第21話 赤色の夢
※フィルド視点です。
かつての師が、私を止めようとする。
赤色の女騎となった私を、彼は止めようとする。
だが、私は彼などに止められやしない。
私は連合政府を滅ぼし、根絶やしにする。
真っ赤に染まった空っぽの私の夢。
それを止められるのは、『お前』じゃない――
私は走りながら、斬撃を飛ばす。クォットはそれを軽く弾く。周囲に鳴り響く、高い金属音が鳴り響く。さすがだな。今までのクローン共は、剣ごと弾き飛ばされていたヤツがほとんどだったのに。
走りながら、素早く地面に転がっていた剣を手に取る。血と雨水に濡れたクローン兵の剣だ。さすがに、クォットを素手でやることは出来ない。
「国際政府筆頭将軍の実力を見せて貰おうか」
私の剣とクォットの剣がお互いに触れ合う。金属音と共に火花が宙を舞う。振動が腕にまで伝わる。私と彼は素早く次の攻撃に移る。触れ合っていた剣を離し、また攻撃を仕掛ける。再び剣がぶつかり合う。
「最初から“こうする気”だったのか?」
「…………。……ああ、そうだ」
一瞬の間をおいて、クォットは答える。マグフェルトの命令でここに来た、というよりかは、最初から私を止めに来ただけのようだな。かつて、国家の意のままに従う奴隷でしかなかったお前が、自分の意志で行動するなんてな……。
クォットが剣を振る。私は高く飛び、それを避ける。だが、彼は地面で剣を振る。斬撃が飛んでくる。私は素早く手をかざし、それを打ち消す。
「“愚かなエデンの力”があればよかったんだがな」
軍艦を斬り裂いた力だ。やろうと思えば使えそうだが、コマンダー・アレイシアから受けた拷問とエデンとの激しい戦闘で、そんな力はもう残っていない。
エデンは自身の力を過信するただの愚か者だ。力で全てを解決できると信じる哀れなクローン。己の力で世界を支配? どこの夢物語だ。仲間もなしに――
「…………!」
私の胸が一瞬、痛む。仲間。そう、私は裏切られた。今、戦っている男に。――死ね! 私はラグナロク魔法を纏い、大型の黒い斬撃を飛ばす。
クォットはその場から高く飛び、それを避ける。コンクリートの地面が大きく避ける。裂け目から雨水が流れていく。
「11年前のことは、本当にすまなかった」
「…………。……だからなんだ?」
私のすぐ側にまで飛んできたクォットを睨みながら私は言う。
「お前が謝れば、11年前のことは解決するのか? ラグナロク大戦は終わるのか? ――謝って逃げるか? 過去の呪い――後悔の念から」
「…………!」
私は一瞬、動きの鈍ったクォットに手をかざす。強力な打撃を腹に叩き込む。彼の身体は地面に叩き落される。私はそのすぐ近くに降り立つ。
「ク、ぁあっ……」
苦しそうな表情を浮かべるクォット。その口から血が吐き出される。真っ赤な液体を視界に入れるのは、これで何度目だ?
「お前がどれだけ謝ろうが私は許さないし、お前の過去はお前を苦しめ続ける。……永遠にな」
「ぅぐっ……」
「――過去の呪いが、お前の行動を鈍らせる。だから、お前に私は止められない」
私は腕にラグナロク魔法を集めていく。一撃で、かつての師を木端微塵にする気だった。――私自身、彼を殺すことに、迷いがあったのかも知れない……。
「わ、わたしを、――」
「なんだ、遺言か?」
「――わたしを殺せ」
「…………!?」
……クォットは最初からシールドを張っていなかった。だから、すでに瀕死状態だ。そうか、この男、初めから死ぬ気だったのか。ここへ来たのは、私に殺されるためか。
「だが、もう終わりにするんだ……」
「なに?」
「連合政府所属の人間を、クローン兵士を全て殺したところで、お前の心は癒されない…… お前の赤色の夢は、破滅の色だ。だ、だから、わたしで殺戮は最後にして欲しい。これがわたしの遺言だ……」
「…………」
「お前の弟子が、パトラーが、政府特殊軍将軍として、元気にやっている。彼女がお前をずっと探している。彼女の側に、――」
私は黒色の拳でクォットの身体を砕こうと、思いっきり振りかぶる。無意識の内に下唇を噛み締める。
パトラー―― 私の唯一の弟子だ。彼女とは3年も一緒だった。私が唯一、心を許せる仲間だ。……私だって、彼女に会いたい。だが、殺戮騎の私が、今更どうやって会えばいいんだっ……!
3年前、弱った財閥連合との戦い。戦いの後、パトフォーと戦いになった。あの時に、私はパトラーと別れた。彼女はパトフォーとの戦いで気を失っていた。
「――私を止められるのは、パトラーだけだ」
「パトラーに、かつての弟子に、殺されるつもりか?」
「……そうだ」
私は拳を振り降ろそうとする。これでクォットとは終わらせるつもりだった。だが、不意に、後ろからその手を掴まれる。
「パトラーの師、だな?」
「お前は……?」
「――コマンダー・シリカ」
急に現れた片目のクローン。マントだけを羽織り、その下に衣服を身に着けていないところを見ると、デスペリアの囚人か……?
<<タイム・ライン>>
◆EF2002年
◇フィルドがクォットに裏切られる。
◇フィルドがパトフォーに捕まり、実験台にされる。
◇フィルド・クローンが創り出される。
◆EF2007年
◇フィルドがパトラーを弟子にする。
◆EF2010年
◇財閥連合と戦いになる。
◇フィルドがパトフォーに捕まる。
◆EF2011年
◇ラグナロク大戦勃発
◇連合政府がティトシティを占拠。
◆EF2012年
◇フィルドがパスリュー本部から逃げ出す。
◆EF2013年
◇パトラーが政府特殊軍将軍となる。
◇フィルドがティトシティ・ヴォルド宮で数人の連合政府リーダーを人質にする。
→キャプテン・フィルドが、フィルドを捕まえ、デスペリア支部に収監する。
◇ディメント支部の戦い。




