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7.優しい嘘

青くなびく髪の毛はべっとりと血に汚れており、もともと青白い顔はより一層青くなって、唇は紫色に変化し、鎧が食い千切られたようにボロボロになっていた。

胸からお腹にかけての負傷もひどい。

「ネーデル……わたくしの耳元で大声を……あげないでください……。」

呼吸もかなり浅く、虫の息だ。

「鎧、どうしてこんなことに……。」

「……失敗しましたよ……まさか、鉄系統好きのディンガンロー進化系がこちらに突進してくるとは……わたくしの武器も短剣ですからね……投げて何とかかわしたものの、鎧半分と武器の殆ど……おまけでわたくしの血肉まで美味しくいただかれてしまいました……血肉は美味しかったか……わかりませんが……。」

「しゃべっちゃダメ!ダメだよ、ルリクレッサ!」

必死にネーデルがルリクレッサの手を握るが、ルリクレッサは手を握り返すこともしなければ、虫の鳴くような声で話し続けた。

「いいえ、わたくしは……死にぞこないです……まだ生きている理由は……敵の特徴を……少しでもあなた方……後々まだ戦う方々にこの情報を残すためです……わたくしの生死に価値はありませんが、わたくしの情報は……少しでも後々役に立てばと思います……今、わたくしの言葉を聞いているのが……情報係、ネーデル……あなたでよかった……。」

「嫌だ!ルリクレッサ!生死に価値がないなんて、ルリクレッサが死にぞこないだなんて言わないでっ!ネーデルは、ルリクレッサに生きててほしいよっ!」

ネーデルがルリクレッサの手を強く握り、涙を涙を浮かべた。

だが、泣くまいと必死に唇を噛んでいる。

「……わたくしも……ずいぶんと幸せ者だったようですね……よく……聞いてください、ネーデル……わたくしは、長くは……もう……もたない……今回の敵の弱点らしき場所を見つけました……怪我をするリスクも……死ぬリスクも高くなりますが……敵の弱点は……お腹の部分です……普段攻撃されることの少ないお腹の部分だけが、鉄系でも、岩系でも、少しだけ刃が通ることに気が付きました……四つ足の彼らの下に潜り込むことは……至難の業です……それでも……」

そう言ってからルリクレッサは、瞳を閉じたまま動かなくなった。

「ルリクレッサ……?」

ネーデルがルリクレッサの体を軽く揺すったが、反応はなく、もう呼吸すらしていなかった。

「ルリクレッサ……。」

最後はなんといいたかったのか、もうわからない。

最後の最後まで虫の鳴くような声であったルリクレッサの言葉を聞き取れたのは、ネーデルの耳の良さがあってこそ成し遂げられた事だったのだろう。

ネーデルはそっとルリクレッサの手を離すと、ルリクレッサの体の上に両手を重ねて置いた。

「ルリクレッサ、本名、ルリクレッサ・ネオレス。ディンガンロー進化系の新種にて、勇敢に戦い、我々に有益な情報を残し、この世を去った。最後まで劔のメンバーとして戦ったことを我々は誇りに思う。ルリクレッサ・ネオレス、今ここに眠られし……しかし、我々劔の永遠の仲間であることを、今ここに誓う。」

そして、一呼吸おいてから、ネーデルはこう続けた。

「安らかに、眠ってね……ルリクレッサ……行かないでなんて……言っちゃいけないよね……。」

ネーデルは小さな肩をプルプルと震わせると、ルリクレッサの体の上に重ねた手の甲に、自分の額を乗せ、瞳を閉じると、しばらく動かなくなった。

そんなネーデルを慰めたのは、今度はベラトランシーだった。

「ネーデル……もう手を離してあげましょ。いつまでもそんなにルリクレッサを押さえ付けてたら、ルリクレッサが苦しくて魂が体から飛び立てなくなっちゃうかもしれないわ。」

