第24話 コマンダー・ライカの危機
※コマンダー・ライカ視点です。
私はあのエデンの心臓を吹き飛ばした。確実に当たったのを、私はしっかりと自分の目で見たぞっ! ディメント支部を地獄に変えた悪魔をこの手でっ……!
「コマンダー・ライカ中将、やるときはやるんですね!」
コマンダー・コルボ准将が満面の笑みを浮かべ、私を褒め称える。私も両腕を上げて喜びを表現する。カーネル・ドロップも感心したような顔をしていた(私だって、やるときはやるんだっ!)。
「ふふっ、なにせ未来の連合政府将軍だからな!」
私は外に背を向けて喜びに浸っていた。これで私は連合政府将軍だ! 連合政府リーダー暗殺未遂・クローン大虐殺犯を仕留めたのだからなっ!
「君たちも私の部下として――」
「…………!?」
「――君たちの階級の昇格を私から―― ……どうした?」
コルボとドロップが真っ青になっている。誰かの気配を感じ、私は後ろを振り返る。その瞬間、私は背筋が凍りついた。
「エ、エデン……!?」
私のすぐ後ろ――フィルドの破壊によって出来た、壁の穴にいたのは、口と左胸から血を垂らすエデンだった。彼女は冷たい表情で私たちを睨んでいた。
「し、心臓、ぶち抜いたハズ、じゃ……?」
「…………」
うわああああああっ! 殺されるっ! ……っていうかなんでこの女、心臓を貫かれて生きているんだっ!? 本当に生き物か!?
「し、心臓を貫けば、私が死ぬと誰が、決めた?」
エデンは血を足元に広がらせながら、冷たい声で言う。口を開ける度に、血が出てくる。
「ひぃ、ごめんなさいっ……! って言っても、どうせ君は私をっ――」
私は手に持っていたライフルを素早くエデンに向ける。大型の徹甲弾を飛ばす強力なライフルだ(それだけに結構重いな)。もう一発喰らえば! どうせ殺されるなら、せめて最期の悪あがきでもっ!
ライフルの引き金を引いたとき、身体がのけ反りそうになるほどの強い反動と共に、徹甲弾が飛ぶ。鋭く尖った重たい銃弾は、エデンの首元を貫く。続いて腹をも貫く。2発撃った。
エデンが下唇を噛み締め、私の胸倉を掴んで持ち上げる。ライフルが床に転がる。う、うわっ、本当に死んじゃうっ! 死んじゃうっ!
「うッ……!?」
だが、エデンは急に私を離す。彼女は膝を付いてその場で床に血を吐く。真っ赤な水たまりが出来る(うわっ、グロテスクだな……)。
「い、いつの日か、――」
「ひぃ、まだ生きてるっ!」
「――お前も、コマンダー・アレイシアも、マグフェルトも、ティワードも、パトフォーさえも殺し、私は全てを従わせる……!」
エデンはゆっくりと顔を上げる。血を垂らす彼女の顔に笑みが浮かんでいた。コ、コイツは本当に何者なんだっ……!
「乗っ取った「ヒーラーズ・グループ」は私の道具。あの組織の中枢メンバーたちもみんな殺し、私だけの世界を――」
そこでエデンは激しく咳き込んで血を流す。待てよ。このクローン、だいぶ限界のようだな。息も荒く、覇気が低下している。あと少しで死にそうだ。
私はエデンの側に落ちているライフルを取ろうと、彼女の真横に飛び込む。だが、それは私に不幸を招いた。
エデンは私の髪の毛を掴み、無理やり立たせる。ライフルを取れなかった! そして、もう一度、胸倉を掴む。私の後ろには穴の開いた壁。雨が止み、灰色の薄暗い空が見えている。
「た、助け――」
エデンは空いた手に、白い衝撃波を纏う(ラグナロク魔法を纏わないところを見ると、もうそれだけの力はないのか?)。
「覚えておけ、愚か者」
エデンの拳が私のお腹を殴りつける。私の身体は外に吹っ飛ばされる。口から血が飛び出す。お腹に激痛が走る。
私の身体はディメント支部要塞から放り出され、瓦礫と死体の山に背を叩き付けられる。黒煙の上がる廃墟を転がる。
「い、痛いっ、痛いッ! ――あっ!」
エデンが要塞に開いた穴から飛び出してくる。わ、私を殺す気だ! 助けて! 助けて! 助けてッ!!
「う、うわっ、エデンだ!」
「いやあああッ!」
「また来たっ!」
私の助けを求める心の叫びも虚しく、周りにいたアレイシア・クローン兵たちは、エデンの姿を見ると同時に、一斉に悲鳴を上げながらその場を逃げ出す。
激しいお腹の痛みを感じながらも私は、地面を這って逃げる。だが、すぐ側にエデンは着地する。もう助からない自分の運命に、目から涙が零れる。
「ラグナロク大戦の勝者は、この私だ!」
「助け、助けてッ……!」
私はその場にうずくまる。泣きながら、心の中で許しを乞う。その一方で、死にゆく自分の姿に恐怖する。身体が震え続ける。
だが、どれほどの時間が経っても、身体に痛みはこなかった。私はそっと顔を上げる。涙でぼやける視界。私は腕で目を擦る。……灰色の空の下、瓦礫が広がるディメント支部の広場に、エデンはどこにもいなかった。
「あ、あれっ……? ――わ、私に恐れをなして逃げた、か?」
そこまで言い、私はがっくりとその場に倒れ込む。過度の疲労とお腹のダメージで、意識がゆっくりと遠のいていった。




