第22話 運命の分かれ目
※フィルド視点です。
「シリカさん……!?」
「確か、あの人はデスペリア支部に収監されたハズじゃ……?」
「さっきのデスペリア上陸艦に乗って来たんだ……」
周りのクローン兵たちがざわざわと騒ぎ出す。恐れや非難がないところを見ると、そこそこ人望があるようだな。
コマンダー・シリカの名はどこかで聞いたことがある。どこかは忘れたが、彼女はかつて連合政府に対し、クーデターを企てようとした。だが、その計画は最終段階で露見。仲間のコマンダー・オリーブやコマンダー・ハーブと共に、デスペリア支部に収監されたらしい。
「前代未聞のクーデターを計画したクローンが、私に何の用だ?」
私は腕に纏ったラグナロク魔法を消し、シリカの手をやや強引に振りほどく。その場から後ろに飛び、彼女と距離を取る。
そこで初めて気が付いた。シリカの近くに、デスペリアの囚人クローンと思われる裸のクローンが、もう2人いた。恐らく、シリカの仲間――オリーブとハーブだろう。
「フィルド、そんなに警戒しないでいい。私はお前を助けに来たんだ」
「私を助けに? 寝言は寝てから言え」
シリカが私の方に向かって歩いていく。シールドを張っている様子はないし、殺気も感じられない。本当に戦う気はないらしいな。
「お前はこのディメント支部を脱したら、次はどうするつもりだ?」
「さぁな。傷が治り次第、連合政府首都ティトシティに乗り込んで、何もかもぶっ壊してみるのも、面白そうだな」
「本当にそれでいいのか?」
「なに?」
私は怪訝な表情を浮かべる。連合政府にクーデターを企てたヤツがよく言えるものだな。首都をぶっ潰し、連合政府リーダー共を殺すことの何が悪い?
「連合政府首都に乗り込み、そこで暴れまわったところで、全ての連合政府リーダーを仕留めることは出来ない。特にティワードという連合政府の総統は首都から逃げ、新たな場所を首都にするだろう」
「それがどうした?」
「……パトラーのことは考えたことあるか?」
「どういう意味だ?」
連合政府首都ティトシティの奇襲と私の弟子――パトラーがどう関係ある?
「お前が連合政府首都で虐殺をすれば、これまでとは違うことを引き起こす。お前は今まで連合政府のパスリュー本部などの裏舞台で虐殺をしてきた。だが、次は首都という表舞台だ」
「…………」
「ティワードら連合政府リーダーたちは、それを必ず利用してくる。――“パトラーの師”が連合政府の首都で虐殺を行ったと、世界に報じる」
「…………!」
……あり得ない話ではないな。そうか、それを利用して私の弟子を攻めるのか。パトラーは政府特殊軍の将軍。彼女の信頼と名誉を汚すということは、少なからず国際政府にもダメージを与えられる。……もっとも、国際政府など、どうなろうと知ったことではないが。
「国際政府内外でパトラーの信頼は失われ、政府自身も彼女を疎ましく思うようになる。そうなれば、彼女は居場所を失う。それに、事件を知ったパトラーはどう思うんだ?」
「…………ッ!」
シリカは私の前にまで歩いて来て、話を続ける。残念だが、彼女の言う通りだろう。パトラーの師である私の行動が、彼女にも大きな影響を与える。
「それで、何が言いたい? 私にここで死ねと?」
「いや、違う。――パトラーを影から支えないか? もっと言えば、連合政府との戦い方を変えてみないか?」
「……つまり、どういうことだ?」
ここからが本題だろう。さて、何を言い出すか……。
「このディメント支部を含むレーフェンス州は大陸南西部にある」
「そんなことは知っている。私は元々は特殊軍の副長官だぞ」
「すまない。……ここから遥か東に、連合政府首都ティトシティを有するティト州がある。その州は最も連合政府の支配力が強い場所だ」
ティト州。大陸の最も東にある場所だ。このラグナロク大戦が始まって、最初にヤツらが制圧した州でもあり、国際政府軍の攻撃を一切、許さない場所と言ってもいいだろう。
「数年後、パトラーがティト州に乗り込んでも、ここばかりは簡単に進めはしない」
「だろうな。あそこの防衛力は異常だ」
私も見たことがある。あらゆる場所に軍用基地があり、空にも軍艦を始めとする様々な軍用飛空艇が浮かんでいる。ウワサでは軍艦だけでも100隻を超えるらしい。ロボット兵器も、何十万、いや、何百万あることやら。
「そこで、私たちがティト州に乗り込んで、連合軍に戦いを仕掛ける」
「ゲリラ戦か?」
「それを考えている。マトモに戦っても、その結果は火を見るよりも明らかだ」
「……言いたいことは分かった。つまり、――」
シリカ、オリーブ、ハーブ。この3人の実力がどの程度かは知らないが、3人でゲリラ戦を仕掛けても、対した戦いにはならない。戦力が低すぎる。そこで、――
「――私に仲間になれ、と?」
シリカは無言で頷く。その顔には確かな緊張が浮かんでいた。……連合政府にクーデターを企てた女も、パスリュー本部などで虐殺を繰り返す私に、恐怖を抱いているのだろうか?
私の頭に、パトラーとの記憶が蘇る。もう、彼女と別れたのは3年前。それでも、彼女と一緒に過ごした日々は昨日のように思い出せる。
私がこのまま好き勝手に戦いを続ければ、パトラーにそのしわ寄せがくる。彼女が信頼を失い、居場所さえも奪われる。シリカの仲間になれば、そうならないかも知れない――。
「……いいだろう」
「…………!」
私は承諾の返事を返す。シリカたちと共に、ティト州で連合軍を相手にするのもいいかも知れない。
「それで、ここからどうやって逃げる? このクローン兵たちをどうする?」
私は周りを睨みながら言う。アレイシア・クローン兵は私の処刑を阻止させない為に配備された。今、彼女たちが襲い掛かってきても、何ら不思議ではない。
「シ、シリカさん! 待ってください!」
「ティト州で連合軍と戦うなら、私たちも是非仲間に!」
「そうです! 私も仲間にしてください!」
周りで傍観していたクローン兵たちが一斉にシリカに頼み込む。ずいぶん、クローンには人望があるヤツなんだな。……そうか、だからこそ連合政府は彼女をデスペリア支部に放り込んだのか。見せしめとして……。
「構わないが、苦しい戦いになるぞ? 私を含め、全員が死ぬことになるかも知れない」
「分かっています!」
「連合政府の御膝下(=ティト州)で戦うんですから!」
「……分かった。軍艦を1隻、用意しろ。それでここから脱出しよう」
「イエッサー!」
数十人のクローン兵がさっそく走って行く。この様子だと、もう少し仲間が増えるかも知れないな。
「フィルド……」
私がシリカらと共に歩いていこうとしたとき、後ろから声をかけられる。振り返ると、そこに立っていたのはクォットだった。
「お前の赤色の夢は――」
「終わるかどうかは知らない。だが、もしかすれば、その色は薄まるのかもな」
そう言い残し、私は彼に背を向けて歩いていく。この時、私は少しだけ心の闇が晴れたような気がした――。
◆パトラー=オイジュス
◇女性
◇国際政府特殊軍将軍
◇フィルドの弟子




