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6.新種

全メンバーが駆け付けたとき、そこには悲惨な光景が広がっていた。

草一本生えていないどころか、土さええぐり取られ、民家など、跡形も存在しなかった。

石も噛み砕かれた形跡が見られた。

その部分だけへこみ、まるで一つのフィールドのようだ。

隠れる場所を失い、それでも戦いに挑んだメンバーの大半が怪我をしていた。

それでも死者が出ずにいたのは、最初に駆け付けたのが、スピード短寿命型の治癒能力が高いメンバーだったからだろう。

そこには、必死に戦うウミューの姿も存在した。

仲間が到着しているのに気が付いているはずだが、こちらに目もくれず、体液まみれの体で必死に戦っている。

あちこち擦り傷だらけだが、実際に負った傷は擦り傷なんて生易しいものではなかっただろう。

治癒が早いから擦り傷に見えるだけの事だ。

「私達の出番だな。」

力で勝るドーシェが拳を握ると、空高くに飛び上がり、一気に急降下すると、新種の敵に鉄槌(てっつい)を食らわせた。

ドーシェの拳は時折、岩おも砕く。

ただし、殴っている本人はかなり痛いらしく、今までの過去最高は1日の間に10回ほどしか使ったところを見たことがない。

鎧をまとっていても痛いのだから、その威力は計り知れないだろう。

ドーシェは一匹の頭を勝ち割ると、大声で叫んだ。

「こいつらに羽はない!先頭チーム!選手交代だ!少し休んでくれ!こいつらには馬鹿力しか通用しない!力があるもの!おとりになり、敵を引き寄せるもの、空が飛べるものは戦闘だ!上空戦有利!ただし、武器はどんな武器が通じるかわからない!よく注意するように!」

すると、皆、それに答えるかのように雄叫びをあげ、敵をつぶしにかかった。

ネーデルは空を飛べるが、まだ自分に適した武器がない。

戦いに向いているわけでもないので、ランパイやベラトランシーなどと共に負傷者の手当に取り組んだ。

「ぐ、ぁぁああああああっ!」

突然藻掻くように叫びを上げたのはチャルコハネだった。

「チャルコハネ!落ち着いて!まだ足を動かしちゃダメ!いくら治癒が早くても、このままじゃ、足が永遠に切り離されちゃうっ!」

チャルコハネを宥めているのはハルネだった。

チャルコハネはハルネの言葉を無視して何度も立ち上がろうとする。

だが、足が完璧に胴体と切り離されていないのが不思議なほど負傷した足はまだ立てるまでにはいたらない。

ネーデルはそっと脂汗をかきながら呻くチャルコハネの背後に回ると、後頭部辺りを強めに叩いた。

チャルコハネは、気絶し、ガクッと首をもたげると、そのまま木に寄り掛かり、やがて地面の上に座るような形になった。

「ありがとう、ネーデルちゃん……。」

困ったようにハルネが笑うと、ネーデルはチャルコハネの足を見てから目をそらした。

「傷が、深すぎるよ?よ?これ……食べかけられたみたいに見える……。」

すると、顔が泥と傷まみれになった女性が口を挟んできた。

「そうだ。そいつは……チャルコハネは、一度敵に食われかけた。自分が見つけたときにはもう、足を噛まれていた。それから仲間を集め、どーにかこーにか敵を殺し、助けだしたんだがな……もしかしたら、その足は再起不能かもしれん。そいつの、チャルコハネの武器……強みはその強靱な足の強さと早さだったんだが、それがなくなるかもしれないと思い、やつは無理に立とうとしていたのだろう。」その女性は少しばかり早口でそう告げると、「自分も、1日でこの傷すべてが治るとは思えない。そいつだけではない、皆深手を負った。」と付け足した。

すると、隣にいた男性がその女性に向かい、「黙れ。少しでも休まねぇとお前もぶっ倒れるぞ。お前の傷は俺より重傷だ。全治1週間くらいだろ。」とかなりの早口で告げた。

女性はおとなしく座り込み、やがて身動ぎ一つしなくなった。

全治1週間と言えば、大した傷ではないように思えるが、自然治癒能力が高いウミュー達のようなメンバーが全治1週間と言えば、それは、2年~3年は本調子には戻れないと言われたようなものなのだ。

