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4.隠れ鬼

「で、結局残ったのは真面目なメンバーだけって事か。」

不気味でいかつい男が呟いた。

「他の奴らはなっとらんどが。なぁ、リーダー?」

リーダーと呼ばれた男は、もう80そこそこはいっているであろうおじいさんを見た。

「個性といってしまえばそれまでだな。少なくとも、私達は声をかけても相手にはされんだろうし。」

「リーダーまで女にうつつを抜かすどがか!?」

「例え話だ。本気になるなよ。キョウノスケ。」

「その顔で言われてもシャレにならんどが。」

キョウノスケと呼ばれたおじいさんは、ふんと鼻をならした。

彼はまだ40そこそこの男性であるが、今や頭は綺麗に年中丸刈り状態になり、視力も衰え、腰を曲げて杖をついて歩いている姿はどう見ても80のおじいさんにしか見えない。

彼は、ウミューと同じく回復や俊敏性に長けた種族である。

これでもし、左腕丸々と左足丸々が化け物のそれでなければ、人間の中にまじっていても誰も騒ぎはしないだろう。

身長が小さい彼の隣には、背が大きく、いかついリーダーと呼ばれる男性がいた。

彼の身長は180センチといったところで、キョウノスケは155センチなので、その差、25センチ……なのだが、キョウノスケが腰を曲げているせいでさらにキョウノスケは小さく脆そうな存在に見えた。

「ドーシェ!なんだか人が減ってるような気がするのは、ネーデルだけなのかなぁ?かなぁ?」

喜んだ様子でネーデルがリーダーと呼ばれていた大男の近くに近寄っていく。

「ネーデル。いや、気のせいではないよ。みな、人間により近いものはすっかり遊びに言ってしまった。買い物なんて言ってる奴もいたな。金をため込んでると思ったら、どうやら人里で使っているらしい。」

近づいてくるネーデルに顔を向けながら話す。

その顔は、右半分が赤い鱗に覆われ、目玉がドラゴンのそれであった。

「リーダー、どが。」

キョウノスケがネーデルをにらみつけた。

「あぅ……ごめんなさい、その……リーダー?」

「私のことは名前で呼んでもらって構わないと言ったからな。強制はしないよ。好きなように呼べばいい。」

「リーダーは甘すぎるどが!」

「キョウノスケ。落ち着け。」

「……はい、リーダー……どが。」

リーダーと呼ばれる本名、ドーシェは、体格がいかつく、背も高めな大男で、鎧を纏ったその姿は、戦争でも始めそうな面持ちがあった。

彼は、“妥協作”前の第15回目の“失敗作”と呼ばれた変態混合人間であった。

劔メンバーの中で、最もドラゴンに近く、鎧の下の体はすべて鱗に覆われ、脚は二本とも、ドラゴンの足そのものだった。

左頬と鼻の辺りにある二本の傷はいまだに生々しく、右半分の顔は、前髪で隠している。

いや、隠しているつもりといったところだろうか。

長方形の彼の顔では、前髪で完璧に隠すことができないのだ。

おまけに髪の毛は黄色。

金ではなく、ヒヨコのような黄色なのだ。

ネーデルと似た種類で、長寿ではあるものの、傷の治りは、かなり遅い。

事実、ドーシェは外見こそ30~40くらいで肌が褐色の、いかついおっさんだが、実年齢は112歳だ。

「ウミュー、みんな遊びに行っちゃったんだって。残念だね?だね?」

「……嫌われ者、か……。」

「ウミュー?」

ネーデルがウミューの顔を覗き見たが、ウミューは、それ以上何も言わなかった。

キョウノスケは、静かに顔を背け、ドーシェは、かすかに苦笑をもらした。

クエスト料金変換所に行くと、人間の若い女性が笑顔で出迎えてくれた。

「みなさん、お疲れさまでした。それでは、今回のクエスト依頼書と、クエスト完了後、必要となる変種の遺伝子(いちぶ)をお預かりいたしますね。」

「あぁ、頼むよ。」

ドーシェがたくさんの荷物をカウンターにおくと、カウンターは物であふれかえり、そこに置いていた依頼書が乗り切らないといった状態になった。

「わわっ!?ナディーン!お願い、こっちにきて手伝って!」

女性はあわてた様子で奥からもう一人女性を呼ぶと、こちらに向けてニコリと笑い、「クエスト受領数確認とクエスト報酬額が用意できましたらお呼びいたしますので、食堂の方でお休みになられてはいかがですか?」と言った。