「ベラトランシー……。」

ネーデルはきつく閉じていた目をあけ、ぼんやりとベラトランシーを見た。

「ベラトランシーは、ネーデルを置いていかないよね?ね?」

多分ベラトランシーの不老の事だけを考えればネーデルを置いて先に死ぬことはないと考えたのだろう。

ベラトランシーが頷きかけたとき、「あんた、ばっかじゃないの?」という声がした。

ベラトランシーが振り向いた先にいたのは、ミコトだった。

「……ミコト……あんたねぇ……。」

ベラトランシーが、ネーデルの気持ちをもう少し考えられないのかと怒ろうとしたとき、ミコトがそれを遮った。

「不老の奴はいるかもしれないさ。ミコト自身、そうだしね。だけど、不死の奴なんてどこにもいやしないんだよ!傷を負えば痛いし、不完全な所は誰にでもある。だけど、それを偽りの約束なんかで埋められると本気で思ってんの!?」

ミコトは、色々な場所に擦り傷や切り傷があった。

パワーが持ち前のミコトは、後半、ディンガンロー進化系を倒す組だった。

そのために沢山の傷がついたのだろう。

「偽りの……約束……。」

心、ここにあらずといった調子でネーデルがミコトの言葉を繰り返す。

「そう、死なない奴なんていないの!あんたより先に死なないだなんて、誰も約束できないの!そこのオバサンならあんたが望む答えをくれるだろうさ!だけど、それは偽りの約束!約束が破れた時、あんたはまたそうやって偽りの約束をして、自分や他人を騙すわけ?……笑わせないでよ!自分をだまし続けたらどうなるかも知らないガキがさ!ミコトは、あいつみたいに、あんたに戦えなんて事は言わないよ!あいつみたいに、あんたを責めたり、八つ当たりしたりしないよ!だけど、自分で自分を偽るのはやめなよ!自分で自分を欺くのは、やめなよ!悲しいなら泣けばいいじゃないか!何笑ってんだよ!あんたの持ち前は、素直な事だろ!?……自分で自分を欺くのは……もう、ミコトだけでいいよ……。」

最後に呟いた言葉をネーデルは聞き逃さなかった。

我に返ったようにハッとミコトを見上げると、ネーデルは、擦れた声で「ミコト……?」と呼んだ。

ミコトはそのままどこかに走り去ってしまったが、ベラトランシーが、「何よ、あいつ。」と吐き捨てた言葉でネーデルはミコトを追い掛けるのをやめた。

「何がオバサンよ!ただの若作りに言われたくないわ!あの言い方もないわよ!ねぇ?ネーデル。」

ネーデルは、ゆっくり首を横に降って、「ネーデルは、ミコト嫌な子だとは思わないの……。」と告げた。

「ネーデル?」

「確かに、ネーデル……自分にも、ベラトランシーにも嘘をつかせる所だった……そうだよね、死なない人なんていないんだよね……ごめんね、ベラトランシー……ネーデル、間違ってた……ミコト、前に何かあったのかな……ベラトランシーは、自分を偽ってなんかいないよね?ね?」

「偽ってはいるのかもね……だけど、これが本当のあたしなの。それに、何も偽ってなんかいないって人間なんか、どこにもいないはずよ。あたし達は人間と変種の中間だけど、極めて人間の血が濃い。人間は、“優しいうそ”っていうのもつくからね。あ、でも、ルリクレッサはやけにガチガチだったから、彼女だけは自分に嘘なんかついてなかったかも。あたしは嫌いだったけど。」

そう言い切るとベラトランシーは苦笑してネーデルを見た。

ネーデルは、「優しい……嘘……。」と繰り返してから空を見上げた。

たった今の今まで劔対新種の敵と激しい戦いがあったとは信じられないほど青く澄み切った綺麗な空がのぞいていた。

「……雲が、白い……。」

そう言ってからネーデルは上空に飛びだつと耳をすませた。

まだ瀕死状態のメンバーがどこかにいるかもしれないためだ。

「いる……何かが!」

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