第2話 処刑宣言
※クォット視点です。
わたしはマグフェルト総統の前まで歩いていく。相変わらず部屋はかなり広い。この部屋は昔の王座をモチーフにして造ったらしい。
段差の低い放物線上の段を上り、マグフェルト総統の前に立つ。黄金で縁取られた大きな赤茶色の机。彼はイスの背をわたしに向け、大きな窓の方を見ている。
「ご苦労、クォット将軍」
彼は一言、そう言うと、そっと椅子ごとこちらを向く。黒いスーツに黒いコートを羽織った国際政府総統。政治家というには、とても似合わない身体。――彼の身体は、軍人のようにしっかりとしている。
「クォット将軍、急に呼びだしてすまなかったな」
「いえ、国民の為ならいつでも……」
決して、わたしはマグフェルト総統だけの為には働かない。あくまで国民の為に。そういった事を意識しながら言う。
「あぁ、国民と国際政府を守るのが、君たち軍人の仕事だ。その為に、今日は来て貰ったのだよ」
「…………」
「まずは、そうだな。君に見て貰いたいものがある」
そう言うと、マグフェルト総統は薄いコントロール・パネルに手を触れる。すると、窓のシャッターが閉まっていく。部屋は薄暗くなる。しばらくすると、大きなシールド・スクリーンが床から放たれる。何かの映像か?
「これを見て欲しい」
マグフェルト総統は再びコントロール・パネルに触れる。すると、シールド・スクリーンに何か映像が映り始めた。
[――世界の支配者たちよ]
「…………! この女は……!」
シールド・スクリーンに映ったのは、赤茶色の髪の毛をした若い女性だった。彼女は、椅子に座り、しっかりとこちらを見ながら話す。
「連合政府七将軍の1人――コマンダー・アレイシアだ。“クローン”が連合政府の将軍になるなんてな……」
コマンダー・アレイシア。フィルドという女性をベースに造り出されたバトル・クローンの1人だ。何十万人といるバトル・クローンのリーダー。最近、連合政府七将軍の地位を得たらしい。
[私は連合政府七将軍の1人として、国際政府の上級軍人を処刑する]
「なにっ……!?」
国際政府の上級軍人を処刑だと……? わたしは額に汗を滲ませ、無意識のうちに拳を握る。誰を処刑するというのだ……!?
コマンダー・アレイシアはイスから立ち上がる。少しばかり歩くと、そこで足を止める。撮影している場所は、どこかの施設内だろう。ずいぶん、広い部屋だ。
カメラが少し横にずれる。すると、――
「…………!?」
複数のクローン兵士。その中央にいるのは、裸の若い女性。――血まみれだった。身体は深く傷つき、すでに瀕死の状態にあった。
だが、アレは誰だ? 長い赤茶色の髪の毛をした若い女性。髪色や身体つきは、クローン兵と何も変わらない。国際政府に、クローン軍人はいないハズだ。
[この女が誰だか分かるか? フフッ、この女は――]
「…………」
わたしは生唾を飲み込む。手が震える。
[国際政府特殊軍副長官の地位を有するフィルド=ネスト。私たちのベースとなった女だ!]
「なッ……!!?」
「…………」
わたしは、フィルドの名を聞いたとき、胸に何か刺さったかのような錯覚を感じた。フィルド=ネスト。確かに彼女は国際政府特殊軍副長官の地位にある。わたしよりも、上位の地位にある。
だが、彼女はもう2年半も行方が分かっていないハズだ。ラグナロク大戦勃発直前、彼女は姿を消したハズだ。
彼女は、連合政府に攫われたとのウワサがあった。連合政府に攫われ、実験台にされた、と。そして、彼女は強大な力を得ることに成功した。だから、連合政府は彼女をベースに、クローンを量産したのだ。
だが、フィルドは途中で脱走した。連合政府本部級施設で殺戮と破壊の限りを尽くし、逃げ出した。そんなウワサが世界に流れていた。
[この女は、2ヶ月前、連合政府首都ティトシティに現れ、中枢施設のヴォルド宮で、複数の連合政府リーダーを人質に取り、連合政府という統治機構を破壊しようとした。だが、私は彼女と一戦交え、その身を捕えることに成功した]
「フィルドがヴォルド宮に……!?」
[私は二度とあのような事件が起こらぬよう、連合政府軍人として、彼女を処刑する。執行は今より10日後、レーフェンス州ディメント支部で行う。その様子は、しっかりと全世界に報じようではないか]
レーフェンス州のディメント支部……! 中央大陸南西部にある連合政府の軍用支部だ。コマンダー・アレイシアの支配圏にある。
映像はそこまでだった。映像が終わると、シールド・スクリーンは消え、部屋の明かりが灯される。わたしは、ぼう然とその場に立っていた。
「コマンダー・アレイシアの狂気ぶりには驚かされる。連合政府としても、あのような貴重な実験台は失いたくないハズ」
「……処刑はコマンダー・アレイシアの一存でしょうか?」
「連合政府から明確な反対者が出ぬのは、2ヶ月前のヴォルド宮の件があるからであろう。だが、我らは黙って見ているワケにはいかぬ」
「…………」
マグフェルト総統は、わたしをじっと見ながら淡々と言う。そうか、“そういう任務”か。マグフェルト総統は、わたしにフィルドを助け出せと言いたいのだろう。
「……11年前であったかな。フィルドは君の弟子だった。弟子が処刑されるのは、耐えられぬであろう」
「…………」
11年前。“ラグナロク大戦の歯車が回り出したあの日”……。
「わたしとしても、国際政府の右腕のような存在を失うのには、とても耐えられぬ。……それだけではない。わたしもまた、彼女をずっと見守ってきた。彼女を失う哀しみに、耐えられそうにない」
マグフェルトは哀しそうに、それでも落ち着いた声で言う。机に肘を付き、小さくため息までする。
「…………。……分かりました。わたしが行って、フィルドを助け出しましょう」
「君が1人で行くというのかね? 相手はコマンダー・アレイシアだけではない。連合政府=アレイシア・クローン軍もいるのだぞ?」
「大丈夫です。我が友と共にレーフェンス州に向かい、必ずやフィルドを助け出してみせます」
「……そうか。君が行ってくれるというのであれば、心強い。わたしも、処刑の日までに軍を向かわせよう」
「ありがとうございます、マグフェルト総統閣下」
わたしはそう言って、深々と頭を下げる。
「成功を祈っている」
マグフェルト総統は優しく微笑みながら言う。わたしも薄らと笑みを浮かべ、小さく頷いてから彼に背を向け、部屋を後にした。
「…………」
<<タイムライン>>
◆EF2010年
◇12月
――フィルド=ネストが連合政府に攫われる。
◆EF2011年
◇2月
――ラグナロク大戦勃発。
◆EF2012年
◇10月
――フィルド、連合政府パスリュー本部より脱走。
◆EF2013年
◇09月
――ヴォルド宮占拠事件。フィルドがキャプテン・フィルドによって捕えられる。
◆EF2013年
◇11月[物語スタート]
――アレイシアがフィルドの処刑を宣言。




