第11話 斬られた軍艦
※アレイシア視点です。
闇のエネルギーで拳を黒く染めたエデンが、再び私の側から消える。デスペリアの囚人が現れたことで、静まり返った戦場に何十発もの大型破壊弾を撃っていく。再び爆音が鳴り、大勢の兵士たちの命が失われていく。
エデンの攻撃を合図に、戦いが再開される。デスペリア支部の囚人たちも一斉に戦場に身を投じ、戦いに加わる。
「やたら強い野郎がいるな」
「ふふ、アレから血祭りに上げるか」
衣服を纏わない2人のクローン。デスペリア支部の囚人――コマンダー・フィスラ少将とコマンダー・アークバイ少将だ。どちらも残虐な事件を起こした強大な力を誇るクローン将官だ。2人は奪った剣を手に、空中に飛び上がる。
「ハハ、ちょっとは強いんだろうな!?」
「一瞬で死ぬなよッ!」
2人は脚と剣に白い衝撃波を纏い、空中で何度も不規則な飛び方でエデンに迫る。その動き、早すぎて全く見えない。そこにいたかと思えば、別の場所にいる。速度はエデンとほぼ同等か?
「…………」
だが、コマンダー・アークバイが一突きにしようとしたときだった。突然、アークバイの動きが止まる。空中に血が飛び散る。
「なッ……!?」
「ひぃっ!」
エデンの右手が、アークバイの腹部に埋まっていた。アークバイの口と腹から血が流れ出ている。エデンは彼女の腹から手を引き抜く。腹にあったであろう内容物が握られていた。内臓と背骨か……? アークバイは大量の血を撒き散らしながら、地面に落ちる。彼女が二度と動き出すことはなかった。
だが、アークバイが落ちて行っているとき、すぐ近くにまでもう1人のデスペリア囚人――コマンダー・フィスラが迫っていた。エデンは後ろを向いたまま、手に持ったアークバイの内容物を投げる。それは一瞬で、フィスラの腹に打ち込まれる。彼女もまた、地面に向かって落ちる。
「ひ、ひぃっ」
フィスラは腹から血を垂らしながら、地面這って逃げ出す。だが、その先にいたのはフィルドだった。彼女は瀕死のフィスラに向かって手をかざす。その途端、彼女の身体は八つ裂きに斬り裂かれる。
今度はフィルドが飛び出す。向かう先は当然、空中を飛ぶエデンだ。手を血まみれにしたエデンは、それを冷たい目で見ていた。
「ずいぶん、凄いじゃないか。自分と似た姿をした女を、あんな殺し方するなんて」
「お前に言われたくはないな、フィルド=ネスト」
エデンは拳を上に突き上げる。再びラグナロク魔法が集まっていく。彼女の赤色の拳が、真っ黒に染まる。
「また破壊弾か?」
「そろそろ飽きただろう?」
飽きた? っていうことは、次は何をする気なんだ……?
エデンは真っ黒になった拳を勢いよく振り降ろす。『空間』がエデンによって殴られる。殴られた空間が歪んでいく。その歪んだ場所は、フィルドの飛ぶ延長線上にあった場所だ。
「な、なんだ……?」
フィルドは動きを止める。さすがの彼女も、それに飛び込んでいくようなマネはしなかった。……それは正しかった。
空間が限界まで歪みきった瞬間、何かが砕け散る轟音が鳴り響き、今までにない衝撃波が起こる。それは、フィルドの身体を簡単に吹き飛ばし、更には戦場のクローン兵までもを弾き飛ばす。コンクリートの地面が砕けて宙を舞う。
「マズイ、シールドを!」
「は、はい!」
「了解っ!」
私は強力なシールドを張る。コミットとクナも同じように自分が使える最上位のシールドを張る。エデンの解き放った衝撃波が、何もかもを砕きながら、私たちにまで迫って来ていた。
エデンの攻撃は、全てを壊していく。地面も、クローン兵も、クローン囚人も。……無数の人間の身体が、衝撃波でバラバラに引き裂かれていた。
私たちは三重にも張った強力なシールドに守られていたのにも関わらず、吹き飛ばされる。ディメント支部要塞の壁に叩き付けられ、地面に倒れる。受けたダメージで、そこから立ち上るのにも一苦労だった。
「…………!」
フィルドがエデンに向かっていく。アイツ、正面からあの攻撃を受けたのに、なんで生きているんだ!?
