第1話 呼び出し
※クォット(本作の主人公の一人)視点です。
あの日失われた絆。
永遠に断たれた絆。
戻ることのない絆。
“あの日”の判断が、全てを歪ませた――
狂乱の都市で起きた悲劇。
終わりの始まり――
終焉の果ての始動。
消え去った絆は、闇となって運命を狂わせる――
【国際政府首都グリードシティ 元老院議事堂】
わたしは、そっと椅子に座り込む。座り、冷たい水が入ったコップを手に取り、そっと口に運ぶ。冷たい水が、喉を伝い、腹へと流れていく。
今日という日が、終わろうとしている。すでに日は沈み、空は漆黒に覆われている。首都グリードの明かりが眩しい。
「クォット将軍、失礼致します」
扉が開き、暗い部屋に1人の部下が入ってくる。スーツの上から白いコートを羽織り、剣を腰に装備した男――ウェイダ少将は、わたしが座るデスクの前まで歩いてくる。
「テクノ州東部における戦いは、我が軍の敗北で終わりました」
「ファイザ少将が負けたのか?」
「残念ながら。――ただ、敵の指揮官・メディデント率いる連合軍は、科学都市テクノシティに撤退し――」
……戦争。2年半に渡る世界大戦は、わたしを疲れ果てさせていた。戦いは完全に泥沼化し、一進一退を繰り返していた。中央大陸にある多くの都市や街は荒廃し、多くの人々の命が失われていた。
「連合政府は西部戦線での攻撃を強めており――」
1800年もの間、世界を統治してきた国際政府。その統治を終わらせようとする連合政府。わたしは、国際政府の将軍だった。
連合政府の勢いは凄まじい。一時期は国際政府滅亡は、時間の問題とまで囁かれたほどだ。今でこそ、ほぼ互角となったが。
「それと、――」
「…………?」
「マグフェルト総統閣下が将軍を呼んでおられます」
「マグフェルト総統が?」
わたしは思いもよらぬ言葉に、ウェイダに聞き返す。マグフェルト総統は、国際政府の支配者だ。元老院議会議長と国際政府総帥の地位を兼任する最高権力者。言い換えれば、世界の王だろう。
わたしは彼と、あまり良い関係ではなかった。憲法や法律を改正し、自身に権力を集中させていく彼に対し、わたしは警戒していた。
「なぜマグフェルト総統がわたしを?」
「分かりません。最高機密の案件があると……」
「連合政府関連か?」
「わたしには、分かりません」
「……そうか」
わたしは重い腰を上げ、椅子から立ち上がる。マグフェルトがわたしを呼び出す、か。イヤな予感がする。そして、このイヤな予感は、よく当たる。今度はなんだろうか? 世界の中枢区画であるこの元老院議事堂に爆弾でも仕掛けられたか?
「ウェイダ、お前はわたしのオフィスで待機していろ」
「イエッサー」
わたしはウェイダにそう声をかけ、自身のオフィスを出る。元老院議事堂の廊下には、チラホラと元老院議員やその補佐官、政府官僚が歩いている。この元老院議事堂が吹き飛べば、国際政府は終わりかも知れないな。
元老院議事堂というのは、人口3億人を超える政府首都グリードシティのど真ん中にある政府の中枢施設だ。この巨大な建物に、何百万人もの政府関係者が勤務・宿泊している。
わたしはエレベーターに乗り込むと、コントロール・パネルに触れ、1260階と入力する。総統オフィスがある階だ。
「クォット将軍、総統閣下に何か用が?」
偶然、エレベーターに乗り合わせたフェスター議員が話しかけてくる。
「……ちょっとした用だ」
まさか、“最高機密に関わる案件で呼ばれた”と言うワケにはいくまい。わたしは、普段通りの口調で言葉を返す。フェスター議員は、“お疲れ様です”とだけ返してくる。
エレベーターが止まると、フェスター議員と数人の軍人や官僚も降りていく。代わりにまた別の議員や軍人が入ってくる。
「……パトラー=オイジュス将軍は傭兵都市サラマシティで、連合政府リーダーたちを取り逃がしたらしいですな」
「あの大チャンスを逃すとは……。しかし、サラマシティは陥落。これで産業都市グランドシティの防衛は――」
連合政府は強い。強力な軍事力を誇っていた国際政府が、未だに戦争を終らせられない。むしろ、戦線は全世界に拡大し、終わりが見えぬ戦いとなった。
わたしは軍人だ。明日の戦いで死ぬかも知れない。すでに、わたしの仲間が、先輩が多く死んでいっている。
――この戦争が始まった原因は……“わたしにもある”のかも知れない。
やがて、エレベーターは最上階に到着し、動きを止める。扉がゆっくりと開く。降りるのは、わたしだけだった。他の議員や軍人たちは、これより下の階でみんな降りて行った。
濃い赤色のじゅうたんが敷かれた元老院議事堂の最上階。壁も濃い赤色をしている。金メッキやクリスタルで、様々な植物の模様が描かれている。
「…………」
世界最高権力者のオフィス。言い換えれば、独裁者のオフィス。かつて、本当にこの国は、民主国家だったのだろうか? ――今も民主国家だが、独裁国家に近づきつつある。
わたしは豪華な装飾が施された総統オフィスの廊下を歩いていく。廊下の左右に、剣を持った黄金の鎧が並んでいる。1体だけで、何億するのだろうか?
廊下を進み、奥まで歩く。濃い赤色をした扉の前に立つ。扉にも、豪勢な装飾が施されている。黄金メッキとクリスタルで造られた装飾。
わたしは、扉に向かって手をかざす。すると、その大きな扉は、ゆっくりと開いていく。この先が、マグフェルト総統の執務室だ。世界最高権力がいる場所――!
「――国際政府マグフェルト総統閣下、失礼致します。国際政府特殊軍将軍クォット、参上致しました――!」
<<登場組織>>
◆国際政府
◇1800年もの間、世界を統治してきた国家。しかし、現在では腐敗・汚職が進み、更に戦争で独裁化も進行している。マグフェルトが国家元首。
◆連合政府
◇2年半前、大企業を中心に設立された新たなる統治機構。国際政府を滅ぼし、世界の支配を狙っている。しかし、その中身は国際政府と同等かそれ以上に貪欲な闇に覆われている。




