っているか?」
「……一般の人間を人工的に進化させる計画ですよね」
コマンダー・コミットが言う。そう、人間を進化させる計画。それがサイエンネット計画。科学の集大成ともいえる計画だ。
だが、その計画は険しい道のりだ。人工のウィルスを使って進化させるらしいが、適合する人間が見つからなかった。
「私たちのベースは、その計画の実験台だった」
「ええっ!?」
今から11年も前、当時16歳だったフィルドはその計画の実験台にされた。そして、遂に人工ウィルスと適合した。いや、してしまった、か。
私は窓に背を向け、再びコマンダー・コミットの方を向く。手をかざす。僅かな間を置いて、コミットの身体が不可視の何かに殴られる。彼女は咳き込みながらその場に膝を付く。――私の放った超能力だ。
「実験は成功した。実験から数年後、私たちのベースは魔法や超能力を使えるようになった。……私たちは軍事目的で連合政府によって量産された」
「じゃ、じゃぁ、私たちは人間の進化バージョンなのかっ!? つまり、新人類!?」
興奮気味のコマンダー・ライカが立ちながら言う。私はコマンダー・コミットに手を差し伸べ、彼女を起き上がらせる。
「まだ、進化途中だ。完全じゃない。……だが、パトフォーは完全を狙っている。その為にも、フィルドは必要なんだ。だから、何とかして取り返そうとしているだろう」
「…………!」
急に黙り込むコマンダー・ライカ。視線が下を向いている。パトフォーから直々に命令でも受けたのか(どうでもいいが、分かりやすいヤツだな)。
「連合政府としても、フィルドは重要な実験台。強大な力と連合政府に対する激しい憎悪を持つ彼女を、死んで欲しいと思いつつ、実験台としては欲しいと思っている。勝手なヤツらだ」
「でも、処刑するんですよね?」
「……フィルドが死ねば、パトフォーの黒い夢は永遠に断たれるからな。殺す価値は十分にある」
「…………! で、でもっ、そんなことしたらパトフォーが怒りそうだな!」
コマンダー・ライカが私の方をチラチラと見ながら言う。デスペリア支部にいるコマンダー・シリカの言ったことが、本当になるかも知れないな。次は私がデスペリア支部に……。
「それでも私はやるさ……。その為の布陣だ」
「……パトフォーは何者ですか?」
「…………。……難しい質問だな。だが、1つだけ言えることがある」
私はコマンダー・ライカの方を向く。
「あの男は連合政府を自由に操れる。フィルドを取り返す為に、味方のように見える敵を送り込めるんだ。……そうだろ? コマンダー・ライカ」
「…………! あのっ、それは――!」
「えっ……!? まさか、コマンダー・ライカ中将は……!」
私は有無を言わずコマンダー・ライカに手をかざす。さっきのコミットと同じように、彼女は殴られ、その場に倒れ込む。私は彼女に馬乗りになり、彼女の手を腰の後ろで組ませる。
「ひぃ、キャプテン・フィルド将軍、なにを……!」
「……もう1つ言えることがある。パトフォーは――」
そのとき、施設全体に警報が鳴り響く。窓に目をやれば、遥か遠くに白色の飛空艇が何隻も現れていた。――国際政府軍の飛空艇だ。
「せ、政府軍です!」
「――“国際政府をも操れるということだ”」