これも、ネーデルが嫌われる一つの原因だった。

ネーデルは、まったく持って戦闘に参加しない。

いや、参加できないのだ。

だからこそ情報収集にあてられた。

そして、情報収集ではほぼネーデルに不可能な事はなく、彼女が主体となる。

ネーデルは、深手を負った事はなく、さらには必ず必要と去れる存在で、真っ先に戦い、負傷するものにとって疎ましい存在だった。

ネーデルは、小さく唇を噛みしめ、体を震わせると、黙って死者の遺体の一部でも見つかると、それを土に葬る作業に取り掛かった。

「……死体があるやつは……いい。」

黙々と敵の骸が転がる周辺の肉片を探すネーデルの横でウミューが呟いた。

「ウミュー!」

ネーデルが驚いて振り替えると、そこには自分の腕を押さえ付けながらフラフラと歩くウミューの姿があった。

「休んでなきゃだめだよ!だよ!」

ウミューは、口の端を微かに持ち上げると、「気にするな……お前のせいじゃない……この戦場では、誰も悪くないんだ……。」と言い切った。

ネーデルは大きな瞳に涙を浮かべると、盛大に泣きだした。

「うぁぁぁぁぁあああんっ!ネーデル、何もできなくてごめんなさい……!ネーデル、痛みをわかってあげることさえできない!どれだけ辛いかもわからない、戦うことができないの!最低限は自分でもできるよ……だけど、だけどっ!戦場は仲間の足を引っ張るかもしれない。ネーデルも戦えるなら戦いたい!強くなりたい!強くなりたいのにっ!」

しゃくり上げながらやっとのように言葉を叫ぶネーデルのそばで、「まためんどくさい事をしちまった」とでも言いたげな苦笑を浮かべたウミューが立っていた。

「ウミューも辛いよね!?ね!?真っ先に戦場に駆け付けて、十分な情報もないまま、真っ先に戦って、真っ先に傷ついて……!ネーデルはその辛ささえわからないの!ネーデルは、その孤独さえわからないの!何もかも、わからないの!」

「……戦場ってのはそんなもんだ。気にするな。俺も……もう慣れた。」

ネーデルは、そう呟いたウミューに抱きつくと、ウォンウォン言いながら、「どうして……どうして……!」と何度も繰り返した。

確かに今回の戦死者は多かった。

進化系ととあって、急所も分かりづらくなり、今までと同じ方法では潰せなかった。

特に、鉄や石、岩等を食らうようなディンガンロー進化系は刃物も飛び道具も効きはしない。

だからこそ沢山の死者を出したわけだが……。

死体があるやつはまだ良いほうだ。

今回、敵に食われ、遺体……いや、肉片すら残らなかったものも多い。

ネーデルはウミューから離れると、「ごめんなさい……ネーデルは戦えもしないのに、悲しむなんて。前にね、ウミューに会う前……ある子に言われたの……『僕らの気持ちもわからないくせに、わかったようにするな、悲しいのが自分だけだとでも思ってるのか!泣き喚くなら、まずは僕らと同じ位置まできて、真っ先に戦ってみたらどうだ!』って……ネーデルは、何も言えなかった……ネーデルは、戦って、傷つく辛さを知らなかったから……だからその時もう二度と涙を流すものか!って思ったの、“彼らは勇敢に戦って、勇敢に散っていったんだから、寧ろ笑顔で送り出してあげるべきなんだ”って……だけど、だけどね……悲しいの……やっぱり悲しいの……失われた命がもう戻ってこないと思うと、もう、その人の笑顔も見れないんだって……ネーデル、変なの……いつまでたってもこの状況に慣れないの……ドーシェは、もう慣れたって、当然の犠牲だったんだって……だけど、ネーデルには、当然なんて思えないの……思えないよ……。」と言ってグッと拳を強く握った。

「……そんな事を言った奴は誰だ。」

ウミューが大分意識がしっかりしてくると、真っ直ぐにネーデルを見た。

「……いないよ。」

ネーデルは、涙に濡れた瞳をウミューに向けると、そう言った。

「は?」

わけがわからないとでも言いたげにウミューは聞き返した。

「いないの……死んじゃった……戦死しちゃったの……今生きてたら、多分……キョウノスケと同じくらいだよ……だよ……。」

ネーデルは強く目を腕で擦ると、ちょっとだけ笑ってみせた。

新種のディンガンロー進化系をメンバーが何とか倒した頃、メンバーの人数は約20人程の使者を出し、負傷者はほぼ全員と言ったくらいにまで被害が出た。

変種の敵の進化速度はとてつもなく早い。

そして、人間の体がその状況に適応するのはかなり遅い。

そのため、かなり人間に近く造られた変種混合人間の彼らは変種と同等に戦う事が難しくなってきているのだ。

きっとこれから先も劔メンバーの被害は大きなものへと変わっていくのだろう。

「ルリクレッサ!」

唐突にネーデルが叫び声を上げ、負傷したルリクレッサに駆け寄った。

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