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黒い夢と赤い夢Ⅱ ――女騎の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第9章 赤色の歯車 ――ディメント支部――
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第22話 運命の分かれ目

※フィルド視点です。

「シリカさん……!?」

「確か、あの人はデスペリア支部に収監されたハズじゃ……?」

「さっきのデスペリア上陸艦に乗って来たんだ……」


 周りのクローン兵たちがざわざわと騒ぎ出す。恐れや非難がないところを見ると、そこそこ人望があるようだな。

 コマンダー・シリカの名はどこかで聞いたことがある。どこかは忘れたが、彼女はかつて連合政府に対し、クーデターを企てようとした。だが、その計画は最終段階で露見。仲間のコマンダー・オリーブやコマンダー・ハーブと共に、デスペリア支部に収監されたらしい。


「前代未聞のクーデターを計画したクローンが、私に何の用だ?」


 私は腕に纏ったラグナロク魔法を消し、シリカの手をやや強引に振りほどく。その場から後ろに飛び、彼女と距離を取る。

 そこで初めて気が付いた。シリカの近くに、デスペリアの囚人クローンと思われる裸のクローンが、もう2人いた。恐らく、シリカの仲間――オリーブとハーブだろう。


「フィルド、そんなに警戒しないでいい。私はお前を助けに来たんだ」

「私を助けに? 寝言は寝てから言え」


 シリカが私の方に向かって歩いていく。シールドを張っている様子はないし、殺気も感じられない。本当に戦う気はないらしいな。


「お前はこのディメント支部を脱したら、次はどうするつもりだ?」

「さぁな。傷が治り次第、連合政府首都ティトシティに乗り込んで、何もかもぶっ壊してみるのも、面白そうだな」

「本当にそれでいいのか?」

「なに?」


 私は怪訝な表情を浮かべる。連合政府にクーデターを企てたヤツがよく言えるものだな。首都をぶっ潰し、連合政府リーダー共を殺すことの何が悪い?


「連合政府首都に乗り込み、そこで暴れまわったところで、全ての連合政府リーダーを仕留めることは出来ない。特にティワードという連合政府の総統は首都から逃げ、新たな場所を首都にするだろう」

「それがどうした?」

「……パトラーのことは考えたことあるか?」

「どういう意味だ?」


 連合政府首都ティトシティの奇襲と私の弟子――パトラーがどう関係ある?


「お前が連合政府首都で虐殺をすれば、これまでとは違うことを引き起こす。お前は今まで連合政府のパスリュー本部などの裏舞台で虐殺をしてきた。だが、次は首都という表舞台だ」

「…………」

「ティワードら連合政府リーダーたちは、それを必ず利用してくる。――“パトラーの師”が連合政府の首都で虐殺を行ったと、世界に報じる」

「…………!」


 ……あり得ない話ではないな。そうか、それを利用して私の弟子を攻めるのか。パトラーは政府特殊軍の将軍。彼女の信頼と名誉を汚すということは、少なからず国際政府にもダメージを与えられる。……もっとも、国際政府など、どうなろうと知ったことではないが。


「国際政府内外でパトラーの信頼は失われ、政府自身も彼女を疎ましく思うようになる。そうなれば、彼女は居場所を失う。それに、事件を知ったパトラーはどう思うんだ?」

「…………ッ!」


 シリカは私の前にまで歩いて来て、話を続ける。残念だが、彼女の言う通りだろう。パトラーの師である私の行動が、彼女にも大きな影響を与える。


「それで、何が言いたい? 私にここで死ねと?」

「いや、違う。――パトラーを影から支えないか? もっと言えば、連合政府との戦い方を変えてみないか?」

「……つまり、どういうことだ?」


 ここからが本題だろう。さて、何を言い出すか……。


「このディメント支部を含むレーフェンス州は大陸南西部にある」

「そんなことは知っている。私は元々は特殊軍の副長官だぞ」

「すまない。……ここから遥か東に、連合政府首都ティトシティを有するティト州がある。その州は最も連合政府の支配力が強い場所だ」


 ティト州。大陸の最も東にある場所だ。このラグナロク大戦が始まって、最初にヤツらが制圧した州でもあり、国際政府軍の攻撃を一切、許さない場所と言ってもいいだろう。


「数年後、パトラーがティト州に乗り込んでも、ここばかりは簡単に進めはしない」

「だろうな。あそこの防衛力は異常だ」


 私も見たことがある。あらゆる場所に軍用基地があり、空にも軍艦を始めとする様々な軍用飛空艇が浮かんでいる。ウワサでは軍艦だけでも100隻を超えるらしい。ロボット兵器も、何十万、いや、何百万あることやら。


「そこで、私たちがティト州に乗り込んで、連合軍に戦いを仕掛ける」

「ゲリラ戦か?」

「それを考えている。マトモに戦っても、その結果は火を見るよりも明らかだ」

「……言いたいことは分かった。つまり、――」


 シリカ、オリーブ、ハーブ。この3人の実力がどの程度かは知らないが、3人でゲリラ戦を仕掛けても、対した戦いにはならない。戦力が低すぎる。そこで、――


「――私に仲間になれ、と?」


 シリカは無言で頷く。その顔には確かな緊張が浮かんでいた。……連合政府にクーデターを企てた女も、パスリュー本部などで虐殺を繰り返す私に、恐怖を抱いているのだろうか?


 私の頭に、パトラーとの記憶が蘇る。もう、彼女と別れたのは3年前。それでも、彼女と一緒に過ごした日々は昨日のように思い出せる。

 私がこのまま好き勝手に戦いを続ければ、パトラーにそのしわ寄せがくる。彼女が信頼を失い、居場所さえも奪われる。シリカの仲間になれば、そうならないかも知れない――。


「……いいだろう」

「…………!」


 私は承諾の返事を返す。シリカたちと共に、ティト州で連合軍を相手にするのもいいかも知れない。


「それで、ここからどうやって逃げる? このクローン兵たちをどうする?」


 私は周りを睨みながら言う。アレイシア・クローン兵は私の処刑を阻止させない為に配備された。今、彼女たちが襲い掛かってきても、何ら不思議ではない。


「シ、シリカさん! 待ってください!」

「ティト州で連合軍と戦うなら、私たちも是非仲間に!」

「そうです! 私も仲間にしてください!」


 周りで傍観していたクローン兵たちが一斉にシリカに頼み込む。ずいぶん、クローンには人望があるヤツなんだな。……そうか、だからこそ連合政府は彼女をデスペリア支部に放り込んだのか。見せしめとして……。


「構わないが、苦しい戦いになるぞ? 私を含め、全員が死ぬことになるかも知れない」

「分かっています!」

「連合政府の御膝下(=ティト州)で戦うんですから!」

「……分かった。軍艦を1隻、用意しろ。それでここから脱出しよう」

「イエッサー!」


 数十人のクローン兵がさっそく走って行く。この様子だと、もう少し仲間が増えるかも知れないな。


「フィルド……」


 私がシリカらと共に歩いていこうとしたとき、後ろから声をかけられる。振り返ると、そこに立っていたのはクォットだった。


「お前の赤色の夢は――」

「終わるかどうかは知らない。だが、もしかすれば、その色は薄まるのかもな」


 そう言い残し、私は彼に背を向けて歩いていく。この時、私は少しだけ心の闇が晴れたような気がした――。

◆パトラー=オイジュス

 ◇女性

 ◇国際政府特殊軍将軍

 ◇フィルドの弟子

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