第10話 狂気に染まるディメント支部
※アレイシア視点です。
戦いは急速に狂気色に染まっていく。
人と人の戦い。
だが、その規模は人同士の戦いではない。
ディメント支部にて、かつてない戦いが始まる――
エデンが私の前から消える。彼女はフィルドに向かって飛び上がっていた。フィルドもそこから飛び出し、エデンに向かっていく。
「ちょっとはマシなヤツなんだろうな?」
「フフ、誰に向かって言っている?」
エデンの右腕に黒い雲状のエネルギーが集まっていく。全てを破壊するラグナロク魔法か……! あんな強力な魔法を使えるクローンなんて、数えるほどしかない。
フィルドが斬撃を飛ばす。エデンも同じ斬撃を飛ばす。両者の斬撃は空中でぶつかり合い、互いに打ち消される。あれだけでも凄い。フィルドの斬撃を防げるクローンは、少将以上の者しかいない。
「ほう、少しはやるな。コマンダー・ヴェルとかいうヤツよりかは強そうだ」
「…………!」
アイツ、コマンダー・ヴェルを殺したのか!? クソっ、私の仲間を……!
エデンは足に白い衝撃波を纏う。空中で衝撃波を何度も爆発させ、その勢いで空を飛ぶ。向きを変え、フィルドを避け、ディメント支部の壁に一瞬、足を付ける。そこで衝撃波を起こし、遂にフィルドの上に達する。支部要塞の壁が僅かに砕ける。
「まずは挨拶代わりに受取れ!」
エデンがそう怒鳴るように言うと、再び空中で弾き飛ぶ。今度は下に向かって飛ぶ。勢いよく落ちていくフィルドに迫る。
「…………!」
フィルドは斬撃を飛ばす。だが、その直後、エデンの右腕が彼女の腹部に打ち込まれる。斬撃がエデンの肩から脇腹を斬り、ラグナロク魔法を纏った拳がフィルドを戦場に叩き落す。
「う、うわっ!」
「今のはなんだ!?」
混乱を起こす付近のクローン兵たち。そこから空中へと飛び出すフィルド。その口からは自身の真っ赤な血が流れていた。
「フィルド=ネスト、いつの間にッ! ここは通さないぞ!」
鋭いトゲの付いた金棒を手に、ビッグ・フィルド=トルーパーのグランドー次期中将がフィルドに立ち向かう。だが、彼女の目はグランドーを捉えていなかった。後ろのエデンを睨んでいた。
フィルドは拳にラグナロク魔法を纏う。それをさっきのエデンと同じように、アーマーを付けたグランドーの腹部に打ち込む。一瞬の技だった。17メートルの身長を誇るグランドーは空に打ち上げられる。
「“デカいゴミ”をこっちに渡すな」
エデンは両腕にラグナロク魔法を纏い、飛んでくるグランドーに自ら向かっていく。その巨体の腹部に、両手を組んだ拳を叩き込む。グランドーは勢いよく戦場に突き落とされる。地面が砕ける音が鳴り響く。
「グランドー! あいつ、よくもグランドーを!」
私はエデンに向かって飛ぼうとする。だが、彼女は空中を飛んだまま、黒く染まった両腕を突きだす。両拳から大型の黒い魔法弾――破壊弾が何十発も飛ばされる。
「…………! コミット、逃げろ!」
私はそう叫びながら、フィルストを抱き抱える。破壊弾の1発がこっちに飛んできていた。それは、鋼の高台に着弾すると、一撃で砕いていく。高台が崩れ落ちていく。
破壊弾は高台だけじゃなく、フィルドや戦場を目がけて飛んでいく。フィルドは空中を蹴り、破壊弾を避けていく。
「逃げろ!」
「魔法弾が降ってくるぞ!」
「うわあぁっ!」
戦場にいるクローン兵に破壊弾が浴びせられる。何度も爆音が鳴り響き、クローン兵たちが砕けたコンクリートの地面と共に吹き飛ばされる。
フィルストを抱き締めた私は、空中を何度も蹴り、崩れ落ちる高台の瓦礫から逃れる。地面に降り立つ。
「アレイシア将軍!」
「…………! クナ、フィルストを頼むぞ!」
偶然、近くにいた少女――コマンダー・クナ少将にフィルストを任せると、私は再びエデンに向かって行こうとする。空中では、エデンとフィルドが、お互いにラグナロク魔法を纏った拳で叩き合いを繰り広げている。拳同士が接触する度に、2人は大きく弾かれ、空中を蹴って、再び接近し合っている。
「コマンダー・アレイシア将軍!」
「コミット……!?」
コマンダー・コミットが現れる。彼女も無事に高台から逃げられたのか、よかった。私は彼女に駆け寄ろうとする。だが、コミットは空を指差して叫ぶように言う。
「アレを!」
「…………?」
私はコミットの指差す方向に視線を向ける。そこには、1隻の黒い小型飛空艇が向かって来ていた。両翼を持つアレは連合軍の上陸艦だ。今度は何が――いや、あれはデスペリア支部のマークか? なぜ、デスペリア支部の上陸艦がここに?
「さ、さきほど、申し上げようとしたのですが、――」
「…………?」
「申し訳ございませんッ!」
地面に尻を付いたコミットは、怯えた表情でこの戦場に向かって降り立とうとしている上陸艦を見ていた。
「な、なにを言っている? どうしたんだ?」
「――少し前にデスペリア支部から緊急の援軍要請があり……」
そう言っている内に、デスペリア支部の上陸艦は戦場に突っ込む。大勢のクローン兵を轢き殺しながら、それは動きを止める。
そのとき、すぐ近くに何かが降ってくる。土煙が起こる。遠くの方でも何かが勢いよく落ちた。
「ア、アレがオリジナルの力か……」
「エデン……!?」
私のすぐ側に発生した土煙からエデンがフラフラと現れる。そうか、空中でフィルドと相討ちになってここに……。っていうことは、遠くに落ちたのはフィルドか。
「……アレはデスペリアの上陸艦か?」
「お前のお迎えじゃないのか? 元デスペリアの囚人さんよ」
「殺されたいか、コマンダー・アレイシア」
デスペリア支部の上陸艦はしばらく何の動きもなかったが、不意に正面の大扉が左右にゆっくりと音を立てながら開いていく。
「……アレは!?」
「そ、そんなバカな!」
「ウソでしょ……」
上陸艦の周辺にいたクローン兵たちが後ずさる。中から誰かが出てくる。……出て来たのは、全身に傷を負った裸のクローンたち――。
「…………!!? まさかッ!」
「ほう、これはスゴイ」
「将軍、申し訳ございませんっ……」
――デスペリア支部に収監されたクローンたちだった。
「アレは万人殺しのコマンダー・クロア少将だ!」
「彼女だけじゃない! コマンダー・レンド少将やコマンダー・シリカ少将、コマンダー・ブラッド准将まで!」
先頭に立つコマンダー・レンドに引きずられるのは、破壊されたデスペリア支部管理官――バトル=タクティクス・サードだ。すでに機能を完全に停止させている。
デスペリアの上陸艦に乗ってきたのは、最悪のクローン囚人たちだった――。