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8.敵か味方か

ネーデルが向かった先にいたのは、ネーデルに驚いて逃げようとした変種とも人間とも言えない生命体だった。

「待って!逃げないで!ネーデルは何もしないから!だから……!」

その生命体はピクリと動きを止めると、ネーデルに近づき、ネーデルの頬に少しだけ戸惑いながら触れた。

まるで涙を拭うように触るので、「ネーデル、泣いてないよ?」と思わず言ったほどだ。

性別は男か女がわからない。

何せ、判断できる材料がどこにもないのだ。

胸も、性器もない。

どこから排便をしているのだろう?と思うが、今はどうでもいい。

この限りなく人間の形をした、変種はなんなのだろう?

ネーデルも攻撃する気もなければ、その変種も攻撃する気配も見せない。

髪の毛は長く、ボサボサで、女の子に見えなくもないが、女の子にしては少々筋肉質な体をしていた。

ネーデルは、匂いで変種だと見抜いたが、ウミューやベラトランシー、ミコトといったメンバーがこのまだ14歳かそこらの変種を見ても、人間としか思わなかっただろう。

「……ねぇ、どうして服着てないの?」

「……あぇ、おういえあぅあ……。」

はじめは敵の言葉でもしゃべっているのかと思ったが、したったらずなそのしゃべり方は人間の赤ちゃんと同じようなものだった。

「しゃべれないの?」

「いぁええあいお?」

音だけを聞くと、どうやらネーデルの言葉の真似をしているらしい。

「あ。」

「あ。」

「い。」

「い。」

やはり、間違いないようだ。

ネーデルが「あ」と言えば、その子も「あ」と言う。

ただ、いの発音がしにくいらしく、たまにう、に聞こえないこともない。

「ネーデル。」

ネーデルが自分を指差して言うと、その子は、ネーデルを指差して「ねーねぅ?」と言った。

酷く飲み込みの早い子だ。

すでに音をなんとなく覚えてきているらしい。

「ネーデル。」

「ねーねぅ。」

「ネーデル。」

「ねーで……う?」

「ネーデル。」

「ネーデル?」

ようやく呼ばれた名前にネーデルは満面の笑みになると、「やったぁ!」と言った。

「やっあぁ!」と言ってその子もネーデルの真似をして手を上げた。

「凄い、凄い!ネーデルの名前、言えたね!ね?」

「うぉい、うぉい!ネーデルおああえ……う?」

途中でわからなくなったらしく、止まると、じっとネーデルを見た。

「凄い。」

「うぉい。」

「凄い。」

「しぃ……おい……。」

「凄い。」

「すぅ……おい?」

「凄い。」

「す、おい?」

「凄い。」

「しゅごい?」

「凄い。」

「すご、い。」

「凄い!」

今度はネーデルがその子を指差しながらそういうと、その子は自分を指差しながら「すご……い。」と言いにくそうに言った。

「凄い!ねぇ、お名前は?お名前あるの?」

「凄い!ねえ、おああえあ?おああえあるお?」

「ない?」

「な、い?」

「ないの?」

「ないお?」

「きて。」

「い、て?」

ネーデルがその子の手をそっと掴むと、引っ張った。

その子もネーデルにつれられるまま歩きだした。

ネーデルが仲間のところにたどり着いたとき、全員が戦闘体勢になり、ネーデル達に襲い掛かってこようとしていた。

「はぁ!?なんじゃこりゃあ!人間!?」

その子は驚き、ネーデルの後ろに隠れた。

「ネーデル!その子から離れて!敵の匂いしかしない!」

ハルネがそう叫び、尻尾をバシバシと鞭のように地面を打った。

ハルネの目は細く小さくなり、怒りに満ちたように見開かれていた。

「この子は無害だよ!みんな、落ち着いてほしいの!」

みんながだいたい殺気を納めてくると、ようやくその子きつく握り締めていたネーデルの手を離した。

「大丈夫だよ。」

ネーデルが笑いかけると、その子はさっきと同じ調子で「あいおぉうあお?」と繰り返した。

ネーデルはちょっと困ったように笑ってからメンバーを見た。

みんな、まだ半信半疑のようだ。

「大丈夫。」

「あいおうう。」

「大丈夫。」

「だ……いおおう?」

「大丈夫。」

「だいしょ……だいじょ……だいじょうう?」

「大丈夫。」

「だいじょ……うぶ?」

「そう!大丈夫!」

「お、う!ダイジョウブ!」

「凄い、凄い!」

「凄い、凄い!」

喜ぶネーデルと、それを真似する子の妙なノリに周りはついていけずに、遠目に見守っていた。

だが、さっきまでの緊迫した空気はどこにもなくなっていた。

「名前、どうしよっか?」

「なあえ、おうしゆっか?」

だんだん音を掴んできたのか繰り返し教えなくてもこの調子なら勝手に学んでいってくれそうだ。

「……何がいい?」

「……ないがいい?」

とりあえずドーシェの所にいくと、体を洗い、髪の毛を切って服を着せると、なお中性的になったその子はぴょんぴょん跳ね回った後、あっという間に気のうえにかけあがってしまった。

「はやぁい……。」

「はやあい。」

ネーデルの真似をしてその子も木の上から顔をのぞかせながら言う。

「すっかりネーデルに懐いてるな。」

ドーシェが呟くと、その子は葉っぱで遊びながら「すっかいネーデルになういえるな。」と言った。

「……また厄介者拾ってきたのか、お前。」

ネーデルが後ろを振り向くと、そこにはウミューがいた。

「ウミュー!」

「ウミュー?」

「凄い!ウミューの名前、一回で言えたよ!」

ネーデルが興奮気味に告げると、ウミューは苦笑して、「リーダー、俺は怪我が治ったんで、向こうを見回りに行ってきます。」とドーシェに告げた。

向こうと言いながら指差した方向はさっきまで戦っていたフィールドだ。

それで何かを感じ取ったらしく、いきなり木から滑り降りてくると、その子はじっとウミューの顔を見上げた。

「……行きたいのか?」

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