第19話 11年前
※クォット視点です。
再会は多くの場合、喜びに溢れるものだろう。
そして、別れを恐れる。
だが、望まない再会もある。
血の色をした過去が、再会を赤色に染める――
彼女の姿を見たのは、約3年ぶりだろうか――?
冷たい雨が激しく降るディメント支部。辺りにクローン兵たちの死体の山が連なり、赤色の川が流れている。そんな場所に立つわたしの目の前に、かつての弟子――フィルドが立っていた。
「クォット……。なぜお前がここにいる?」
冷たい声でフィルドは言う。何度も雷鳴が起こる。雨と風がますます強くなっていく。遠くでは誰かが戦っているのか、何度も爆音が鳴り響く。
「わたしは国際政府総統の命令で、お前を助け出しに来た」
「ほう、マグフェルト……。あの男の命令で、か」
ニヤリと笑うフィルド。冷たい笑みだった。わたしの胸に、痛みが走る。物理的に何か攻撃を受けたワケではない。――彼女をこんな心に――闇の女騎に変えてしまったのは、……“わたし自身だ”。
◆◇◆
「クォット将軍! お願いだからっ、お願いだから“真実”を世界にっ……!」
“あの日”、“あの子”はわたしに泣いて頼んできた。
――EF2002.06.03 【政府首都グリードシティ 元老院議事堂 クォット・オフィス】
「“財閥連合”は、多くの市民を虐殺した! 人間を実験台にして、生物兵器を作った! これは事実じゃないですかッ!」
11年前、当時、世界経済を支配する“財閥連合”という民間企業が存在した。――この組織は、後に連合政府となって、ラグナロク大戦を引き起こすこととなる。
世界最大の民間企業である財閥連合は、国際政府の立法機関である元老院に議員枠を確保するほどにまで強大な力を有していた。
ある時、その組織は、テトラルシティと呼ばれる地方の1都市に私設軍を送り込み、多くの市民を虐殺した。しかも、裏では人間を実験台にし、生物兵器を造っていた。後に、これはフィルドのクローンがその役目を担うことになる。
「だが、政府はその財閥連合と手を組んで、事実を隠ぺいする方針だ。財閥連合の罪は問われない。それと引き換えに、彼らは強大な軍事力を手放す。そうなれば、平和が保たれるんだ」
わたしは、より多くの市民の命が守られるのであれば、国家が存続するのであれば、事実を隠すべきだと判断してしまった。隠せば1800年続いた国家は保たれる。
事実を公表すれば、戦争になるかも知れなかった。まだまだ勢力の大きい財閥連合軍と強大な力を誇る政府軍。両者がぶつかれば、無数の命が失われる、最悪、国際政府が滅ぶと思った。だから、事実をもみ消す事を認めてしまった。だが、――
*
「なにをしている、のですか……!?」
――それは数日後の夜だった。
「クォット将軍。国家反逆者として、あなたの弟子を拘束させて頂きます」
それは偶然だったのだろうか? それとも天が与えた最後のチャンスだったのだろうか? 今となっては後者のように思えて仕方がない。
真夜中の首都グリードシティ。夜道を歩いていたわたしの目に、信じられない光景が飛び込んだ。黒いスーツを着た数十人の男。彼らの足元に押し倒されているのは、“わたしの弟子である少女”だった。
「助けて、助けてっ、クォット将軍……。真実を、財閥連合を許さないでっ……!」
わたしは迷った。拘束された弟子を助けて真実を世界に伝えるか、このまま見過ごして真実を隠し通すか。
「アイツらが、密約通りに軍事力を手放すワケがないっ……。きっと密かにどこかに隠して、いつか世界を巻き込む戦いを、始めるんです……! お願いです、財閥連合を逃がさないでっ」
――どれだけ悩んだだろう? 一瞬だったか、それとも10分以上は悩んだか……
「今、将軍が立ち上がれば、財閥連合を倒せます! 財閥連合のリーダー・コマンドは臆病者だ! すぐにでも降伏して保身を図る! お願いだから、あの地方都市で死んでいった市民の気持ちを汲み取ってくださいッ!」
「ク、クッ……」
わたしは震える手で、剣に手がいく。だが――
「――事実を、隠そう。万が一、戦争になれば多くの命が散る。政府が市民を騙したこともバレる。政府の信頼は地に堕ち、内乱になる恐れもある。すまない……」
「……そ、そんなっ、なんで? ……なんで!?」
「賢明な判断だ、クォット。お前の弟子だ。殺しはせんよ。……その女を連れてこい」
「イエッサー」
黒いスーツを着た男たちが絶望に嘆く少女を無理やり立たせ、手錠をハメると、半ば引きずるようにして連れて行く。彼女は泣きながら、わたしに助けを求める。
やがて、その声は、20名もの黒いスーツを着た男たち――財閥連合私設護衛員と国際政府暗躍官に守られた軍用車両に消えた。残った黒いスーツを着た男たち――財閥連合選出の元老院議員たちは、満足そうに笑って去って行った。
「すまない、すまないっ……」
1800年続いた国家の存続とわたしの弟子。わたしは、前者を優先してしまった――。