きちんとお金がその手に渡までにかなりの時間が必要となった。

ネーデルは、起きていることでいっぱいいっぱいになり、眠たげに何度も目を擦り、重たい目蓋を持ち上げようとしていた。

「大変お待たせいたしました。すべての受領が完了いたしました。クエスト報酬額は、1億750万トブルとなります。こちらが領収書になります。」

「……トブル?この国の金貨は、ラグラじゃなかったか?」

不思議そうにドーシェが女性に聞き返すと、女性はキョトンとしたまま、「いえ、私が生まれてからこの方、この国の金貨は、トブルですが……。」と言った。

ドーシェは、「そうか、すまない。100年近く生きているといろんな事がごっちゃになってしまってね。多分私が言ったラグラは、君が生まれるよりずっと前のこの国の金貨だったのだろう。」と言って報酬額を受け取った。

「いえ……それより皆さんお疲れですよね?この食堂を出て突き当たり、左を行かれると宿屋が設立去れておりますのでどうぞそちらをお使いください。宿主は混合者ですので、皆さんにあった場所と部屋のサイズを提供してくださると思いますよ。」

ニコリと何事もなかったように笑った女性に促されるまま、皆宿の方へ向かった。

「らっしゃい!クエスト変換所混合型宿屋へようこそ!ありゃーこれまたでかい。あんたはダブルベッドだな!」

威勢のよいおっちゃんといった雰囲気の男性がドーシェを見上げてまず言った事だった。

「私の場合、かなり大きな翼もあるのでね。」

ドーシェはかすかに笑いながら言うと、宿屋主は、「やっかいなのは、翼持ちだな!寝てる間、翼を広げたりする奴もいると聞いたことがある。」と満面の笑みで返した。

今更であるが、ドーシェの背中には、自分の背と同じくらいの高さがある赤と黄色の翼が二本はえている。

「ちょっとおっさん!うちらを無視すんなよ!大変なのは翼持ちだけじゃないぜ!?」

「チャルコハネ!その言い方は、宿主さんに失礼でしょう?」

「でもよ、ハルネ!うちだってこんな角があるんだぜ?なのに、うちは寝るとき大変じゃねぇとでも言うのかよ!?」

息を荒げてチャルコハネは、ハルネを見た。

「威勢のいいお嬢ちゃんだな!ほうほう、角ありお嬢ちゃんに、あんたは蛇女かい。」

宿主は、そう言って笑うと、ハルネが「先ほどは申し訳ありません。」と頭を下げた。

まるで聞き分けのない子供の保護者のようだ。

「なぁに、気にするこったぁない。外で寝たい奴はいるかい?一応外にも寝床はあるんだ。」

宿主は聞いたが、誰も何も言わなかった。

「わかった。みんな室内だな?1、2の、3、4……36。36名様、室内で36000トブルになります!」

ドーシェが宿代を払い終えると、宿主は元気よく声を張り上げて、「まいど!36名様ご案内~!」と言った。

それぞれに各部屋が与えられ、食事は食堂での別料金、風呂場は、左右、部屋を挟んで両端に。

左半分が女性専用部屋と、女性専用のお風呂、右半分が男性専用部屋と、男性専用お風呂と言ったかたちになっており、トイレ、水のみ場は、各部屋に配置されていた。

「ああ、大きめの部屋がいい人は下に行くから。」

そして、さらに地下5階には、武器屋、防具屋、薬草屋などがそろっていたために、みな様々な時を過ごした。

女側、露天風呂を除こうとして、たたき落とされた者、呆れるもの、笑うもの、武器や防具を手入れしてもらう者、寝る者。

不意にウミューの部屋の戸が叩かれた。

「ウミューゥウ……。」

ネーデルの声がして、扉が開かれた。

「……着替えてたら、どうするんだ……。」

「ウミュー、遅く喋らなくていいのー。ネーデルは、耳が良いんだよ?だよ?あれ、これ、何回言ったっけ?言ったっけ?そんな事より、ネーデル、ちゃんとノックしたよ?よ?」

今にも、暇だと言いたげに、両手をやるせなくぶら下げながらウミューの近くへやってきた。

「ノックしても、いきなり開けたら意味がないだろ。」

「うぅ、ごめん、なさい?」

ウミューは、ため息をつくと、とりあえずベッドから起き上がり、ネーデルを見据えた。

「あれ?で、用はなんだ!とか、言わないの?言わないの?」

ネーデルが眉間にシワを寄せ、ウミューの真似と思われる表情をしてみせた。

「……どうせ、かまえ、だろ。」

「そうなの~大当たりなの~!ウミューは、すごいね!」

ネーデルが拍手をしたが、ウミューは呆れた表情のまま、ネーデルの額にデコピンをした。

「あいたっ!痛いのー!何するの、ウミュー!」

ちょっと怒ったネーデルの頭を撫でると、ネーデルの機嫌はすぐに直り、「えへへ~」と笑った。

ウミューがネーデルの頭をかき回すと、ネーデルは、「わ、わ、わっ!?」と言って慌てた様子を見せた。ウミューがネーデルの頭から手を離したときには、ネーデルの顔が髪の毛で見えなくなっていた程だった。

