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黒い夢と赤い夢Ⅱ ――女騎の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第8章 師弟の歯車 ――ディメント支部――
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第20話 闇の女騎の弟子

※クォット視点です。

 それはわたしの弟子が連れて行かれて半月が経ったある雨の日だった――。


「いつ、帰ってきたのだ……?」


 どしゃ降りの日、彼女は傘も差さずにやって来た。赤茶色の髪の毛や細長い指先から雨水がポタポタと落ちる。


「さっき……。今日は一言だけ、お前に言いたい事があってきた」

「…………?」

「もう、二度と私に近づかないでくれ」


 それだけ言って、彼女はわたしの元を去った。わたしはただただ、その後ろ姿を見送るだけだった。彼女に何も言う事ができなかった。

 わたしの弟子はもう、どこにもいなかった。いるのは心を歪ませた“復讐騎”だった。彼女は人と関わるのを嫌い、常に1人で行動するようになった。

 友もなく、頼れる家族や親類もいない。仕事上、人と話す事はあっても、それ以上、関わることはなかった。





 やがて、5年の月日が流れた。人を嫌い、避けていた少女は国際政府特殊軍の将軍となった。将軍の地位に就いて間もなく、彼女は弟子を受け持った。あれだけ他人と関わる事を嫌った彼女が、だ。

 弟子の名は当時14歳の少女――パトラー=オイジュスだった。やはり、人を遠ざけても、寂しさを紛らわす事は事は出来なかったか……。

 元々、彼女は人付き合いが苦手で、人を避ける傾向にあった。だが、その一方で、彼女は常に人を求めていた。寂しかったのだろう。


「行くぞ、パトラー!」

「あっ、は、はい!」


 2人はいつも一緒だった。アイツもパトラーと一緒にいる時だけは笑顔だった。寂しさで、陰で泣く事も減っていった。そして、他の人に対しても、僅かながら心を開き始めた。

 わたしは彼女と関わる事はほとんどなかったが、それでも嬉しかった。彼女が心の拠り所を得て、もう一度、人を信じられようになれば、わたしは幸せだった。

 ――だが、それも長くは続かなかった。





 それはアイツがパトラーと出会って3年後のEF2010年だった。

 弱体化した財閥連合が更なる罪を重ねていたことが判明した。遂に戦争となった。だが、ほとんど無力に近かった財閥連合は一夜で敗北し、コマンドは逮捕された。しかし、――


「なに、行方不明になっただと!?」


 アイツが何者かによって攫われた。アイツと最後に一緒にいたパトラー准将とピューリタン准将は何者かによって気絶させられていた。

 わたしは軍をまとめ、必死であらゆる場所を捜索した。だが、彼女はこの世界から消えてしまった。攫った謎の男の正体も分からず仕舞いだった。

 そして、――





「……は?」


 わたしは呆然と大会議室の大画面を見ていた。連合軍を名乗る組織が突如として現れ、臨海都市ティトシティを占領した。

 使われているのは、8年前のあの日(=現在から11年前)、使われた軍用兵器と同じ種類のものだった。なぜ? そんなバカな! 連中は軍事力を手放す。そういう密約を結んだハズだろう!?


――アイツらが、密約通りに軍事力を手放すワケがないっ……


 そ、そんな……!


――きっと密かにどこかに隠して、いつか世界を巻き込む戦いを、始めるんです……!


 あぁ…… ウソだ、ウソだッ……!


――今、将軍が立ち上がれば、財閥連合を倒せます!


 わたしは机に突っ伏す。今起きてることが信じられなかった。これは夢じゃないのか……? そうだろう……?

 だが、それは現実だった。あの日、アイツが言った通り、財閥連合は密約を破った。8年前の数倍の軍事力を持っていた。どこかに隠していたのだ。


 そして、戦争勃発より半年後。戦争は一気に世界中に広まった。連合軍は瞬く間に主要都市と交通の要衝を抑え、我々は苦戦を強いられた。

 戦争勃発から既に3年。戦争は終わらない。あの時、わたしが彼女と共に財閥連合を倒していれば、こんな事にはならなかった。彼女の言う通りだった――。




























◆◇◆




























「11年前のあの日、私と共に財閥連合を潰しておけば、ラグナロク大戦も起こることはなかった」

「……ああ、そうだな」

「パトフォーの黒い夢も終わってた」


 フィルドは冷たい笑みを浮かべたまま、話を続ける。周りのクローン兵たちも、武器をわたし達に向けるも、怯えた表情のまま見守るだけだった。


「だが、お前は私を見捨てた。市民の平和や国家の存続などというモノを守る為にな」

「パトフォーの計画通りとはいえ、歪みは歪みを生むだけであったな……」


 11年前、わたしはまだ頭が足りなかった。今思えば、事実の隠ぺい以外にも、取る手段はいくつもあった。なのに、隠ぺいか全面戦争か、しか考えられなかった。


「お前の言いたいことは分かっている。私は国際政府に戻る気はない。――お前と共に、パトフォーを倒す気はない」

「……そうか」


 わたしは、分かっていたとはいえ、その答えが胸に刺さる。やはり、もうわたしの元には戻ってくれないか……。


「…………」


 わたしは剣をゆっくりと腰の鞘から抜いていく。今からわたしがやろうとしていることは、国家への反逆だろう。だが、闇の女騎を生んだ責任を取らねばならない。


「フィルド、今日は何人殺した?」

「知らないな。1000人を超えてないといいな」


 フィルドは“人を殺し過ぎだ”。このディメント支部だけじゃない。これまでにも、各地で連合政府関係者を虐殺していると聞いている。中には、泣いて命乞いした者さえも殺めたという。今の彼女を見れば、なんら不思議ではない。


「――わたしは、わたし自身の意志で、殺戮を繰り返すお前を止める」

「“国家の奴隷”が意志を持つのか。やれるものならやってみろ」


 わたしとフィルドは互いに向かっていく。かつての師弟の殺し合いだった――。

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