第12話 エデンの猛攻
※アレイシア視点です。
「た、戦いを終らせないと……」
私はフィルストから腕を離し、立ち上る。エデンはフィルドを殺す気なのか? 確か、パトフォーの命令はフィルドの逮捕のハズだ。どちらにしろ、エデンの戦う相手を失わせないと――フィルドを殺さないと……。
あの2人に好き勝手暴れられたら、ディメント支部は潰される。クローン兵も何万人と死ぬことになる。すでに、ディメント支部は半壊。死者の数もおびただしい。
「コマンダー・アレイシア閣下、フィルドとエデンの処刑は私にお任せを」
「…………! ペインター次期中将!」
私に跪いて言うのは、鋼で出来た大斧を持つビッグ・フィルド=トルーパーの1人――ペインターだ。
だが、グランドーはフィルドにあっという間にやられた。ペインターでも勝てるかどうかは……いや、きっと勝てない。
「分かっています、私では勝てないでしょう。……それでも、一打ちでも浴びせれば、大きなダメージになるハズです。それが巨大な私たちの、最大の強みです」
そう言うと、ペインターはすっと立ち上り、私の元を去って行く。私はその後ろ姿を見送るしか出来なかった。……もし、ペインターが死んだら、それは私のせいか? この戦いを引き起こしたのは、他ならない、私だ。
「ディメント支部はお前たち2人のリングじゃないぞ」
「ほう、次はペインターのお出ましか」
「デカいクローンだな」
エデンとフィルドは戦いながら話す。彼女たちの攻撃が、多くのクローン兵を巻き込んでいた。エデンが放った破壊弾をフィルドが避ければ、その攻撃は別のクローン兵たちに当たる。フィルドが放った斬撃をエデンが避ければ、それは同じように別の将兵を斬り裂く。
ペインターは大斧を振り回し、2人を斬ろうとする。その動きはあの巨体からは想像もできないほど素早く洗練された動きだ。だが、2人とっては遅いのかも知れない。彼女の猛攻を軽々と避けている。
「大きいが故のデメリットを教えてやろう」
弧を描きながら悠々と飛ぶエデンが、腕にラグナロク魔法を纏う。ペインターは彼女に向かって斧を振り降ろす。だが、直前で彼女の姿は消える。すでに地面に降り立っていた。
「攻撃を当てやすいんだ。標的になるぞ? まぁ、もう遅いが」
エデンは再び空間を殴る。さっきのアレか! だが、ペインターは退避せず、むしろエデンに向かって再び斧を振り降ろす。
その瞬間、空間が爆発を起こす。17メートルを誇るペインターの身体が、軽々と吹き飛ばされ、ディメント支部要塞に叩き付けられる。やや要塞にめり込む形にまでなり、彼女の身体は地面に倒れる。
一方、凄まじい轟音と共に、また何もかもが破壊されていく。周辺にいたクローン兵たちが弾き飛ばされ、引き裂かれ、空中に吹き飛ばされていく。
「さぁて」
エデンは後ろを振り返る。すぐ近くにまでフィルドが迫っていた。彼女は黒い腕でフィルドの脇腹を殴りつける。
「…………!?」
フィルドの周辺空間が歪んでいく。三度目の轟音。フィルドの姿が遥か遠くにまで弾き飛ばされる。彼女の身体を伝った衝撃波は、その近くにいたクローン兵たちを吹き飛ばしていく。何百、何千人ものクローン兵が飛ばされ、地面に雨と共に降ってくる。
「ひぃ、助けて!」
「痛いよぉっ!」
「もうやだぁッ!」
何千というクローン兵士の悲鳴が、ディメント支部の戦場に響き渡る。身体の一部や真っ赤な血が、瓦礫と共に激しく降り注ぐ。
私はディメント支部要塞に視線をやる。背を叩きつけた軍艦、倒れたペインター次期中将、ほとんど跡形もない高台、煙を上げる半壊のディメント支部要塞……。
次にエデンのいる戦場に目をやる。何千人ものクローン兵が降って来ていた。それと一緒に、戦車やガンシップ、抉れた地面、身体の一部まで。地面は赤色の液体で、血の水たまりが無数に出来ていた。
最後に、私の側に視線を移す。ここにも、何十人もの死んだクローン兵がいた。すぐ側には怯えるフィルスト、目に涙を浮かべたクナ、呆然としているコミット……。
「私のせいか……?」
私がわざわざ日時を決めて公開処刑なんて考えなかったら、あんなにもたくさんのクローン兵が死ぬこともなかったのだろうか?
「エデンを殺せぇ!」
「アイツを止めるんだ!」
「ハハハ、お前たちが私を!? いいぞ、好きなだけかかって来い!」
「アイツが最強か! 殺せ!」
「ヤツを殺せば名が挙がるぞ!」
エデンは何百人ものクローン兵を1人で相手にしている。目に留まらぬ動きで、襲い掛かるクローン兵を肉塊に変えていく。いや、クローン兵だけじゃない。デスペリア支部の囚人たちも相手にしている。
そのとき、1つの血まみれの身体が私の側に飛んでくる。エデンに吹き飛ばされたんだろう。私はふらふらと裸の彼女に近寄る。
「コマンダー・ブラッド……?」
左胸を手かなんかで貫かれて死んだらしい。心臓部が完全になくなっている。コマンダー・ブラッドは、政府軍兵士の心臓を抉った狂気のクローン。そんな彼女が、更に狂気のクローンによって心臓を貫かれて死んだのか……
「……アレイシア将軍?」
「…………」
私は腰から剣を抜き取る。私がやらなきゃ……。私がエデンを――
「ハハハ、アレイシアの軟弱クローン共! それじゃ永久に私に勝てないぞ!?」