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黒い夢と赤い夢Ⅱ ――女騎の復讐――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第7章 喪失の歯車 ――ディメント支部――
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第18話 喪失

※アレイシア視点です。

 それは幻想でしかなかったのか?


「…ぁ、ッ……?」


 私は雨が降る中、身体を地面に横たわらせていた。身体を少しでも動かせば、全身がバラバラになりそうな痛みが襲ってくる。手を見れば、見まみれだった。咳き込む度に、激しい痛みと真っ赤な己の血が飛び散る。


「コマンダー・アレイシア将軍ッ!」


 雨水と血の混ざった液体が覆う地面。そこに足をつけ、水飛沫を起こしながら走ってくるコマンダー・コミット。私は激痛の襲う身体に鞭打って、なんとか立ち上がろうとする。コミットが、そんな私をそっと抱き起こす。


「わ、私は、――?」


 エデンを刺して、彼女に勝ったハズだじゃないのか? あれは、ただの夢だったのか?


「よくもアレイシア将軍を!」

「コイツを殺してしまえ!」

「絶対に許さない!」

「その命、ここから出すか!」


 数十人のクローン兵が、誰かに向かっている。……胸に剣を刺したクローンに向かって行っている。アイツは、エデン……?


 数人のクローン兵が、アサルトライフルを手に、エデンに向かって銃撃する。激しい、連続した銃撃音が鳴り響き、無数の銃弾がエデンを襲う。

 数人のクローン兵が、剣を手に、エデンを何度も斬りつける。彼女の身体に赤色の鋭い線が入っていく。そこから血が流れ出す。

 数人のクローン兵が、火炎弾や電撃弾、衝撃弾などの魔法弾や超能力を飛ばす。銃弾と同じように、それらも彼女の身体に当たる。


 ――私はエデンを倒したんじゃなかったのか?


「アレイシア、――」


 エデンがそっと両腕を持ち上げていく。その間にも、クローン兵たちの激しい攻撃は続き、彼女の身体を傷つけていく。


「私を刺せば、私が死ぬと、――」


 持ち上げた両腕にラグナロク魔法が集まっていく。腕に黒い雲状のエネルギー。それ以外の場所は、赤い液体で染まっていく。


「に、げっ……」

「――誰が決めたんだ!?」


 黒い拳を纏ったエデンは、自身の両側の空間を殴る。それと同時に、周囲で激しい攻撃をしていたクローン兵たちが弾き飛ばされ、その姿を私の視界から消す。水たまりも宙に消え、また新しく流れてくる。

 エデンは自分の胸に刺さった剣を抜き取り、手に持つ。あの剣は私の剣だ。あれを刺したとき、私は勝利を確信した。なのに、――


「残念だったな。お前じゃ私を止められない。――分かっただろう? 何を言おうと、最後は力だけが全てを決めるとな!」


 エデンはそう言うと、手に持った血まみれの剣を私に勢いよく投げつける。目にも止まらぬ速さで回転しながら飛んでくる剣。もはや、避ける力さえも出て来ない。

 だが、その剣は空中で弾かれ、数ミリの液体が溜まった地面に転がる。私の後ろから、少女ともいえる若いクローン兵――コマンダー・クナが飛び出す。


「アレイシア将軍は殺させない」

「……コマンダー・クナ。その年齢で少将とは大したものだ。同年齢で、お前ほど強いクローンもいないだろ?」

「そんなの、死にゆくお前に関係ない」

「ク、クナぁっ……!」


 私は彼女を止めようと、手を伸ばすが、その前にクナはエデンに向かって飛び出す。クナは少将。確かに強い。

 クナはエデンに向かって強力な斬撃を十二連続で飛ばす。要塞の城壁さえも細かく斬り壊すほどの威力を持つ十二連・斬撃。生き物相手なら、あれを受けて立つことは出来ない。ビッグ・フィルド=トルーパーさえも倒せる。だが、――


「お前のウワサは聞いている。未来の連合政府将軍と、な。あと3年、生きながらえれば、そうなっただろう……」


 エデンは黒い斬撃を飛ばす。ラグナロク魔法を纏った斬撃だ。それでクナの斬撃を打ち消そうとする。だが、消せたのはたったの3つ。残り9つの斬撃がエデンを襲う。

 エデンの鮮血が、自身の足元に降り注ぐ。だが、不意にエデンが宙に飛び出す。クナに向かって手をかざす。速さでは、エデンの方が上だった。


「やめろっ、エデ――」


 再び放たれる黒い斬撃。クナが打ち消そうと、新手の斬撃を飛ばす。……2つしか放てなかった。黒い斬撃は威力を大幅に弱めながらも、クナの小柄な身体を貫通する。


「…………!」

「クナっ!」

「クナ少将ッ!」


 クナの身体が壊れる――


「あ、ぁ…… ク、ナっ……」


 元気だった小柄な身体が、右肩から左腰で直線状の斬り込みが入り、彼女の身体は2つに分かれてしまう。2つになったクナの身体は、水飛沫を上げて、地面に倒れる。

 私の身体から、血の気が引いていく。クナが殺された――


「…………」


 エデンが、絶望に呑み込まれてゆく私に、手をかざす。また斬撃が飛んでくる。そうか、私も死ぬのか……。


「コマンダー・アレイシア将軍! 逃げてくださいっ!」


 私の後ろから誰かが飛び出す。また小柄な身体をしたクローン――フィルストだ。私ははっと我に返る。しかし、すでに時遅し――

 私の前に立ったフィルストの身体が腰を境に、上半身と下半身で斬れる。どちらも、雨ともに、地面に落ちる。


「クナ……? フィルスト……?」


 雨が強くなっていく。一瞬の雷鳴と共に、空が眩しく光る。今夜、初めての雷鳴。……仲間が、私の大切な仲間が、2人も殺されてしまった――


「さっきから邪魔入るな、劣化クローン共め……」


 エデンはフィルストの上半身を蹴り飛ばす。彼の身体は血を飛ばしながら、クローン兵たちの死体の山に乗る。……あれはエデンが築いた死体の山だ。

 私は痛みを忘れ、素早く立ち上がると、何かを叫びながら、素手でエデンに向かって行く。心にあったのは、エデンへの憎しみと、彼女の死だけ。


「身体も、心も苦しそうだな。――楽にしてやるよ」


 ニヤリと笑う。右手にラグナロク魔法を纏い、彼女も私に向かって飛んでくる。再び、赤色の液体を纏うエデンの黒い拳が、私の腹部に打ち込まれた――

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