「ウミューゥウ!ネーデルで遊んじゃ、め、なのー!!」

ネーデルが髪の毛を撫で付けながら怒ると、ウミューは静かな苦笑に近い笑みをもらした。

「もぅ、良いもんねっ!ネーデルもウミューで遊んでやるぅ!ウミューなんか、こうなんだからね!ね!」

そう言って髪の毛へ伸ばしてきたネーデルの手を、持ち前の俊敏性で掴むと、そのままバランスを崩した。

間一髪でウミューが床に叩きつけられるところだったネーデルをベッドへ倒すと、ため息をついた。

「ムギュー。」

ネーデルが押しつぶされたような遊び声を発した。

「危なかった……。」

その直後だ。

「な、な、な、ななな!?」

硬直したと思われるネーデル以外の女性の声が背後から聞こえ、慌ててウミューは、振り向いた。

「ウミュー?」

今の事故をベッドに落ちるという遊びだと思ったネーデルは、キャーキャーと喜んでウミューを見ている。

ウミューは、静かに「……誤解だ……。」と言ったが、そこにいた女性、ハルネは、硬直したまま動かない。

ネーデルが個室に遊びに行くときは、たいていその部屋のドアは開けっ放しになる。

特にウミューの場合は、異性同士なのでやましい事はしていないという証拠だったのだが、今回はそれが裏目に出たらしい。

「……ハルネ、落ち着いて聞いてくれ、誤解だ。」

ゆっくりゆっくりウミューが説明すると、ハルネは、「何が誤解ですか!確かに私達よりは長くいきてますけど、まだいたいげな少女を押し倒すなんて、ケダモノです!」とまくし立てた。

そのまま去っていこうとするハルネを持ち前のスピードで追いかけ、捕まえると、「本当に押し倒したいと思ったら……あんたでもできる。むしろ、あんなのを押し倒す必要も……ない、だから、俺は、何もしていない……誓いは嫌いだが、誓ってもいい。」グッとハルネの腕を掴んでいる手に力を入れた。

「わ、私を押し倒して強迫しようって魂胆ですか!?そ、そうはさせませんよ!こちらには、まだこの長い尾があります。」

「……そんなもの、避ければいい。俺には関係ない……そうだな、この力を使えば、強迫もできる……だが、俺はそんなことしない。あいつにも……。」

怯えきった様子のハルネから視線を外し、ウミューは、ネーデルを見た。

「ウミューゥウ!早いよー、早いのー!今度は鬼ごっこなのかな?かな?」

羽で飛びながら、追い付いてきたネーデルは、ウミューに抱きついた。

「捕まえたっ♪次はウミューが鬼だよ?だよ?」

「……あぁ。」

ウミューが逃げていくネーデルの背中を見送ってからウミューは、ハルネに向き直った。

「……誤解だ、それだけだ……。」

ウミューがハルネの腕を離したとき、ハルネは、いつもの優しい口調に戻り、「そんなに優しい顔ができるなら、もっと普段からその表情でいればいいのに……。」と言った。

「……は?」

「ほら、また怖い顔に戻る……もっと普段から表情に気を付けてみては?きっと皆の誤解も消えていきますよ。」

少し眉間に皺を寄せてから、ハルネは、ウミューに微笑んだ。

「もーぅいぃよぉ!」

ウミューが反応するより早く、待ちきれなくなったらしいネーデルの声が響いてきた。

「あ、ごめんなさい、ネーデルちゃんは退屈みたい。彼女だから、あなたも心をするせるのかな、では、また。」ハルネはそのままシュルシュルと自分の部屋へ戻っていった。

わけの分からない女だ、と思いながら、くたくたになるまでネーデルのお遊びに付き合った。

「うう、ウミュー強いー……。」

眠たそうに目をこすりながら必死で起きているネーデルに、ウミューは一言、「もう寝ろ。」とだけ言うと、ネーデルは、ウミューの部屋のベッドの上に蹲ってしまった。

「あ、おい!こら!」

ウミューはネーデルを怒ったが、ネーデルは深い眠りについてしまった。

ここについた頃にはすでに目をこすっていたネーデルだ。

おそらく、ベッドや個人空間、露天風呂といったものにハイになっていたのだろう。

そして、ふたたび睡魔が襲った頃には、揺すろうが声をかけようが起きないといったわけだ。

仕方なく、ウミューは壁に寄りかかり、体育座りのようにして蹲ると、そのまま眠った。

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