第23話 エデンの凶攻
※コミット視点です。
滅びへと向かうアレイシア軍。
進む崩壊へのカウントダウン。
たった1人のクローンによって、
コマンダー・アレイシアは、
全てを失っていく――
「またアレが来るぞぉ!」
「逃げろッ!」
「うわあああッ!」
逃げ惑うクローン兵たち。走る彼女たちの後ろで、エデンが腕を黒く染めていた。数人のクローン兵が銃弾を浴びせる。
「フフ、まだ分からないか? お前たちでは私を殺せない!」
エデンは黒い両腕で空間を叩く。もう、何度耳にしただろうか。激しい揺れと共に、爆音が鳴り響き、戦うクローン兵も、逃げるクローン兵も衝撃波に吹き飛ばされ、引き裂かれていく。
そのとき、砲弾がエデンの身体を直撃する。続いて、その周辺にも大きな砲弾が着弾し、轟音と共に地面が砕け、強烈な火を噴く。エデンに向けられた空からの攻撃だった。
「やってくれるじゃないか……」
爆炎の中からユラリと人影が現れる。言うまでもなくエデンだ。彼女は空に浮かぶ軍艦を睨み付ける。さっきの砲撃は、軍艦からの砲撃だった。
エデンは腕にラグナロク魔法を集めていく。私は戦場を見渡す。炎に包まれていた。3隻の軍艦が墜落していた。1隻はディメント支部要塞に突っ込んで炎上している。4隻もの軍艦をああやって破壊した。異常ともいえるほどの力だ。
あの女はどうなっているの……? なんで死なないの? なんであんなに魔法を使えるの? ……なんでここまで酷いことを出来るの?
「さ、せ……な、――」
「コマンダー・アレイシア将軍!」
私の側で血まみれのクローン――キャプテン・フィルド将軍が立ち上がる。歩いて、すぐに正面から倒れる。手を着くことさえもできなかった。私は彼女を抱き抱える。将軍が死んじゃう!
「じゃ、ま…するな、コミッ、ト……」
「将軍っ……!」
コマンダー・アレイシア将軍は何度もエデンの打撃を受けている。ラグナロク魔法を纏った拳で、何度も殴られている。普通のクローンならもう死んでいる。人間なら、1発受けただけで致命傷になるほどの攻撃だ。
「ハハハ!」
エデンは砲弾の飛んでくる軍艦に向かって拳を突き上げる。彼女の真上の空間が殴られる。轟音。そして、空が爆発した。軍艦の底が砕け、引き裂かれる。近くを飛んでいた2隻の軍艦も同じ運命を辿った。合計で3隻の軍艦は、地上へと落下していく。
私はコマンダー・アレイシア将軍を背負い、その場から素早く離れる。砕けて瓦礫と化した軍艦が、炎に包まれて落ちてくる。何度も近くに落ち、熱気に煽られ、地面の揺れに足元をすくわれそうになる。走りながら避けつづけ、ようやく高台があった場所の近くにまで辿り着く。
「あ、コマンダー・コミット少将!」
「キャタック准将!」
頭から血を流し、腕に布を巻いたコマンダー・キャタック准将が声をかけてくる。彼女の周りには、ディメント支部要塞の瓦礫が転がっていた。……数人のクローン兵が潰されている。
「大丈夫か、キャタック!」
「それよりも、至急、報告が! フィルドがコマンダー・シリカらと共にディメント支部を脱出しました! 同じくクォットもすでにここを去ったということです!」
「なにっ!?」
キャタック准将の報告に私は愕然とする。しまった、エデンに気を取られ過ぎた。最も重要な囚人に逃げられてしまった……!
「フィ、フィルドを、逃が、すなっ……!」
「将軍、追うんですか!? この状況で!」
「…………っ」
コマンダー・アレイシア将軍は黙り込んでしまう。分かっている。ここでフィルドを取り逃がしたら、今日死んだクローン兵の犠牲が無駄になる。でも、どう考えても追撃できる余力はない。やれば、また無駄に犠牲が増えるだけ……。
「コマンダー・アレイシア将軍、――」
そのとき、また遠くの方で爆音が鳴り、地面が僅かに揺れる。そっちを見れば、1隻の軍艦が別の軍艦に激突し、大きな音と炎を上げ、地上に落下していた。エデンの仕業だろう。
「味方は総崩れ、です……」
「……コミットっ」
私の名を呼ぶコマンダー・アレイシア将軍。……泣いている?
「“これ”は、私のせいかっ……?」
彼女がそう言ったとき、すぐ近くで爆音が鳴り響き、地面が激しく揺れる。私は立っていられず、将軍に覆いかぶさるようにして倒れ込む。その身体を、ボロボロの腕で抱きしめてくる。将軍は、震えていた。
「ハハハッ、どうした!? 軟弱なアレイシアのゴミ共!」
高らかに笑う狂気のクローン。彼女の周りにはクローン兵の死体が山積みになっていた。死体の山から流れる血が川となっていた。
「クソッ、よくも姉妹たちを!」
1人のクローン兵がエデンに向かって行く。だが、彼女はいとも簡単に、そのクローン兵を超能力で斬り殺す。死体が1つ増えた。
「ハハ、はぁッ……」
エデンは私たちの方を向く。彼女の様子からして、もしかしたら限界なのかも知れないな。疲れが見える。でも、それでも、今の私たちよりも力はあるだろう。
「う、うわっ」
「ひぃっ!」
「こっち来た!」
エデンが炎に包まれるディメント支部の空を飛び、私に向かって来る。周りのクローン兵に恐怖が走る。数人は逃げ出す。
「……フィルドは去ったそうですよ、キャプテン・エデン中将」
私は震えながら言葉を絞り出す。怖かった。いつ自分の身体が斬り裂かれ、命を奪われるか。次の瞬間には八つ裂きになっているかも知れない。
「そうか。まぁ、それも仕方ないだろう。……じゃぁ、お前たちの首を斬って、フィルドを追うとしようか」
「…………!」
エデンは片腕にラグナロク魔法を纏っていく。黒い雲が彼女の腕に集まっていく。だが、そのときだった。
辺りに響く、高く乾いた音が上がる。それとほぼ同時に、エデンの左胸――心臓部に小さな穴が開き、真っ赤な血が飛び散る。地面に穴が開く。
「…………!?」
エデンは目を見開き、口から血を吐き出して倒れる。それと同時に、ディメント支部のテラスがあった場所から歓声が上がる。
「やった! やったぞっ!」
「おお、さすがです! コマンダー・ライカ中将!」
「……ライカ?」
私は声のする方に目を向ける。そこには、銃口から煙の上がる大型ライフルを手にし、2人のクローン兵と共に喜んでいるコマンダー・ライカがいた。