エデンも予想外だったのか、フィルドの攻撃をモロに受ける。彼女の黒い腕がエデンの腹に叩きこまれる。エデンの口から血が飛ぶ。身体を貫かれはしなかったが、その身体は遥か上空まで飛ばされる。死んだか!?
「あ、ぐッ……!」
だが、次の瞬間、エデンはディメント支部よりも高い位置で、身体の向きを変え、体勢を立て直す。そこで不敵に笑う。
「私と互角に戦えるなんて、初めての経験だ」
そう言うと、エデンはチラリと側に目をやる。黒い中型飛空艇――軍艦が飛んでいた。彼女は軍艦に向かって飛ぶ。なにをする気だ……?
「フィルド、面白いものを見せてやる!」
エデンは軍艦の前頭部にある最高司令室の上に立つ。軍艦からやや突き出た感じのガラス張りの最高司令室。その上に立ったエデンは、再び腕にラグナロク魔法を纏う。そして、そこから空に飛び上がる。軍艦に向かって手をかざす。
「フフ、この技は久しぶりだ」
エデンは空から巨大な黒い斬撃を飛ばす。あの大きさ、まさか…… 私は無意識のうちに後ずさる。だが、私の危惧したことは、正確に当たった。黒い巨大斬撃が、私たちからすれば遥かに大きい軍艦を、真っ二つに斬り裂いた。
軍艦に向かって斬撃を飛ばしながら、エデンはディメント支部の屋上に降り立つ。そこから真っ二つになって戦場に落ちようとする軍艦に向かって手をかざす。
「ウ、ウソでしょ……?」
クナがその場に座り込む。私も目を疑った。――落ちるハズの軍艦が、空中で動きを止める。電気エネルギーなしで浮かんだ状態だ。
「ポルター…ガイスト?」
フィルストが呟くように言う。エデンはそんな技まで使えるのか? いや、私やクナだって使える。だが、あんなに大きい物はムリだ。仮にも、2000人を搭乗させられる軍艦だ。
エデンは身体を大きく動かす。その途端、2つに斬られた軍艦は、フィルドに向かって凄まじい勢いで飛んでくる。
「…………!」
フィルドはその場から、地面を蹴って飛ぶ。戦場に軍艦の前半分が突っ込む。地面が大きく揺れ、爆音が鳴り響く。更に後ろ半分も立て続けに突っ込む。同じ音が響き渡る。だが、フィルドはその攻撃を避けていた。
「将軍っ!」
「…………!?」
フィルドは叩きつけられ、炎上する軍艦の瓦礫の上に立つ。その視線は、ディメント支部の屋上にいるエデンを捉えていた。
だが、彼女の後ろから、1隻の軍艦が迫ってくる。さっき斬られた軍艦とは別の軍艦だ。フィルドが後ろを向く。それとほぼ同時に、彼女はそこから消える。そこから飛んで逃げようとした。
「フフ、間に合うかな?」
今度は行動が少し遅れた。前頭部が地面に接触する。多くのクローン兵を巻き込みながら、軍艦はこっちに向かって来る。
「逃げろ!」
私たちもその場から飛んで逃げる。エデンに操られた軍艦は、そのすぐ後に高台の残がいを巻き込んで、背をディメント支部に叩きつける。支部要塞が大きく砕け、ヒビが入る。激しい轟音と共に、大きな瓦礫が飛んでくる。
「クッ……!」
フィルストを抱き締めた私は、地面の揺れでその場に倒れ込む。なんとか巻き込まれずに済んだらしい。倒れた私が目を開けたとき、最初に視界に入ったのは、再び空中で戦いを繰り広げるエデンとフィルドだった。
「あ、あの2人だけで、ディメント支部が破壊されちゃう……」
私の胸に顔を埋めたフィルストが、震えながら言った――。